第29話 落ち人 【改】
ゼルザール王国王都ヴィリロスを出発し数日後、街道を東へ進んでいると冒険者に護衛された隊商と出会い一つの情報と警告を受けた。
ここから一日の距離に吊り橋があり一人の男が通りかかった武器を持っている者へ決闘を申し込んでくるという話を聞いた。
負けても命を取られなかったが決闘に使用した武器を取られた。と、決闘をし負けた冒険者が語っていた。
「だから、途中から道を変えた方がいいよ」
「武器を持っている人にだけですよね?」
「決闘はね……武器を持っていない人には、通行料として金貨一枚を請求するって話だよ」
「わかりました。ありがとうございます」
お礼を言ってからフェスは、情報料として銀貨一枚を渡した。
橋の上での武器集め? ……まさか五条大橋の弁慶の真似? それよりも国は討伐隊を派遣しないのかな?
「どうするの? 道変える?」
アーシャの言葉にフェスは首を振った。
「いいえ、気になることがありますからこのまま進みます」
フェスの言葉が気になったアーシャは、首を傾げながら聞いた。
「気になる事?」
「向こうの世界の何百年も前に同じようなことをした人がいるんです」
「……もしかして、異世界人?」
「わかりません。全く関係ない人かもしれません」
道の変更をしないでそのまま街道を進むとさらに数組の冒険者や商人に会い同じ話を聞かされたりしたが新しい情報を手に入れることもできた。
新しい情報とは、野営地で出会った女冒険者に聞いた話だった。
「ふざけたヤローだ! 女とは戦えないとさ!」
女と戦って負けたら言い訳が出来ないからだろ! と、女冒険者が愚痴っていた。
女とは戦わない……なら、女装している男とは? 戦わないかな? 戦わないよね?
魔道具テントで寝た翌朝、アーシャ、マイン、エナ、エスト、フィーニス先生の五人の目の前にいたのは、黒皮のゆとりのある上下に白の外套で身を包んたこの世界にきて初めて男の姿をしたフェスの姿がそこにあった。
初めて男の服装をしたフェスを見た全員が驚きの声を上げたが、一番驚いているのは本人だった。
女の格好を止めて男の格好をしているのに……男の子の格好をしている女の子にしか見えない。
「姉様……今まで女の子の服ばっかり着ていたから……違和感が半端ないです。せめてこの髪切ってもいいですか? 長くって邪魔なんですけど……」
「駄目よ!」
「うん、駄目よ!」
「お姉ちゃんダメ」
「うん」
「切るのは勿体ないですよ?」
アーシャ、マイン、エナ、エスト、フィーニス先生の順番に反対した。
「そう言われるとは思っていましたが全員に反対されるとは思いませんでした。せめて、髪を縛って下さい」
「それなら、まかせて!」
アーシャに髪を縛ってもらったフェスは、額に手を置き悩みボニーテールの自分の姿を鏡を見てから全員に感想を聞いてみた。
「……おかしくないですか?」
「おかしくないわ! 似合っているから心配しないで」
「ええ、可愛いですよ」
「うん! 可愛い」
「可愛い可愛い」
「自信もって! 可愛いから」
アーシャから始まりフィーニス先生、エナ、エストが続き最後にマインが褒めていた。
「あのー……何に自信を持てはいいんですか? 何を心配しないでいいんですか?」
「女の姿でも男の姿でも両方可愛いって事を、よ!」
「……もういいです。朝食にしましょう。昼頃に例の橋に着くと思います」
全員頷き朝食を食べてから出発し……予定通り昼頃に噂の吊り橋へと到着した。
吊り橋は、二十メートルほどの幅の川に掛かっていた。
吊り橋の手前から見ると橋の真ん中に刀を腰に携えている一人の男が立ちフェス達の方を見ていた。
この世界で、刀を武器にしている人ってそんなに見掛けないからもしかして、本当に……異世界人?
「フェス?」
「少し離れて付いて来て下さい。……行きます」
フェスが先頭を歩きアーシャ達が言われたとおりに少し離れてついてきた。
フェスが橋の中央にいる男の手前五メートル程の距離までくるとゆっくりと話し掛けて来たので皆を手で制し歩みを制した。
「よお! 女? 男かお前?」
男は自分の目の前にいるフェスを見て、男か女か分らなかったので、男の格好をしているので取り敢えず男と話しかけたが自信が持てなかった。
「失礼ですね! 何処からどう見ても男でしょ! こんなに立派な男に失礼でしょ」
目の前の男が何故判断に困っているのかわかるフェスだったが、男であることを主張した。
「……すまん……しかし……男と言われても女にしか見えないのだが」
本人が男と言っているがイマイチしんようができなかった。
「……心配しないで下さい。れっきとした男ですから」
フェスは、さらに強く男と主張した。
「そうか? すまん?」
男の言葉にフェスの後ろから笑いが起こっていたが聞こえないふりをしてフェスは男に話しかけた。
「僕は、フェスです。貴方は?」
「俺は、トウヤ・タチバナだ」
男の名前を聞いたフェスの眉がピクリと動いたのを見たトウヤ・タチバナは少し反応したがお互いに会話を続けた。
「流石に子供とは戦い難い、だからお前の腰にある刀を置いていくなら全員渡らせてやる」
「お断りします。弁慶の真似事ですか?」
「……通りたければ、俺を倒せ」
トウヤ・タチバナが刀を抜いたのを見てフェスも刀を抜き構えた。
フェスの構えている刀は、この世界に来るときに創造主セラから貰い受けた刀で、人などを斬るためのものだ。
観客は、アーシャ達の他に橋の両端に大勢の冒険者や商人がいつの間にか集り観戦していた。
「準備はいいか?」
フェスが頷くと開始の合図を言うのかと思えば男の口からは別の言葉が発せられた。
「せめてものハンデだ! 俺は刀を右手てしか持たねえ。あと、最初の一撃を受けてやる。かかってこい」
「……分かりました。遠慮なくいかさせて頂きます」
フェスは、見縊られたことに少し腹を立てたが顔に出さずに刀を鞘に収めると重心を落とし構えると思いっきり地面を蹴り瞬時にトウヤ・タチバナとの間合いを詰め抜刀と同時に逆袈裟斬りを放った。
斬った、と一瞬思ったがギリギリのところで後ろへ飛んだトウヤに避けられてしまった。
ギリギリのところで避けたトウヤ・タチバナは、予期せぬ出来事のために愕きの表情をして自分が一瞬前に立っていた場所を見た。
しかし、その場所にいるはずの小さい女の子のような男の子、フェスの姿がないことに気づき辺りを確認したが見当たらなかった。
避けられたのと同時にフェスは、トウヤ・タチバナを縮地で追い掛けて懐に潜り込んでいた。
フェスは、トウヤ・タチバナが体勢を崩したまま自分を探して見つけることができずに驚いているところに立ち上がりながら逆袈裟斬りを放った。
トウヤ・タチバナは、いきなり現れたフェスに驚いたのと体勢を崩していたために避けるのに反応が遅れて鎧を斬り裂かれた。
二撃目も避けられるとは思っていなかったフェスは、後ろに跳び距離を取った。
橋の反対側で観戦していた人達から歓声が上がっていたがフェスとトウヤの二人の耳には届いていなかった。
「……見縊っていたようだな。すまなかった……此処からは、本気でいかせてもらう」
フェスが頷くとトウヤが刀を構え呼吸を整えると地面を蹴り上段から振り下ろすとフェスは一歩後ろに下がり避けるとトウヤが振り下ろした刀をそのままに一歩前に踏み込み下から上へ切り上げたがその行動をも読んでいたフェスは、後方へ跳びトウヤの刀が切りあがりきったところへ懐に飛び込み突きを放ちトウヤの体に刺さったがすぐに抜き後方へ跳んだ。後方へ跳んだのと同時にフェスが射た場所にトウヤの刀が振り下ろされていた。
一瞬の沈黙ののちにトウヤから口を開いた。
「……まさか、三撃とも避けられるとは思わなかった……さらに反撃をされるとは、な」
「体に刺さったと思いますが痛くないのですか? 体に刺さりましたよね?」
「痛いに決まっているだろ! 見てみろ! こんなに血が出ているだろ! それよりお前は、本当に子供か? 何才だ?」
「六才です」
「本気!?」
「はい」
「本当みたいだな……六才の子供にここまでやられたなら仕方ない……今回は俺の負けでいい」
トウヤ・タチバナの負け発言を聞いたフェスが訝しげな目で見て聞いた。
「何故、ですか? 最後までやれは、体力の差で僕が負けていたと思いますよ?」
「体力の差で勝っても意味が無いだろ?」
分かっていて聞くな、という顔をしながらフェスへ続けて言った。
「最後までやり合うなら……お前が成人した後だ」
「そうしたら今度は、貴方が年を取って弱くなるのでは?」
「そんな年じゃねえよ! お前が成人したら俺は、二十四歳だ!」
えっ!? 今……十五才?
「……信じられないって顔をしているな? ……まあいいや……俺に聞きたい事は? 引き分けだから一つだけ答えてやる」
……一つ?
「その前に傷を治してください」
空間倉庫から出した回復薬を出し投げ渡すとトウヤは、躊躇なく飲み込んだ。
「警戒しないでよく飲めますね?」
「お前が毒で人を殺す汚い奴に見えないからな……人を見る目はあると思っているしな」
「そうですか……質問良いですか?」
「ああ」
トウヤが頷いたのでフェスは質問を始めた。
「……あなたは、異世界人ですか? もしくは、異世界人の知り合いがいますか?」
「質問二つになっていないか?」
「だめ、ですか?」
フェスが可愛く少し困ったように聞いた。
「……お前本当に男か? 女にしか見えん……まあ、同じ落ち人の話として一つとして聞いてやる」
「落ち人?」
「聞いた事無いのか? 次元の穴に落ちてこっちの世界に来た人間、落ち人と言う……お前の仲間たちが待ちくたびれているようだな……詳しくは、橋を渡ってから話そうか?」
フェスが頷きアーシャ達を手招きするとトウヤ・タチバナの後に続いて橋を渡った。
吊り橋を渡りきり森の中を少し歩くとテントが張ってありテントの前にテーブルと椅子が置いてあった。
椅子には、肩に掛かる長さの金髪と翡翠色の瞳を持つ十三~十五くらいの女の子が座っていた。
トウヤ・タチバナに気づいた女の子が笑顔で駆け寄ってきた。
「セファお帰り! 今日は早かったのね? ……そちらの女の子たちは?」
セファ? 女の子たち? ここに男が一人いるのに?
フェスと翡翠色の瞳を持つ女の子以外全員が必死で笑いを堪えていた。
「トゥーナ……この子は、男の子だ。何処からどう見ても女の子にしか見えないが……俺と刀で戦い引き分けた程に強い」
「本当に?」
トウヤ・タチバナが頷いたがフェスは気になった事を聞いた。
「セファって誰ですか?」
トウヤと翡翠色の瞳の女の子は顔を見合わせ苦笑した。
「ああ、すまん。話の前に自己紹介をするぜ! 俺の本名はアーセファで、こっちは妹のトゥーナだ」
「なら、トウヤ・タチバナとは?」
「ああ……」
トウヤ・タチバナが話をしようと口を開いた時にエナとエストの腹の虫が周囲に響き渡った。
「……ごめんなさい」
「気にしないでいいよ」
フェスはそう言ってからテーブルと人数分の椅子と昼食を空間倉庫から出し話の前に昼食にする事にした。もちろん、アーセファとトゥーナ二人にも食べさせた。
昼食後に紅茶を飲みながら話を始めた。
「トウヤ・タチバナの名前は、俺にとっては偽名だが実在する人物だ」
「その人物とは? 異世界人……先ほど言っていた落ち人ですか?」
アーセファは、フェスの言葉に頷きトウヤ・タチバナの存在を話し始めた。
「俺達兄妹がトウヤと初めて会ったのが十年前の俺が五歳、トゥーナ四歳……俺達の村の祭りの日の夜だった」
十年前、ゼルザール王国南部にある小さな村……カリーフ村の開村十年目を祝ってのお祭りの日だった。
その日は夏であり一年を通して最も暑い朝、村中の人たちが集まり昼からのお祭りの準備を始め料理を手分けして作っていた。
お祭りが開始される少し前に国王からの祝いの品を持った兵士達、国王名代の貴族も揃いお祭りが開かれた。
お祭りは盛大に開かれ子供から大人、男も女も苦労して作った村のお祭りを十年の苦労を忘れるかのように楽しんだ。
夜になり大人たちが酔いつぶれるまで続いた。大人たちは外で酔いつぶれて寝てしまい子供達は、寝る為に家に戻り始めていた。
アーセファもトゥーナの手を引き満月を見ながら家に向って歩いている最中に月から光が降りてきた。気になった二人は、村の外へ見に行った。村から五十メートルほどの距離に光っている場所があり傍に近づくと一人の見た事の無い服を着た男の子が気絶なのか寝ているのかわからないが横たわっていた。
どうしていいのかわからずにいた二人は後ろから声をかけられたので振り向くと二人が村の外へ行くのを見て心配になり追いかけてきた母親だった。
横たわっていた男の子は母親に背負われて村に入りアーセファとトゥーナの家に運ばれ寝かされると間もなくして目を覚ました。
黒髪黒眼の男の子は、自分が今どこにいるのかわからず暫く家の中をキョロキョロ確認すると二人の子供と一人の大人がいたのに気づき視線を合わせた。
男の子はこちらの言葉が分からなかったしこちらも男の子の言葉はわからなかった。
お互いに言葉がわからなかったが子供達が遊ぶには不自由なく生活にしても村の大人達も親身となり見守っていた。
子供や大人、村にいる色々な人の言葉を聞いて生活をし、男の子が村に来て三日で、言葉を覚え少しずつ話し始めた。
まず、自分の名前をタチバナ・トウヤ……トウヤ・タチバナと名乗り助けてもらった事、お世話になった事へのお礼を村の人達に言って回った。
村の人達は、人族であるトウヤが言葉が分からなかった事でうすうすと感じてはいたが話を聞いて確証を得た。トウヤ・タチバナが異世界人であり落ち人であると。
「その落ち人? のトウヤ・タチバナさんは、三日で、この世界の言葉を覚えたって事ですか?」
「そうなるな……トウヤは、言葉が分からないのに常に誰かの言葉を聞いて地面に俺達にわからない言葉で何かを書いていたり誰かに物を指して名前を聞いていた」
フェスの質問にアーセファが答えトゥーナもそれに続いた。
「トウヤは自分で自分の事を天才って言っていたわ……俺はIQ300の天才児だと……意味が分からなかったけど」
IQ300? そんなの本当にいるのか? いや、確か悪魔の頭脳を持つ男と言われた人がいた様な? 本当にいたのかはわからないけど。でも本当に300あったのなら三日で覚えられそうだけど。
「フェス、IQって何?」
「IQとは、知能指数……頭の良さを数字化したものです。僕の知っているIQ300の人は、嘘が本当かはわかりませんが生後六ヶ月で簡単な言葉を話し一才になる頃には字が書けたそうです」
「本当に!?」
「本で読んただけなので分かりませんが200以上なら数人いるそうです。全員が例外なく天才児だそうです」
「そうなんだ……フェスは? フェスもかなりの天才児だと思うけど」
「わかりません。測った事ありませんから」
フェス達の話を聞いていたアーセファだったが話を戻した。
「言葉を覚えたトウヤは、自分の事を話し始めた」
トウヤ・タチバナは、現在いる場所が自分の知っている地球じゃないと目を覚ました時には分かっていた。
トウヤは、年齢五才で、西暦二〇六四年七月地球の日本にある東京の研究所から自宅に帰宅途中に月の光に包まれ目が覚めたら知らない場所にいた。
二〇六四年? 僕が来たのは、二〇一四年の三月だったはず……僕より五十年も未来から今から十年も過去へ? やっぱり次元の穴って空間だけじゃなく時空も違うようだ。
言葉を覚えたトウヤは、村にいた元冒険者に生きていくのに必要な知識の全てと剣術を教わり村から一時間ほどの距離にある森へ採取や魔物を倒す生活をしていた。
そんな生活を続けて七年後……今から三年前にトウヤは、アーセファ、トゥーナの二人を連れていつも通りに森へ薬草の採取に行っている際に村が盗賊に襲われてしまった。
森にいたトウヤたちにも村から火の手が上がっているのか見えた。三人は急いて村へ戻る事にし走った。
村に戻ったトウヤたちが見た光景は、それは、あまりにも酷い光景だった。
男と年寄りは殺され子供は縛られ地面に捨てられ若い女たちは……外で盗賊達に裸にされ襲われていた。
その光景を目の当たりにしたトウヤは、足元に落ちていた剣を拾い盗賊達に向かい駆け出した……そして、意識をなくした。意識をなくしていたトウヤが意識を取り戻すと其処に広がっていた光景は地獄絵図そのものだった。
ある盗賊は、首の無い胴体は当たり前で、胴体から四肢が斬られていたりもっと酷いのは、胴体から四肢が斬られているのに生きている者も多数いた。四肢を斬った瞬間に【治癒】を唱え傷口を塞ぎ死なせなかった。
五十人近くいた盗賊を十二才のトウヤが一人で倒してしまったのだが本人に記憶はまかった。
トウヤのお蔭で生き残った村人もいたのだがトウヤを必要以上に恐れ視線を合わせようとも話をしようとする者がアーセファ、トゥーナの二人以外いなくなってしまった。
村に居づらくなってしまったトウヤは、誰にも何も言わずに村を出て行ってしまった。
現在ではどこにいるのかわからなかいが人間大陸のあらゆる場所で噂が流れていた……十四~五才の黒髪黒眼の男が盗賊の頭となり自分に少しでも敵意を向けた一般人、兵士、騎士、貴族、盗賊を見境なく殺しをする落ち人らしき者がいて、この世界に馴染めない落ち人を中心にして犯罪者を集めて犯罪者ギルドを立ち上げて、ギルドマスター、盗賊王と言われている・
「人を殺す事が楽しくなったのでしょうか?」
「ああ……その可能性はある、が……一度会って確かめないとな」
フェスの言葉にアーセファは、苦笑いをしながら答えた。
「それにしても、十二才で盗賊五十人を倒すとは凄いですね」
「フェス……あんたが言うな!」
「あんたは、六才で盗賊を何十人も捕まえているでしょ!」
「やっぱりか!」
アーシャとマインのつっこみにアーセファが納得していた。
「ところで、何故、吊り橋で、武器狩りをしていたんですか?」
「トウヤに聞いた。トウヤの世界の昔の人で橋の上で負けた者の武器を奪っていた人物がいたと……トウヤの名前を使って同じ事をすれば知っている者なら釣れるかと思ってな」
「何故、そんな真似を?」
「一番の目的はトウヤが現れればと思ってやったことだが落ち人ならトウヤが接触を図って来ると思ってな……接触を図ってきたら居場所を教えてもらおうと思ってな」
「そうですか……」
「そして、今日お前に出会ったという訳だ! お前も落ち人だろ?」
アーセファの質問に困惑したフェスだったが言葉を選んで口にした。
「詳しい事は話せませんが残念ながら僕は、落ち人ではありません。少し向こうの世界の事を知っているだけです」
「そう……なのか?」
「はい……でも何故、彼を探す真似を?」
「最後に何も言わずに出て行ったことへの文句を言いたいだけかもしれない」
「私は、せめて、お別れがしたかった」
アーセファに続いてトゥーナが答えた。
こんなに広い世界で、会うの無理じゃないかな? それに盗賊なら捕まったら処刑されるか犯罪奴隷行きだと思う。
「本物のトウヤ・タチバナは、強いですか?」
「今の俺の強さは、三年前のトウヤの足元にも及ばねえ! はっきり言ったら今のお前では、勝てないだろうな……今の俺を圧倒出来ないと厳しいだろうな」
「そうですか……」
「フェス?」
「大丈夫です。年齢と体力の差はどうしようもありません」
フェスの事が心配になったアーシャが名前を呼んだが本人は、それほど気にしていなかった。
「これから先にあなた方より僕が先にトウヤ・タチバナに会い、僕や僕の仲間に危害を加えようとするなら戦う事になります。宜しいですか?」
「……その場合は、構わない。だが、出会う前に情報があった場合は、教えてほしい」
「わかりました」
「俺達は村に戻り冒険者をやりながら情報を探す事にする。俺達の村は、ゼルザール王国カシマールの街から南へ十日ほどの距離にあるカリーフの村だ。お前達はこれからどこへ向かう?」
「マイン姉様?」
「……エクレーシア王国の王都よ……もし、私達の事を調べている人に会ったら知らないと答えて頂けると助かります」
マインが頭を下げながら頼んだ。
「訳ありの様だな。わかった約束しよう」
「ありがとうございます」
「礼はいい。先に頼んでいるのはこちらだ」
その後も暫く話をし別れる事にした。
「フェスは、年を取って、力と体力を付ける事だな」
「そうですけど……年は勝手に取ると思います」
「まあな!」
全員が笑い合い……笑い終わるとフェスとアーセファの二人以外は、自然と歩き出した。
「暫くの別れだ。死ぬなよ」
「はい……では、また」
「ああ」
二人も別れ互いの仲間の元へ歩き出した。