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第10話 訳あり双子

「もう分かっているでしょうが、私や朱梨も愛奈達と同じく能力を持っています。私は〈神隠し〉。姿を消すことができる能力です。朱梨は〈ハーデス〉という能力で、毒の効果をもつ大きな鎌を出して戦います」


 栞がそう説明してくれる。転校してきてから結構経ったけど、栞が能力者だったなんて全く気づかなかった。そんな素振りも見せなかったのだ。


「私は朱梨が通り魔事件の犯人だと知って、能力者が多い春夏秋冬(ひととせ)学園に転入したんです。…彼女から標的を守るために」


「そうだったんだ…。それにしても、ここが九重坂学園。栞が前いた学校なんだね」


 校門が閉まっているため中に入ることはできないが、その鉄格子の先には広大な敷地の中にまだ新しい真っ白で大きな校舎が建っていた。


「でも、全ての始まりってどういうこと?栞が前まで通っていた学校で、さっきの通り魔…朱梨さんがまだ通っている学校だから、何か今回の事件に関係してるってことなの?」


「そうですね。ですが、もうそれは疑惑ではなく確信です」


 栞の声は震えていた。それが恐怖なのか怒りなのか、それとも別の何かから来るものなのか私には分からない。そして、栞は震える声でゆっくりとその『確信』を告げた。


「朱梨…お姉ちゃんは、九重坂学園の理事長からこの通り魔事件を起こすことを命令されています。そしてその内容は、ランダムで合計5人、能力者(モチーフホルダー)を殺すこと」


 この事件の被害者達は決して無関係なんかじゃなかった。その全員が私や遥と同じく能力を持っていて、それだけ、ただそれだけの理由で…殺された。でもそれよりも、私が恐怖を感じていたのは別のことだった。


「先生が生徒に、人殺しを命令するなんて……」


「理事長は私と朱梨の育ての父でもあるんです。本当の両親に捨てられた私達2人に愛情を注いでくれました。でも、今のお父さんは違う。モチーフの研究にのめり込んで、エリート校と称してこの学園都市に能力者の育成機関である、この九重坂学園を作って……。それからあの人は変わってしまいました。研究のためなら他人、主に能力を持たない一般人の命を犠牲にすることも厭わない。あの人はもう私達の優しい父親なんかじゃない。欲望にまみれた、ただの悪魔です」


「でも、姉の方はそれに従っている。それはどういうことなんだ?」


 遥の質問に、栞は怒気を孕んだ声で答える。


「お父さんは…あの人は、私の転校はあっさり認めたくせにお姉ちゃんは有用な能力者だからといって条件を出してきたんです」


「もしかしてそれが、この通り魔事件なの?」


「はい。私に反抗するなら、それ相応の力を示してみろ、と」


「なんてヤロウだ……」


「そうよ……。だから私は殺さなければいけないの」


 その声を聞いた途端、背筋が凍った。逃げなきゃいけない。脳が警鐘を鳴らす。でも身体が動かない。


「私が日の当たる世界に行くためには、東雲愛奈か神崎遥。あなた達のどちらかを殺せばいい」


「朱梨!もうやめて!朱梨がこんなことするの、もう耐えられない……!」


 栞が悲痛な声で叫ぶ。が、朱梨はそれに氷のような冷え切った声で返す。


「栞。あなたはもう私とは違う。いちいち口出ししないで。不愉快だわ」


「……っ!」


 栞の目から涙から流れ落ちる。それを見た遥が声を上げた。


「テメェ、実の妹にそんな言い方はねぇだろ!」


「じゃああなた達2人の生き残った方が、冷え切った私の分までこの子に愛情を注いであげればいいじゃない。そんなの、私が知ったことではないわ」


「ふざけんなよお前!本気でそんなこと言ってんのか!?それで緋野(コイツ)の心の隙が埋まるって、本気で思ってんのかよ!?」


 素っ気ない朱梨に、遥は怒りをぶつける。私ももちろん怒っている。実の妹が心配して他人まで頼ってきているのに…と。でも───


(遥がこんなに怒るところ、初めて見た……。)


「テメェの妹がテメェのために、止めようと、助けようとしてくれてんだぞ!それなのに、テメェは何も感じねぇのかよ!」


「─っ!……でも、それでも私は!父に怯えなくて済む世界に、栞の横に立ちたいの!栞と私のためを思うならさっさと私に殺されなさいよおおおおおおお!!」


 叫びながら朱梨が遥に向かって来る。朱梨は先程の巨大な鎌を持っていない。それを見た遥は相手を大ケガを負わせないよう、同じように素手で応じる。端から見れば、男と女。徒手空拳ならどう考えても遥が勝つはずだった。しかし───


「ぐああああーっ!?」


 朱梨の拳を受け止めたはずの遥の腕から突然血が吹き出した。傷口は刃物で切られたかのようにきれいに切れている。


「そんなまさか……!」


「あはは!私があんな派手な能力使って通り魔なんてやってると思った?そんな訳ないじゃない。むしろこっちが私の本来の能力よ。人前で使わなかったから栞は知らないと思うけど」


 そう言って朱梨が手を軽く横に振るうと、遥の身体には赤い血液の線が走り苦しそうな声を上げて倒れ込む。


「遥っ!」


「く、来るな…っ!愛奈は下がってろ!」


「でも……」


 心配する私に遥は、大丈夫だからと言って再び立ち上がる。


「私の能力、〈ジャック・ザ・リッパー〉は見えない刃を操る能力。防ぐことなんてできやしない。おとなしくしていれば楽に殺してあげるわ」


「生憎だが、そこのテメェの妹に姉が人を殺すところなんてもう二度と見せてやらないってもう決めちまったからな。おとなしくなんてできるもんか!」


 遥の手には黄金の剣が生まれる。エクスカリバー。遥の能力、〈アーサー〉の効果だ。対して相手の武器は巨大な鎌に加えて見えない刃。正直勝ち目は薄いように思われる。が、


(笑ってる……?)


 遥はこの不利な状況で口元に笑みを浮かべていた。


「何がおかしいの?」


「ん?ああ。おかしいっていうか、ちょっと楽しくてさ。こういう命がけの勝負とか憧れだったんだよ」


「ふーん、そうなの。でも君、ここで死んじゃうよ?」


「かもな。だからワクワクするんじゃないか」


「ふふっ。じゃあその生意気な口…、すぐに利けなくしてあげる…っ!」


 朱梨は遥に向けて長大な死神の鎌を振り下ろす。


「ぐぅ…!」


 遥はその一撃をエクスカリバーの柄と刃の腹を手の平で支えるようにして防ぐ。しかし相手の武器の重みもあり、遥は後ろに押されてしまった。体勢が崩れた遥に朱梨は鎌の連撃を加えていく。


「ほらほら。さっきの余裕はどうしたの?守ってばっかじゃ勝てないよ?」


「分かってるよ!…おらぁ!」


「きゃあ!?」


 遥は受け止めた刃を力ずくで押し返し、柄で朱梨を突き飛ばす。


「…油断したよ。でも、そっちのダメージはどうかな?」


「え?…どうして?」


 全ての攻撃を受けきっていたはずの遥の身体は衣服の上から切り刻まれ、赤く染まった制服が街灯に照らされていた。


「まさかコイツ…。2つのモチーフを同時に使えるのか?」


「ご名答。でも分かったところで意味はないわ。たとえ鎌の攻撃は防げても、見えない斬撃までは防げないでしょ?」


 ついに膝をついてしまった遥に朱梨はゆっくりと近づいていく。


「そ、んな…遥……遥ぁ!」


「ダメだ、来るな!」


「でも……!」


「いいから。…俺を信じてくれ」


 遥は私を巻き込みたくないのだ。そう分かっていても…いや、そう分かっているからこそ見ていられない。手伝いたい。自分にもできることがあるんじゃないか。そう思ってしまう。


「遥!これ以上はやめてください!これは私とお姉ちゃんの問題なんです…。愛奈だってそうです!どうしてそこまで………」


「こういうの憧れだったって言っただろ。あと、俺だって狙われてるんだぞ?」


「私も、いずれ関わってたと思うし、困っている人は助けないと。それに──」


 困惑の表情を浮かべる朱梨に私と遥は笑顔で答えた。


「友達…でしょ?」


「友達を助けてやりたいと思うのは変か?」


「愛奈…遥…!でも、それでも!」


 栞は涙を浮かべて訴える。


「あーもう、しつこいなぁ!」


「あ、愛奈?」


 突然怒鳴った私に栞はポカンとするが、それに構うことなく手を差し伸べて続ける。


「私達は友達、困ったときはお互い様。分かったらおとなしく私達を頼りなさい!」


「あ、う……うあぁぁぁぁ!」


「えっ?ちょ、ちょっと!何で泣いてるの!?」


「だ、だって、私今までこんなに優しくしてくれる友達いなかったから…!」


 子供のように泣きじゃくる栞。父親からも道具のように扱われて、唯一の寄りどころだった双子の姉とも……。きっと想像できないほど多くのものを抱え込んでいたに違いない。


「頼って…いいんですか?」


「もちろん。そう言ったでしょ?」


 そう言うと、栞は差し伸べられた手を取って───


「お願い、します。…私じゃ戦いない。だから……!朱梨を、お姉ちゃんを、止めて下さい!」


 その言葉に私も遥も力強く頷いた。


「下らない茶番は終わった?じゃあそろそろ決着といきましょうか」


「はは。待っててくれたのか?案外優しいんだな」


「まだそんなことを言える余裕があるのね」


「冗談。余裕なんてこれっぽっちも無いよ。ただ、こういうときは主人公補正を信じるしかないだろ」


 そう言って不敵に笑う遥に、朱梨は苛立ちを隠せないようで。


「いいわ。いい加減あなたの声も聞き飽きた。すぐに終わらせてあげる!」


 遥と朱梨。2人の戦いの第二ラウンドの幕が切って落とされた。私にはもう、応援する事しかできない。


「遥、がんばれ!……主人公私だけど」


続く

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