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第11話 決着、そして…

 下校時刻をとうに過ぎ、人気(ひとけ)が少なくなった学園都市センター地区。広大な敷地をもつ私立高校、九重坂(ここのえざか)学園の前にはぶつかり合う者とそれを見守る者、4つの影があった。


「はあああああっ!」


「…っ!」


 栞のために戦う遥と、遥を殺して九重坂から転校するために戦う朱梨。お互いに一歩も譲らない2人の戦いは拮抗しているように見えるが、剣と鎌がぶつかり合う度に朱梨のもう一つの能力〈ジャック・ザ・リッパー〉の見えない刃によって傷付けられて遥の方は血だらけでなんとか戦えているという状態だった。


「君、ボロボロだよ。まだやるの?」


「もちろん。やめるわけないだろ」


 遥は朱梨の問いかけに苦しげながらも笑顔で応じる。


「…どうして」


「あ?」


「どうしてそこまで他人のためにがんばれるの!?自分の命が関わっているから?違うでしょ!?君は自分が無関係でも、助けを求められたらきっと私の前に立ちはだかっていた!なんで!?君はなんでそこまで優しいの…?」


 朱梨は耐えきれなくなったように叫ぶ。


「約束したからな、緋野と。絶対にお前を止めるって」


「栞のため…?」


「ああ。そしてもちろんお前のためでもある」


「だったら……!」


 朱梨の目から涙が溢れる。


「私のためを思うなら!私を栞と同じ場所に連れて行ってよ!私を父さんから解放してよ!とっとと私に……殺されなさいよおおおおお!」


 鎌が遥に向かって振り下ろされる。遥はそれを剣で受け止め───


「がああああああっ!?」


「は、遥!?」


 なんと遥はその一撃を剣を放り投げて身体で受けた。制服に刻まれた大きな裂け目から大量の血液が噴き出す。


「き、君…、なんで……?」


「ごふっ…。さっきのお前の言葉…、はぁ、はぁ…。お前の想い…届いたよ。俺の……負けだ」


 遥は満足そうな顔をして消えそうな声で呟く。


「ふざけないで!こんなの…、栞の友達なんでしょ!?君がいなくなったら栞は……」


「お前が…、たった一人の姉がいるじゃないか。これでよかったんだ……」


「遥!遥!は、早く血を止めなきゃ!」


「無駄よ」


「え…?」


 朱梨は悔しそうな表情で言う。


「私の〈ハーデス〉の鎌には致死性の毒が塗ってある。もう…治療は不可能なの」


「そ、んな…。あなたが、あなたが遥を…。あなたのせいで…!」


「やめろ愛奈…!俺は俺の意志でこの結果を選んだんだ。これで栞も朱梨も助けられる。俺が死んだらさっさと親父さんに報告して自由になれよ。じゃなかったら呪ってやる」


「ごめんなさい。私のために、こんな……」


 泣きながら謝る朱梨を見て遥は苦笑した。


「謝るなよ。女の子に謝罪されながらなんて死にたくない。せっかく自由になれるんだぜ?感謝されながら死にたいね」


「遥…さん。……あ、あり…がと、う」


「おう。じゃあ元気でやれよ。愛奈も…そんな泣くなよ。俺は笑ってる愛奈が好きなんだからさ」


 遥はそう言うが私の涙は止まらない。


「嫌だ、よ。もうこれでお別れなんて…。私、遥がいないと…!」


 すると遥は泣き続ける私の頭をそっと撫でる。


「なんていうかさ。こんな終わり方だけど、後悔は無いよ。ありがとう愛奈。お前と出会えて本当に、良かっ…た………」


「は、遥?遥ぁ!………そんな、こんなのって…」


 その言葉を最後に遥の身体は動かなくなった。


「愛奈さん…。ごめんなさい。私のために遥さんは……」


「いいよ。謝らないで?」


「え?」


「遥も言ってたでしょ?これで良かったって。だから、朱梨さんは早く報告して?これで自由になれるんだもん。それに、謝っても遥が生き返る訳じゃないし。………あれ?」


 私は今とんでもないことに気づいてしまったのかもしれない。


「あれ?これ、もしかして……」


「愛奈、どうかしたんですか?」


「ううん、栞。なんでもないの。それより、朱梨さん。死亡確認に遺体は必要でしょ?早くした方がいいよ?どうせ理事長さんはこの中にいるんでしょ?」


 そう言って巨大な校門とその中の校舎を指差すと、朱梨は頷いた。


「あ、でも…、遥の死亡が確認できたら遺体を持って帰ってきてくれない?」


「え…?」


「いや、その…、お葬式しなきゃいけないでしょ?」


「そう…ですね」


 朱梨は悲しそうな表情で再度頷くと、遥の遺体を背負う。指紋認識パネルのようなものに朱梨が触れると、校門がゆっくりと開いてゆき、朱梨はその中に入っていった。



 その一週間後───。


「ふわあぁ~~~……」


「おはようございます、愛奈」


「おはよう、愛奈。すごい欠伸ね」


「あ、栞、朱梨、おはよう。昨日はなかなか眠れなくて…」


 私は声をかけてきた双子の姉妹に挨拶をする。遥のおかげで朱梨も九重坂学園から春夏秋冬(ひととせ)学園への転校を許されたのだ。


「ああ、なるほど…」


「今日は…眠れなくても仕方ないですね」


「うん。…でも、ホントに良かったよ。朱梨がウチに来るのを許してもらえて」


「ちゃんと証拠もあったしね。顔は判別出来なくても、傷だらけの私を見たら相手と戦ったって分かってもらえたみたいだし。遥さんには感謝してもしきれないわ…」


 そう言って朱梨は顔を俯ける。


「うん。遥もきっと天国で喜んでるよ」


「そうですね。お盆はみんなでお墓参りに行きましょう」


 通学路に風が吹き抜ける。上を見上げると青い空が広がっている。もうすぐ夏休み。私達はこれから遥のいない世界で生きていくのだ。


「…って、ちょっと待てええええ!」


「ん?」


「え?」


「あら?」


 私達3人が声がした方を向くとそこには───。


「勝手に人を殺してんじゃねぇ!俺は生きてるぞ!」


「うわぁ、遥!?今日、目が覚めるのは知ってたけどもう来てたんだ!」


「おう、おかげさまでこの通りだ。美愛さんに感謝しないとな」


 そう言って遥は手を開いたり閉じたりする。


 あの時、遥は確かに命を落とした。そもそも死んだ振りで騙されてくれるほど九重坂の理事長も甘くはないだろう。それでも遥は生きている。それはなぜか?答えは簡単だ。死んだ人間は生き返らせればいい。私のお母さん、東雲美愛の能力〈伊邪那美(イザナミ)〉は生命活動を操る能力。九重坂の理事長への死亡確認が済んだ後、戻ってきた遥の遺体をすぐに家に運んで生き返らせてもらったのだ。顔は判別できない程度に損傷させておいたので遥が生きていたとしても相手に感づかれることはないだろう。


「でも、あの日からもう一週間が経ったのか」


「遥はずっと眠っていたからね。顔も傷付けちゃったし、それの回復に時間も掛かったし」


 生命が戻った後も外傷を治癒させるには一週間掛かってしまった。


「まあ結果的に朱梨の方も自由になれたみたいだし良かったな」


「ええ。ありがとう遥くん。あなたがいなかったら私……」


「なーにしんみりしてんだよ!お前の呪縛は解けたんだぞ?」


 遥が笑顔でそう言うと、朱梨も口元を緩めた。


「そうね。改めて、緋野朱梨よ。よろしくね遥くん」


「ああ…、よろしくな。ところで──」


 と、遥は話を始めた。


「九重坂学園のことなんだが、あのままにしておくと大変なことになると思うんだ」


「そうね。あのまま父さんやそれに従う生徒を放っておく訳にもいかないものね」


「厄介なのは、お父さんに忠実な生徒会のメンバーかな?あの人たち、結構強いらしいし」


「でも生徒会長はほとんど学校に来てないって噂よ?」


「へぇ…。そんな人が生徒会長やってるんだ」


 九重坂の生徒会の情報は栞と朱梨が頼りだったが、どうやら2人も実態を把握していないらしい。


「生徒でも知らないことがほとんどだなんて…、ますます変な学校だな」


「ええ。でも、父さんに関しては一つハッキリしていることがあるわ」


「え?」


「父さんは一般の学校であるにも関わらず多くの能力者(モチーフホルダー)が所属する、この春夏秋冬学園を目の(かたき)にしてるってこと。そのうち何か仕掛けてくる可能性が高いわね」


「それ本当!?それなら早く誰かに知らせないと…」


 突然語られたことに私は動揺を隠せない。


「それならモチーフについて知識のある愛奈のお父さんとか遥のお父さんかな?」


「そうね。東雲先生や校長先生なら信用できるし」


 とりあえず私達は職員室に向かい、そのことをお父さんに話した。


「うーん。今の話が本当だという確信もないし…。第一、それが分かったところで動きようがない。モチーフの事情を知っているのは僕と雷道と…あとは英語科のアリアさんくらいしかいないんだぞ?」


「それは…」


「対策の必要はない」


「え?」


「たった今九重坂学園の方から連絡があった。能力者を集めて合同特訓のようなものを行いたい、とのことだ」


 職員室に入ってきた校長先生は、口調こそいつも通りだったが表情には焦りが見られた。


「それは、どういう意味ですか?父さんが合同特訓だなんて…」


「どうせ名目上だろ。特訓って言って俺たち春夏秋冬学園の能力者を潰すつもりだぜ?」


「その可能性が高いですね。お父さんならやりかねません」


 九重坂の理事長である栞と朱梨の父親はモチーフの研究のためならば生徒に人殺しをさせるような人物だ。このタイミングで自分に従わない能力者達を一掃する、ということを考えてあかてもおかしくない。


「となると、ウチの能力者も集める必要があるな」


「ああ。東雲は能力者を集めてミーティングをしてくれ。俺は九重坂学園について調べてみる。頼んだぞ」


「ああ。了解」


 その日の放課後、学園内の能力者が集められ、ミーティングが行われた。九重坂学園側が指定してきた合同特訓の日は、今日からちょうど一週間後。もしかしたら学園の存亡に関わるかもしれないイベントである。しかし私は緊張や不安があるとともに、どこか楽しみな、そんな感覚も感じていた。



 その後の土曜日、九重坂学園では──


「会長、久しぶり。元気だった?」


「うん。私は大丈夫。それよりも、理事長の娘さん、2人ともあっちに行っちゃったみたいだけど?」


「はい。理事長は許可しましたが、彼女たちは優秀な戦力でした。残念です」


「ふふっ。蘭くんったら、そんなこと思ってないくせに」


 会長と呼ばれた少女がそう言ってからかうと蘭くんと呼ばれた男子生徒はこう返した。


「すいません。つい理事長の目を気にしすぎてました。…彼女たちが理事長の呪縛から解放されたこと、本当に嬉しく思います」


「うん、本当に良かった。理事長が何を考えていようと私達生徒会はこの学園をより良い場所にする責任がある。じゃあ綾ちゃん、至急生徒会室にあとの2人を集めてくれる?」


「了解。いよいよだね?」


「うん」


 少女は九重坂学園とは違う別の学校の制服を着ていた。髪は長く美しい黒髪で、その容貌は美少女と呼ぶに相応しくどこか年相応の可愛らしさも見て取れる。そして彼女は生徒会長の席に座ると、こう宣言した。


「九重坂学園生徒会、任務開始だよ」


 理事長と生徒会。九重坂学園では2つの勢力がそれぞれの目的で動き出す。


続く

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