プロローグ
雷道たちオリンポスと戦ったあの時から20年後。僕、東雲慎は高校卒業後に美愛と結婚。愛する娘も生まれ、幸せに満ちた生活を送っている。僕の現在の職業は高校教師。母校の春夏秋冬学園で物理を教えている。
「美愛~?楓のやつ、起こしてきてくれないか?」
「シン?ボクは朝ご飯の準備をしてるんだよ?シンが起こしてきてよ」
「うーん。しょうがないな。おーい、愛奈。楓を起こしてきてくれないか?」
ソファーに座ってテレビを見ていた僕の愛娘に声をかける。
「え?お父さん?お母さんはお父さんに頼んだんだから、お父さんが行ってくればいいんじゃない?」
「う…、それはそうなんだが。あー、分かった!分かったよ!僕が行けばいいんだろ!」
「あと、今回は私が主役なんだからナレーションも視点も私に代わってよね?もうお父さんは主人公じゃないんだから」
「分かったよ。じゃあ後は任せるぞ、我が娘よ。それじゃあ、楓を起こしてくる」
「うん。任された。お母さん?今日、始業式だから早く食べてもいい?」
「んー、いいけど。でも、なんで始業式だから早く行くの?」
「だって新しい年度だよ!楽しみで仕方ないの!」
「はいはい。でも、お父さんを置いていかないでね?一応先生なんだから」
「分かってるって。…あ、おはよう叔母さん」
階段を降りてきた楓叔母さんに私は挨拶をする。
「あ、おはよう愛奈ちゃん。今日も元気だね」
「うん!そういう叔母さんは眠そうだね」
「お兄ちゃんが強引に起こすからね…。朝から少し怠いよ」
「あはは。でも、早起きにも慣れないと大変だよ?」
「大丈夫。私の仕事はあんまり厳しくないから」
「へー、そうなんだ。あ、それよりご飯早く食べなきゃ!いただきまーす!」
「愛奈、落ち着いて食べろよ?」
「はーい!」
落ち着いて食べろと言われても心は早く学校に行きたい気持ちで溢れていた。私は速めのペースでご飯を食べ終えると、学校に行く準備を始めた。
「ごちそうさまでした!お父さん、外で待ってるよ~!行って来まーす!」
「ま、待て!僕も行くから!あ、美愛、行って来ます」
「行ってらっしゃい。今日もがんばってね、東雲先生?」
お父さんと家を出て、歩くこと15分。私は立派な校舎の学校に着く。私の通う春夏秋冬学園は中等部と高等部に分かれていて、私は今年度から2年A組に所属することになっている。
「おいおい、やっぱり早すぎないか?生徒、全然いないぞ」
「いいの!じゃあ行ってらっしゃい、東雲先生。またあとでね」
「おう。行って来ます。愛奈も、行ってらっしゃい」
「うん!行って来まーす」
お父さんと別れると、改めて学校を見渡してみる。
「ホントに全然いないな~。よし!とりあえず教室に行ってみようかな?」
通い慣れた校舎の玄関を通り、私は2階の2年A組の教室のドアを開けた。
「よ~し、いちば~んっ!?」
一番乗りだと思って教室に入ると、もうすでに席について勉強をしている生徒がいることに気付く。
「ん?あ…。あ!?」
その人は私の姿を確認するとマッハの速度で勉強の道具を机にしまい、窓の方に顔を向けて知らんぷりをした。
「えーと…?」
「なんだよ」
「こんな朝早くから学校に来て勉強なんて、偉いね。しかも始業式の日に」
「ほっとけ」
私の言葉に、その金髪のいかにも不良な男子はぶっきらぼうに返す。
「…なんか今、失礼なこと考えてたな?この髪なら地毛だぞ」
「え!?こんな綺麗な金髪が地毛!?」
「騒ぐな。そういえば、お前の方こそなんでこんな朝早くから学校に?」
「私は…、なんかワクワクして」
「変わった奴だな。名前は?」
「え?」
「クラスメートの名前くらい覚えておきたいんだよ。早く教えろ」
無愛想だけど、いい人みたいだ。私は言われたとおり名前を教えた。
「あ、うん。私は東雲愛奈。よろしくね」
「東雲…。ああ、定期テストで毎回学年1位の優等生か」
「あはは、そう言われるのはあんまり好きじゃないんだけど…。そうだ!君の名前も教えてよ」
「はぁ?なんで?」
彼は不機嫌そうな表情でこちらを睨んでくる。
「君と同じ理由、あと、単純な好奇心…じゃダメかな?」
「分かったよ。俺もずっと『君』じゃ嫌だったしな。俺は神崎遥。まあ、よろしく」
「遥…。なんかかわいい名前だね」
「言うな。俺も気にしてるんだ…」
「気にすることないって~!ねぇねぇ遥?ねぇ遥~?」
私がそうやってからかうと、遥は私に向かって怒鳴る。
「うるせえな!いいから、俺に構うなよ!東雲も優等生らしく勉強でもして…」
「う~ん。とりあえずその、東雲って言うのやめようか」
「はぁ!?なんでだよ!?」
「え~?だって、私は遥って呼んでるのに、私のことは名字って不公平じゃない?」
「お前が勝手にそう呼んでるんだろうが!どう呼ぼうが俺の勝手だろ!」
「え~?お願いだよ、遥ぁ。…ね?」
とりあえず私は上目遣いで頼んでみる。
「お、おまっ、そういうのは卑怯…。あーもう!分かったよ!愛奈!これでいいんだろ!」
遥は恥ずかしながら私の名前を呼んでくれた。
「うん!早くも友達ができて、私うれしいよ」
「友達、友達ね…」
「そうそう。遥もうれしいんじゃない?その性格だし、金髪だし、見るからに友達がいなそうだし。初めての友達が私みたいな美少女で良かったね」
「性格とか、見た目とか、あと、お前が美少女なのは否定しないが、別に初めての友達って訳じゃないぞ!?」
「え、嘘!?うえーん!遥の浮気者~!」
「愛奈、お前なぁ…」
「おや~?朝からリア充みたいな声が聞こえると思ったら…」
聞き慣れた、いや…、聞き飽きた声が聞こえてその方を向く。
「愛奈~。いつの間に彼氏なんてできたの~?」
「莉乃…。なんであなたがここにいるの?」
「え?私のスマホの愛奈センサーが反応したからだけど」
「愛奈センサーって何!?いや、何かは名前から分かるけど、なんでそんな機能ついてるの!?」
「まあ、細かいことはおいといて…」
「細かくない!」
「愛奈、その人は誰?2人は何してたの?」
「えーと、この見た目は金髪ヤンキー、中身は真面目系の男子は、神崎遥くん。今年、同じクラスになったんだ。あと、暇つぶしに話してただけだから。彼氏じゃないから」
「なんだその紹介は…」
「ん?遥、なんか間違ってた?」
「間違ってないけど、もっと他の紹介の仕方があるだろ。ただのクラスメートでいいだろうが」
遥は呆れた口調でそう言うけど…。
「ただのクラスメートじゃないよ。私と遥はもう友達」
「うぐっ…。俺、愛奈のこと苦手だ…」
「おやおや~?お2人さん、名前で呼び合うなんて、熱いね~!ひゅーひゅー!」
「「だから違うって!」」
「息ぴったり…。みんな~!ついに愛奈に彼氏が~!」
「マジかよ…。俺、愛奈ちゃんのこと狙ってたのに…」
「くぅ~!遥、一発殴らせろ!そうしないと気が済まねえ!」
いつの間にか周りにはクラスメート達が集まっていて、ちょっとした騒ぎになっていた。
「お~い、みんな座れ~。ホームルーム始めるぞ~!」
担任の教師が入ってきてとりあえずこの場は収まった。
「とりあえず、始業式の前にこのクラスに転校生が来るんだが…。遅刻してるみたいだから、紹介は明日にしよう。特に連絡することもないし、ホームルームは終わりだ。20分後から始業式だから、遅れずに体育館に来るように」
その後の始業式は特に変わったこともなく終わり、今日は放課となった。
「その、朝は悪かったな。なんか騒ぎになっちまって」
「遥が謝ることじゃないよ!私達が話してたのは偶然なんだし…」
「そっか…。そうだな。じゃあまた明日」
「うん。遥はこれから部活?」
「いや、俺は帰宅部だよ。これからクラスの男子達に体育館裏に呼び出されててな」
「え…。それ、私のせいだよね!?ご、ごめんなさい!」
「謝るなよ。なんか、俺がひどいことしてるみたいだろ」
「うん…。でも、怪我とかしたら私の家に来ていいよ。手当てぐらいしなきゃ私の気持ちも収まらないし」
「そこまでしないだろうし大丈夫だよ。それに、東雲先生は1年のときの担任で苦手なんだよな」
「遥のお父さんって、この学校の校長先生でしょ?私のお父さんよりもすごいよ」
「そういう問題じゃなくて、あの先生はやたら俺に絡んでくるからな…」
苦笑いをしながらそう言う遥は本当にお父さんが苦手のようだ。
「う~ん。まぁ、気が向いたら来てよ。それじゃあがんばって。また明日ね」
「おう」
遥はそう短く答えると、体育館の方に駆けていった。
「それにしても、今日は大変だったな…。これから大丈夫かな…?」
このとき私は波乱の学校生活になる予感がして、不安だけど少しワクワクしていた。
「そういえば、明日は転校生の紹介するって言ってたけど、どんな人なんだろ?楽しみ!」
続く