第52話 訓練の間の笑い
魔術訓練二日目……朝食を食べ終わった一同は、ふたたび訓練場にいた。
アルフォンス王太子は、執務のために顔を出してはいなかった。
前日に確認できた五人の魔力総量は、
ソフィア=ニ十七
セシリア=ニ十四
アリーナ=二十一
ユニス =十九
アルマ =十七
だった。
「初期魔力総量は以上です。皆さん同じくらいの量でしたね」
「でも、私は……ソフィア殿下より十も差がありました」
「まだ始めたばかりなので、気にしないでください。それに、十も、じゃなく……十しか離れていないと考えていいです。……それくらいならすぐ追いつけます」
そうフェスに言われたアルマは、うれしそうに微笑んだ。
「今日も昨日と同じように【玉】と【水】を唱えて魔力総量を計って増えていることを確認してもらいますが、その前に一つ言っておきます。増える量は一定ではありません。一しか上がらなかったり、五上がったり、十上がったりとばらばらです」
「それは、人にって違いが出るのでしょうか?」
「やっていく内にわかると思いますが、人によるものではありません。その辺りは気にしないでください」
アルマの質問に首を振り否定した。
五人の女の子は、前日と同じく魔力を枯渇させるために各々の得意な系統の【玉】と家庭魔術の【水】を唱えて次々と意識を落していった。
うーん……訓練場から部屋のベットまで運ばないで良い方法ないかな?
魔力を枯渇させて意識を失う順番が入れ替わった。
五人は、前日に比べて数分間だが目を覚ますのが早くなった。
目を覚ました五人は、食事をしてから再び訓練場に立っていた。
ソフィア=ニ十七➝三十二
セシリア=ニ十四➝三十
ユニス =十九 ➝二十九
アルマ =十七 ➝二十七
アリーナ=二十一➝二十六
「と、なりました。最初低かったアルマさんとユニスさんが、いきなり十も上がりましたね。おめでとうございます」
「はい!」
フェスに褒められたアルマとユニスは、本当に嬉しそうに笑みを見せた。
その一方で、最下位に落ちたアリーナは、暗い顔をして落ち込んでいた。
「魔力の上がり方は、本当にバラバラなので、アリーナさんも気にする必要ないですよ?」
そう言われたアリーナは、頷いたが、それでも俯いたままだった。
「まあ、納得はできないかもしれませんね。何度かやっている内にわかると思います」
一同頷いた。
「それでは、もう一度行います。頭痛が残っているかと思いますが、慣れるためにもやっておきましょう」
「……うん」
「この頭痛になれるの?」
一同が頷いた後で、ソフィアがフェスに質問した。
ソフィアの質問にフェスが答えると、なんとなく理解した五人は、それぞれ魔術を放ち始めた。
フェスが言った言葉とは、慣れても意識を落す際に頭痛は起きるが、目を覚ました時には残らなくなると……。
そうなるまでには、時間はかかるけど……。
意識を失った五人が目を覚ましたのは、翌朝の鐘が鳴って暫くしてからだった。
「食事の前に朝風呂はどうですか? 朝にお風呂入るのも気持ちが良いですよ?」
そんな話を聞いた五人は、嬉々としてお風呂場に向かった。
一時間ほどで出てきた五人は、きちんと髪を乾かさないで出てきた。理由を聞くとお腹が空いたからという理由だった。
フェスは、冷たい紅茶を出して、ソフィア王女から順番に【温風】を唱えて髪を乾かした。
フェスの心遣いに感動した女の子たちは、
「お嫁さんになって下さい」
「ソフィア殿下ずるいです。私とお願いします」
「私もお願いします」
「私も!」
「私も立候補します」
と、ソフィア、セシリア、アリーナ、アルマ、ユニスの順に訳のわからないことをフェスに発した。
そんな事を言われた瞬間にフェスの時間は、凍り付いた。
時間の止まっているフェスを余所に五人は、未だにキャーキャー賑やかに話していた。
数十秒間止まっていたフェスは、頭を振ってから五人に言った。
「男の僕にお嫁さんにって、おかしいでしょ?」
「そうでしょうか? フェス様の外見なら別段おかしくはないかと……」
「そうですね。女の子より可愛い顔をしていますから」
「料理も気配りも上手、物腰も柔らかく……そんな人、女の子にもいらっしゃいません」
「…………褒められているのでしょうけど……嬉しくありませんね」
フェスが肩を竦めていうと五人は、クスクスと笑い出した。
「楽しそうなお話をしていますが、先に食事にいたしませんか?」
「はい」
フィーニスがエナとエスト、アリアとアリスと共に食事を運んできた。
フィーニスと他の四人も聞いていたようで、声を殺して笑っていた。
笑いの中での朝食となった。
ソフィア=三十二➝三十九
ユニス =二十九➝三十六
セシリア=三十 ➝三十五
アルマ =二十七➝三十四
アリーナ=二十六➝三十四
「見事に僅差になりましたね」
「はい!」
ユニスが嬉しそうに返事をすると他の四人も嬉しそうだった。
「今日から無詠唱のやり方を教えていきます」
それを聞いた五人の目は、キラキラと輝いた。
魔力を枯渇させ魔力総量を増やせることを知り必要なことだとわかったが、無詠唱が目的だったセシリアとユニスはもちろん、ソフィア、アリーナ、アルマも無詠唱に興味があった。
無詠唱で、魔術を放つ。簡単なようで難しい、なぜなら、無詠唱ができる人は、必ずと言っていいほどやり方を秘匿するからだ。
人によっては、お金稼ぎをするために本にして販売を行なうのだが、高価すぎて限られた者にしか手にすることができないでいた。しかし、手に入れた者の中で、無詠唱ができた者がいないとされている。
無詠唱が出来る者がその本を読むと全員が必ず笑い出すと言われていた。
無詠唱とは、才能と詠唱を完璧に覚えた先にある。と、魔術を使う者の中での常識となっていた。
この常識のたいしてフェスは、嘘と言い放ったが、正確には、嘘ではない。フェスは、創造主セラによって、最初から無詠唱のスキルを得ていたためにそう感じているだけだった。
無詠唱使いも最初は、詠唱を唱え魔術を放っていた。
無詠唱使いには共通して魔力が高いとされていた。少ない人に比べて魔術の練習ができるので、完璧に唱えられる詠唱の先に無詠唱があるとされている理由だった。
「……詠唱とは何だと思いますか?」
当たり前のことを聞かれた五人は、どう答えていいのかわからずに固まってしまった。