第49話 貴族に 【改】
悪魔族インナと戦った翌早朝に、王城からフェスの屋敷へ使いが来た。
「……グラード隊長、何しに来られたのですか?」
「……わかってて聞かないでくれ。女王様がお呼びだ」
フェスは溜息を吐いてからグラードへと話し掛けると、グラードも同じように溜息を吐いた。
「……城に入った途端に地下牢行きにならないでしょうね?」
数日前に騙されて城に行き地下牢に入れられた事を言ったフェスに対してクラードは、真剣な顔をして答えた。
「する訳ないだろ? いいから早く来い」
グラードの言葉に頷いてからフェスは、後ろを振り向きフィーニス先生とエナ、エストに城に行ってくると伝えてから馬車に乗り込んだ。馬車に乗り込むフェスに三人は手を振って送り出した。
馬車に乗り込むとフェスから話し始めた。
「どうせまた……貴族にするとかでしょ? グラード隊長から断って下さい」
「出来る訳ないだろ!」
「ですよね……」
「断るなら自分で断れ」
「はい、断ります」
「即決か!」
グラードが溜息交じりで言うと二人で笑い合った。
「ところで、どうして僕の家を訪ねてくる人って、朝食を食べる前に来るのでしょう?」
「半分は偶々だな。残り半分は、朝議の前に城に連れていくためだ」
「そうですか…………今日も沢山いるんでしょうね?」
「あ。ああ……」
目を泳がせながら言うグラードを見てフェスは苦笑した。
馬車内で話をしていると王城に到着した。
騎士たちが注目する中、フェスとグラードは馬車を降り入城すると三人のメイドに近場の部屋に連れ込まれた。
部屋に連れ込まれると外套を脱がされて、服の埃を落されてから髪をとかし完了した。
本来なら服も正装に着替えさせられるのだが、もともとフェスが着ている服は、高級品のためにそのままで大丈夫だった。
メイドの三人に礼を言ってから部屋を出るとグラードがいなくなっていた。グラードの代わりに一人の若い騎士が待っていた。その若い騎士は、フェスの最初の訓練生であり最後までやり抜いた者だった。
「フェス殿、お久しぶりです。謁見の間までご案内させていただきます」
「よろしくお願いします」
謁見の間までの短い時間で、若い騎士の現在の状況を聞いた。
訓練を開始した時には、見習い騎士になったばかりだったのだが、第十位階六位準士爵、従士となり正騎士の試験を受ける資格を得たそうだ。
いままで、見習い騎士が正騎士の試験資格を得るには、最短で一年半かかっていたのだが、この若い騎士に限らずフェスの訓練を受けた見習い騎士、従士の人たちは、正騎士試験の資格を得るのか早かった。もともと正騎士だった人たちは、出世した人こそ少なかったが、副隊長、隊長に昇格した者もいた。
そんな人たちを見て、フェスの訓練の邪魔をしないで真面目に受けておけば良かったと大多数の人が、酒の席で愚痴っていたそうだ。
謁見の間の扉の前で待機していると、扉の前にいた衛兵が謁見者の名を声高らかに読み上げた。
「フェガロフォス殿、御入場ー!」
何故こういう時、本名呼ぶんだ? その前に何故この人は、僕の本名を知っているんだ?
フェスが内心でそんなことを思っていると衛兵の二人が、謁見の間の扉を引き開け切るのを確認してから中へ進むとどんでもない数の人がいた。下級貴族から上級貴族、騎士も大人数いた。女王の右前方に宰相の大公が立ち階段の下からエレノア、アリゼ、ソフィアの順で立ちアーシャとマインも大公の娘として参加していた。フェスから向って右側に貴族達、左側に騎士たちが立ち並びフェスへと注目していた。
なぜ、こんなに集まるんだ? 暇なのか? きちんと仕事しろよ!
赤いカーペットの上を部屋の中央まで歩き片膝と片手をつき跪いた。頭を下げているフェスにエクレーシア王国女王コーデリア・エクレーシアから声をかけられた。
「フェガロフォス殿、此度はご苦労様でした。其方の働きにより王都ディフェーザの国民に死人怪我人を出すことなく解決できました。この国の女王としてお礼を言います。誠にありがとうございます」
平民のフェスの対して一国の女王か頭を下げたのを見た者達の中からどよめきが上がった。
「はっ! 身に余るお言葉……光栄です」
どよめきの中でも気にすることなく言葉を返した。
どよめきが収まるのを待ってから女王が口を開いた。
「此度の働きにより貴族順位第十位階一位士爵位を授けます……」
女王様も断るのわかっててよく毎回貴族にしようとするよね……。
「……」
「お待ちください!」
フェスが口を開く前に貴族側の上級貴族の一人から待ったがかかった。
「何ですか? オークランド公爵」
「確かに悪魔族を退けたことは認めます。しかし、我が息子は悪魔族を殺して第十位階十位名誉士爵に対して退けただけの平民が、士爵なのでしょうか? 返答はいかに」
オークランドは、顔を真っ赤にさせて怒鳴っていた。
「言っても宜しいのですか?」
「ええ、かまいません」
女王は、溜息を吐いてから口を開いた。
「本当にオークランド公爵の六男カレル・オークランドが悪魔族を倒したと思っているのですか?」
「当然です。居合わせた兵士騎士に学園の者それに街の者もそう言っているでしょう」
「裏は全てとれているのですよ? それ以上言うのであれば……ここですべてを話します。よろしいのですか?」
「くっ! ……わ、わかりました」
オークランドは、悔しそうに顔を歪ませていた。そんなオークランド公爵を見た王族派の貴族は、気分が晴れていた。
「では、改めまして、フェガロフォス殿を貴族順位第十位階一位士爵位を授けます
「身に余る光栄に存じます。しかし、過分な御取立てと存じ上げます。ですのでお……」
「最初に言っておきます。今回は断る事はできません」
フェスの言葉を最後まで言わせずに手で制してから女王が割って入った。
えっ! なんで? どうして断れないんだ?
「今回は目撃者が多過ぎます。此度の功績で貴族に取り立てないとなるとエクレーシア王国では、士爵にもなれないと思われてしまい国から人が流出する可能性もあります。そのようになると困ったことになりますので士爵位を受けて貰います」
そんな訳ないでしょ! 大公の知恵かな? 笑っているし……今回は断れない、のか?
「…………わかりました。士爵位ありがたくお受け致します」
観念したフェスは一度息を吐いてから爵位を受け取る事にした。
「家名にアシュレイの名を与えます。それと、第零騎士団特別騎士隊配属とします」
女王の言葉によって謁見の間が、先程のどよめきい以上にざわついた。女王が立ち上ると静まり返った。
【第零騎士団】
王侯貴族であっても命令することのできない騎士団。
派閥に左右されることのない完全中立の部隊。
命令をれることはないが、情報が持たされた場合には、情報により人数が集められて調査、解決に向かうことになる。
身分、種族にとらわれない犯罪の調査・解決することができる。王族であっても取り締まることができる。
各派閥に近づくことは許されているが、犯罪取り締まり等に身分差別、人種差別または、各派閥を優遇した場合には処罰の対象となる。
勤務時間、非番などは一切決まっていなく全て本人が決める。
他の騎士団のように団長、副団長、隊長、副隊長はいない。但し、共同任務により暫定で隊長が置かれることはある。
第零騎士団には、特別騎士隊と特別情報隊の二隊がある。基本的には同じ役割を持つ部隊だが、特別騎士隊は国内、特別情報隊は国外の任務となっている。
「特騎隊……特別騎士隊に配属ですか?」
存在は知っていたフェスだったが、見たこともないので噂の類と思い本当にあるの? という気持ちで聞き返してしまった。
「はい、特別騎士隊です。フェガロフォス殿のお力なら大丈夫でしょう……もちろん学園に通いながらの配属となります」
フェスの疑問を気にせずに先に話を進めた。しかし、フェスにはやらなければならない事かあり毎日任務につく事はできないので女王へと質問することにした。
「……一つ宜しいでしょうか?」
「なんでしょう?」
フェスか質問してくることがわかっていたかのように女王は間を開けずに聞き返した。
「女王陛下も知っておられると思いますか、私にはやらなければならないことがあります。常に任務に着ける訳ではありません。それでもよろしいでしょうか?」
「構いません。そもそも特別騎士隊は、女王であっても命令することはできませんし特別騎士隊に命令出来る者はいません。隊と言っても集団ではなく個であり隊長はいません……言うなれば一人一人、自分か隊長となる完全な自由部隊でもあります」
女王は聞かれるであろうと最初から考えていたかのように一気に話した。
「自由部隊……ですか?」
本当にそんな部隊かあるのが信じられないフェスだったが……。
「ええ、やらなければならない事かあるフェガロフォス殿には都合の良い隊でしょう?」
と女王は笑顔を見せて話した。
「そうですね……有難く特別騎士隊に配属させて頂きます」
フェスが特別騎士隊への配属を受けると女王は一度頷き笑顔で話を進めた。
「よろしい! では、……フェガロフォス・アシュレイの士爵位への叙爵並びに第零騎士団特別騎士隊への任命式を行ないます」
数十人か見守る中、フェスの叙爵式と任命式が盛大に行なわれた。アーシャとマイン、エレノア、アリゼ、ソフィアの三人の王女とアーシャとマインの姉のコネットとイリスは、その場の誰よりも笑顔で拍手を送った。
叙爵式と言っても特別な事をする訳ではない。女王が剣を抜き叙爵者の肩に置いてから叙爵者か叙勲の際の宣誓の一言を言って女王から貴族の身分証の銀ブレードを手渡され式は終了した。
謁見の間を出たフェスは、エレノア王女の侍女に執務室へと案内されて部屋で待たされた。暫く待っていると廊下から数人の女性のが話し声が聞こえてきた。
コーデリア女王、エレノア王女、アリゼ王女、ソフィア王女、ヴァージニア大公、アーシャとマインが部屋に入りその後でケーキと紅茶をメイドが部屋に運び全員の前に並べた。
「フェス様おめでとうございます」
「これで、貴族の仲間入れですね」
「フェスおめでとう」
「……ありがとうございます」
ソフィア、エレノア、アーシャと笑顔で順にお祝いの言葉をかけたが、フェスは複雑な顔でお礼を言った。
「やっぱり……貴族になりたくなかった?」
「絶対になりたくない訳ではないですけど……できればなりたくないですね」
嬉しそうな顔をしていないフェスの顔を見て、アーシャが困惑気味に聞いた。
「理由を聞いても?」
女王がフェスに理由を聞いた。
「……一応、ヴェスナー神聖帝国の皇子だったんでよ? 利用しようとする者か出てくるでしょう。僕は死んだ事になっていますからヴェスナー神聖帝国に戦争の口実を与えることになるのでは、と……」
「戦争って、まさか……」
フェスの言葉にエレノアが聞き返した。
「可能性の問題です」
「そうですね……あり得ない話ではないですね。しかし、ヴェスナー神聖帝国からエクレーシア王国までは何ヵ国もありますから大丈夫でしょう」
フェスに大公が自分の意見を言った。他の人達はほっとした顔をしていた。
その考え方を油断と言う……。
「そろそろ話してくれますか?」
フェスの言葉に女王以外が首を傾げていた。女王はニコニコと笑っていた。
「良く分かりましたね?」
「わからない訳ないでしょ? 何度も断っているのに貴族にしたいのには理由があるとしか思えません」
「……私の娘と結婚するのなら最低でも貴族でないと周りか認めないからです」
女王の言葉を聞いてフェスの時間か少し止まってしまった。
「いつ僕が結婚したいと言いました?」
違う違うと女王が言葉にしながら手を振った。
「フェスではなく……」
三人の王女たちか女王の言葉を遮った。
「お母様余計な事は言わないでください」
「そうです」
「止めてください」
顔を真っ赤にしたエレノア、アリゼ、ソフィアの順で女王に焦りながら言った。
「わかったわよ……フェス、娘との結婚は今は考えないで構いません。今の貴方の生活には平民より貴族としての方か生活しやすいと思ったからです。自分でも言っていましたが三回目に牢に入れられたら奴隷にされます。ですが貴族になれば適応されませんからフェスの身を案じてと言う理由もあります」
「わかりました。身を案じてくれたと言うなら……お礼を言うしかありませんね」
最初は、からかいながら話をしていた女王だったが途中から真剣な顔で語っていた。フェスは、真剣な顔で話していた女王を信用しお礼を言った。
話をそこそこにフェスの貴族入りのお祝いに三人の王女か手作りしたケーキとメイドが淹れてくれた紅茶を飲んだ。ケーキはバサバサして美味しくなかった。だがフェスは残さずに食べ切った。他の人は残していた。作った本人たちでさえ……
「フェス様、美味しくなかったら残しても宜しかったのですよ?」
ソフィアが代表して申し訳なさそうな顔をしながら言った。
「いえ、僕のお祝いに作ってくれたのですから残す訳に参りません」
「フェス様!」
三人の王女は、顔を赤らめてフェスを見ていた。その光景をアーシャとマインは面白くなさそうに眺めていた。
なぜ顔を赤めてるの? アーシャさんとマインさんは不機嫌そうにしているし……どうして?
「今日のところはこれで失礼します」
フェスは立ち上がると女王は手で制してから話し始めた。
「わかりました。フェスはもう特別騎士隊に配属になっていますので自分の思うように任務を行なってください」
女王に続いて大公も続けて話し始めた。
「今日から貴族です。もうカレル・オークランドに平民と言われる事は無いでしょう。もし言われたらフェスの方か立場は上なのでやり返しなさい」
「やり返せと言われても……カレルたちなら絶対に絡んできますよ? 平民が貴族になったからってえばるなよ! とかなんとか……」
「言って来そうですね」
フェスの言葉にソフィアか相槌を打つと部屋にいた他の人たちも笑い出した。
執務室を出たフェスは城を後にし自分の屋敷まで歩いて帰ることにした。
別段問題なく屋敷に帰ることか出来たが新しい噂で大騒ぎになっていた。
噂とは……新しく平民から英雄の誕生そして、平民から貴族になった者の話しだった。
なんで、昨日の今日でこんなに噂がでかくなってんの?
フェスが噂を聞きながら屋敷に戻るとフィーニス先生、エナ、エストは勿論、隣の孤児院の子供たちもフェスの帰りを外で待ち姿を見るなり拍手やら歓声やらで騒然となった。
フィーニス先生が一歩前に出ると騒然となっていた場は静かになった。
「士爵位おめでとうございます」
「「士爵さまおめでとうございます」」
「「「「「ししゃくさま、おめでとうございます」」」」」
「……ありがとう、ございます」
フィーニスに続いてエナとエストが声を合わせその後で子供たち全員でお祝いの言葉を述べたがフェスは、少し悲しい顔をしてお礼を言った。フェスが悲しい顔をしたことに気になったフィーニスが口を開いた。
「士爵様どうかされましたか?」
フィーニスの言葉を聞いて首を左右に振り一呼吸置いてから呟いた。
「……フィーニス先生……僕たちは家族ですよね?」
「はい、その通りです」
「なら爵位名で呼ぶの止めて、今まで通りにお願いします。家族にまで爵位名で呼ばれるとフェスという人格が無くなり家族から追い出された感じになります。アーシャさんマインさんもいなくなり……僕が貴族になったらみんなも僕から離れていくのですか?」
フェスは、涙を浮かべて話し終わると俯いてしまった。涙を流したフェスを見た子供たちはオロオロと困惑してしまった。フィーニスは、フェスに抱きつき頭を撫でエナとエストはフェスへと抱きつき一緒に泣いてしまった。
「ごめんなさい。もう爵位名では呼びませんから……もう泣かないでください」
「フェス様ごめんなさい」
「私ももう呼びません」
「フェスさま! 私達ももう呼びませんから……泣かないでください」
フィーニス、エナ、エストの順にフェスへと謝った。子供達の中には泣き始めた子も出始めた。
フェスの屋敷の前で子供達は暫くの間泣き続けお祝いにきた近所の人たちは、どうしていいのかわからずに黙ってその光景を見ていた。