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第56話 付与(エンチャント)

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 アーシャとマインは、自分たちの話しが終わると二人の見習い騎士に向かって話し始めた。

「あなた方お二人は、もう戻りなさい」

「そうですね。そろそろ訓練の時間ですから」

「我々はお二人の……部下であると同時に護衛でもあります」

「そうです。平民上がりにお二人や女王陛下方をお任せする訳にはまいりません」

 二人の見習い騎士は、言いながらフェスとグラードを睨んでいた。


 凄い自信だけど……そんなに強いのか?


「僕だけではなくグラード隊長も馬鹿にされているんですね?」

「まあな、一応騎士団は、身分差別を禁止されているのだが、ガキの頃から貴族の子息として甘やかされた訓練を施され褒められて成長して自分の力を勘違いしているから、隊長とはいえ元平民の騎士を馬鹿にしているのさ……自分らの親や兄姉らも騎士団や魔術師団、王城で官吏をしているから処罰されないと思っているところがある。だが、見習い騎士が元平民の騎士とはいえ仮にも隊長に暴言を吐いて処罰されないと思っているところが甘いんだがな」

 グラードは、肩をすくめて言った。それを聞いていた二人は、鼻で笑った。


 なんでこういう人たちが騎士になれるんだ?


「まあ、いいでしょう。帰ったら訓練を倍やりなさい。あと静かにしていなさい」

「はっ! わかりました」

「ありがとうございます」

 女王からの許しが出た二人は、笑顔で返答した。


「次は私が……」

 アルフォンスが口を開いた。

「訓練の話しですか?」

「ええ、そうです」

「殿下! 剣術と魔術なら我々がお教えいたします」

「そうです。こんな平民の剣術より、我々が貴族の剣術をお教えいたします」

 

 もともとアルフォンスが、フェスから剣術を習うことを聞かされていた見習い騎士二人が、自分らが教えると言った。


「まあ、選ぶので殿下ですから、どちらか教えるかは後ほど決めましょう。訓練に使用する魔道具を作っておきましたから後ほどお見せします」

「わかりました。……お前らもいいな?」  

 アルフォンスがこれ以上何も言うな! と込めて強めに言うと二人は委縮しながらも頷いた。


「次はわたくしの話しですが、その前に……」

 女王は話し始めてから見習い騎士の二人とフェスの後ろにいるセシリア、アリーナ、アルマ、ユニスと入口に立っていたグラードの顔を見てから話を続けた。

わたくしと視線のあった七人の方は、部屋から出ていてください。話は王家に関することですから聞かせるわけにはまいりません」


 女王の言葉に見習い騎士の二人が反応した。

「なぜ我々が出されて、そいつが残るのですか?」

「そうです。我々がいないと何かあった場合にお守りできません」

 二人の見習い騎士が言い終わると女王は、溜息を吐いてから怒気を含んだ口調で話し始めた。

「いい加減口を慎みなさい! 此れから話すことは、女王から第零騎士団特別騎士隊フェガロフォス・アシュレイ殿への極秘の任務です。見習いとはいえ騎士のあなた方でも意味はわかるでしょ? 関係の無い者が知った場合には、殺されても文句は言えませんよ?」

「な、なら、尚更です。そんなガキより、我々に任務をお与えてください」

 見習い騎士の一人が、言葉を絞り出すかのように声を出した。

「自分の力を何処まで過信しているのですか? 仮に他の騎士に頼むとしても見習いではなく正騎士を選ぶと思いませんか?」

「人も魔物も殺したことのない人が、どうやって女王陛下の特別任務ができるって言うの?」

「な、なら、そのガキはあるって言うんですか?」

 女王に続いてマインが言った言葉に対して、顔を真っ赤にさせた見習い騎士の一人がマインに聞いた。それに対して、アーシャが答えた。

「あるわよ? 六才の頃に盗賊を何十人も殺しているし捕まえてもいる。多種多様の魔獣や魔物も殺しているわよ? 七歳で名もなき迷宮を突破しています。あなた方お二人は、突破していないでしょ?」

「ま、まさか七歳で、名もなき迷宮を突破? ……とても信じられる話ではありません」

「義弟を庇いたいのはわかります。しかし、そんなできるわけのない話をされても困ります」

 

 アーシャの言葉を信用しない見習い騎士の二人にマインも口を開いた。

「私とアーシャさん……二人の目の前でやったことでも信用できませんか?」

「私も盗賊と戦っているところを見ています。王女の言葉でも信じられませんか?」

 マインに続いてソフィアも肯定した。


 正確に言えばソフィアは、殺しているところではなく戦っているところなのだが。


 流石にアーシャとマインだけではなく、ソフィアの証言もあって一応、しぶしぶ、その場は納得する事にした見習い騎士の二人は、部屋から出ることにした。


「一言言わせて頂けるのであれば、今までに盗賊や魔物と戦う機会がなかっただけで、殺そうと思えば殺せますから」

「わかりました。その言葉確かに聞きました。機会があれば見せて頂きましょう」

「ありがとうございます」

 二人は礼をしてから部屋を後にした。その二人に続いて、グラードとセシリア、アリーナ、アルマ、ユニスも女王に一礼してから部屋を後にした。


「まずは、……」

 女王が話し始めようとするとフェスが制止した。そして、【空間倉庫】から魔道具を取り出しテーブルの上に置いて作動させた。

「これは?」

「魔道具遮断君。この空間の中の話は、一切外に漏れることはありません。あの二人に聞かせたくない話なのでしょう?」

 女王は、頷いてから話し始めた。

「あの二人の家は、今は王族派なのだけど貴族派に寝変えようとしているのです。手土産を持ってね」

「なるほど。女王陛下または、大公そして殿下方のどなたかの命を狙っていると言うことですね」

 フェスの言葉が終わると全員が驚いた顔をしていた。

「……どうして、知っているの?」

「僕の所有しているお店は、お教えしていないお店もあります。貴族地区の貴族派の邸宅が多く集まっている場所にもあります。全て個室で、内緒話には最適なお店です」

「そんなお店をどうして持っているの?」

「最初は、自分の商会を守るのに情報を集めるためでした。僕の商会を手に入れようとしている貴族が沢山いますから。商会を手に入れても建物だけで、中身は手に入らないのですけどね」

「どういう意味?」

「僕の作った物は全てある術式が組まれています」

「その術式とは?」

「すべての商品に販売者登録がされています。販売する際には解除することになっています」

「それなら販売者ごと取り込めはいいのでは?」

 女王の言葉に首を左右に振ってからフェスは、話を続けた。

「各店の責任者と契約書を交わしています」

「契約書? 破ったら死ぬ契約ですか?」


 ソフィアは、最上級契約書のことを思い出し聞いた。


「確かに最上級契約書ですが、契約を破っても死にません。そもそも破ることができないのです」

 フェスの言葉の意味がわからない一同は首を傾げていた。

「契約を破っただけで死ぬのはあまりにも厳しすぎます。契約を破れないように契約したうえで契約しています。契約内容は、仕事上で知りえた情報のすべてを自分以外の存在に知らせることができない。と言った内容です」

「そんな契約の仕方があったのね」

 女王は、フェスの言葉を聞き関心していた。


 もっとも、そこまで単純な契約ではないけど……。


「なので、責任者を取り込んでも無駄ですし、不正で手に入れた商品は、僕が魔力を込めてある言葉を言うと不良品に代わります。販売した人も買った人も使用してみないとわかりませんから大混乱になると思います。販売した商会は、信用をなくし潰れることになるでしょうね」

 フェスの言葉を聞いた人たちの顔は、青ざめていた。

「……冗談でしょ?」

 アーシャが聞くとフェスは、本当です。と答えた。


 一度、信用を失うと商会を続けるのが難しくなる。商会の名を変えても無駄だった。


「かなり脱線しましたが、話を戻します。そのお店、いつの間にか密談場に代わっていました。そこに貴族派の筆頭ランドール公爵当主と一応中立派、蝙蝠こうもりの筆頭オークランド公爵家当主と両派閥の中堅の当主数人がいました。オークランド公爵家当主に連れられて、王族派の中堅メイヤール伯爵家、ロゼニア伯爵家、バンブリッジ子爵家の各当主……そして、一番居てはいけない人が上座にいたと報告を受けています。誰だと思いますか?」

 ソフィア以外は知っていたようで驚いてはいなかった。

「メイヤール伯爵家とロゼニア伯爵家……先程の二人の家がそうです。それより居てはいけない者とは誰ですか?」


 居てはいけない者。これには、心当たりがなかったのか大公がフェスに質問した。

「エクレーシア王国第二王子インスレクト・エクレーシア殿下です」

 その名前を聞いた途端に全員が驚愕した。

「しかし……インスレクトは、まだ十歳ですよ? どうして?」

 ソフィアは、フェスに詰め寄っていた。

「わかりません。流石に話まで聞くことはできませんから。利用されているのか意味もわからずいたのかもしれませんし……もしかして、すべて知った上でいるのかもしれません。食事をしていただけかもしれません…………しかし、インスレクト王子の学園内の取り巻きは、全員貴族派の子弟です」

「……わかりました。インスレクトのことは、こちらでも調べておきましょう。それより本日、騎士団のパーティーが行われます。出席しない訳には参りません……」

 女王の話している最中にフェスが【空間倉庫】から指輪、ブレスレット、ネックレス、イヤリングを取り出しテーブルに置いた。


「……これは?」

 多種多様な宝石がはめられていた装飾品に全員が驚いていた。

「お店で販売できない商品です」

「どうして?」

「値段をつけられません。つけても買えないほど高価になってしまいます」

 例えばこれ。と言ってからフェスは、一つの指輪を持った。


 リングが金よりさらに鮮麗された美しい黄色の光沢を放っていた。宝石は光沢のあるサファイヤのような青色をしていた。


「リングは金で、宝石はサファイヤ? 高いとは思うけど値段をつけられないほどではないでしょう?」

 自分なりの鑑定をしたマインにフェスは、首を振ってから説明をした。

「リングが神鋼で、宝石がサファイヤとオリハルコンを加工し【付与魔術エンチャント】してある品です。値段をつけるなら……白金貨二~三十枚と言ったところでしょうか?」

「……」

 説明を聞いていた全員が絶句していた。

 

 口を開かない一同を見て、もっと説明してほしいのかと勘違いしたフェスが、さらに説明を続けた。


 次にフェスが手に取ったのは、ロングネックレスだった。ホワイトにほんのりピンクの入ったホワイトピンク系の真珠に見えた。

「ホワイトピンク系の真珠にオリハルコンを加工し【付与魔術エンチャント】してあります。値段をつけるなら白金貨六~七十枚くらいでしょうか?」

 

 一同フェスの説明に反応することができずに黙って聞いていた。


「も、もういいよ! 説明はもういいから」

 さらに説明をしようとしたフェスをマインが何とか口を開いて止めた。他の人もうんうんと頷いていた。

「それ以上聞いたら使えなくなるからいいよ」

「そうですか? なら、つけている【付与魔術エンチャント】の説明をしますね?」

「え、ええ……」

 

 聞くのが怖い、全員が内心で一致していた。


「まず指輪には、……」


 説明をしていくと、一同の顔が青ざめていった。


 やっぱり聞くんじゃなかった。またも全員一致していた。


 フェスが説明した内容は、指輪には、【防毒】【毒反応】防毒は、毒を飲んでも中和してくれる。毒反応は、もし毒を飲んだ場合に指輪にはまっている宝石の色が変化して教えてくれる。

 イヤリングには、【精反射】精神魔術による攻撃を術者に反射する。

 ブレスレットには、【心身代謝強化】【体力強化】【美容強化】……。


「ネックレスは、即死以外ならネックレスが見代わりになってくれます。見代わりになるとネックレスは壊れますが、【自動修復】が組み込まれていますから二日程で元に戻ります。


 青ざめた顔をしていた女性陣だったが、ブレスレットに興味がわいていた。


「ねえ、フェス君……ブレスレットの説明をもう一度いいかしら?」

「はい、【代謝強化】は、血行を良くして太り難くなったり病気にもなり難くなりますし、老化を防ぎます。【体力強化】は、基礎体力を向上させます。【美容強化】は、お肌を若返らせます。きちんとお手入れをすればさらに効果的です」

 説明を聞いている女性陣の顔に笑みが張り付いていた。

「フェス様、そのブレスレットの効果は、私にも?」

 ソフィアも女の子であり美容には興味があったために聞いた質問だった。

「いいえ、ソフィア王女には、まだ早いです」

 フェスの言葉を聞いたソフィアは、奈落の底に落とされたようなショックを受けた。

「いいえ、ソフィア王女がどうのではなく年齢の問題です。体の成長が止まりますから……アーシャ姉様とマイン姉様も少し早いかもしれません。活性化するのに身長と胸が成長しなくなります。……改善しようとしましたができませんでした。どうしても【成長停止】が自動で付与されます」

 理由を聞いたソフィアに元気が戻ってきた。アーシャとマインは自分の胸を見て、早いかもね、と納得した。

「エレノア王女とアリゼ王女の分も持っていって下さい。アルフォンス殿下にネックレスとイヤリングはおかしいので、後で新しく指輪とブレスレットを作り同じ効果を持たせてお渡しします」

「……簡単に作れるの?」

 何でもないかのように簡単に言うフェスにアーシャが聞いた。フェスは、全然何でもない、と答えていた。


「取り敢えずこんなところでしょうか?」

「ええ、そうですね。装飾品の方は、お借りしていきますね?」

「返さないでいいですよ? 提供いたします」

「えっ!? ……よろしいのですか?」

 嬉しい申し出だが、使用されている素材か素材のために女王でも戸惑っていた。

「構いません。最初に身に付けた人にしか効果ありませんし、沢山ありますから」

「なんで、そんなにあるの?」

「貴重金属や宝石類は、先ほど言った迷宮にいけば沢山ありますから」

「そ、そんなに沢山あるの?」

 ソフィアが驚きの声で聞いた。

「二~三回潜れば一生働かないでいいかもしれません。その代り危険と隣り合わせですけどね」

「なら、何故そんな危険な迷宮に潜るんですか?」

 

 もう何十回人生を送っても使い切れないほど稼いでいるフェスが、どうしても潜っている理由がわからないので、深く考えないで聞いていた。

「他の人はわかりませんけど、僕は探求心です。二十四時間で迷宮内が変化し魔物のランクが高すぎます。人を近寄らせたくないかのように……興味があります」

「そうですか」

 

「話は終わりですか?」

付与エンチャントのことを聞いてもよろしいですか?」

 女王の質問にどうぞ、と頷いてからフェスは、話の先を促した。

「フェス君のお店以外の装飾品などに付いている付与エンチャントは、一種類が限度と聞いています。でも、フェス君のには限度がないように感じます。どうしてですか?」

「付与の前に錬金術が関係しています。例えば、指輪に多くの付与エンチャントをかけたい場合は、指輪に魔石を錬金し魔力を大量に流し込むのです」


 フェスの説明を聞いた一同には、わからない説明だった。


「そんなやり方聞いたことがありませんよ?」


 学園で錬金術を習っていたソフィアが聞いた。


「……学園で習うようなものではありません」

「そうですか……」

「それほどのものをわたくしたちに知らせてよろしいのですか?」

 がっかりしているソフィアを見てから女王が聞いた。

「かまいません。教えれば誰でもできる訳ではありませんから。……ソフィア王女方には、簡単な錬金術から教えていきます安心してください」

 それを聞いたソフィアの顔に笑顔が戻った。


「話は終わりでよろしいですか?」

「ええ、アルフォンスのブレスレットは、後ほどお城に届けて頂けますか? ソフィアと一緒にフェス君が」

「構いませんけど……では、夜の鐘が鳴る前に届けます」

「お願いしますね」


「では、訓練場に参りますか? アルフォンス殿下の訓練に使用する魔道具をお見せ致します」

「しかし、この服装では……」

 自分の服装を確認してからアルフォンスは、フェスに言った。

「大丈夫です。僕が使用しているところをお見せします」

「なるほど」

 アルフォンスは、納得し頷いた。


「移動する前に、ソフィア殿下」

「何でしょうか?」

「あの二人の前では、無詠唱のことは黙っていてください。セシリアさんたちにも二人に聞こえないように話を通しておいてください」

「どうしてですか?」

「無詠唱が使えるようになったと知ったら利用されるかもしれません」

「なるほど……わかりました。私から伝えておきます」

「お願いします」

 ソフィアは、フェスの言葉に理解し納得した。


 フェスとソフィアの二人が話しているところを聞いていた他の人達は、驚いた顔をしていた。


「ソフィア! 無詠唱で、魔術を放てるようになったの?」

「まだ、【火玉ファイアボール】だけですけど……」

「それでも凄いわ!」

 女王は、自分のことのように喜んていた。


「では、参りましょうか?」

 フェスの言葉に全員が頷くと魔道具遮断君を止めてから【空間倉庫】に仕舞うと応接室を後にした。


 応接室の前で待っていた七人を伴って訓練場に赴いた。


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