第9話 Sweet Girls
「愛奈。駅前においしいスイーツのお店がオープンしたそうですよ。放課後、一緒にどうですか?」
「うん。じゃあ他の人も誘ってみる?」
そう提案すると、栞は申し訳無さそうに口を開く。
「それもいいですけど、愛奈。ちょっと2人きりで話したいことがあるので今回は他の方々は誘わないでもらえますか?」
「ん?うん、分かった。じゃあ授業が終わったら一緒に行こうね」
そして、放課後───。
「では、行きましょうか」
「うん。じゃあ遥、また明日ねー!」
「ああ。また明日」
校門を出て駅の方に向かって歩いていく。住宅街を歩いているとき、ポケットのスマホが震える。取り出して見てみると、メッセージが一件届いていた。
「…?どうかしたんですか?」
「え?…うん。遥からメッセージで、駅前は最近通り魔事件が起きてるから気をつけて、って」
私がそう言うと、栞は少し目を伏せた。
「どうかしたの?」
「い、いえ!…でも2人で行動していれば大丈夫だと思いますよ」
「でも、人混みでも襲われたっていうし…」
「大丈夫です。心配いりません」
「う、うん。じゃあ離れないようにしないとね」
住宅街を抜けると、賑やかな駅前に到着する。この辺は大きな百貨店や電気屋、レストランなどが集まっており、私たち学生には、遊びに行くならとりあえず駅前、と言われるほど人気の場所だ。
「平日ても賑わってるね。それで栞、そのお店ってどこにあるの?」
「こっちですよ。ついてきてください」
栞の案内でお店の前に着くと、そこは落ち着いた雰囲気の外見で、入り口には長い行列ができていた。
「うわー、すごい行列だね。じゃあ並ぼっか」
「あ、その必要はありませんよ?こうなると分かっていて予約しておきましたから」
「おおー、準備いいねー!」
「ありがとうございます。こっちです、早く行きましょう?」
店内に入ると中は席のほとんどが女性客で埋まっていた。その奥の方にある空いている席が私たち2人の予約席のようだ。
「それで、私に話があるんだよね?」
席に座り注文を済ませると、私から話を切りだした。
「はい。愛奈の意見…というか、愛奈だったらどうするかを聞きたくて……」
「うん、いいよ。で、どんな話?」
「はい。例えば、例えばですけど…。悪いことに巻き込まれているかもしれない友人がいるとき、どうやって助けるべきでしょうか?」
「それ、ホントのこと?」
「……それはまだ答えられません。でも、愛奈の意見が欲しいんです」
栞は落ち着いた口調で答えてはいるものの、どこか焦っているように見えた。
「分かった。そうだなー。私は……話してみるかな。ちゃんと話さないと分からないことだってあると思うし。でもね?」
そこで一度一呼吸し、次の言葉を吐き出した。
「それを最後に決めるのは栞自身じゃないかな?そうしないと、最後に後悔すると思うよ?」
「…!そう、ですよね。ありがとうございます」
「お待たせ致しました。スペシャルベリーパフェです。ご注文の品は以上でよろしいでしょうか?」
「はい。じゃあ食べましょうか、愛奈?」
「う、うん……」
(今の話は気になるけど、あまり突っ込んで欲しくなさそうだし…、やめといた方がいいかな?)
そう考えてパフェを一口食べる。
「これ、美味しい!すっごく美味しいよ!」
「はい!ちょうどいい甘さでどんどん食べれちゃいますね!」
口に入れた瞬間にイチゴやラズベリーの甘酸っぱい味が口の中に広がる。生クリームの味も甘過ぎず、間違いなく今まで食べた中で一番美味しいパフェだった。
「ふぅー、おいしかった!また来ようね栞?」
「はい。今度は他のみんなも一緒に、ですね?」
「うん!じゃあ帰ろっか」
「すいません。私、今日も駅前にまだ用事があって……」
「あ、そうなんだ。すぐに終わるようならついて行くけど?」
「いえ、結構時間かかりますし愛奈は先に帰っていいですよ」
「そう?じゃあまた明日ね」
「はい。また明日。では……」
そう言って栞は人混みの中に消えていく。
(栞はああ言ってたけど……)
様子からしてさっきの話と関係あることは想像ができる。そして学校を出て歩いているとき、通り魔事件の話をしたときの反応から察するに、その事件にもおそらく関係があるのだろう。
(それなら考えられるのは、栞の知り合いがその通り魔事件の犯人か、それとも……)
「栞自身が通り魔事件の犯人か。…いや、栞は優しい子だしそんなことはないはず──」
そこで私は栞のことをまだほとんど知らないことに気づく。
「でも…、だったら!」
私は栞が消えていった人混みの中に入っていく。
(もう手遅れかもしれない。見つからないかもしれないけど、それでも…!最悪の事態だけは……!だって栞は───)
「友達だから……!」
私は夜の町で当てもなく栞を探し出す。
(人混みの中に紛れているとなると大変だけど、暗い路地の方が犯行を行いやすそうだし、あっちの路地を調べてみようかな)
そう思って路地の方に歩き出す。すると、人混みの中に見知った顔を見つけた。
「あれ…遥?」
「ん?なんだ愛奈か。こんな所でどうしたんだ?…ってそうか。お前が緋野と一緒に行くって言ってた店は駅前だったっけ。で、その緋野はどうしたんだ?」
「実は今、栞を探していて…。遥は見なかった?」
「いや、見てないけど。何かあったのか?」
「えっとその…、話してもいいことか分からないし、まだ確信はないんだけど───」
私は遥に私が得た情報から導いた考えを話した。
「なるほど。確かにはっきりそうとは言えないけど、愛奈の考えにも納得できるし…、分かった。俺も手伝うよ。何かあてはあるのか?」
「うん。犯行を行うなら暗い路地の方がいいと思うし、あっちの方を調べてみようと思って」
「分かった。じゃああの別れ道から調べていくか」
三本に別れた道は夜になると街灯もないため真っ暗になる。その三本の別れ道のうち、私達は一番左の路地から調べることにした。
「いかにもって雰囲気だけど、誰も通る人がいなさそうだし、外れかな?」
「だな。じゃあ真ん中と一番右、次はどっちに行く?」
「待って。今まで襲われた2人って、学生とサラリーマンだったよね?」
「ん?ああ、そうだけど…。それがどうかしたか?」
「いや、勘なんだけど、仕事帰りとか学校帰りを狙ってるってことだとしたら、真ん中の道じゃないかな?ほら、学校の近道になりそうだし」
残った二本の路地で、真ん中の道の先は多くの学校がある学園都市のような場所となっている。春夏秋冬学園は、それとは離れた住宅街のド真ん中に位置しているが、その他の大きな学校のほとんどはその学園都市に密集している。つまり、犯人のターゲットが帰宅途中の人だと考えると真ん中の道が一番怪しいのだ。
「オーケー。じゃあ行ってみるか」
そう言って道を戻ろうと振り返ると、駅方面の出口に人影が見える。
「あれ?あれって……栞?」
そう。その人物は今まさに私達が探していた栞だった。
「栞!やっと見つかった……!」
「私を探していたんですか?」
「うん。だって、あんな話をされたら心配になるよ」
「あんな話?」
何のことか分からないとでも言うように栞が首を傾げる。
「うん。友達が悪いことに巻き込まれているっていう」
「……」
「栞?」
「おい愛奈。何か様子がおかしいぞ……」
遥の言うように、言葉を発さない栞はどこか様子が変で不気味だった。
「それならもういいの。全部解決したから」
「え?」
「正確には、これから解決する。あと一人でノルマは達成だから」
そんなことを呟きながら栞はゆっくりと私の方に近づいてくる。
「そう。あと一人。あなたが最後。これで全部解決。全部終わる。あなたを殺せば、全部終わる」
栞が手を挙げると、そこに巨大な鎌が現れる。
「何言ってるの?殺すって……?」
「愛奈!」
突然襲いかかってきた栞に遥も私も反応が遅れる。刃がすぐ近くに迫ってきて目を瞑ったとき、キーンと金属音が響いた。
「大丈夫ですか愛奈!」
「し、栞?でも、じゃああの子は……?っていうかどこにいたの!?」
「それはあとで話します!そろそろこっちも限界なので!」
手にした金属バットで受け止めていた鎌を弾くと、栞は私と遥を連れて駅とは反対の方向に走り出す。
「ねえ栞?あの人は何なの?栞によく似てたけど」
「あれは私の双子の姉の、緋野朱梨です」
「双子?でも──」
「あの日ウチに転校してきたのはお前だけだったはずだろ?」
「はい。朱梨は春夏秋冬に転校してきていません。まだ九重坂の生徒です」
「なんで?」
「それは、その……。っと、着きました」
そう言って栞は一際大きな学校の前で立ち止まる。
「ここはもしかして……?」
「はい。ここは九重坂学園。私が前に通っていた学校であり、今起こっていること、そしてこれから起こることの全ての始まりです」
続く




