第24話 悪夢の街 【改】
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銀狼フェンリルのサラサを仲間にしたフェス達は、魔物を倒しながら進み一月後、隣国ゼルザール王国との国境線上にある村カシマールに到着した。
人間大陸旅行記に載っている街の説明の冒頭には、こう記されていた……悪夢の街カシマール、と。
「悪夢の街ですか? でも、今は村なんですよね?」
「ええ、住民が少なくなって村と認識されているけど正確にはまだ街とされているみたい」
その後、マインが読んだ本の説明によると……五百年前に戦争が終わり復興の際にゼルザール王国とジェスム王国との友好の証として共同で建てられた街だった。
街の中心にある大通りの東側にジェスム王国、西側にゼルザール王国が治めそれぞれ領主を置き東西の街経営には不介入と決められていた。
何故、両国がこの様な街を作ったのかと言えば調べてみれば単純な話だった。
両国の上層部以外は、本気で友好の証として建てられた街だと思っていた。その理由として両国の国王が子供時代に同じ学校に通い親友同士であり、その時に知り合った双子の姉妹と復興の最中に同時に婚約する事となったからである。
確かに仲が良かったのだがその仲の良さは表向きだけのものになり始めた。
きっかけとして戦争で両国王が戦死したために王子達が国王に即位してからだ。
ゼルザール王国は、ジェスム王国の三倍の国土があり人口にいたっては十倍近くあった為に一方的な嫉妬から始まった。
そして、二人の国王にそれぞれ婚約する事になった仲の良かった姉妹の間にも亀裂が入ることとなった。
婚姻が決まった日から姉から妹に対する風当たりが強くなった……妹がゼルザール王国に嫁ぐことになったのが原因だった。
最初は姉の方がゼルザール王国に嫁ぐことになっていたのだがジェスム王国に嫁ぐことになったからである。
どうしてそんな事になったかの理由は、ゼルザール王国国王と付き合っていた姉だったが実際にはジェスム王国国王と浮気をしていた。ゼルザール王国国王の正妃となり内部から国を腐敗させジェスム王国に攻めさせようとしていた。それをゼルザール王国側に密告したのが妹だった。
怒ったゼルザール王国の上層部が捕まえて処刑しようとしたが妹の必至な嘆願により回避され妹が代わりに王妃に収まった。
処刑を免れた姉はそのままジェスム王国へ亡命し国王の正妃となった。
つまり……姉の自業自得であり姉の完全なる八つ当たりであった。
それなのに何故、街を共同経営する事になったのが……それは勿論利権がからんでいる。
両国の街カシマール北五キロの位置に宝の山があった。
その宝の山にも国境線が引かれていて自分の山を掘られない様にお互いがお互いを監視の為に作られた街だったのである。
それから数十年後、宝の山が枯渇し採れる物がなくなるとゼルザール王国側の住民の全てが西二キロ先に新しく作られた街へ移動を始めその後、兵士が街を管理する事となった。
それからさらに数百年後、完全に復興作業が終わり人口が増え続け新しく街を作る事になった。増え続ける人口を住まわせる街を一から作るには時間が掛かり過ぎる為にカシマールにも民が住み始める事となった。
国境の街と言うこともあり冒険者や商人なども多数出入りし全盛期には二十万から三十万の人が集まっていた。
しかし、現在までの間に数知れない原因不明の解決されていない事件や事故、病などが発生し続々と人が流出する事となり今では、両国合わせて二千人程しかいない……その二千人も街から移動したいのだがお金が無い為に移動できない者や国からの命令だったりと移動が出来ないでいた。
街の人たちは、問題が起こらないかと恐怖の毎日であり教会に通う毎日を送って過ごしている。
現在、両国ともに問題の多いカシマールに領地経営の上では重要性を感じていないが国境線上にある為に放棄することもできないでいる。
街の警備兵は、両国ともに数十人配置しているだけだった。
冒険者、商人や旅人などは、毎日大多数の往来があるが急ぎ足で街を抜けるだけで宿を取る人が殆んど居ない……原因は事件等に巻き込まれたくないからだ。
そんなに事件事故が多いのか? どちらかの国の陰謀だったりして……いや、でも、自分の国の民にも問題が起きる事をしないよ、ね?
歩きながらマインの話を聞いているとジェスム王国側のカシマールの街門に到着し門兵に身分証を見せているともう一人の門兵が足元にいる子犬に気づき緊張のあまり顔を強張せていた。
「おい! どうした?」
同僚の様子がおかしい事に気づいたフェスの身分証を確認していた門兵が言葉をかけた。
「い、いや……その子犬、魔物では?」
「なっ!? せ、聖女様!」
その言葉を聞き驚いた門兵がフェスに詰め寄った。
「はい、狼の魔物です。私と従魔契約を結んでいますから大丈夫ですよ?」
「ほ、本当ですか? い、いえ……聖女様のお言葉ならそうなのでしょう」
「はい、今まで一度も人を襲った事ありません」
「分かりました。では、この従魔の鈴をお付け下さい」
「こちらは?」
「五大陸共通の従魔の証の鈴です。この鈴を付けていれば街の中にも入れます。勿論魔物の大きさにより入れない街もございますが、これくらいの大きさであれば止められる事は無いと思います」
説明をしていた門兵に続いてもう一人も説明を始めた。
「村や街などの門近くで鈴を付けて門から出た後で外して下さい」
「外では付けないでいいのですか?」
「はい、外で付けると魔物が音に引き寄せられてきますから」
身分証を見せ話す事も無くなったので街の中に入ろうとした時、街の中から大勢の怒声・歓声・悲鳴と色々な人の声が聞えてきた。
気になったフェスは、門兵に話しかけ聞こえてくる声の理由を聞いた。
「この声は何ですか?」
フェスの質問に困った顔をしながらも質問に答えた。
門兵の話によると数ヶ月前から七日に一度、人が数人殺されていると言う。
殺され方は決まって獣の爪に引き裂かれて殺されていた。
殺された人は、老若男女共通点がないことにより犯人の特定ができずにいた為に既に数百人が殺されていた、
最初の頃は、夜一人で歩いている者だったのだが警戒して歩く者がいなくなると昼間に殺される様になった。人が死ぬ日になると誰一人として家から出る者がいなくなったのだが、その考え、行動の全てに意味が無い事に気づかされる事となった。
家の中に閉じ籠ると家の中にいる全員が殺される様になり此処から死ぬ人が加速した。
数ヶ月で数百人も殺されると共通点に気づいた人が現れた。
その人とは、ティモリア教会の司祭だった。
司祭の話を聞くと街の半数近くが納得し半数が否定と傍観した。
賛成した人達はティモリア教会の信徒で、反対した人達がセラビア教会の信徒で傍観を決めたのがアマルティア教会だった。
ティモリア教会の見付けた共通点は、人族だけが殺されしかもティモリア教会の信徒のみが殺されたと言い放った。
セラビア教会側の見つけた共通点は、兵士と冒険者が殺されていないのに商人、武器の持たない人が殺されていると発表したが聞き入れたのは、セラビア教会の信徒だけだった。
話を聞いたティモリア教会の信徒は鼻で笑い偶々だと言い、アマルティア教会は、どちらの言い分ももっともだと傍観する事を決めてしまった。
信徒の多いティモリア教会の信徒が司祭に先導され強硬手段に出てしまった。
まずは、街にいた全ての動物と従魔が殺された。
それでも人が殺されるのが収まら無かった為にとうとう行ってはならない所まで手を染めてしまった。
即ち……獣人族の処刑である。
当然セラビア教会が止めに入るのだが止めされる事ができなかった。
教会の中にも身分が発生していて、下級司祭しかいないセラビア教会が中級司祭のいるティモリア教会に意見や忠告などが出来なかったのだ。 別々の教会なのだが身分は絶対だった。
ティモリア教会の司祭の考えた解決法は、獣人族を殺していき人族が殺されるのが終われば解決と言う野蛮なものだった。
何故、ティモリア教会が獣人族を殺したいのかその理由は、ティモリア教会ができた時代にある。人族同士の戦争に横から割り込むかのように獣人族が街を襲い油断していたために大勢の人が殺されてしまった。当然にティモリア教会の信徒も大勢殺されているのか現代まで恨みとして残っていた。
ティモリア教会は他種族に対して排斥主義を取っている。
アマルティアの時代の戦争は、人族対他種族の戦争だったのだが、多種族間戦争終結後に加わった教会の掟の一つに全ての種族は平等である。となっているので種族差別が無い……そして、フェスが聖女をしている創造主セラのセラビア教会も種族差別はない。
百人を超える獣人族が殺されても一向に人族が殺される事件が終わらないので、今も獣人族の処刑が続いている。
……今の話、本当か? しかし、兵士や冒険者が殺されない……これは、戦える人を襲わない理由として、ティモリア教会の信徒だけを狙うのは……獣人族を合法的? に処刑、する為?
フェスは、一つ気になった事があり【探査】【鑑定】を唱え、ティモリア教会の司祭を確認してみた。
【悪魔族 中級司祭】
種族が悪魔って、悪魔族? ティモリア神が可笑しくなった原因の? 気を付けろって言っていた?
「兵士の方達は、獣人族が犯人だと思っているんですか?」
フェスの言葉に少し緊張しながら首を振り質問に答えた。
「い、いいえ、この街にいる兵士全員、セラビア教会の信徒です。獣人族だからと犯人扱いはいたしません」
「なら、何故、兵士が犯人探しをしないのですか?」
「いいえ! 調査は行っていますが手掛かりか全くなく……それと、兵士が一人も殺されていないので……本気で調査を行なう者がいないのです」
「なるほど……だから、兵士が一人も殺されなかったのですね」
「えっ!?」
「兵士が一人でも殺されると国から多数の兵が派遣され大々的に調査が行われると困るし、何よりティモリア教会の信徒だけが殺されている状況が成り立たなくなる」
「そ、それって、犯人は」
「それより行きましょう。処刑を止め犯人を捕まえます」
「犯人とは?」
「人族を殺していた人と無実の獣人族を殺した人達です。手を貸して頂けますか?」
「はい! 勿論です。犯人を捕まえる事ができるのでしたら」
「広場に行きましょう。もっと兵士の応援をお願いします」
フェスの指示を受けて門兵の一人が詰所に応援を呼びに走り、広場までの案内をするのに兵士が先頭を歩きフェス達を道案内をした。
……道案内必要ないのに……。
「大丈夫なの?」
フェスと門兵の話を大人しく話を聞いていたマインが話しかけてきた。
「詳しい事は行ってみないとわかりませんが事件の黒幕がわかりました」
「本当に?」
「ティモリア教会の司祭です」
「本気で言ってるの?」
「はい、マイン姉様は、悪魔族って知っていますか? 司祭が悪魔族なんです」
悪魔族……フェスの口から信じられない言葉が出たと一瞬驚いたがすぐに気を取り戻し話し始めた。
マインが読んだことのある文献に悪魔族に関して記されていた物があった。
あまりにも古い……何千年も前にいた種族の為に本当にいたのがわかっていないかティモリア神の時代に魔族よりさらに力と体力そして魔力が強大な種族がいたとされている。
悪魔族は、生命力が高く不死ではないが不老とされ首を刎ねられない限り死ぬこともないとされている。 繁殖能力が低い為に多種族に比べて個体数は極端に少なかった。
文献に残っている悪魔族の力は、悪魔族一人で人族千人にも万人にも匹敵するとされている。
悪魔族の大陸が人族の大陸の海を挟んた北にかつてあったのだがティモリア神の怒りにより沈められたとされているが定かではない……何故ならアマルティア神の時代に悪魔族の事が一度も出てこなかった為に存在が否定されていた。
……文献もそんなに残っていないからフェスの記憶の中になかったのか。
「……ス! フェス!」
「は、はい」
フェスが思いに更けているとマインが話しかけていたのに気づき返事をした。
「……何ですか?」
「悪魔族と戦いになるの?」
「わかりません……サラサ、三人を守ってね」
頼まれたサラサが頷いたのを確認すると処刑が行われようとしている広場が見えてきた。
広場の入口に立つとさらに大勢の人の声が聞えてきた。
聞こえてくる内容は「早く処刑しろ!」「早く殺せ!」「証拠が無いのに」「処刑を止めろ!」と、場の空気に飲まれた人の怒声やら罵声やら歓声で広場が騒然としていた。
広場に到着するのと同時に案内するのに歩いていた兵士が走りだしジェスム王国とゼルザール王国の両国の兵に伝令に向かった。
兵士達の後姿を見送った後で処刑台を見ると二人の獣人族が今にも処刑されようとしていた。
一人は、狐人族の女性そして、もう一人が狼人族の女の子だった。
処刑方法は、台の上に体を縄で縛られ首を剣で切り落とすという物だった。
「先生! 先生! 怖いよ! 誰が助けて!」
「お願いします。エスト、エストだけでも助けてください」
「黙れ罪人!」
狼人族の女の子が泣きながら先生や周りの人へ助けを訴え狐人族の女性が狼人族の女の子……エストだけでも助けてほしいと訴えたが無下に断られ頭を俯かせると一部から笑いが起きたり「殺せ、殺せ」などの声が飛び交っていた。
ティモリア教会の司祭が獣人族二人の罪状を読み上げ終わると剣を持っている執行人の二人に合図を送った。
合図を受けた二人の執行人が剣を振りかぶりさらに司祭の合図を受けると首目掛けて剣を振り下ろした。
剣を振り下ろされる光景を見ていた観客から更なる歓声が上がったが首を斬り落とされる事は無かった。
振り上げられた剣が振り下ろさなかったのではなく振り下ろすことができなかった。執行人の手から剣が離れ地面に落とされていた。
地面に落とされた剣を見て、騒然となっていた広場が静まり返り誰一人として声を発する者はいなかった。
みんなが見て静かになったのは、剣を落しただけではなく剣を握っていた執行人二人の男の腕に矢が刺さっていたのだ。それだけではなくティモリア教会の司祭の胸にも一本刺さっていた。
矢を射たフェスは、弓を【空間倉庫】に仕舞い代わりに刀を取り出し死刑台へ上るために人ごみの中を駆け出した。
死刑台に飛び乗ったフェスは、二人の獣人族を縛っていた縄を刀で切ると鞘に収めた。
縄が切られ自由になった獣人族の二人だったがいきなりの事でどうしていいのか分からなく起き上る事ができずにいた。フェスが狼人族の女の子の手を握り起き上らせると隣の狐人族の女性も立ち上がり始めた。
起き上った二人にフェスが優しく声をかけた。
「間に合って良かった。お二人共大丈夫ですか?」
「……」
「あ、はい、だ、大丈夫です。あ、あなたは、一体」
狐人族の女性がフェスの言葉に答えているとエストと呼ばれていた狼人族の女の子は、狐人族の女性の後ろに隠れ顔を出したり引っ込めたりとフェスを見ていた。
フェスが口を開こうとした時に剣を落していた男達が剣を拾い襲い掛かってきたが鞘に入ったままの刀で二人の男の鳩尾に突きを放ち吹き飛ばした。
襲ってきた男二人が吹き飛んだのと同時にティモリア教会の司祭が口を開いた。
「……あなたは何者ですか?」
答える代わりにフェスは、教会の身分証を見せた。
「セラビア教会の聖女! 何故このような場所に聖女がいるのですか?」
フェスの教会の身分証を見せられたティモリア教会の司祭だけでなくセラビア教会の司祭や聖女と聞こえていた者達全員が驚いていた。
「貴方は誰ですか?」
しかし、フェスは気にせずにティモリア教会の司祭へ言葉をかけた。
「私は、ティモリア教会で司祭をしています」
「……人族ですか?」
その言葉を聞いた司祭の眉がぴくりと動いたのをフェスは、見逃さなかった。
その時、数人の兵士が処刑台に上り剣を持っていた男達を取り押さえ残りの兵士は、広場から抜ける道を全て塞ぐように立っていた。
「な、何故、兵士が此処に!?」
「何故って、決まってるじゃないですが……人族を殺していた犯人と何の罪もない獣人族を殺してきた人を捕まえる為です」
「此処に犯人がいると?」
「惚けないでいいですよ? 貴方でしょ? 殺してきたのは」
「何の証拠があって、私を犯人と?」
「……心臓に矢が刺さって生きている人がいると思いますか?」
その言葉で自分の胸を確認して初めて気がついたのが驚いていた。
「これは、いつの間に……私の胸に矢か?」
本気で気づいていなかったのか? 痛みを感じない、のか?
「私の正体をご存知なのですか?」
「悪魔族ですよね?」
「ほぉう! やはり気づいていたか」
「引いては頂けませんか? それとも戦いますか?」
「……分かった此処は引いておこう」
「ありがとうございます。でも、何故獣人族を狙ったんですか?」
「単なる暇つぶしだ……そろそろ退かせてもらおう。また、会うような気がするか……さらばだ」
悪魔族の男は、その言葉を最後にその場から一瞬にして消えてしまった。
簡単に退いてくれて助かったけど……何のためにこの村にいたのかな?
「聖女様!」
消えた悪魔族の事を考えていると兵士に話しかけられた。
「聖女様、これからどういたしましょう」
「人族を殺していたのは、今逃げて行った人ですが、無実の人たちを処刑していたのはこの街の人です。……犯罪者を捕まえてください」
「しかし……」
「セラビア教会は、人種差別を禁じているのでしょう? 騙されていたとしても無実の人たちを殺してきた事に変わりありません。許される事ではないでしょう」
「わかりました」
兵士達は、処刑に関わっていた数人を取り押さえ詰所に連れて行き、広場に集まっていた人達も解散を始めた。
設置されていた処刑台も解体されセラビア教会の司祭により広場は清められた。
フェス達は、二人の獣人族を伴って広場から移動しセラビア教会に移動した。
相変らずセラビア教会は、日本の神社だよなぁ? 後の二人は困惑したままだし。
フェスの後を歩いている獣人族の二人は、処刑されるところを助けてもらった嬉しさはあるのだが、何故助けられたのがわからずそして、何故一緒に歩いているのかわからずにいた。
神社……いや、教会の中に入り応接室に入り司祭が話し始めた。
「聖女様ありがとうございました。私達に止める事ができず何百人もの獣人族が処刑されてしまいました」
「偶々来て、偶々助ける事になっただけです」
フェスの言葉に司祭が頷き話を進めた。
「それで、ティモリア教会の司祭は何者だったんでしょう?」
「……悪魔族です」
「悪魔族! 本当ですか? ……実在していたのですか?」
「多分、人の姿などに擬態し紛れていたのだと思います。取り敢えず消えた様なので、もう大丈夫でしょう」
司祭が頷きその後も色々と話をし終わったところで、狐人族の女性が口を開いた。
「あ、あのう……本当に助けて頂いてありがとうございました」
「ありがとうございました」
狐人族の女性が深々と頭を下げてお礼を言うと狼人族の女の子エストも慌てて同じように頭を下げお礼を言った。
「もう気にしないで下さい。貴女方を助けることはできましたが大勢の方が無実なのに処刑されましたから心から喜べません」
「それは……しかし、それは仕方がない事です。貴女がこられたのは今日なのですから……聖女様が悪い訳ではありません」
……やばい! 話が暗くなっていく、話を変えなければ……。
「そう言えば、エストさんが貴女の事を先生と言っていましたが学校の先生なのですか?」
「はい、孤児院学校で教えていました」
「孤児院学校、ですか?」
「はい、身寄りの無い子供達を預かっていました」
……いました? 過去形?
「いました?」
「はい、この子以外処刑されてしまいました」
……余計に暗い話に。
フェスが俯くと先生が慌てて口を開いた。
「聖女様が悪い訳ではありませんので気になさらないで下さい」
「は、はい」
フェスと先生が言葉に困っていると狼人族のエストがフェスに近づき手を取って口を開いた。
「お姉ちゃんは、私達を助けてくれた。気にしないで」
「……ありがとう」
アーシャが落ち込んでいるフェスの頭を撫でた。
「フェスは、やれることをやったのだからもう気にしないの」
「はい」
「戦いにならないでよかったわね?」
「そうですね。あそこで戦っていたら巻き込まれていた人もいたと思います。そして、多分……今の私には勝てなかったと思います」
「そんなに強かったの?」
「はい、本当に強い人ばかりですね」
話す事が無くなり教会を出る事にし外に出ると司祭が口を開いた。
「聖女様達はこれからどうされるのですか?」
「旅を続けます」
「泊まられないのですか?」
「はい、先を急ぎ……あ、いえ、一晩宿を取って朝に出発します」
先を急ごうとしたがスェスの手を握っているエストの顔を見ると出発すると言えなくなり泊まって行く事にした。
最後までお読み頂きありがとうございます。