第61話 話の後
話し終えたフェスとグラードに対して、見習い騎士の二人が怒鳴り声を上げた。
いきなりの怒鳴り声に誰もか驚いている中で、フェスとグラードは全く驚いていなかった。話し終えると二人が言いがかりを付けてくることをわかっていたように。
フェスとグラードは、怒鳴り声を上げている二人を見て、やっぱり。かと顔を見合わせて苦笑した。
「なにかおかしい! 反逆者共!」
「そうだ! 今の話を本当だとするとお前らは、女王陛下に対し嘘の報告をしたこととなる」
「ああ! 女王陛下二人の処分を!」
二人は、ニヤつきながら女王へと進言した。
「女王陛下へ嘘の報告をしたとは、一体何の話でしょう? 翼竜事件? のことさえ知らなかったですし、翼竜事件の前後に女王陛下に会ってさえいない僕にどんな嘘の報告をし罪がありますか?」
二人の言い分をおとなしく聞いていたフェスが口を開き質問した。
「お前は、自分のことを話さないように言っているだろう? 嘘の報告をするようにと示唆している」
「確かに黙っててもらうように言っています」
勝ち誇った顔をしている二人を余所にグラードを見て口を開いた。
「グラード隊長……僕は一度でも女王陛下に嘘の報告をするように言いましたか?」
「いや」
「では、グラード隊長は、女王陛下に嘘の報告をされましたか?」
「いや、嘘の報告をした覚えはない」
フェスの質問にグラードは、淡々と答えた。
フェスとグラードの会話に見習い騎士の二人が、顔を歪め指をさし反論した。
「先程、真実を話さずに、と言ったではないか!」
「真実とは? お主らは、女王陛下と第一騎士団団長、冒険者協会長の報告の内容を知って言っているのか?」
「し、知らぬ。だが、…………」
女王が、もうお止めなさい。と制してから語り始めた。
「アドルファス、エーリアル、グラードの三人から聞いた報告と私の判断をお聞かせいたしましょう」
冒険者協会長から騎士団への協力要請を受け王都に残っていた第一騎士団団長アドルファス・アルダートンを派遣した。
六人のDランク冒険者の話を聞き集まった人数では足りないと判断したアドルファス・アルダートンの要請を受け親衛隊、王室騎士団の半数を派遣した。兵士に街の警備と監視を徹底させ混乱に乗じて起こるであろう犯罪を防ぐように指示を出した。
街壁の外に陣を築き翼竜を待ち受けた。だが、翼竜は、ある場所で動きを止め動かなくなった。
不審に思ったアドルファス、エーリアル、グラードの三人が、翼竜が歩みを止めている場所へと向かった。
【念話】の使える者が翼竜と会話を行い卵を返せば巣へと戻ると説得することに成功した。
そのためにエーリアルが王都へと戻り卵を手にし翼竜の元へと戻り無事に返還した。
こうして、翼竜の王都襲撃を未然に防ぐことができた。
翼竜を無事に退けたアドルファス、エーリアル、グラードの三人だったが、一切の褒美、報奨金を受け取らずに辞退した。
王都が襲われる事態を防げたとはいえ問題を起こしたDランクに上がったばかりだった六人の冒険者は、Gランクからのやり直しとなった。
「どこにも嘘の報告は、ないようです。自分たちが翼竜を倒したと報告したのなら偽証に問われていたかと思いますけど……今回は、【念話】を使える者のフェスの名前を伏せただけですので、問題はありません」
「……わかりました」
女王に睨まれた見習い騎士の二人は、嘘の報告ではなかったことを一応納得することにしたが、別の案件を持ち出してきた。
「翼竜の素材を女王に進呈するべきではないか?」
「はっ!? なぜ?」
意味のわからないことを言われたフェスは、聞き返した。
「当然だろ! 冒険者協会長の要請を受け女王陛下が要請を受託し三百人近くの人数が揃ったのだ。それなのにいざ終わってみると勝手に一人で解決したといい気になっているようだが、お前が一人で倒せるのなら三百人近くいたんだ余裕で倒せたはずだ」
その言葉を聞いた一同は、本気で言ってんのか? と共通していた。
唖然としているフェスを見て攻めところと勘違いしたもう一人も言い始めた。
「まったくだ。勝手に倒しておいて翼竜の素材を独り占めにするとは、恩賞も貰えなかった者達になんとも思わないのか?」
「別になんとも…………そもそも王都に危険があった時のために騎士団があるのだがら無償で働くのは当然でしょう。正騎士なら、そのために毎月金貨二枚も貰っているのでしょう。冒険者は、強制依頼だったと聞いています。強制依頼ならギルドから貰っているはずです」
顔から感情が抜け落ちたような無表情で言った。周りの人たちは、フェスが怒っていることに気づいていたが、見習い騎士の二人は気づいていなかった。
「本来なら翼竜の素材が、二十匹以上手に入ったはずだ。それを全員で分けるはずだったんだ。勝手に卵を返し翼竜を追い返すとは、余計なことをしやがって」
「ああ、本当にな! 貴重な素材を手に入れられるところだったのに、余計な真似して、これだから平民は、貴族の邪魔しかしないんだ!」
「いい加減にしろ! 本当に勝てると思っているのか? 勝てるわけ無いだろう」
「しかし、こんなガキにできるのなら我々にも……」
王太子アルフォンスの叱責になおも何かを言い淀んでいた。
「早い話が、翼竜の素材を寄越せ! と言っているのでしょ? 仮に渡すことになったとしてもお二人には渡しませんよ?」
「なぜだ!」
この人達は何を言っているのかわかっているのか?
「当然でしょ? 見習い騎士になったばかりなら当時なら招集に声をかけられていないのでしょ? 招集もされていない人に分配があるわけ無いでしょう。さらに言えば、騎士団でも冒険者でも集まるだけ集まって、戦ってもいない……なら、分け前を寄越せとは言える人がいますか?」
「たまたまお前が、王都に戻る際に翼竜に遭遇したから倒せただけだろ!」
「そうだ! 俺達が出会っていたら倒していたさ」
「わかりました。もし、あなたかたお二人で、悪魔族や翼竜を倒せたのなら白金貨百枚をお渡しします」
「約束を破るなよ! 平民や商人は、いざとなると平気で約束を破るからな」
「女王陛下、王太子、ソフィア王女が証人です」
不承不承と言った感じで納得した二人だったが、口元は緩んでいた。
さっきも同じようなことを言っていたけど、二人には無理だろうな。
見習い騎士の二人の発言を全く意にも介さないで、フェスは無言で聞いていた。
フェスの代わりにソフィアにアーシャとマインが怒りを覚えていた。ソフィアが二人に何かを口を開いたが、言葉にするより早く部屋に入ってきた女の子によって、口を閉ざした。
部屋に入ってきた女の子とは、身長140㎝に少し届かないくらいで、金髪を腰の位置まで伸ばし緑眼のエナだった。平民の女の子とは思えないほどの髪の艶に日に当たっていないかの様な皮膚はおどろくほど白く、そして桃色に赤らんでいる部分もありとても可愛く成長していた。
「失礼致します」
エナは、礼儀正しい言葉と一礼してから食堂へと入ってきた」
「何かありましたか?」
フィーニスがエナに近づき聞くとエナは、小声で話し始めた。
「騎士団からの使いの方がお見えです。アーシャ様とマイン様の部下の名誉士爵様をお迎えに参ったようです」
「わかりました。ご苦労さまです」
エナが壁際にいたアリアとアリスの傍に寄るとフィーニスが、エナから聞いた言葉と同じように報告をした。
「二人は、今すぐ戻りなさい。訓練の時間になっても戻らない二人を迎えに来たのでしょう」
「しかし……」
「もう、いいでしょう。戻りなさい」
「はっ! わかりました」
女王の言葉に従い見習い騎士の二人は、戻ることにし席を立った。
「失礼致します」
二人は、珍しく礼儀正しく一礼し、フェスをひと睨みするとフィーニスの案内で玄関へと向かった。そして二人は、迎えに来ていた従士と共に屋敷を後にした。
「フェス、ごめんね? 嫌な思いをさせて」
「あれくらいなら構いません。貴族らしいといえば貴族らしい二人ですよね。平民を虫けらのように見ているところと自分の能力を過大評価しているところが」
マインがフェスに謝ると二人の印象を述べた。
「それよりもいいの? 白金貨百枚をかけるなんで」
「悪魔族と翼竜と戦った僕だから言えることですが、あの二人には、絶対に無理です。仮に似たような実力の者が二、三百人揃っても無理です」
フェスがアーシャの言葉に対し冷たくそう言い放つと一同は、背筋が凍えた感じがした。
「と、ところで、フェス君。この後は、どうするの? 無詠唱の鍛錬?」
場の冷たい空気を変えようとセシリア・マクドウェルが話しかけた。
「そうですね。二、三度無詠唱を行ってから錬金術にしましょう」
フェスの雰囲気が元に戻ったのを喜び、ソフィア、セシリア、アリーナ、アルマ、ユニスの五人は、笑顔で頷いた。
その光景を見ていた女王が、私たちも見学していていいですか? と微笑みながら聞いてきたので、フェスは、時間が大丈夫ならご自由に、と答えた。
女王に大公、アルフォンス、アーシャにマイン、グラードが見学することになった。