第6話 買い物へ
ベッドに入りアーシャに抱きついたまま眠りについたはずのフェスは、紺色の寝間着の格好で立っていた。
ここは……白の世界?
「そうよフェス君」
「セラ様? やっぱりここは白の世界なんですね」
創造主セラはニコニコとフェスを見ていた。
「僕に用ですか?」
セラから視線を逸らしフェスは、自分をここに呼んだ理由を聞いた。
「はい、その前に……随分可愛い格好をしていますね? 似合っていますよ」
ニコニコ顔は止めずにフェスの服装を見ての感想を述べた。
「竜耶は元気ですか?」
セラに会えたのも嬉しかったフェスだった、が竜耶のことも気になっていたために状況を聞いた。
「元気です。心配いりませんよ……と言ってもまだ病室から出られないようだけど」
「あっちの世界は、厳しいですからね」
「そうね」
竜耶が元気だと聞いたフェスは、瞳を閉じ顔を綻ばせていた。フェスの笑顔を見たセラも嬉しそうに微笑んていた。
「セラ様、用事って何ですか?」
「能力についてよ」
フェスはセラに聞いた能力(スキルの話を頭の中で復唱した。
一、能力には、常時発動と必要に応じて自分で発動させる二種類がある。
二、色々な経験をするとスキルが増える。
三、スキルや術によっては、幾つか合わせて使うことができる。
「覚えたことをわからないのなら能力を使えないのでは?」
「探知や鑑定などの自分で使う能力ならせっかく覚えても使えない場合もあります。しかし、剣術などの常時発動している能力なら、なんとなく覚えたと感じるようにはなっています」
たしかに、目に見えて石の投げる勢いが変わったのはわかった。
能力を覚えるには、勉強、経験、修行、運や元々眠っていた能力がいつの間にか使えるようになっている。
「セラ様、魂の金色って何ですか?」
「一言でいえば魂の格です」
フェスが魂の金色について聞くと、セラは簡潔に答えた。
「魂の格?」
当然フェスには意味不明だった。
「はい、前にフェス君の魂を作ったのは創造主の私と説明したと思います。私が作った魂は金色、一級神が銀色。二級神が白色、三級神が青色になります。赤色は犯罪者の色とされていますが、人殺しだから絶対に赤色になると言うわけではありません。自分の命を狙ってきた人を殺しても変化しません。確実に変化するのは、罪のない人喜んて殺しまくる人達です」
創造主セラは、フェスの反応を見ながらさらに話を続けた。
「フェス君が竜耶君として生まれた地球も例外なく魂の色はあります。秀才とか天才とか言われる人は二級神以上が作った魂です。
歴史上の英雄とか勇者とか言われている人たちは、金と銀、白の魂を持つ者達です。自分の能力を悪事に使い悪魔と呼ばれている人もいます」
「この世界に僕の他に金色の人っていますか?」
「います。しかし、誰とは教えるわけにいきません」
フェスの質問にはっきりと答えたセラだったが、誰とまでは教えなかった。
「セラ様が僕を聖女にしたってことですか?」
「違います。私がしたのは、フェス君の魂を作り金色にしただけです。聖女と言っているのは地上の人達です」
「男なのに聖女っておかしいですよね?」
「女の子の格好なら全然違和感ないわよ?」
「そう言う問題ではありません」
フェスの質問にセラが微笑み交じりに答えると、フェスは頭を振った。
「どうせなら……魔術の天才とか言われたいです」
「言われるようになるわよ? 金の魂と銀の魂は秀才天才と呼ばれる部類に入るから能力の成長は、早いわよ」
フェスは冗談半分で言ったのだが、セラは当然のように答えた。
能力の成長、は? 気になる言い方だけど、まあ、いいや……。
「なんとなく向こうの地球に似ているところがあるように感じます。もしかして……」
「フェス君の思っている通りです。竜耶君のいる地球から来た人たちの影響を受けています。それも日本人ばかりです」
「どうして日本人ばかりなんですか?」
「こちらの世界と繋がっている時空の穴が日本にあるからです。そして、時空の穴に飲み込まれると、この世界の現在過去未来のどこに飛ばされるかわかりません」
セラの説明で誰でも巻き込まれる可能性があることを知った。
「他に聞きたいことはある?」
「いえ、今のところは、ありません」
「それなら今日は、ここまでにしましょう」
「はい」
セラの言葉に返事をすると、話しは終了した。
「フェス君、またね。ああ、そうそう、起きたら朝だから」
セラは最後にとんでもない発言をしたところでフェスは目を覚ました。
もう朝なの?
フェスが目を覚ますと、鳥のさえずりが朝を知らせていた。
本当に朝になってる。……もう起きよう。
起きることにしたフェスだったが、左右にアーシャとマインが寝ていたために起こさずに起きるのは無理だった。だが、完全に目を覚ましたフェスは、起きることを諦めなかった。少し考えたフェスは、足の方に潜っていけば出られるのでは? と考えると、早速試してみた。
時間掛かったけど何とかベッドから出られた。
ベッドから降りたフェスは、寝間着から昨日に買った服に着替えると部屋を出た。部屋に鍵を掛け護衛部屋の前にいた冒険者に挨拶して一階に下りた。
受付にユイナがいたので挨拶をしてから外を覗いてみると早朝とは思えないほどの人の往来があり活気にあふれていた。
朝早いのに凄い人だ。領都でこれなら帝都ならもっと凄いのかな? いや、東京なら……。
「フェス様?」
「どうされましたか?」
考え事をしていたフェスに後ろからアーシャ、マインが話しかけた。
「いえ、なんでもないです。ただ、人が多いと思っていただけです」
二人に心配をかけないようにフェスは答えた。
「食事の準備ができました。食事になさいますか?」
「はい、お願いします」
ユイナにフェスが答えると席に案内された。席に座るとすぐに三人分の食事が運ばれてきた。
朝食のメニューは、
パン二ヶ
目玉焼き
猪肉の薄切り三枚
ミルク
二人の反応を見たらこんなものなのかな? 晩ごはんに比べるといい方かな?
三人は、食事を終わらせると一度部屋に戻った。
お風呂場に置いてあった桶に生活魔術の【水】を唱え水を注ぐとフェス、マイン、アーシャーの順に顔を洗った。
ベッドに置かれたままの寝間着を空間倉庫に仕舞うと部屋に鍵を掛け一階に降りた。ユイナに鍵を渡して出かけることを知らせた。するとユイナから貴重品を置いていないのならその間に部屋の掃除を済ませる。そして、本日の九の鐘が鳴るまでが、フェスたちの部屋のため戻るのは自由だと伝えられた。
「同じ部屋に泊まる場合は、九の鐘がなる前に知らせて下さい」
「わかりました」
フェスは、宿を出る前にマントのフードを被り顔を隠した。
宿屋から少し歩くと前日に食べた猪肉の屋台の前を通った。通り抜けようとしたフェスたちだったが、屋台の親父さんに声を掛けられたために、立ち止まり挨拶をした。
「おはようございます」
「お嬢様方、おはようございます」
お嬢様方って……?
フェスがキョロキョロしていると親父さんと目が合い自分に言った挨拶だと気がついた。
「私達別に貴族のお嬢様じゃないですよ?」
「そうなんですか? 貴族のお嬢様の雰囲気だったので、そうなのかと思いまして」
フェスが困った顔をすると屋台の親父さんは、話を逸らそうとした。
「昨日は、浮浪児達喜んでいましたよ」
「あの子達はなぜ浮浪児に?」
「…………」
親父さんが周りを見渡してから小さい声で話した内容は、現領主カルフ・マースチェルが六才で伯爵位を継いてから他の貴族の嫌がらせや領地内の貴族による裏切りに合い、領地や村町を奪われてしまった。
その村町の住民は、先代ヴェガス・マースチェル伯爵を慕っていたために、ヴェガスを嫌っていた貴族は税金を高く設定し払えなかった者を奴隷に落とした。
奴隷商人が買うのは十歳以上のために十才以下の子供は行き場をなくした。すると自然にマースチェル領領都ファウダーに集まってくることになる。
現領主は、自分の領地経営の無能さの所為で浮浪児にさせてしまっているとわかっていたので、子供たちを追い出すことが出来ず教会に食料とお金を渡し炊き出しを頼んでいるが、とても充分な量を全員に行き渡っているとはいえなかった。
現在信仰されている大きい宗教は三箇所ある。最も古い二つの宗教は、数百年から数万年の歴史があり信者数も多いが上層部は腐敗していた。そのため炊き出しするために渡されていたお金や食料も自分の懐に仕舞ったり貴族達への賄賂に利用されていた。
残り一つの宗派は、十年前に二つの宗派のやり様に異を唱えた者達で新しく作られた新興宗教であり。まともに炊き出しを行なっている唯一の教会でもあった。
「教会一つがまともに炊き出しを行なっても全員に行き渡るわけもないよな」
腐敗した二教会を思い出し親父さんは、苦虫をかみつぶしたような顔をした。
「領主様の所為かどうかは別にして優しい領主さまですね。普通の貴族様ならしませんよ」
親父さんの顔を見て苦笑してから言ったマインの言葉に全員頷いた。
「夕方まで店を閉めるんだが焼いて売れ残ったの買わないか? 十本銅貨二十枚でいいぜ?」
「買います」
フェスが間髪入れずに銅貨二十枚を渡すと、大きめの葉に丁寧に包んていた。
「まいど! 陽が沈み始めたら開店するから、よかったらまた来てくれ」
葉に包まれた猪肉の串を受け取ったフェスは、アーシャとマインに一本ずつ渡すと自分も口に運ぼうとしたとき、自分の後ろに人の気配を感じたので振り返ると昨晩の子供達が立っていた。
子供達の眼は、フェスの手に握られている肉を見ていた。
フェスは、溜息をしてから肉を一番年上に見える子供に手渡した。
「人数分ないから仲良く分けて食べてね?」
「「「「「はい!」」」」」
「ありがとうございます」
子供達は其々お礼を言うと仲良く分けた。
その光景を見ていた屋台の親父は苦笑いしながら眺めていた。
この親父さんもしかして、子供たちのいるのを知っていて買わせたのか?
フェスが親父を見るとすまん、と言いたげな顔をしていたので、首を左右に振り気にしないで、と視線で返した。
屋台の親父さんや子どもたちに手を振り別れると大通りに出た。
「何処から見る?」
「本屋です」
「本屋……場所わからないよね」
フェスとマインが話をしていたその時、フェスのマントの裾を引っ張る小さな手があった。