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第43話 泣き虫 【改】

 威圧を受ける訓練を始めてから一月ひとつき全員が威圧の中でも何とか動けるようになっていた。

 この一月で休みはだったの一日、フェスが学園での試験の日だけであった。

 

 騎士と騎士見習いの全員に女王から指示が出た。フェスの訓練を受けている者は全ての任務から免除する。と言い渡された。つまり、フェスの訓練以外禁止されていたのだ。

 任務を言い訳に休もうとする者が続出したためにフェスの嫌がらせ……フェスから女王へ訓練に集中させたいので任務の全面免除を申し出るとあっさりと許可されてしまい頼んだフェス自身も拍子抜けしてしまった。 

 それを聞いた訓練を受けていた者達は逃げ道を塞がれてしまい顔色を悪くしていた。しかし、逃げ道を塞がれたことにより訓練に覚悟を持つことができた。

 その結果が一月で、威圧の中をなんとか動けるようになっていた。


 そして、訓練は次の段階に移ろうとしていた。


「おめでとうございます。威圧を受ける訓練は一先ひとまず終了となります」

「おおおおおおぉぉぉぉおおお!」

 練兵場に大歓声が起きたがフェスの次なる訓練内容を聞き黙り込んでしまった。

「次の訓練内容をお知らせします。王都ディフェーザから北へ歩いて約二時間の場所にある名もなき迷宮まで走って貰います。

 全身鎧プレートアーマー着込んで剣を持って走って貰います」

「本気?」

 フェスの言葉にアーシャが思わず聞いた。

「はい、本気です」

 真剣な顔でフェスが答えた。

「フェスも出来るのか?」

 グラードがフェスの顔を見て聞いた。フェスの答えは……。

「出来る訳ないでしょ? 僕の体を見てください全身鎧プレートアーマーところが皮鎧レザーアーマーも重くって着ることできません。そもそも僕は速さで戦うタイプですから鎧を着て速さを殺しては戦えません。皆さんは、騎士であり任務によっては、全身鎧プレートアーマーを着ることになります。走れる体力を身に付けて貰います」

 自分にはできる訳ないとはっきりと宣言した。

「……なら女騎士は? 貴方と同じ華奢な体をしてるでしょ?」

 フェスの言葉にマインが異論を唱えた。

「でも……全身鎧プレートアーマーを着ることができるなら男の僕より筋肉が……」

 筋肉があるでしょ? と言おうとしたフェスだったがその言葉を最後まで言う前にアーシャがフェスの口を塞いだ。

「それ以上言わないの! わかった?」

「……はい」

 アーシャの雰囲気に恐怖を覚えフェスは頷いた。そのフェスにマインが言葉をかけた。

「ねえ、フェス……男の子の僕よりと言うけど……誰もフェスのことを男の子とは認めてないからね」

「えっ! 誰も?」

 フェスがマインの言葉に驚き辺りを見渡すと男性は視線を逸らし女性は、うんうんと何度も頷いていた。

「ねっ? わかったでしょ? 誰も男の子とは認めてないから」

「いやいやいや、認めるも認めないもないでしょ! 正真正銘に男です。一緒にお風呂入っていたんだから見てるでしょ?」

「ここで、言うな!」

 フェスの言葉に周りの女騎士達は、キャーキャー言いながら騒いでいたが、アーシャとマインの二人は頬を赤らめていた。

「フェスさんは、お婿さんと言うよりお嫁さんにしたいよね?」

「うんうん!」

「本当に可愛いもんね」

「アーシャさんとマインさんか羨ましいわ! 可愛い妹がいて」

「うん! 本当に羨ましいわ」


 ……妹って、弟じゃないの?

 

 女騎士たちは、フェスについて語り合っていた。がフェスの雰囲気が変わったことに気付いた男騎士たちとアーシャとマイン達が震えていた。


「……」

 フェスが何かを言おうとした時にアーシャが口を押えて話せないようにした。

「落ち着いてフェス! 落ち着いて」

「はい? 落ち着いていますよ?」

 アーシャが口を塞いだことにより我に返ったフェスだった。確かに雰囲気が戻ったかに見えるフェスだったが、まだ少し怒っているように見えたアーシャは小声で聞いた。

「本当に?」

「はい!」

「その笑顔が怖い……」

 フェスはアーシャの言葉にニコニコと笑顔で答えた。


 ……厳しく行こうと思ったけど……まあ、いいや。


「では、準備して三十分後に街門の北に集合してください」

 全員がフェスの言葉に頷いてから練兵場を出て行った。


 フェスは、女王と大公、王女達へ名もなき迷宮で野営することを報告して、人数分のテントを借りて【空間倉庫】に仕舞い北の街門へと向かった。


 北の街門に到着したフェスの目の前には、銀で統一された全身鎧プレートアーマーを着た男性騎士と白で統一された全身鎧プレートアーマーを着た女性騎士が集まっていた。

 その騎士団を遠巻きに大勢の人が見にきていたのを見たフェスは出て行くことに躊躇したが、出て行かなければ終わらないと気づき騎士たちの前方へと出てさっさと指示をした。


「ここから名もなき迷宮まで走って貰います。歩いて約二時間……一人でも二時間以内に到着できなければ……いや、止めておきましょう」

「何故だ?」

 話を途中で止めたフェスの言葉が気になったグラードが聞いた。

「二時間以上かかる訳ないですよね? まさか、ですよね?」

「も、勿論だ!」

 フェスの挑発にグラードが乗ってしまい周りからブーイングが出ていたのだが気にせずに出発の合図を出した。

「では、開始してください」

 フェスの合図とともに全員が名もなき迷宮へ向かって走り出した。


 

 ギリギリ全員二時間以内に到着することができた。

 到着した人から自分の寝るテントを張ることになった。

 しかし、女性はテントを張っていなかった。何故ならフェスの魔道具テントで寝るからだ。フェスは最初女性も普通のテントにするつもりだったのだがアーシャとマインに詰め寄られてしまい観念したのだ。本来なら男性陣から文句の一つも出るところだが詰め寄られていたフェスの状況を見て文句を言うと自分らに飛び火すると怖いので口を出すことができなくなっていた。


 フェスが詰め寄られている最中に騎士たちが言われたとおりに全身鎧プレートアーマーを脱ぎテントの中へ仕舞っていた。


「さて、気を取り直して訓練をしましょうか?」

「災難だったな?」

「……誰も助けてくれなかった」

「助けられると思うか?」

「無理だと思います」

「だろ?」

 フェスとグラードがこそこそと話をしていた。


「まず六人一組を作ってください」


 フェスの言葉に従ってそれぞれ六人一組のパーティーを作った。

「いま選んだ人で一月ひとつきの間パーティーを組んでもらいます」

「パーティー?」

「はい、狩り、食事、迷宮突破です。時間配分は自分達で考えてください」

「自分達の好きなように?」

 アーシャがフェスに聞き返した。

「目標は一月間で十時間以内の迷宮突破を目指してもらいます。が一度迷宮突破した者がいるパーティーは、八時間以内でお願いします。それだけ守って頂ければ突破の仕方は自由です。狩りに一日使おうか迷宮に一日使おうかパーティーで決めてください。一つだけ禁止行為があります。狩った食材のやり取りだけ禁止させて頂きます」

「駄目な理由は?」

「立場の上の者が下の者から奪うのを禁止するのと金銭でのやり取りの禁止するためです。狩りも訓練の一環で料理は息抜きです。僕が支給するのはバックで、中に人数分の回復薬を入れてあります。使った分は毎朝補充します」


 フェスの十時間以内に突破の言葉を聞き全員言葉を失っていたが、グラードが質問をした。

「お前は突破できるのか?」

「できます」

「見本を見せてくれ」

「……わかりました。では、僕が迷宮に入っている間に狩りでもしていてください」

 そう言うと【空間倉庫】から魔道具砂時計君を取り出し迷宮の入口へ置いた。

「この砂が全部落ち終わると二時間です。二~三人見ててください」

 フェスが迷宮に入ろうとするとグラードが止めた。

「おい! 一人で行くのか?」

「勿論です。一人で何度も突破していますから」

 言い終わるとフェスは、名もなき迷宮へと入って行った。


 名もなき迷宮……またの名をゴブリン王国と言われるほどにゴブリンが多い。普通のゴブリンから変異種、上位種までいる。迷宮の外にいるゴブリンが迷宮に入ることもあるのだが他種族の雌を攫って来て繁殖を繰り返すために常に増えていく。

 地下一階から十階までは普通のゴブリンしかいないのだが地下十階以降から変異種、上位種が出始める。中には次期ゴブリンキングもいる。

 ゴブリン以外魔物がいないのと宝箱の類もないので冒険者も好き好んで潜ろうとはしない。しかし、ほっとくと迷宮から魔物ゴブリンが溢れだすので冒険者ギルトが定期的に冒険者の強制召集を掛け討伐を行なっている。

 

 道を全て覚えているフェスは最短距離で最下層まで進みゴブリンキングを倒し地上に戻ることにしたときに女性の悲鳴のような声を聞き立ち止まり【探査】を使ってみた。

 ゴブリンキングがいた部屋の奥に小部屋があることを見つけたが扉を見つけることはできなかった。

 扉を見つけられなかったフェスは壁に向かって【火玉ファイアボール】を放ち大穴を開けた。穴から小部屋を覗いてみると裸の女性が両手両足を縛られゴブリンたちの苗床にされていた。小部屋にいたゴブリンを全て【火玉ファイアボール】で燃やした後で調べたが残念なが一人を除いて死んでいた。生きていたのは裸にされていた人族の女性一人だけだった。

 縛られていた両手両足の縄を外しフェスは話しかけたが女の人は震えるばかりで口を開くことができないでいた。

 【空間倉庫】から女物の服を取り出し手渡したが自分で着ることができないくらいに震えていたのでフェスが着せその後で、死んでいた人達を【空間倉庫】へと仕舞った。

 迷宮を出る事にしたフェスは、立ち上がることのできない女性を背負い迷宮を脱出することにした。


 ……それほど体重重くなくってよかった。


「しっかりと捕まっていてください。怖かったら目を瞑っていてください」

 女性は震えながらも何とか頷いた。

「では、行きます」

 フェスは威圧を放ちながら走り出すと恐怖したゴブリンたちは、襲い掛かることができず逃げるように道を譲っていた。


 フェスは駆けぬける風のように迷宮内を走り抜け数十分後迷宮の出入口が見えた。

 迷宮を出たフェスは、止まらずに走り抜け魔道具テントの中へ入りベッドに女性を寝かせるとアーシャとマインに世話を頼んだ。

 魔道具テントから出たフェスは、サラサにフィーニス先生に手紙を渡すように頼んだ。


 カシアがいたら早いのに必要なときにはいつもいないからな。


 フェスは取り敢えずやることをやったとして迷宮前にいたグラードに話しかけた。


「どれくらいの時間でしたか?」

「……二時間かかっていない……」

「本当ですか? まあ、帰りは急いでいましたから」

「急いていた? 背負っていた女のためにか? 彼女は何処で?」

「……ゴブリンキングの苗床にされていました。生きていたのは、一人だけでした」

「そうか……お前のせいではないから気にするなよ」

「……はい」


 亡くなっていた人達を火葬にしようとしたら全員が集まり見守っていた。

 全員が裸だったために遺品になる品物が何一つないので一人一人の髪を遺髪とするのに適量を切り取り縛って紙に包み【空間倉庫】に仕舞っていった。

 死体を並べ一人一人、フェスと女性騎士で体を綺麗に洗い服を着せて死に化粧を施した。


 本来ならここまではしないのだが、まだまだ子供のフェスが一人で行っていたのを見かねた女性騎士が手伝い出したのだ。


 死に化粧を施した女性達は、凄く綺麗であり恐怖に引き攣ったままだった顔も笑っているようにも見えた。


 フェスは、黙祷してから一人ずつ【フレイム】を唱えて骨を少し残した。

 一人一人の骨を壺に入れて【聖浄】を唱えてアンデッド化しないように骨を浄化してから【空間倉庫】に仕舞った。


 遺髪と骨を集めた理由は、身分証を作っていたらも名前を調べて身寄りがわかるかもしれないからだ。

 フェスの行為を見ていた人たちは、そこまでする必要ないのにと思っていたが、フェスが聖女と知っている人は流石は聖女様と敬意を払っていた。


 全員が迷宮に入る気持ちになれずに狩りをすることにした。

 それを聞いたフェスが何も言わなかったことに気になったグラードが聞いた。

「いいのか? 狩りの続行で」

「構いません。時間配分を任せていますから……でも、一月で突破できない場合は、地獄の訓練が待っています」

「地獄の訓練?」

「内容は内緒です。突破できると信じています」


 それから数時間後にフェスからの手紙を受け取ったフィーニス先生が馬車で女の人を引き取りにきてくれたので後は任せた。

 しばらくはフェスの屋敷で養生させ落ち着いたらどうするかを自分で決めさせることにした。


 翌日から全員が迷宮に入り突破を目指した。

フェスの地獄の訓練を受けたくないので真剣に取り組み二十日後に全員が時間内での名もなき迷宮の突破を成功させた。


 全員無事突破のパーティーが行われその席でグラードが、今まで疑問に思っていた事をフェスに質問した。

「なあ! なぜこの迷宮だったんだ? 理由を教えてくれ」

「……冒険者にしても兵士、騎士にしても戦う相手は、魔獣や魔物の他に人です。盗賊退治や戦争で人を殺すことになると思います。しかし、人を殺せと言われても殺した事の無い人にいきなり人を殺せと言っても難しいと思います。そこで、人に近いゴブリンでならせば少しは人を殺すことに抵抗がなくなります」

「訓練の最初に人を殺すなと言っていなかったか?」

「違います。僕は人を殺すことに喜びを感じるなと言いました。戦わなければならない時、殺さなければならない時には、相手の立場に関係なく真剣に戦うべきだと思っています」

「……」

 フェスの考えに誰も口を挟むことができなかった。

「最初に言いましたかこれは、僕の考えです。訓練期間が終われば自分の考えで動けばいいと思います……」

「……フェス、大丈夫?」

「……はい」

 フェスの雰囲気がおかしいことに気がついたマインが後から肩に手を置き声をかけたがつらそうな顔をしながら頷き話を続けた。

「……明日の朝に王都に帰ります。朝食後に全身鎧プレートアーマーを着て集まって下さい」

「王都まで走るのか?」

「はい……そして、練兵場で最後の仕上げを行ないます……」

「フェス! 今日はもういいから休みなさい。アーシャさんお願いします」

 つらそうな顔がさらに酷くなってきたフェスをマインはアーシャにテントに連れて行くように頼んだ。

「どうしたフェス? 泣きそうな顔して」

 グラードの言葉に反応することなくフェスはアーシャに連れられて魔道具テントに向かって歩き出した。がグラードと周りにいた騎士たちはからかう様にフェスに声をかけていた。マインがグラードたちの行為を止めようとしていたが、大声でからかっていたので聞こえていなかった。

「グラード隊長止めてください……グラード隊長! 止めてください!」

 マインの怒鳴り声に驚きその場にいた全員が黙りマインの方を見ていた。

「グラード隊長も皆さんももう止めてください……今のフェスに話しかけないでください。特に冗談やからかうことを止めてください」

「どうしてだ?」

「今のフェスは……心と精神が弱っているからです」

「ウソだろ? あいつか?」

「フェスは、剣術も知識も心と精神も子供とは思えないほどに強いですがやっぱりまだ子供なんです。心と精神が安定していないんです。心と精神がある切欠で今みたいに弱くなるようなんです」

「なるようなんです? お前も知らなかったのか?」

「私も聞くまで知りませんでした。フェスと一緒に住んでいるフィーニス先生に聞き知りました。今までにも何度もこういう状態になったことがあるそうです。フィーニス先生や家にいる全員が一緒に寝ても酷いときは朝まで泣いているそうです」

「……なぜ?」

 マインの言葉に顔を歪めたグラードが聞いた。

「多分切欠は、人を殺したとき、人の死を見たときだそうです。そして、今回のように訓練とは言え皆に酷い事をしていると思っているときです。威圧を放っているフェスは全員の負の感情を一身に浴びていたんです」

「なら今回はなんでだ?」

「多分ですが……自分ではできないのに全身鎧プレートアーマーを着せて走らせたこと。狩りと食事もそうです。本当なら食事も全部自分で用意したかったんだと思います。後は、迷宮にいた女の人と死んでいた人達のこともあります。きっかけが重なってしまったのでしょう」

「しかし、それは仕方なかったろう?」

「フェスはそう思っていないのでしょう。まだ子供ですから割り切れないのだと思います……私ももう行きます。皆さんも明日のために寝た方がいいですよ?」

「わかった」

 マインの言葉にグラードと周りにいた騎士たちも頷いていた。

 マインはグラードたちに挨拶をしてから魔道具テントに入った。

 テントに入ると女騎士たちがフェスの部屋の前で話をしていた。マインの姿を見つけると近くに寄ってきて何があったのかを聞いてきた。しかし、マインは、話ならグラード隊長に聞いて、と自分とアーシャがフェスと寝ることを伝え部屋に入った。

 マインが部屋に入るとフェスはアーシャにくっ付いて泣きアーシャは頭を撫でていた。


「どうですか?」

「ずっと。この調子です」

「そうですか……フィーニス先生の言っていた通りなんですね」

「そうみたいです」

 マインもベッドに入りアーシャと一緒にフェスの頭を撫でながら寝ることにした。

「今にして思えば、旅をしていた間も私がマインさんにくっ付いて寝ていたことがありましたね。あの頃からそうだったのでしょうか?」

「そうかもしれませんけど……あの頃は、泣いたことはなかったと思います」

「酷くなったのでしょうか?」

「そう、なのでしょうか……」

 それっきりアーシャとマインは、口を開くことがなかった。


 朝方近くにやっとフェスは、泣き止み眠りについた。


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