第35話 襲撃後 【改】
いつもお読み頂きありがとうございます。
プロローグから第三十四話まで、誤字脱字の(一応)修正終わりました。
※一部設定の変更もしています。
プロローグ、第9話、第21話、第22話、第23話の一部の変更
第20話を八割ほど書き直しました。
その他の各話も一部設定の変更していますので、これ以降話が噛み合わない場合がありますので、時間のある時にプロローグからもう一度読んで頂ければと思います。よろしくお願いします※
フェスは、トウヤ・タチバナ達が消えた後に侯爵に話を聞かれていた。あの男とはどんな関係なのか、と知っている事を話した。名前と落ち人で盗賊だと。
「知っているのは、これだけです。本人に会ったのは二度目で、顔を見たのは今回が初めてです」
「そうか……ありがとう」
トウヤ達が消えフェスと侯爵の話が終わると気を失っていたソフィアとエレノアが目を覚まし寝たふりをしていたコーデリア女王が目を開いた。
目を開いた女王だったが立ち上る程の体力は回復していないのでベッドから起き上がることは出来なかった。だが顔色が良く誰の目から見ても回復しているのがはっきりとわかった。
フェスとアーシャ以外の人が女王の傍に寄り添い喜び合っていた。フェスの存在を忘れている様に……。
暫くしてから女王がフェスに気づき話しかけたことにより全員がフェスの存在を思い出した。
「久しぶりに体が軽くなったと思い目を開くと可愛い女の子にキスをされていて吃驚しました」
女王の言葉に驚いたフェスは慌てて口を開いた。
「キスではありません。薬を飲ませるための治療行為です。……不敬罪になりますか?」
「私を助けるのに行なったんですから不敬罪になる訳ありません。その後も剣で殺されそうになったのも助けていただきましたし、ね?」
女王に目配せされたアルフォンス王子も頷き自分も助けられたことに対してフェスにお礼を言った。
コーデリア女王は、自分の息子アルフォンスがフェスを見て顔を真っ赤にさせているのを見て苦笑していた。
「王侯貴族が平民に簡単に頭を下げていいのですか?」
フェスの質問に女王が代表して返答した。
「王族派を貴族派と一緒にしないで下さいね? 当然ですが王族派にも貴族はいます。ここにいる公爵、侯爵も王族ではありますが貴族でもあります。王侯貴族としての最低限のプライドはありますが命を助けて頂いた方へ無礼な真似は致しません」
王侯貴族と言ってもまともな人もいるんだな……。
考え事をしていたフェスは、次の女王の言葉を聞き絶句してしまった。
「それに貴方は、平民では無いでしょ? ヴェスナー神聖帝国第一皇子フェガロフォス・ヴェスナー殿下……女の子の格好もお似合いですよ」
女王の言葉に驚いたフェスは、マインに視線を向けると首を左右に振っている姿があった。
驚いているのはフェスだけではなく部屋にいた全員だった。特にアルフォンス、ソフィアは別の意味で驚いていた。
アルフォンスは、フェスに対して恋心を抱き始めていたのだが男と知りショックを隠せないでいた。
ソフィアは、同年代の友達になれるかと喜んでいたし同じ女の子として憧れもあった。そして、なにより助けて貰ったこととはいえ異性と手と手とは言え肌を合わせてしまったことに混乱していた。
エクレーシア王国の王族のしきたりに王女は、婚約するまで家族以外の異性と肌を合わせてはいけないことになっていた。
古いしきたりだが数百年前から守られてきていたことを自分が破ってしまったことに対してソフィアはどうしていいのか困惑していた。
「な、ぜ?」
「何故知っているのかとお聞きしたいのですか?」
女王の言葉にフェスが頷くと女王は話し始めた。
話を聞くと簡単なことだった。マインがヴェスナー神聖帝国に留学する際に女王も外交の為に向かう事になっていた。両国においての色々な話し合いをしていた。会議の合間に城の中を案内されていたのだが案内人とはぐれてしまい城の中で道に迷ったそうだ。本人は迷ったとは思っていなかったが歩き回っている内に地下にいた。一階に戻ろうとした時に一人の女の子が部屋から出てきた。気になった女王はその部屋を覗くと黒髪の美少女と見紛う男の子が寝ていたそうだ。その時には誰がわからなかったが、約一年後にマインからの手紙で寝たきりのフェガロフォス皇子の世話をする事になったとの報告を受けてあの時の男の子が皇子だったと思いに至った。そもそもマインがヴェスナー神聖帝国に留学する事になったのは表向きは留学だが真の目的は、フェガロフォス皇子を何とかして帝国から連れ出せないかと思ったからだ。女王の外交も表向きの話だった。その理由とは、国教であるセラビア教会の総本山に神託が下りフェガロフォス皇子をヴェスナー神聖帝国から連れ出すように、と言う話だった。
……何とも穴の多い作戦だな……留学しても城に入れなかったらどうする心算だったのかな? 外交で行ってるのに皇子を誘拐したら大問題だと思うけど……神託って、セラ様だよね? そんなに前から動いていたとは……
「まさか、あの時の男の子が皇子様で、女の子の格好して私の前に現れて私にキスして頂けるとは思っていませんでしたわ」
冗談が本気がわからないがコーデリア女王が頬を赤らめて手で顔を隠し照れていた。
「……」
フェスはマインに助けて貰おうと思って見るとアーシャと話をしていて気づいていなかった。
「マインさん元々フェス様を連れ出す為に留学していたんですね?」
「ごめんね、騙していた訳じゃないんだけど……言える内容じゃないから」
「ううん! あの国にいたら殺されていたかもしれないし」
アーシャさんマインさん助けて! って全然こっち見てないし……。
「えーと! 女王様、確かに僕は男ですが残念ながら皇子ではありません。ヴェスナー神聖帝国のフェガロフォス・ヴェスナー第一皇子は死にました。私とアーシャさん、マインさんで棺桶をお墓に埋めましたから……確かです」
「……国に未練、ないのですか? ご両親もご兄弟もいるでしょ?」
「ありません。父も母も兄弟たちにも一度も会ったことの無い人達を家族とは思えません。敢えて家族と言える人は、アーシャ姉様でありマイン姉様、此処まで一緒に旅をしてきた人達です」
「母様! それくらいにして下さい」
フェスと女王の話にエレノア王女がフェスを抱きしめてから自分の母である女王を窘めた。
「ごめんなさい」
フェスは、エレノアの胸の中で泣いていた。
……どういう状況? なの?
「フェスどうしたの? 大丈夫?」
「マイン姉様、そ、そろそろ行きませんか?」
フェスは、エレノアの胸の中でマインに話しかけた。
「う、うん? なら家に行こうか? 父様母様宜しいですか?」
「うん? ああ、構わないよ」
「フェス様待って下さい」
フェス達が部屋を出ようとするとソフィアに止められてしまった。
「何でしょう?」
「母様の薬を頂けませんか?」
「必要ないですよ? 体内の毒は全て抜けましたから……体力が戻れば大丈夫です」
「本当ですか?」
ソフィアに頷いてからマイン達と部屋を出ようとすると今度は、女王に止められてしまった。
「フェガロフォス様……今は、フェス様と名乗っているんですね?」
「……様は、いらないです。今は、皇族でも貴族でもありませんから」
フェスの言葉に頷き言い換えてから話し始めた。
「フェス、ソフィアに聞きました。誘拐されたソフィアを助けて頂いたり馬車に轢かれた子供も助けて頂いたそうですね? 後は、私の毒の解毒と暗殺者から助けて貰いました」
「その場に偶々いたから助けただけです。目の前で人が殺されるの見たくないですから……最も旅の間に何人も盗賊を殺していますけどね」
「それは問題ではありません」
問題じゃないの? 人を殺しているのに?
「それらの功績を考えて貴族に取り立てたいと思います」
はあ!? 貴族? 何で?
「貴族第十位階十位 名誉士爵に……」
「お断りします」
女王の話の途中でフェスは、貴族の地位を断った。フェスが貴族にと聞き喜んでいた人達の顔は固まってしまった。
「そうでしょ! そうでしょ! 断りますよね? …………えっ!? 断る? 何故ですか?」
「興味がありません。折角、皇族としての自分が死んだのに貴族になるのは……申し訳ありませんが辞退致します」
「これからどうされるのですか?」
「学校に行きたいと思っています」
「……わかりました。今回は諦めます。が城に遊びに来て下さいね? ソフィアのお友達として」
「わかりました。……! 褒美と言う訳ではありませんが一つお願いがあります」
「何でしょう? 何でも言って下さい」
「グランハ村の事です」
「グランハ村ですか? 確か税金免除にし食糧支援をしていた村ですよね? 守りに兵士も派遣していたと思います」
やっぱり知らなかったんだ。
フェスはグランハ村の事を全て話した。するとコーデリア女王がパトリック侯爵に何やら指示をすると部屋から出て行った。
「安心してください。調査を行い責任者を全て取り押さえ食糧支援と兵士の派遣を侯爵に直接行う様に指示をしましたのですぐに手配されると思います。それにしてもグランハ村の事も助けて頂いていたとは驚きです。やはり貴族に……」
「お断りします」
「……わかりました」
「申し訳ありません」
フェスは、女王に謝った後でアーシャとマインを見た。二人が頷いたので、扉に向かって歩き扉の前まで来ると数人の走る音がこの部屋に向かっていることに気づき扉の前から離れた。離れるとノックの後に扉を開き謁見の間にいた大臣の男と高価そうな司祭服を着た男、騎士の一人が入って来た。
「お、お騒がせして申し訳ありません。此方に聖女様がいるとお聞き致しまして……」
大臣の言葉により全員がフェスを見たが、フェスは視線を逸らし誤魔化す事にした。
……何故? 此処で、聖女が出て来る?
フェスの疑問は、司祭服を来た男により判明した。
「馬車に轢かれ死ぬのを待つだけだった女の子が通りかかった人に助けられたそうなんです。その方の乗った馬車が城に入ったのを見た人が騎士に話を聞いたら聖女様だったと聞いたようなんです。そして教会に報告してきまして大勢の人が教会に押し寄せてきました。収拾がつかない状態です」
司祭服の男性が話し終わると大臣が話し始めた。
「城の前にも大勢の国民が集まっています」
なっ!? 嘘でしょ? 収拾がつかない程集まっているの?
フェスが部屋から逃げようとするとソフィアに声をかけられ司祭に気づかれてしまった。
「貴女が聖女様ですか? 私は、ゼルザール王国のセラビア教会を任されています枢機卿シュオール・シアールと申します」
一部に白色が入っている金髪に赤眼の四十代くらいの男が枢機卿と名乗った。
僕も名乗るべきだよね?
フェスは、右手を胸にあて、左手でちょいとスカートをつまむと優雅に礼をしながら名乗った。
フェスの立振る舞いを見た部屋にいた全員が言葉を失い固まってしまった。
あれ? どうしたんだろみんな?
「失礼致しました。貴族のお嬢様でしたか」
「いいえ、平民です」
「……嘘ですよね? ……まあ、今はそんなことどうでもいいです。教会にいらして頂けませんか?」
「……今からですか?」
「はい、出来ましたら」
フェスは、アーシャやマインに視線を向けると逸らされてしまった。
「フェス、私達は先に屋敷の方へ行ってるから……後でお迎えを教会に行かせるから」
「……」
本気? 置いて先に行くの?
アーシャとマインは視線を絶対に合わせようとはしなかった。
「……分かりました。……教会はどちらですか?」
「はい、馬車ですぐの場所です」
諦めたフェスは、部屋にいた全員を一通り見た後に枢機卿に続いて部屋を出た。
……誰一人として視線を合わせなかったな……。
城の外に出ると信じられない光景が広かっていた。
フェスの見える範囲内には隙間がないほどに人が押し寄せていた。枢機卿が集まっていた人達に教会に集まるように言うとその場から離れ教会に向って歩き出しフェスは、馬車に乗り込むと走り出した。
教会の近場に到着したフェスが馬車を降りると教会までの道は人により塞がれていた。
枢機卿が先頭を歩きフェスが続くと集まっていた人たちは左右に分かれて道を作った。
作られた道をフェスが歩くと見世物になっていた。
教会に入り部屋に案内されて善悪水晶で確認した後でフェスは、着替えさせられた。着せられた服は、セラビア教会のシスターが着る白い小袖に緋袴の巫女服だった。
……相変わらず巫女服なのか……神社じゃないのに? いや、神だからいいのか?
「良くお似合いです」
「……ありがとうございます。……外簔着たら駄目ですか? 顔を隠したいです」
「申し訳ありませんが巫女服の場合には止めて頂けますか?」
「……わかりました」
フェスは、外套着るのを諦めることにした。
……絶対に大騒ぎになると思う……既に大騒ぎだし……。
「それで、何をすればいいのですか?」
枢機卿は、フェスの顔を見て何を当り前の事を聞いているんですか? と言う視線を向けていた。
やっぱり治癒かな?
フェスが思った通りで集まった人達の治療が始まった。
【治癒】を唱えることの出来る教会の司祭や巫女さんと手分けをして治癒を行なっていたのだが魔力総量の低い人しかいなく一人が五~十人程に唱えると魔力切れを起こし倒れてしまい運ばれていった。
運ばれていく人たちを見てフェスは、羨ましい……早く魔力切れを起こして倒れたい……。と心底思っていた。
いまだに人数の減らない人達を見て心の中で溜息を吐いて【治癒】を唱え続けた。
仕事中の怪我人、兵士の訓練中の怪我、手を怪我した足が折れた寝違えて首が痛いまで色々で、これらには【治癒】を唱え治し食べ物にあたった間違えて毒キノコを食べてしまった人には解毒薬を飲ませて子供の熱には解熱薬を飲ませた。
唱えても唱えても枯渇しないフェスの魔力……枯渇しないところがどんどん魔力総量が増えスキルの【魔力治癒】の所為……いや、お蔭て魔力が回復し枯渇することはなかった。
ぐっ! 全然人が減らない……何故、魔力切れを起こさないんだ?
【魔力治癒】のスキルがある事を忘れているフェスだった。
魔力切れを諦めたフェスは黙々と【治癒】を唱えているとある事に気がついた。別に一人一人順番に治癒】をかける必要無いんじゃない? 数人まとめてかけてもいいのでは? と……で、考えたのが【範囲治癒】だ。
【範囲治癒】の効果は、フェスが指定した範囲にいる指定した人達に【治癒】と同じ回復を行なう治癒魔術だ。もっとも考えたばかりで慣れていないために範囲が狭いがすぐに慣れるだろうと思っていた。
使っている内に慣れて効果範囲を広ける事が出来るよね?
もう考えるのもめんどくさくなってきたフェスは、【範囲治癒】を唱え続けた。
翌昼頃に集まっていた全ての人を治す事が出来たので、また人が集まる前に帰ることにし枢機卿などに挨拶をしてから教会を出た。出たところにマインが言っていた案内人でもある屋敷の執事が待っていた。
「ずっと待っててくれたんですか? ありがとうございます」
フェスがお礼を言うと執事がレオンと名乗り頭を下げてきた。
「私は待っていただけです。フェス様の方が大変でしたね?」
「……なんとなく……こうなるかな? と思っていましたから」
教会の前に馬車が止まり執事レオンに促されて乗り込むと扉を閉めレオンは御者台の空いている場所に座ると発車した。
フェスが今回きた教会は中級地区の上級地区寄りにあった。馬車はフェスに街の中を見せる為なのがゆっくりと中級地区を走っていた。
昼食の時間なのが飲食店等に大勢の人が集まっていたり歩きながらパンや串肉を食べている人もいたがフェスが気になったのは、服がボロボロの子供やガリガリに痩せている子供達が飲食店の横に置いてあるゴミ箱を漁っている姿だった。
……やっぱり、こんなに大きい都市なのに、いるんだな? それとも大きいからいるのか? 浮浪児? 孤児? 暫く戦争が無いって言っていたのに何故? ……!
暫く見ていたフェスはあることに気付いた。ごみ箱を漁っている多くの子供は獣人族や亜人族だった。
暫く苦渋な表情で見ていたが上級地区に入ると子供達の姿が見えなくなった。子供達だけではなく歩いている人の姿が疎らとなり兵士の姿が目立ち始めた。
上級地区から貴族地区に入るとさらに歩いている人の数が減り兵士だけではなく騎士の姿も見えてきた。貴族地区においても一際大きい建物に到着した。
玄関前に止まったようなのでフェスが馬車の扉を開けようとすると御者台から降りていた執事レオンが扉を開けフェスが馬車を降りると屋敷の中へ案内するように屋敷の玄関の扉を開けた。するとマインとアーシャが待っていた。
「お、お帰りなさい……フェス?」
「お疲れ様……」
「……ただいま、です。まさか、こんな時間までかかるとは思いませんでした」
「怒ってる?」
「何故ですか? あの人数には驚きましたがお蔭て新しい治癒魔術を考えることが出来ました」
「そうなの? それは良かったわね? ……で、フェスにお願いがあるの?」
「……なんですか?」
……嫌な予感しかしないけど。
「昼食を作って!」
「お願い!」
「あのー……僕、寝てないし昨日の昼食から何も食べていないのですか?」
「なら、丁度良かったじゃない! みんなの分もお願いね?」
「……本気みたいですね? ……みんなの分?」
みんなの分の言葉に気になったフェスは聞き返したがマインは答えずに誤魔化しに入った。
「元々はフェスの所為でもあるのよ!」
「何故です?」
「旅の間中、フェスの美味しいお料理ばかり食べていたから……他の料理が美味しく感じられないのよ」
「……まさか、ずっと作らせる訳じゃないでしょうね?」
「そんな事させないわよ? 家の料理人に覚えさせたら……」
フェスとアーシャ、マインが話をしていると二人の女性が現れた。
二人に気づいたフェスが挨拶をしようとすると走って来てフェスに抱き付いた。
また、これかい!
「あなたがフェスちゃんね? 本当に可愛いわね?」
「本当ですね! 聖女様なんでしょ?」
「あ、あのー」
「私達の妹になりなさい」
「……妹は無理です」
「なんで?」
「……女じゃなくて男ですから」
「えっ!?」
フェスの男発言に驚いた女性二人はマインに確認を取るのに振り向くと頷いていた。
「本当なの?」
「はい、姉様方。一緒にお風呂も入っていますから確認しています」
「マイン姉様! 確認って何ですか! ……それよりお二人は誰ですか?」
まあ、聞かなくてもわかるけどね。マインさんににているから。
「私の姉様方よ」
やっぱりね!
「私は長女のコネット・エクレーシア、よろしくね」
「次女のイリス・エクレーシア、よろしくね! あと兄が二人いるけど今、王都にいないから気にしないでいいから」
「……よろしくお願いします。コネット様、イリス様」
「あら? マインには姉様をつけて私達は呼んで頂けないの?」
フェスがマインを見ると瞳を閉じ首を振っていた。
「……よろしくお願いします。コネット姉様、イリス姉様」
フェスがそう呼ぶとまた抱き付いてきた。
「あ、あのう……昼食の準備をしたいので……」
「ごめんね? マインからフェスちゃんの料理が美味しいと聞いたので食べてみたくなったの……お願いね!」
「……フェスちゃんって止めて下さい。呼び捨てでお願いします」
「分かったわ! よろしくねフェスちゃん」
ちゃん付け止める気ないのか。
昼食の準備をするのに執事のレオンが厨房まで案内をしてくれた。
厨房に入ると屋敷の料理人が全員フェスが来るのを待っていたようで中に入ると全員一礼をしてきた。
「よろしくお願いします。フェス様」
「どういう事、ですか?」
「はい、フェス様に料理を教えてもらえとの指示です」
「……全員ですか?」
全員が元気よく返事をしてからアーシャとマインの旅の話を聞いて、見たことの無い料理に興味津々になった大公が料理人全員を集めて師事するように厳命が下ったようだ。
……料理を習うだけなのに師事や厳命って、意味が分からん……まあいいや、腹減ったからさっさと作ろう。
フェスは、料理人が見ている中で調理を始めた。
……やり難い……暫くこれが続くのか?
料理ができ食堂に運んでいると全員が既にテーブルの椅子に座って待っていた。
アーシャ、マイン、コネット、イリス、フィーニス先生、エナ、エストの他にヴァージニア大公とパトリック侯爵となぜがソフィア王女とエレノア王女、リチャード公爵まで座っていた。
別室では使用人達や護衛の人達にも配られた。
こんなにいるとは……多めに作っといて良かった! 何故が公爵様や王女様達までいるし……流石に女王様は来ていないな? まだ動けるとは思えないけど……
メニューは、白米と玄米を半々、トンカツ、豚汁で、デザートにおしるこだった。夏の暑い日なのに温かい品物ばかりだったのは、フェスによる少し嫌がらせが含まれていた。
全員に配り終わるとすぐに食べ始めた。
一口食べると言葉を忘れたかの様に全員が一気に食べ始めた。食べ終わるまで誰一人として食べる以外に口を開く人はいなかった。
食べ終わった全員の言葉は統一されていた。美味しかった。の一言しか出てこなかった。
食べ終わった後で大公から話があった。
大公の話とは、十日後にエクレーシア王立学園の入学式があり其処への申し込みを代わりにしてくれたと言う、何故なら申込期限が終了していたからだ。で、ソフィア王女も同じく入学する様だ。
詳しく聞くと入学式から七日間で試験を行ないSクラス~Gクラスまでのクラス分けをするそうだ。
試験内容は、魔力総量と剣術、魔術、一般常識の筆記試験でクラスを決めるようだ。
クラス分けは単純に能力で決まるそうで其処には身分が入り込む余地はない。今までは……。
「なら、フェス様はSクラスで決まりですね!」
「いいえ、そうとも限りません」
ヴァージニア大公がソフィア王女の言葉を否定した。
大公の話では、確かに二年前までなら身分や種族に関係なくクラス分けがされていたのだが現在の学園運営が貴族派体制になってからは、金払いのいい貴族や商人又は身分の高い者からSクラスから順番に振り分けられている。能力が高いが身分が低いとGクラスになったりもする。
「そんな!」
ソフィアが絶句していたがフェスは何事もないかのように水を飲んでいたのだがこの後のヴァージニア大公の言葉を聞くと吹き出してしまった。
「なので、貴族になりたくないフェスちゃんには、ソフィアちゃんの従者として通ってもらいます」
「何ですかそれ? 学校に通いたいだけですから別にGクラスでも構いませんよ?」
「駄目です。Gクラスになったら城に遊び……いえ、女王様に会いに行けなくなります」
「なら、行くのを止めればいいのでは?」
「駄目です。フェスちゃんの力を借りたい時どうすればいいんですか?」
「いやいやいや、子供の力を当てにしないで下さい」
何を考えているんだ? 昨日助けたのは偶々だよ?
「従者になってもSクラスに入れないと思います」
「いきなり話を戻しましたね? Sクラスになれなくとも構いませんよ? 平民として入るからSクラスに入れないのですよね?」
「はい、多分」
「ソフィアちゃんはSクラス、フェスちゃんは良くってCクラスだと思うわ」
「SクラスとCクラスで別々のクラスで良いのですか? 従者ってソフィア王女の供をする人でしょ? いいのですか?」
「構いません。学園の登校さえ一緒にして頂ければ」
「登校だけでいいのですか?」
「はい、登校だけで構いません。嫌ですか?」
断ろうとしたフェスだったがソフィアがずっと見ている事に気づいたら断る事が出来なくなった。
「……わかりました。従者をやらせて頂きます」
「ありがとうございます。後、マインとアーシャも学校に通います。アーシャは私の娘となりましたから貴族として通います」
「えっ!? いつの間にそんな話に?」
「……昨夜です」
「そうですか」
何故にいきなりアーシャさんが大公の娘に? マインさんと本当の姉妹に?
「フェスちゃんも私の娘になる?」
「……息子では?」
「冗談です。息子です」
ヴァージニア大公は、右手で口元を隠しながらクスクスと笑った。
「申し訳ありませんが……今は……」
フェスは、本当に申し訳なさそうに頭を下げて断った。
「気にしないでください。目的があるのでしょ? 詳しくはわかりませんがやりたいことをやって下さい」
そう言いながらもヴァージニアは、残念そうだった。
「ありがとうございます」
「取り敢えず学園の話はこれくらいにしましょうか? ところで……この、おしるこってまだありますか?」
「……あります。今食べられますか?」
「食べます。後、大量に持って帰りたいです。というよりお城の厨房をお任せしたいです」
フェスと大公の話にエレノア王女が口を挟みフェスの手を握り城に連れて帰ろうとしていた。が大公もフェスの手を握り阻止した。
「エレノアちゃん困りますよ? フェスちゃんは、我が屋敷の料理長なんですから連れて行かせません」
い、いつの間に料理長に?
フェスは周囲を見渡したが全員に視線を逸らされてしまった。いや、ソフィア王女だけフェスと視線を合わせて諦めてくださいと込めていた。
何故、こういう時って誰も助けてくれないのかな?
「わかりました。時々でよければ、お城の厨房をお借りするって事でお願いします」
「それで構いません」
フェスがエレノアに代案を出すとしぶしぶ納得した。
「良かったですねエレノアちゃん」
ヴァージニアは、ニコニコとエレノアに言った。
あれ? 喧嘩していたんじゃないの? もしかして……。
「……騙された?」
フェスが呟くと食堂内で笑いが起きた。
笑いが起きている場所に居づらくなったフェスは、厨房に戻り大きい鍋におしるこを大量に作り、出来るとソフィア、エレノアの執事やメイドに手渡した。
やる事がなくなり気が緩んだフェスは、厨房内で倒れてしまった。
アーシャとマインが食堂に戻って来るのが遅かったフェスを心配になり厨房を覗くと倒れているフェスに気づき顔を蒼ざめて悲鳴を上げた。
アーシャとマインの悲鳴を聞き食堂にいた全員が厨房に集まりマインの父であるパトリック・エクレーシア侯爵が、フェスの傍に歩み寄り確認し皆の方に振り向き口を開いた。
寝ている。と……。
全員が気づいた。そう言えば徹夜で教会にいたことを……。
十日後……フェスは、エクレーシア王立学園に入学しCクラスとして数年間過ごした。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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今話で第一章終了となります。
何話が短い(本当に短い)話を何話がしてから第二章に行きたいと思います。
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