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第41話 帰還 【改】

 魔道具テントの中でフェスを含めた全員が眠りに着き数時間、街なら朝六時の鐘が鳴る少し前に目を覚ましたフェスは刀を手にテントの外へと出た。

 

 外に出るとフードを被った者達に囲まれていた。


 サラサは、テントの前でフードを被った人に威嚇をしていた。


「お久しぶりでよろしいですか?」

「ああ!」

「……名前を聞いていいですか? 僕は、フェスです」

「俺は、アシルだ」

「トウヤさんの仲間ですか?」

「……そうだ」

「今回の誘拐騒動は貴方の仕業ですか?」

「否定はしない……俺が命じたのは目的の子供を探すことだった。だがお前らに殺された奴らは俺を裏切り奴隷商人に売るためだけに誘拐を始めた」

「目的の子供はいたんですか?」

「いや、見付からなかった」

「その子供とは?」

「それは話せない」


 随分素直に話すな? 口封じでもするのか?


「何しに此処へ?」

「エクレーシア王国を出る前に馬鹿共を葬って置こうとしたんだがお前らがやった後だったと言う訳だ。そこのテントに寝ていた二人は連れて行かせてもらう」

 アシルは溜息交じりで答えて視線を送った。アシルの視線の先を見ると気を失わせていた男二人が背負われていた。

「そのまま国を出ようとはしなかったんですか?」

「お前に挨拶をしておこうと思ってな」

「なぜ?」

「お前に興味があったからだ」

「挨拶だけですか? 戦いは?」

「挨拶だけだ。今はやることがあるからな」

「わかりました。最後にお聞きしてもいいですか?」

「なんだ?」

「……転移魔術ってどうやるんですか?」

 フェスの言葉を聞いたフードを被った人たちはこけた。

「そんなことを敵に聞くな!」

「やっぱり?」

「もう行く……また会うこともあるだろう。その時は相手をしてやる」

「そうですね……その時はお願いします」


 フェスの言葉を最後に魔道具テントを囲んでいた者達はアシルの元へ集まり消えた。


 ……転移魔術を使えたのは、アシルさん一人だったということかな?


「あれがお前の言っていた奴か?」

「ええ、強いでしょ?」

 考え事をしているフェスに後ろから声をかけたアーセファに向き話し始めた。

「ああ、だが……本気でやれば負けることはないだろ?」

「負けませんが勝てません」

「まあな……」

 フェスとアーセファは溜息を吐いた。


「起きてきたなら丁度いいです。朝食の準備を手伝って下さい」

「……ああ」


 アーセファに竈を作らせて朝食の準備を始めた。

 朝食の準備が終わった頃にアーシャとマインがテントから出てきたので、全員を起こしにいってもらった。

 朝食のメニューは、

 ビーフシチュー

 焼きおにぎり

 ミルク

 だった。

 見た事の無い料理に子供だけではなく騎士たちも取り合うように食べた。

 朝食が食べ終わった後に助けられた子供達と騎士にお礼を言われたフェスは首を振った。


「僕は何もしていないです。盗賊達を倒したのはアーセファさんで、誘拐された子供を助けたのは副隊長の班です。僕がやった事は料理を作ったくらいでしょう?」

 フェスの言葉に否定していた人もいた。


 子供達をテントの中に入れて騎士全員に盗賊の死体を運んできて貰うことにした。


 盗賊達の死体を全て集めて貰った後で離れて貰い【炎嵐フレイムストーム】を唱えて塵一つ残らず死体を焼いた時の嫌な匂いをさせずに一瞬で焼き払った。


「どうして焼いたんですか?」

 見習いの女騎士の一人がフェスに聞いた。

「そのままにして置くと……ゾンビになりますから」

「そうなんですか?」

 と言いながらフェスに女騎士はくっ付こうとした。それをアーシャとマインが二人の間に入って止めた。

 アーシャ、マインと女騎士の三人で言い争っていたが、フェスにはどうしえ三人が言い争っている意味がわからなかった。


 子供達をテントから出してから【空間倉庫】からキャリッジを取り出し馬と連結器で繫げた。

 盗賊達のアジトにいた馬も全頭王都に連れて行く事にした。

 帰路は、急ぐ必要がないのでアルフォンスも馬に乗り王都を目指すことにした。


「グラード隊長、先頭をお願いします。僕は一番後ろから警戒しておきます」

「……わかった」


 面白いくらいに何も起こらずに王都の近場まで戻ってきた。

 王都の街門が見えてきたところで、フェスとアーセファ、トゥーナの三人は先頭のグラードと話をするのに前に出た。

 全員が何かあったのかと思いフェスたちを見ていた。


「何かあったのか?」

「いいえ、此処まできたらもう大丈夫です」

「ああ、街門が見えているし兵士の姿もあるから大丈夫だろう。で、話とは?」

「後はお任せします。僕達は西門に周り屋敷に戻ります」

「それは、……いや、今回の功労者がいなければ駄目だ。女王様になんと言えばいい?」

「グラード近衛隊長にお任せします。キャリッジは、後ほど取りに参ります。では……」

 フェスは言い切るとアーセファとトゥーナを連れて隊列を離脱した。

 先頭方向を見ていた全員から声が漏れていたが、三人は気にせずに走り去った。


「いいのか?」

「構いません。あのまま城に行っても嫌な予感するので」

「嫌な予感?」

 トゥーナの言葉にフェスは頷いた。

「女王陛下達は、僕を貴族にさせようとするから……今回も多分、ね?」

「貴族になりたくないの?」

「なりたくないです」

「言い切った!」


 西門に到着し馬を降りて身分証を提示し王都内に入ると北門方面から凄い大歓声が聞こえてきた。

 混雑している街の中を馬を引きゆっくり歩くと中級地区にあるフェスの屋敷まで時間がかかった。

 到着すると屋敷の前に馬車が止まっていた。

 フェスの姿を確認したのか馬車から一人の女の子……ソフィアが降りてきた。

 ソフィアはフェスと視線が合うとにこにこと笑顔を見せて、フェスが歩いてくるのを待ち受けていた。

 立ち止まっているフェスに早く来い早く来いと視線に込めていたがフェスは視線を逸らし額を押さえていた。


「知り合い?」

 フェスとソフィアを見比べトゥーナが聞いた。

「はい、エクレーシア王国第三王女ソフィア・エクレーシア様です」

「王女様がどうしてここに?」

 トゥーナの質問に溜息交じりに答えた。

「迎えに来たのでしょうね……僕を」

 いつまで待っても歩いてこないフェスに向かってソフィアが、ニコニコと笑顔で歩いてきた。

「お帰りなさい!」

「た、ただいま?」

「私が来た意味分かりますね?」

「……ケーキを食べに……」

 フェスの言葉にソフィアが睨んで最後まで言わせなかった。

「アルフォンス王太子は無事ですよ?」

「フェス様が一緒ですから最初から心配しておりません」

「迎えにきたんですよね?」

「そうです」

 ソフィアに笑顔が戻ってきた。

「さあ、参りましょう」

「アーセファさんも行きますか?」

 アーセファが視線に行くわけないだろ! と込めてフェスを見た。

「少し屋敷に寄ってからでいいですか?」

「はい! 構いません」


 なんで、嬉しそうなの?


 フェスは屋敷に戻りメイドのアリアとアリスにアーセファとトゥーナの世話を頼み……馬は護衛できていた騎士に頼み馬車に乗り込み城に向かった。


「迎えにくるの早くないですか?」

「お母様がフェス様なら城にこないで屋敷に帰るから迎えに行きなさい、と言っていました」

「ああ、成程……最初から読まれていたんですね」

「そう言うことです」


 馬車内で話をしていると城に着き城門に入ると大勢の騎士や兵士が一人も欠けることなく戻ってきたことを喜んでいる光景が目に入った。


 フェスが馬車を降りると大歓喜で喜んでいた全員が静かとなりフェスに注目していた。

 その中を歩いて城内に入るとグラード隊長が待っていた。


「おう! きたか」

 グラードはフェスをニヤニヤと見てきた。

「……いきなり待ち伏せされました。女王陛下には読まれていました」

「はははは、残念だったな……さあ! 行こうか? 謁見の間だ」

「……嫌な予感しかしません」

「そう言うな……行くぞ!」

 嫌々頷いたフェスは、グラードの後に続き謁見の間を目指した。

 

 謁見の間の扉の前に立つと左右に立っていた騎士が大声で、フェスとグラードの名前を呼んだ。


「第一騎士団近衛騎士第四隊隊長グラード・ハーフェル殿! フェガロフォス殿! 御入室!」


 おい! 本名呼ぶなよ!


「本名フェガロフォスって言うのか?」

「まあ……本名捨てたんでフェスと今まで通りお願いします」

「ああ、わかった」

 フェスがグラードに頼むと首を傾げながらも返事をした。


 謁見の間の扉が開けられ中に入るフェスとグラードが見た光景は……女王を始め三人の王女と大貴族の面々と各隊の隊長、副隊長が集まり二人を見ていた。


 女王を正面に段差を降りて右側に三人の王女と城で働く貴族達、左側に騎士たちが立ち並んでいた。


 なんだこれ! ここまで、大袈裟にする事なのか?


 フェスとグラードが中心まで歩き跪くと女王が話し始めた。


「第一騎士団近衛騎士第四隊隊長グラード・ハーフェル……そして、フェス、いえ、フェガロフォス殿、この度は大義でした。情報もない状態で見事に囚われていた騎士と誘拐された子供達を見事に救出してくれました。エクレーシア王国女王コーデリア・エクレーシアの名の元に礼を言います。……今回の功労に対し第一騎士団近衛騎士第四隊隊長グラード・ハーフェルに恩賞として第九位階十位準男爵に叙します」

「ハッ! グラード・ハーフェル謹んでお受け致します」


 グラードに対し部屋中から拍手が送られた。しかし、中には、平民のくせに準男爵だと? と陰口を叩かれていた。


 そして、フェスの番がきた。


「フェガロフォス殿、グラード隊長を良く助け騎士団を適切に指示し良く誘拐犯、盗賊団を退け囚われの身となっていた者達を助け出してくれました。恩賞として第十位階一位士爵に叙します」


 ……やっぱりか……女王様達ニヤニヤしているし……そして、当然のように平民のくせに、と言っている人たちもいるし。


「身に余る光栄です。が、私は、まだまだ若輩者にて荷が重く辞退させて頂きたいと存じます」

 

 フェスが辞退すると謁見の間に時間が止まったかのように沈黙が流れた。そして、沈黙の後に大歓声が起きた。

「おおおおおおぉぉぉおぉおお!」

「なんで、謙虚さだ!」

「ああ! あの若さであそこまで言えるとは、素晴らしい」

「見事だ!」


 あれ? 反応可笑しくない? 影口を言っていた人たちが喜んで……。 


「……わかりました。今回はフェガロフォス殿の意思を尊重し貴族への取立てを無なしとします。しかし、恩賞を渡さない訳には参りません。褒美として白金貨十枚と城への出入りの自由と王女達との交流の自由を認めます」

「おおおおおおおおおお!」

「素晴らしい!」

「羨ましい」

 

 なに、その褒美は? 今まで非公認だったのが公認になったと言う事か? 何故王女様達が喜んでいるんだ? 断る訳にいかないんだろうな……。


「有難くお受けいたします」


 謁見の間に大歓声と拍手が鳴り止まなかった。


 フェスとグラードが謁見の間を後にした。


 城を後にしようとしたフェスをメイドが止めエレノアとアリゼの執務室へと案内した。

 部屋で暫く待っていると女王、大公、アルフォンス、三人の王女とアーシャ、マインが部屋に入ってきた。


 入ってくるなり女王がフェスに話し始めた。

「フェス、今回は本当にご苦労でした」

「……いえ、僕は何もしていません」

「詳しい話は、アルフォンスとグラード隊長に聞いています。フェスがいなければアジトに到着することもできなかったでしょう。もっと自信を持って下さい」

「ありがとうございます。しかし、あの褒美は何ですか?」

「気にしないでください……将来のための準備です」

「将来の準備?」

 意味がわからないフェスは首を傾げていたが王女の三人は頬を染め、それを見ていたアーシャとマインが睨んでいた。


 この状況は一体? 


「ところで、何故、アルフォンス殿下は謁見の間におられなかったのですか?」

「本来なら王族が今回のような戦いの場に赴く際は、貴族達による許可が必要となります。ですので、今回は非公認であり手柄があったとしても恩賞等を渡す訳には参らないのです」

「処罰などはないのですか?」

「ありません。非公認ですからアルフォンスが赴いたことにはなっていませんから」

 フェスは飽きれて言葉が出なかった。


「……もう帰って良いですか?」

「はい、今日は構いませんよ」

「フェス君、城への出入りと王女達との交流が公認となりました。お願いしますね?」

「……お願いしますの意味がわかりません」

「今はわからずとも構いません」


 本当に意味がわからん……。


「そうそうフェス君には、エレノアとアリゼの補助の他に騎士の訓練もお願いしたいと思っています。最初はグラード隊長の部隊と希望者からお願いします」


 またやることが増えた!


「毎日じゃないですよね?」

「勿論、出来る時で構いません」

 悩んだフェスだったが諦めて頷いていた。


 貴族になることは回避できたが、何となくめんどくさくなった気がしたフェスだったが、今日は大人しく屋敷に戻ることにした。


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