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第8話 採取

 教会を後にしたフェスは、アーシャ、マインに街の外に行くことを伝えた。当然ながら何しに街の外へ行くのかとアーシャとマインに説明を求められた。

「薬の材料になる薬草の採取と弓の練習です」

 別に断る理由もない二人は了承した。二人が了承したのでフェスは、エナに向き直った。

「エナちゃんは、危ないからここでお別れだね?」

 エナを危ない目に合わせられない理由からここで別れようと考えたフェスだったが、いきなり別れを告げられたエナにとっては悲しい出来事だった。先程までの明るかった顔が嘘のように曇っていた。

 どうしていいのかわからなくなってしまったフェスは、アーシャとマインに視線を向けると二人も、どうしていいのかわからず困惑していた。


 エナちゃんがそんな顔をするってことは、別れたくないということだよね? 連れて行こうかな?


 エナを一緒に連れていくことをアーシャとマインに相談しようとしたフェスが二人を見ると、フェスの考えていたことがわかったかのように視線が合うと頷いた。


 連れて行ってもいいってことかな?


「エナちゃんも一緒に行く?」

「いいの?」

「私の言うことを守れるのならね」

「うん! 絶対に守る」

 満面な笑顔でエナは、フェスと約束した。


 本当にエナちゃんがエルフなら森に行けば何かわかるかもしれないし……わからなかったらわからないでいいけど。……それにしても僕の知っているエルフ族って耳の長い種族なんだけど……エナちゃんは人族と同じ長さだけど、この世界のエルフ族って人族と変わらないのかな? その辺のことは他のエルフ族を見てみないと判断できないから今考えても仕方ないな……。

 

 エナを連れて行くことを決めたフェスは、教会の前の東地区の大通りを歩き東門に向かった。

 陽が沈むまでにはまだまだ時間はあるのだが、昼を回ってから街の外に出る人は少ない。そのため東門には街に入るための行列はできていたが外に出る人の数は少なかった。


 本来なら人が少ないのはいいことなんだけど、今はまずい。離れているとはいえ、ずっとつけてきている。いや、見張ってるのか? ……両方かな? 青黄赤の三色いるから仲間じゃないのかな? 


 【赤:人族:男】【赤:森人エルフ族:男】【黄:人族:女】【青:人族:男】【赤:人族:女】探知を使いながらフェスは、そんなことを考えていた。

 

 森人エルフ族がいるから耳を確認してみようとすると隠れてしまうから確認できないし……それ以前にこちらから見えない場所にいるから一人も確認できないのだけど……。


 フェスが探知で確認している理由は、前日に街に入ったフェスたちをずっと付けて来ている人たちがいるからだ。

 探知で確認しながら歩いているといつの間にか東門にお到着していた。

 東門に立っていた門兵は、フードで顔を隠していたフェスに訝しげに見ていた。いつまで経ってもフードを外さないフェスに対し顔を出すように、と強い口調で言った門兵だったが、教会から受け取った身分証を見せられると態度を急変させた。

「失礼致しました。聖女様でしたか」

「声が大きいです。頭を上げてください」

 門兵は、フェスの聖女の身分証を見て顔を青ざめ勢いよく頭を下げ大声で謝った。

 急に頭を下げ大声で謝った門兵に驚き他の門兵と街にはいるために並んでいた人たちの注目を浴びてしまった。

「聖女様?」

「聖女様がいるのか?」

「どこだ?」

「あの子か? フードを被っている」

「おお! きっとそうだ!」

 門兵の言葉の聞えた人たちは騒ぎ始めた。


「こうなりたくないからフードを被っていたのに」

「も、申し訳ありませんでした」

 フェスの呟きが聞えた門兵は、またも大声で謝り大袈裟に頭を下げた。


 もしかして、わざとやっているのかな? この騒ぎの所為でつけていた人たちの動きも止まったし……考え過ぎかな?


「この人わざとやっているんじゃない?」

「私もそう思うわ」

 フェスの後ろにいたアーシャとマインもフェスと同意見のようだった。


 どうしていいかわからないフェスが困っていると、騒ぎを聞きつけた兵士三人が詰所から駆け寄ってきた。

「何を騒いている?」

 他の兵士に比べて立派な鎧と体格をしている男が、フェスと頭を下げている兵士を交互に視線を向けてからフェスを睨んだ。その間に一緒に出てきた兵士の二人が、状況を知るためにフェスに頭を下げていた仲間の兵士に話を聞いていた。

 どういう状況かを聞いた兵士の二人は、顔を青ざめたままフェスを睨んている男に駆け寄り耳打ちをした。

「フードを被っている女の子は、聖女様だそうです」

「な、なんだと!?」

 フェスを睨んでいた男も顔を蒼ざめ信じられないといった風にフェスを見た。しかし、周りの状況を見て考えると嘘ではないのだろうと思い、一度深呼吸をしてからフェスへ声をかけた。

「私は、この東門の警備隊長を任されているアダルバートと申します。身分証の確認をさせて頂いてもよろしいでしょうか?」

 警備隊長アダルバートの言葉に素直に従いフェスは、身分証を取り出し確認させた。

 身分証を見せられた隊長アダルバートがいきなり頭を下げると、一緒に駆け寄ってきた兵士の二人も頭を下げた。


 身分証を見せただけでこの状況っておかしくない? 皆見ているし、どうすればいいの?


 いよいよもってどうしていいかわからなくなったフェスは、後ろにいるアーシャとマインの助けを得ようと振り向くと二人は、背を向けて視線を合わせようとはしなかった。エナは一生懸命首を左右に振って自分に聞かないで、と無言に訴えているようだった。

 街の中にいた人たちと街の中に入るために並んでいた人たちは、この状況を興味津々に見ているだけだった。


 この状況から早く脱したいフェスは、隊長アダルバートに話しかけた。

「謝られるようなことはされていませんから……もう、頭を上げてください」

 フェスの言葉を聞いて兵士全員頭を上げた。

「身分証の確認はできましたよね? 街の外に出てよろしいですか?」

「はい、構いません。しかし、こんな時間からどちらへ?」

「薬の材料を摘みに北の森へ」

「なるほど……北の森なら定期的に魔獣魔物の退治をおこなっていますから安全だと思います。しかし、危険な動物はいますから気をつけて下さい」

「わかりました。ありがとうございます」

 隊長アダルバートにお礼を言ってからフェスたちは、街を後にした。アーシャ、マイン、エナの三人は、聖女様の同行者ということで身分証の確認はされなかった。


 フェスを聖女と知った人たちは、北の森に向かって歩くフェスたちを見送っていた。

 兵士は街の外に出て聖女の後を追う者がいないかを監視していた。フェスたちの後を追おうとした数人は捕縛された。捕縛と言ってもフェスたちが戻ってくる数時間の間であり、戻ってきたのを確認された時点で保釈されていた。これは、フェスたちの知らないところで行われていた。

 

 俯きながら歩くフェスを心配したエナは、おずおずと話しかけた。

「お姉ちゃん、どうしたの?」

「エナちゃん……お姉ちゃんは、大勢の人に見られるのが怖いのよ」

 マインはフェスを一度見てからからかうようにエナに説明した。

 マインの説明にフェスは反論せずにエナを見た。

「大丈夫だから……心配しないで……」

 全然大丈夫に見えないフェスの顔色を見てエナは、両手を胸の前に組みキラキラした目をして口を開いた。

「大丈夫だよ! お姉ちゃんは、私が守るから」

「エナちゃん?」

 エナの言葉に最初キョトンとしたフェスだったが、エナの言葉を頭の中で繰り返し意味がわかると嬉しくなり抱きしめようとした。抱き締めようとしたフェスだったが、寸前でアーシャとマインに阻止されてしまった。

 止められてしまったフェスは、エナに聞こえないように二人へ抗議した。

「なぜ止めるのですか?」

「女の子に抱き付こうとして、何を考えているの?」

「こんな時だけ男扱いするんですか?」

「そうじゃなくエナちゃんはあなたが男だって知らないから」

「知っている人になら抱き付いても良いってこと?」

「そんな事言ってないでしょ! 無闇に人に抱き付かないように言っているの」

 三人が小声で話していたので聞こえなかったエナは、不安そうに口を開いた。 

「お姉ちゃん達どうしたの?」

 不安そうなエナの声に気づいた三人は、一斉にエナに振り向いて、笑顔で、何でもないよ。と優しく声をかけて安心させた。


 黙って探知を使っていると心配をかけてしまうのかな?


 フェスはただ俯いていたわけではなく、探知を使いつけて来る人がいないかを確認していただけだった。


 あの兵士の人、やっぱりわざとだったのかな? 誰もついて来なくなった。


 そんなことを考えていると森の入口に到着していた。フェスの隣には、いつの間にか手を握っていたエナがいた。

「ねえ、マインさん、フェス様って、エナちゃんに甘くないですか? 普通に手を握っているし」

「甘いって言うよりフェス様は、誰にでも優しいのだと思うわよ?」

「確かに、そうなのかも知れませんね」

「明日明後日には、お別れしなければいけないのだから情を持たなければいいのだけど」

「そうですね、この世界にきて、私達以外で仲良くなった人とのお別れですから……気落ちしなければいいんですけど」

「フェス様は、別れには慣れていないと思うから心配ね」

「はい」

 アーシャとマインは、フェスに聞こえないように小声でフェスのことを心配していた。


 遅れ気味だったアーシャとマインのひそひそ話を気になり聞いたフェスに二人は、別に大した話はしていない、と言っただけだった。 


 二人の反応に気になったフェスだったが、無理して聞くこともないかと思い森の中に入ることにした。  木の影にウサギを発見したフェスは、空間倉庫から購入したばかりの弓矢を取り出した。ウサギに目標を定めて弓を引いて矢を射た。

 初めて射た矢は、ひょろひょろと弱々しく飛んでいき目標からずれた場所に落ちた。


 能力スキルがないとこんなものだよね……。能力を得ているかの確認をするかな。


 もう一度矢を射ることにしたフェスは、木の枝に止まっている鳥を狙った。先ほどの弱々しく飛んでいったのか嘘のように勢いよく鳥目掛けて一直線に飛び、羽ばたく前に見事鳥の体に突き刺さった。矢を受けた鳥は枝から落ち地面に叩きつけられた。


 本当に能力スキルを得ることが出来るんだな……。他の人はどうなってるのかな?


 フェス本人も驚いていたが、後ろで見ていた三人も当然驚いていた。アーシャとマインはフェスへと詰め寄ったが、本当のことは言えないために才能と言うことで誤魔化した。同じように驚いていたエナだったが、こちらはアーシャとマインとは違い、おねえちゃんすごい! と興奮していた。


 弓の能力の確認ができたフェスは、弓を空間倉庫に仕舞うと採取することにして、アーシャ、マイン、エナに採取する薬草の種類を指示した。

 三人は、フェスから採取用のナイフとカゴを受け取ると、指示された薬草を探し始めた。


 フェスは探査と鑑定を使い辺りの薬草の確認をしてみた。ここの森は薬草、香辛料スパイス、ハーブ、キノコの宝庫だった。

 どうしてここまで食材や素材の豊富な量が信じられなかったフェスは、エナにこの森へ採取に来る人がいないのかを聞いた。

 エナの説明によると、いくら安全とされている森だとしても、子どもたちだけでは来れないし、なにより領都からそれほど離れていない森で、面積も広くないために素材の種類も少ないとされていた。採れる物が少ないのなら来る価値もないと森に来る者はいなかった。


 誰も摘みにこないから増えたのか、もともとあったのに無知の人が多くいたために知られていなかったのか、と一人で納得していた。

 考え事をしていたフェスに三人の視線が集まっていた。それに気づいたフェスは、自分の考えを話した。

「この森、薬草の種類は少ないですが量は凄いです。ここから見えるだけでもかなりの量になります。小さい籠一つ分積んて商業協会に持ち込めは生活に困らないと思います。枯れ木を集めれば、薪を買う必要もないので、冬の食材を多めに買うことも出来ると思います」

「そんなに?」

「はい、摘みに来る人がいないために増えたのだと思います。……そろそろ採取に戻りましょうか」


 アーシャとマイン、エナは、フェスに頼まれた薬草と薬草と思われる植物を摘んでいた。フェスは、探知を使い辺りを警戒しながら次々と薬草、きのこ、ハーブを摘んでいた。暫く採取を行っていると探知に反応が現れた。しかし、フェスたちからは、距離があるために様子を見ることにした。


 【動物:マヤーレ


 野生の豚、なのかな? ……!?


 探知に鑑定を使いマヤーレを監視していると、森の先にある岩山の中に反応があることに気付いたフェスは、鑑定を使い確認してみた。


 【鉱物 銀】

 【鉱物 銅】

 【鉱物 鉛】

 【鉱物 鉄】


 これは! どうしてこんな岩山にこれほどの鉱物があるんだ? いや、なにもないとされている森の先にある岩山だからなにもないと思われていた。だから掘られることもなかったのか? 自分で掘るにしてもこんなにはいらないし……領主に教えるか? ここの領主はまともそうだし……そうするかな……。


 でも、そんな簡単に領主に会えるとは……思えないと思ったフェスだったが、視線の先にいたエナを見てある考えが浮かんだ。

 その考えとは、エナの仲間に岩山を掘ってもらい鉱物の一部を領主に渡す。というものだった。最初は自分で掘って持ち込もうかと思ったフェスだったが、エナの仲間たちをなんとか救う方法を考えた末に出した案だった。


 フェスが考え事をしていたのを採取しながら見ていた三人だったが、あまりにも長い思案だったために心配になったアーシャが声をかけると、丁度考えを纒めたフェスが口を開いた。

「採取を終わらせて街に戻ります」

 そう言ったフェスは、三人が集めた薬草の類を空間倉庫に仕舞うと森を抜けるために歩き出した。


 採取の結果は、アーシャとマインが同じくらいで、エナが二人の倍近く採取していた。フェスが頼んた薬草以外にも多数の種類を採取していた。


 エナちゃんの採取の量がすごい……エルフであることと関係してるのかな? …………それにしても豚肉、もったいなかった。


 フェスは、豚肉料理のことを考えながら街への帰途についた。     

 

 街門に着くと、街に入るための人たちによる長蛇の列ができていた。街門が閉じる十の鐘まではまだ大丈夫だが、宿屋の同じ部屋を採ることの出来る九の鐘が鳴るまでそれほど時間はなかったためにフェスは少し焦っていた。


 同じ部屋が開いていなかったら別の部屋でもいいんだけど……繁盛しているようだったから下と中の部屋しか開いていなかったら嫌だな。


 そんなことを考えていたフェスが、なんとなく街門の方に視線を向けると、東門の警備隊長アダルバートが走ってきているのか見えた。

 何かあったのかと思ったフェスだったが、アダルバートはフェスの前で止まると敬礼し口を開いた。

「お帰りなさい。良い薬草は採れましたか?」

「はい、かなり採れました」

 採れたと言っているわりには手ぶらのフェス達を見てアダルバートは、疑問の顔をした。それに気付いたフェスは、空間倉庫とは言わずに空間箱に入れてあると誤魔化した。さらに誤魔化すためにフェスは、アダルバートへと話しかけた。

「警備隊長であるアダルバートさんが、そんなことを言いにここまで?」

「いえ違います。皆様が戻られたのか見えましたので、お迎えに参りました。このまま並ばれていますと、門が閉じてしまい入れなくなる可能性もありますから」

「そんな特別扱いされますと並ばれている方たちに悪いですよ」

「貴女のお持ちの身分証は、貴族の身分に相当します。そのために街の中に入るために並ぶ必要はありません」


 ……聖女の身分って、貴族扱いってこと?


「では、ご案内いたします」

「は、はい」

 フェスたちは、アダルバートの案内により門の中へと、行列に並ぶ必要もなく街の中に入ることが出来た。

 アダルバートと数人の門兵に見送られてフェスたちは街門から離れた。


 ずっと、注目されていたな……仕方がないけど。


 街門から少し離れた場所でフェスは、エナに話しかけた。

「エナちゃんの仲間に、肉体労働の仕事をしている人はいるかな? 成人している人、もしくは近い人で」

「はい、います。私たちの兄代わりをしてくれている人です」

「三人連れてこれる? 仕事を頼みたいのだけど」

「大丈夫、です」

「その三人を連れて猪肉の屋台に連れて来てくれる?」

 エナは、わかりましたとフェスに言うと走って行った。次にフェスは、マインに話しかけた。

「マイン姉様は、宿屋に行き同じ部屋を取ってきて下さい」

「いいけど、フェスはどうするの?」

「アーシャ姉さまとエナちゃんに頼んだ仕事の道具を買いに、雑貨屋に行ってきます。終わったら屋台で待っていて下さい」

 フェスは、空間倉庫から宿屋の代金を取り出しマインに手渡した。受け取ったマインは、自分の手にある銀貨八枚を見て首を傾げた。

「二枚多くない?」

「エナちゃんの分です」

「エナちゃん? 泊めてあげるの?」

「ダメですか?」

「いえ、構わないけど……いきなりどうして?」

「……エナちゃんのことで、気になることがあって聞きたいと思いまして」

「よくわからないけど……変なことではないでしょうね?」

「……ある意味変なことかもしれません。本人も知らないことかもしれませんから」

「どういうこと?」

「人に知られるとエナちゃんに危険が及ぶかもしれませんから、ここでは言えません」

「……わかったわ。早く用事を済ませないとエナちゃんを待たせることなるから先に済ませましょう」

 マインは宿屋に向かい、エナが走って行ったのを確認してからフェスは、アーシャとともに雑貨屋に向かった。

 

「明日ではダメだったの?」

「はい、朝早くに街を出て、さっきの岩山に行きたいのです」

「何をするの?」

「ここでは、話せません」

 詳しい理由を言わなかったフェスだが、言わなかったのではなく言えなかったのだ。フェスたちが街に入ってから遠巻きではあったが、ずっと尾行している人たちがいたからだ。遠巻きだから話しても大丈夫かと思ったフェスだったが、遠くの声を聞く能力スキルがあるかもと思い止めたのだ。


 雑貨屋で買ったのは、三本のシャベルだった。銀貨一枚を渡したフェスは、雑貨屋を後にし約束している屋台に向かった。


 屋台に着くとマインとエナ、そして、エナの後ろに三人の男の子が待っていた。フェスが屋台の近くまで歩を進めると、三人の男の子の内の一人が話しかけてきた。

「あんたか? 俺たちに仕事をくれると言うのは? 仕事の内容をきかせてくれ」

「三人共体格いいですね」

「ああ、土木作業をやっているからな」

 三人の男の子は、十三歳だったが、土木作業をしているために年齢以上にかなりいい体格をしていた。

 

「三人共、口は堅いですか? 内緒の仕事になります。人に話さないと約束できますか?」

 フェスは、自分の口に掌で隠し尚且つ小声で話した。男の子たちの代表格らしき子が、フェスと同じように口を隠し小声で答えた。

「俺達のようなのは、犯罪以外の仕事なら何でもやる。口が堅くなければ出来ない仕事もある。口は堅いから安心してくれ」

「わかりました。明日の朝の鐘が鳴ったら東門に集合してください」

「仕事の内容と報酬は?」

「仕事の内容は、明日現場で教えます。報酬は三人で、銀貨二枚です。前金で一枚と仕事後に一枚渡します」


 フェスの口にした報酬に、男の子三人だけでなく屋台の親父も驚いた。

「ほ、本当か? 嘘じゃないだろうな?」

「本当です。それだけ大変な体力仕事と思って下さい。それと、口止め料も含まれています。犯罪になるような仕事ではないので、安心してください」

「あ、ああ……」

 嘘か本当がを疑っているようだったのでフェスは、空間倉庫から銀貨一枚を取り出すと目の前にいる男の子のひとりに手渡した。

「……本当に良いのか? この一枚を持って、明日来ないかもしれないぞ?」

「そうなると私の見る目がなかっただけですから構いません。しかし、そんなことをしてしまったらあなた方の信用がなくなり、仕事がなくなってしまうのではないですか?」

「その通りだ。必ず行くから心配すんな」


「では、明日の二の鐘に東門へ来て下さい」

「……構わないが、そんなに早いと門を抜けられないぞ?」

「大丈夫です」

 なにか大丈夫なのかわからなかったが、気にしても仕方がないと思った男の子は、二の鐘に東門に行くことを約束し帰ることにした。だが、それをフェスが止めた。

「待って下さい。体力仕事です。肉を食べて体力をつけてください。おじさん、猪肉百本お願いします」

「な! 本当にいいのか?」

「ええ、お願いします」

「い、いいのか? 仕事前だぞ? 前金も貰っているのに」

「途中で、体力切れを起こされたら困ります。もちろん、報酬とは別です」


 百本の猪肉を焼くのに三十分程かかった。猪肉を受け取ったフェスは、そのまま男の子達に渡した。

「持って帰って、皆で食べてください」

「ありがとう! 明日の仕事頑張らせてもらう」

「はい、お願いします」

 三人の男の子は、何度も立ち止まっては振り向いては頭を下げていた。


 三人を見送ったフェスは、エナが自分を見ていることに気付いた。


 マインさんが、話してくれていたのかな?


 と思いながらフェスがマインを見ると、フェスの聞きたいことがわかったかのように微笑んでいた。

「私たちも宿屋にいきましょうか?」

「そうね」

「すいません。その前に……おじさん、猪肉の買取はしていますか?」

 宿屋に向かおうとしたフェスだったが、歩き出そうとしたアーシャとマインを止めてから、屋台の親父さんに話しかけた。

「ああ、買取りやってるよ。大きさと重さ、状態により値段は変わる。どうする?」

「お願いを聞いてくれたら無償で渡します」

「本気か? そのお願いとは何だ?」

「猪一頭の解体をお願いしたいです」

「そんな事でいいのか? 任せろ、いつまでやれはいい?」

「明日のこの時間くらいまでに……できますか?」


 屋台の親父が満面の笑顔で快く引き受けてくれた。猪肉二頭を空間倉庫から屋台の裏にあった荷車の上に置いた。用事を済ませたフェスは、アーシャとマイン、エナと一緒に宿屋に向かった。


 宿屋に入るとユイナが出迎えてくれた。

「また、当宿屋をご利用いただきましてありがとうございます。お食事の準備ができておりますが、先にお部屋に向かいますか? お食事になさいますか?」

「食事にします。……よろしいですか?」

 ユイナに聞かれたフェスが答えたが、アーシャとマインに確認を取ると、問題ないと頷いていた。

「あ、あの私も……一緒にいいんですか?」

「いいよ。エナちゃんには薬草摘みの手伝いをして貰ったからね」

 エナは、猪肉のお礼と言おうとしたが、エナの言いたいことのわかったフェスが先に、正当報酬なので気にすることないと言った。

 フェスたち四人は、食事を終わらせるとランプを手にしたユイナに部屋まで案内してもらった。

 

 部屋に入ると、ユイナによって既にお風呂に湯が張られていた。四人でお風呂に入ることになったが、お風呂に入る前にフェスは、エナに自分が女ではなく本当は男だったことを話した。話を聞いたエナは、フェスが男であろうか女であろうか全く気にしていなかった。


 お風呂に入り、エナの髪や身体を洗うとアーシャとマインは驚きのあまりエナの身体を凝視してしまった。さすがに恥ずかしくなったエナは、二人から逃げるように湯船に浸かった。

 綺麗に洗われた髪は、神々しいほど金に輝く金髪に薄汚れていた身体は、透き通るほど色白美肌だった。とても浮浪児とは思えないほどの女の子に生まれ変わったエナだった。


 やっぱり、エルフ族だからなのか、人族とは違う美しさがある……ように感じる。


 お風呂から上がると、部屋に置かれていたテーブルへと四人が席に着くとフェスがエナに話しかけた。

「これからエナちゃんに質問していきます。話したくないことは話さなくてもいいです」

「うん」

「エナちゃんは、いつからこの街にいるの?」

「はっきりとは覚えていませんが、四年前くらいだと思います」


 四年前ということは、二歳か……何を聞いても無駄なような気がする。


「両親のことは、覚えている?」

「……全然覚えていません。お兄ちゃん……代わりの人に拾われたと聞いています」

「拾われた? この街で?」

「いいえ、詳しい場所はわかりません。街の外と聞いています」


 街の外か……多分その辺りで、両親が殺されたのかな?


「明日来る三人の中にその人はいる?」

「います」


「エナちゃんは、自分のことどれだけ知っているの?」

「……?」

「意味わからないよね……ごめん。僕は、鑑定の能力スキルを持っていて、エナちゃんを鑑定して気になったことがあって話を聞いてみようと思ったんだけど……」

「鑑定でどこまでわかるの?」

 エナではなく話を聞いていたアーシャが、フェスに聞いた。

「魂の色、本名、種族、生まれた年、年齢に簡単な現在の身分……称号のようなものです」

「気になるというのは?」

「それを話すのには、エナちゃんの許可を貰わなければなりません」

 フェスは、そう言うとエナを見た。

「……知りたいです。教えて下さい」 

 フェスを見てエナは、ぼそりと呟いた。それを聞いたフェスは、一度頷くと話し始めた。本名に種族、生まれ故郷と思われる国の名を。


「エヴァンジェリナ・ヒーティア……それが私の本名……」

「はっきりしたことはわからないけど、おそらく愛称で、エナ何だと思うよ」

「それよりエナちゃんが、精森人ハイエルフ族というのは確かなの?」

「はい、間違いありません。……今もそうなっています」

 マインに聞かれたフェスは、エナを鑑定しながら答えた。

「それならどうしてエナちゃんの耳は、エルフの特徴である尖った耳をしていないの?」

 首を傾げながら質問したアーシャに、首を振ってからフェスは、わかりません、と答えた。


「家名があるってことは、エナちゃんは貴族なのね。でも……エフティヒア王国って、聞いたことないわ」

「マインさんでもわからないとなると……別の大陸なのでしょうか?」

「たぶんだけど……妖精族が多く住むアリステラ大陸にある国だと思うわ。エルフ族も多く住む大陸だから」

 エナを見ようとしたフェスだったが、探知に人の反応があることに気づくと扉に向かってかけ出した。扉を開け廊下を確認したが誰の姿も確認することはできなかった。扉を閉めて呆然とフェスを見ている三人のところへ戻ると、マインがフェスへと話しかけた。

「急にどうしたの?」

「……誰かに話を訊かれていたようです」

「でも、この部屋の途中には、護衛の人もいるはずよね?」

「その護衛の中に犯罪者と関わりのある人がいたのだと思います。盗み聴きしていた人は、宿の外に出たようですし……」

「ユイナさんに報告に行く?」

「止めておきましょう。証拠がありません」

「そうね……」

「それよりも、これからエナちゃんをどうするか、です。このままエナちゃんをこの街に置いて行くと危険です」

「危険とは?」

「……誘拐されて、奴隷にされるかと……。僕たちは街から出るからって放っておくわけにはいきません」

「ならどうするの?」

 マインのどうするの? の言葉にフェスは、少し時間を起き考えを纏めてから口を開いた。

「出来ることは二つあります」

 フェスの言葉にアーシャとマインは、絶句した。

「一つは、この街にいる犯罪者を一人残らず殺すか捕まえます」

「…………」

「…………」

 エナは大人しくフェスの話を聞いていた。そして、アーシャとマインは、暫くの沈黙の後に「「出来るわけないでしょ!!」」と言葉が重なった。

「冗談ですよ! 流石にそんなことする訳ないでしょ? やったら目立ちますし、どうしてやったのか訊かれたら意味ありませんから」

「……出来ないとは、言わないのですね」

「それで、もう一つの案は?」

 マインは呆れ、フェスの言葉の意味がよくわからなかっていないアーシャは、次の案の提示を求めた。

「エナちゃんを旅に同行させます。勿論、エナちゃんの気持ちを聞いてからになります」

 フェスの案を聞いたマインが何かを言おうとしたが、それよりも早くエナガ口を開いた。

「一緒に行ってもいいの?」

 満面の笑顔のエナを見てしまったマインは、なにも言うことは出来ずに口を閉じた。アーシャは、なにも考えずにエナに話しかけていた。

「いいわよ。ね? マインさん」

「……そうですね。置いていくのは、確かに危険ですから構いません」


 一応話が纏まったところで、朝が早いことに気づき寝ることにした。

  

 浮浪児とはいえ、勝手に街から連れたして問題にならないのかな? エナちゃんにも商業協会の身分証を作るかな。


 アーシャとマインが、フェスの出した寝間着ネグリジェをエナに着せると、ベッドの真ん中に寝かせた。そのとなりにフェスが横になるとアーシャとマインが、フェスとエナを挟んで寝ることにした。大きめのベッドのために、四人でも窮屈さを感じることなく寝ることができた。

 

 布団の中に入るとエナは、フカフカの布団に気持ちよくなったのかすぐに眠りの落ちた。フェス、アーシャ、マインの三人もそれほどの時間も経たずに眠りに落ちた。


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