表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/68

第15話 襲撃

 アトカース男爵領領都カナーに到着する日、馬車に乗り込み朝食を摂った後すぐに眠りに落ちてしまった。

 

 眠りに落ちたフェスがいた場所は、久し振りの創造主セラの白の世界だった。


 久しぶりと言うほど久しぶりでもないけど……ここに来ると安心できる。


 内心で呟いていたフェスにセラが話し掛けてきた。

「久しぶりねフェス君。最近此処に呼べなかった理由があったのです。フェス君や竜耶君をここに呼ぶのを邪魔をしているものがいるのです」

「セラ様の邪魔ですか? 誰の仕業がわかっているんですか?」

「もちろんです。フェス君も一度呼ばれた場所……私の白の世界を模倣して黒の世界を作り今のフェス君がいる星の中身を作った神、元二級神ティモリアです。どうやったのかわからないけど今では一級神に匹敵する能力を身に付けたようなの」


 元二級神……それじゃ、あの時の声がティモリア神?


 セラは、呟いたフェスに頷いてから話を続けた。

「ティモリアの目的はわかっていません」

「……何もわからないのですか?」

 フェスの質問に予想はできますが、確証はありません。ごめんなさいと答えた。

 フェスは、首を振ってから話を変えることにした。

「ティモリア教会とアマルティア教会……僕の敵になる可能性はありますか?」 

 フェスの質問に創造主セラは軽く首を振ってから否定した。

「いえ、それはないわ。現在の人族は教会に所属していても全員が神を信じている訳ではありません。……とはいえ楽観視するのは良くないから注意しておいてね」


 ティモリア神に命を狙われることもあるってこと?


 フェスは呟きながらセラを見てみると、頷いていた。


「何か聞きたいことはありますか?」

「竜耶は元気ですか?」

「ええ、元気でやっています。前日病院を退院して学校に通う準備をしています。学校に通い始めるのと同時に体を鍛えるために剣道を習うようです」

「確か……剣道の能力スキルを持っていましたよね? どれくらい強くなれるのでしょう」

「よく覚えていましたね。フェス君の世界のように他の人と極端に力の差があると大変なことになりますから、かなりの努力を必要となります」


 剣道は別として、とにかく無事に退院できたことは良かった。


「そう言えば、十歳にしては知識とか度胸とかおかしいですよね? 今まで聞いたことのない知識を普通に知っているし、言葉にもしています。他にも魔物や魔獣、動物を平気で殺せます。罪悪感は全くないし……その前に普通の十歳が戦おうって気になりますか?」

「フェス君、混乱するのはわかりますが落ち着いて下さい。この世界の知識を全然知らない状態で送るわけにはいかなかったために、魂の直接埋め込みました」

「……その割には知らない知識もたくさんあるようです。特に一般常識が抜けているようです」

「……フェス君に与えたのは王侯貴族として必要な知識のために偏っているのです。……後は私が人間世界の一般常識を知らないためです。知識が偏っていることには目を瞑って下さい。本を読んだりアーシャさんマインさんに話を聞いたりして経験を積んでいって下さい」

「わかりました。なら度胸の方は?」

「度胸もこの世界ではそれほどおかしいことではありません。殺し合いも日常茶飯事ですから気にする方がおかしいと思われます。人を殺してはいけない世界から来たフェス君には信じられないと思いますが、盗賊などの罪人を殺しても罪悪感は生まれないと思います。そもそもこの世界に罪悪感という言葉は存在していません」


 ……罪悪感って言葉が存在しない? だから盗賊やら人殺しとかが普通になるんじゃないの?


「しかし、十歳にしてあの戦闘力は? あって困るわけではありませんけど、周りの人からおかしいと思われるのではないですか?」

「私が行ったことはそれです。十年間寝たきりだったフェス君の筋力では武器を持って戦うのは無理だったのです。竜耶君の世界ではそれほど重要ではありませんが、フェス君の世界では命取りになりますからわたくしの加護と能力スキルによって戦えるようになっています。もっとも勝手に動くわけではなく戦う意思なくば身体は動きません」


 セラの話を聞きながら内心で、セラ様の加護と能力スキルによるものだったんだ。と思っているとさらにセラが話を続けた。


「本来の能力スキルとは、知識と経験のことですが、フェス君には両方不足しています。その知識と経験を補うためにわたくしの加護を与え知識と経験を無理やり積んている状態にあります。知識と経験を積めば本当の自分の力となり私の加護は補助的な役割となっていきます。

 今のフェス君の戦い方は戦う意思を持った際に能力スキルが勝手に戦い方を頭と体に教えている状態なのです。副作用も多少あります」

「……副作用とは何ですか?」

「……普通の人なら何年も何十年も修行して知識と技術、体力を向上させのに対し、体の成長していないフェス君が無理やり能力スキルによって戦っていると体力と魔力の消耗が激しい心の負担となり眠気に襲われます」

 心の負担と眠気と聞いて、今までのことを思い出してみたがまったく経験はなかった。

「今までそんな眠気に襲われたことはありまえんよ?」

「今までは眠気に襲われるほど消耗していなかっただけです。もちろん戦いの最中に眠くなることは……無いと思います」

「……何故に最後の方、声が小さくなったんですか?」

「確かではないのです」


 確かめる訳にもいかないから気を付けないと。


「眠くなる問題は、体の成長と知識と経験が伴えば解決します」

「体力を付ければいいんですか? 体の成長は年月を重ねればなんとか……」

「そう言うことです。フェス君はこの世界における十才の平均身長背より低いですからよく運動しよく食べ良く寝て体力を付けてください」

「わかりました」

「……今日はこの辺にしておきましょう」


 フェスが頷くと最後に創造主セラが忠告した。


「ティモリアの使徒がいつ襲って来るかわかりません。充分に気を引き締めて旅を続けてください。今度いつ会えるかわかりません。また会いましょう」

「はい」


 白の世界から戻ったフェスが辺りをみると、アーシャ、マイン、エナの三人も寝ていた。

 外を見てみると太陽が真上近くにあったのを確認し、そろそろ昼食の時間かな? とフェスが思ったのと同時に護衛隊長ルーキスの号令により昼食休憩となった。

 馬車が停まっても寝ていた三人を起こして昼食を摂った。

 昼食は、もはや当たり前となってしまったフェスが作り、それを馬車ギルドが買い取り皆に配ったサンドイッチと串肉とミルクだった。

 

 このメニューも飽きてきたかも……サンドイッチやホットドック以外で手軽に食べられるのを考えるかな? ……それよりもセラ様が最後に言った言葉……襲ってくるのをわかっているようだったけど、知っている人なのかな?


 昼食を食べ終わり馬車に乗り込み席に着いたフェスは、探知を切っていたことに気付き使ってみた。すると、現在の場所からはかなりの距離はあったが、フェスたちの乗る馬車に向かって多数の反応が現れた。

「とうとう来たか……」

「何か来たの?」

 誰にも聞こえないように呟いたフェスだったが、思ったよりも大きかったようで隣にいたアーシャに聞かれていた。

 アーシャに聞かれたフェスは、話すべきかどうか迷った。しばらく迷ったフェスだったが、結局は話すことにした。

「盗賊が二十人程こっちに向って来ています」

「……!」

 フェスの言葉を聞いたアーシャは驚いて大声を出そうとした。しかし周りが混乱すると思い自分の口を手で塞ぎ我慢した。

 アーシャは確認するようにフェスに小声で聞き返した。

「盗賊って本当なの?」

「はい、確かです」

 フェスが答え終わるの同時に不意に馬車が停車した。するとフェスたちの馬車の御者を務めていた男は、冒険者たちの馬車へ走り出した。

 乗客たちが何事かと騒然となる中、もう一人の御者の男が「確認に行ってきます」と言って馬車を降りた。

御者の男は馬車を降りると、扉を閉めると鍵を掛けて冒険者たちの馬車へ駆けていき乗り込んだ。

 御者の男を待っていたかのようで、乗り込むのと同時に冒険者の馬車は走り去ってしまった。

 走り去る馬車を呆然と見送っていた一同だったが、正気に戻った乗客の一人が馬車ギルドの女性に怒気を含んだ声色で迫ると、続いて一人また一人と攻め始めた。

「一体どうなってんだ! 説明しろ!」

「私にもわかりません!」

 最初こそ大人しく聞いていた馬車ギルドの女性だったが、我慢の限界にきたようで怒鳴り返した。それをきっかけに馬車内は騒然となった。

 

 この後に起こることを知らないから仕方がないけど……。


「すいません。少し静かにしていただけませんか?」

 フェスが馬車内で怒鳴り合っている人たちに声をかけると、静かになると一同の視線を集めた。

「馬車ギルドのお姉さんに質問させていただきたいのですが、よろしいですか?」

「は、はい……なんでしょうか? 私に答えられることでしたらお答えいたします」

「今回の護衛の冒険者と御者についてです」

 

 まず護衛の冒険者については、護衛隊長を務めていたルーキスの所属しているギルドとは何度も組んでいて信用も信頼もしていたが、フェスを仲間に入れようとしていたダリウスの所属しているギルドとは、今回が初めての仕事だった。

 そして御者の二人の男たちとも初めての仕事だった。


「いつも組んでいた御者の人たちは、出発の朝になって急に体調不良となり馬車ギルドの事務担当者から変更を知らされました」

 あの二人には、黒い噂があったので組みたくありませんでした。と続けて話した。

 

 あの二人を付けた担当者もグルなのかな? それにしても何故僕たちの乗る馬車がわかったんだ? それと……仲間だと思っていたあの二人を置いて行ったということは別口なのか?


「どの段階で御者の変更があったんですか?」 

「……どういう意味でしょうか?」

「お姉さんがギルドに出勤したときだったのか馬車に乗り込むときだったのかという意味です」

 馬車ギルドの女性は、少し考えてから答えた。

「…………私が馬車に向かおうとしていたときです。ギルドを出る際に止められて二人を付けられましたからたしかです」


 僕たちの乗る馬車を確認していた誰かの報告を受けて御者の変更を行ったということか……。そうなると馬車ギルドもしくは、ギルド員の中に盗賊の仲間がいることに……。


「最後にお聞きします。あの二人の御者の行動に心当たりは本当にないのですね?」

「ありません」

 馬車ギルドの女性は、迷いなく答えた。


 嘘を言っているようには、見えないね。それよりも……そろそろ追いつかれそうだ。


「時間がないので手短に話します。現在この馬車に盗賊が向かって来ています」

「嘘だ!」

「そうだ! いくら聖女様だからといって、何故そんなことがわかる? みんな騙されるな!」

 フェスが盗賊の仲間と疑っている男二人が吠えた。他の乗客たちも二人の男に続いて何かを言おうとした。しかしその前にフェスが、男二人に続いて乗客たちに言葉をかけた。

「なぜ、嘘だと思うのですか? そしてあなた方にお聞きします。私とそちらのお二人のどちらを信じるのでしょうか? どちらを信じるかはお任せします」

「俺は聖女様を信じるぜ」

 間髪入れずに筋肉隆々の男がフェスを信じた。

「……名前をお聞きしてもよろしいですか?」

「俺はマックスという鍛冶職人だ。……俺は何をすればいい?」

 髪の毛一本なく青い瞳の筋肉隆々の男は、自分をマックスと名乗り鍛冶職人をしていると答えた。


 マックスさんか……名前に合った体をしているな……。

 【鑑定】

 【青:マックス:男】

 【神名暦五百三十三年白月十八日:二十八歳:健康】

 【鍛冶職人】

 

 二十八歳? には見えないな……。 

 

「……扉を開けていただけますか?」

 マックスは頷くと馬車の扉を開けようとした……が、開かなかった。

「開かないな」

「け破ってください」

 マックスはフェスに言われるままに扉を蹴破った。すると一発で扉は開いた……というより吹き飛んでいった。

「凄いですね。マックスさん」

 フェスが笑顔で褒めるとマックスは、体に似合わずに照れていた。

「さ、さあ……馬車を降りようぜ」

 マックスは誤魔化すように馬車を降りた。フェスもマックスに続いて馬車を降りるとアーシャ、マイン、エナも後を追った。

 他の乗客たちはどうしていいのかわからずにお互い顔を見合わせていた。


「フェスこれからどうするの? 他の人たちは見捨てるの?」

「いいえ……皆を巻き込んだのは私です」

「どういうこと?」

「おそらく盗賊たちは、私を狙って襲って来ます。ファウダーに居た頃からずっとつけられていましたから」

「知っていたの?」

「どうして言わなかったの」

 フェスの言葉にアーシャとマインは驚いた。

「さすがに街の中で襲ってこないと思ったからです」

「街の外なら襲ってくるでしょう?」

「襲ってはこなかったですよね?」

「……そういえばそうね」

「そろそろ見えてきます。姉さま方は馬車から離れて隠れていてください」

 どうして馬車から離れなければならないのだろう? と思ったアーシャとマインだったが、フェスが言うなら何かあるのだろう思いエナを連れて森の中へと入り木の裏に隠れた。

 マックスはフェスと一緒に戦うために隣に立った。

「マックスさんも隠れていてください」

「いや、俺も戦うぜ」

「武器を持っていないでしょう?」

「それは聖女様も一緒だろ?」

 マックスの言葉に武器をまだ出していなかったことに気付いたフェスは、空間倉庫から弓矢を取り出した。何も持っていなかったフェスの手に弓矢が現れたことにマックスは驚いた。

「何も持っていなかったはずなのに弓が? ……そういえば空間箱を使えるのだったな。目の前で見ると凄いな」

「わかったら隠れていてください」

「いいや、盾になるくらいは武器を持っていなくってもできるぜ」

「……わかりました。無理はしないでください」

 何を言っても隠れないと感じたフェスは諦めて傍にいることを許した。

 フェスとマックスがそんなやり取りをしていると、盗賊たちが向かって来ている方向に砂煙が見えてきた。


 盗賊の数は……二十人? 最初は五十人いたはずなのに……。残りの三十人は御者と冒険者たちの馬車を追っていったのか?


「近くまで来たようですね」

 探知で盗賊の数を確認したフェスは、隣に立っているマックスへ声をかけた。

「ああ……本当に来たようだな。嘘は言っていないことはわかっていたが、間違いならよかったんだがな」

「いまからでも隠れてくれても構いませんよ?」

 マックスは苦笑してから「男に二言はない。盾くらいにはなる」と頑なに隠れることを拒んだ。


 どうしてそんなに隠れることを拒むんだ? まさか、盗賊たちの仲間じゃないよな? ……いや、僕のことを心配しているだけだな、あの目は。


 フェスとマックスの間に、しばらく無言の時が流れた頃に盗賊たちが見えてきた。距離はフェスの目算で五、六百メートルほどだった。


 何かの本で読んだけど馬の走る速さって時速六十キロだったかな? あと四百メートルくらいだから二十四秒? 


 盗賊たちがフェスたちへの距離二百メートルの距離を超えるとフェスは、弓を構えて矢を番えた。先頭の盗賊を狙い弓を引いて矢を射た。

 フェスから放たれた矢は、真っすぐな線を描くように飛んでいき狙った盗賊の胸にたり落馬させた。 


 盗賊たちは、先頭を走っていた仲間が落馬したにも関わらず、フェスたちを狙って馬を駆けていた。


 仲間が倒れてもまったく気にしないのか……。


 フェスは再び弓を構えると矢を次々と射掛けていった。

 眉間に当たったり目を貫いたり、喉に胸にたった者もいた。

 さすがに次々と倒れていく仲間を見て気になり始めた隊を率いているらしき男は停止の合図をした。

 盗賊の隊が停止した距離は、フェスたちから百メートルほどの距離だった。


「……聖女様、何故あんなに離れている距離に矢を届かせるだけじゃなくてられるんだ?」

「普通は無理でしょうね。私は、矢を放つ瞬間に風魔術で威力と距離を上げています」

「そんなことができるのか!」

 盗賊たちが停止したためにフェスとマックスは、盗賊たちから視線を逸らさずにに会話をしていた。

 

 フェスとマックスが会話をしていた頃、盗賊たちも話し合いをしていた。

「おい! なんだこれは! あれはいったい何者だ!?」

「副頭目! あれが聖女です」

「あれが聖女? 何故あんな距離から矢を中てられるんだ! しかも、いきなり半数もやられたじゃねえか!」

「そ、それはわかりません」

「うっ!」

 副頭目が怒鳴っているとフェス側に一番近いところにいた男が急に落馬した。

「なんだ!?」

 副頭目が倒れた仲間に視線を向けてみると、倒れている男の胸には矢が突き刺さっていた。

 副頭目は、矢が飛んできたと思われる方に視線を向けると、フェスが弓を構えて立っていた。

 副頭目がフェスを睨んていると、フェスは構えている弓に矢を番えたかと思った瞬間矢が放たれた。副頭目はその矢を抜いた剣で叩き斬った。

「おい! 一列になって駆け抜けろ! 誰でもいいから聖女の弓を叩き折ってしまえ!」

 「生き残っている九人の盗賊たちは剣を抜くと、再びフェスに向かって馬を駆けた。 


 残り九人か……。


「えっ!?」

「なっ!」

 自分に向かって駆けてくる盗賊たちに次々と矢を放ち倒していくフェスは、後方に注意を配る余裕はなかった。その隙を二人の男に突かれてしまい弓を奪われてしまった。マックスも前方ばかり見ていたために後方に注意を払っていなかった。

 フェスの弓を奪った男二人とは、馬車の乗客たちの中で盗賊の仲間だと疑っていた二人だ。

 弓を奪った男は、地面に叩きつけて折ってしまった。


「よくやったお前ら! だが少し遅かったな? 十五人もやられたぞ!」

「すんません副頭目。なかなか隙がなかったもんで……」

「まあ良い。やられた以上の価値はあるからな」

「……やっぱりあなた方は、盗賊の仲間だったんですね? 数日前に捕まえたそこの人を逃がしたのもあなた方ですね」

 フェスが弓を奪われ壊される光景を眺めている間に副頭目を含む五人は、フェスの眼前に到着した。副頭目は、フェスの後ろにいる男二人に話しかけそれに対して答えていた。

 副頭目と二人の男の会話に一区切りついたところにフェスは話に割って入った。

「やっぱり気づいていたんだな? 俺たちのことをずっと警戒していたようだが、最後の最後で警戒を解いてしまったな」

「弓を壊されたお前に戦うことは無理だろ?」

「おとなしくするんだな、そうすればお前だけじゃなく乗客全員が怪我せずに済む……ぎゃぁぁぁぁああ!」


 フェスを捕まえようとした男の腕の肘から先が地に落ちた。


「空間箱を使えると知っていた貴方方が、なぜ私が弓しか持っていないと思ったんですか?」

 仲間の一人が腕を斬り落とされたのに驚いた盗賊たちは、何か起こったのか理解するのに数秒の時間を要した。

 マックスを含むその場にいた全員の視線がフェスに向けられた。フェスの手には刀が握られていた。

 副頭目は驚愕の顔をしながらもフェスに

「お、お前がやったのか!」

「他に誰がいると?」

「聖女とはいえ平民だろ! なぜ小娘のてめぇが武器を持っている。この国では犯罪だろうが!」

「……盗賊の貴方がそれを言いますか?」

「……聖女でも魂が青色の奴を殺せば犯罪者になるだろ? 抵抗するんじゃねえ!」

「弓を壊されたとはいえ襲われたわけではありませんからね……確かに殺した場合どうなるかはわかりませんね……」

「だからおとなしく……なっ!」

「なら殺さなければ問題ありませんね」

 副頭目の話の途中に自分の間合いにいた二人の男を鞘に納めた刀で鳩尾を突き意識を落とした。肘から下を切り落とした男に回復薬を掛けた。すると傷口が塞がり流れていた血も止まった。

「出血死されても困りますからね」


 フェスは副頭目の後ろにいた一人の男に気づき鑑定した。


【赤:森人族エルフ:男】


 やっぱり森人族エルフか……。本などで見た森人族エルフのように人族より耳が長く先が尖っている。


 フェスが森人族エルフの男を観察していると、自分が見られていることに気づき怒鳴った。

「何を見ていやがる!」

「いえ……気分を害したのなら申し訳ありません。こんな近くで森人族エルフを見たのは初めてでしたので……」

「どんな田舎者だ! 今時珍しくもないだろ」

「人族しかいない田舎です。領都ファウダーで初めて人族以外の人を目の当たりにしました」

「ふん!」

 森人族エルフの男は、フェスを馬鹿にするように鼻で笑った。

「一つお聞きしたいのですが、森人族エルフに人族のような耳をした人のことをお聞きしたことはありませんか?」

「んなのいるわけ…………いや、五、六年前にアリステラ大陸にある国の王族に人族のような耳をした娘が生まれた。その娘は忌み子として処分されそうになったところを当時の王と王妃が連れて逃げ大陸を脱出したと噂になったことはあった。しかしなぜそのようなことを聞く?」

 副頭目は、フェスと森人族エルフの会話を聞いていたが、限界に来たようで吠えた。

「俺様を無視して話してんじゃねぇ!」

「も、申し訳ありません副頭目」

「人の会話の邪魔をしないでいただきたいものですね」

「うるせぇ!」

 森人族エルフの男は謝ったが、フェスが馬鹿にするように口を開くと再び吠えた。


 エナちゃんのことを話せるわけないからタイミングはよかったな副頭目。


「かなりのお仲間が死にましたけど、これからどうされますか?」

「当然このまま引き下がるわけにはいかん。必ずお前を捕まえ、ほかの連中も捕まえて奴隷送りにしてやる。お前なら白銀貨で売れるだろうな」

 言い終わると副頭目は、自分の後ろにいる四人にフェスを捕らえるように命じた。三人はナイフを手にしてフェスに襲い掛かり、森人族エルフの男は詠唱を始めた。


 武器で襲い掛かってきて殺す気か? それとあっちの人……魔術? いや、まずは目の前の敵を倒す……。


 襲い掛かってきた盗賊をフェスは、ナイフを振り下ろすこともさせずに斬り殺した。その光景を見ていた副頭目は、目を見開き口が開きっ放しになっていた。森人族エルフの男は目を閉じ詠唱に集中していたために気づいていなかった。

 詠唱を終えた森人族エルフの男の隣に、空から舞い降りた緑色の髪に緑色の瞳を持つ体長三十センチほどの女性? の人型が宙に浮いていた。

 詠唱を終えた男は瞳を開けると自分の目の前の光景を見て驚き副頭目に説明を求めた。

「お前が詠唱に集中している際に襲い掛かったあいつ等は、武器を振り下ろす暇もなく……首を刎ねられたんだ! 詠唱終わったのならさっさと攻撃しろ!」

「は、はい」

 副頭目に怒鳴られた森人族エルフの男が人型に命令しようとしたときにフェスが口を開いた。

「初めて見ましたけど、もしかしてそれは……精霊ですか?」

「ま、まさか見えているのか!? 森人族エルフじゃないお前に精霊が……見えるわけないだろ! 行け! シルフ」

 シルフと呼ばれた人型が命令通りにフェスに向かって飛んた。臨戦態勢を取ったフェスだったが、シルフに敵意がないことを悟り行動を見守ることにした。

   

 襲ってきているにしては、敵意がない?


 シルフは接近するとフェスの周りを笑い楽しそうに飛んだ。

「な、なにをしている。そいつに攻撃するんだよ!」

『いや』

「なっ!? なぜだ!」

 フェスの肩に座ったシルフは『この人と契約する』と答えて『あなたとは正式には契約していないのだがラ問題ないでしょ?』と続けて言われた森人族エルフの男は狼狽した。

「なにをしている。早く攻撃をしろ!」

 精霊の見えない副頭目に今行われていたことは理解できていなかったための言葉だった。

「す、すいません副頭目……精霊、シルフを奪われました」

「人聞きの悪いことを言わないでください。この子? が勝手に決めたことでしょう。で、これからどうされますか?」

「ひとまず引くぞ!」

「は、はい」

 副頭目と森人族エルフの男は、馬に乗り込むとフェスの横を通り抜けて行った。

 副頭目はフェスの横を抜け馬車を通り過ぎる際に馬とキャリッジを繋いでいる連結部を斬っていった。


 逃げていったけど、あっちの方角は……仲間と合流するのか?


「フェス大丈夫? 怪我はしてない?」

「大丈夫です。二人逃がしてしまいました。弓があれば倒せたのですが」

「…………」

「…………聖女様、充分過ぎると思いますぜ」

 アーシャとマインは呆れ顔でフェスを見て、マックスは辺りを見渡しながら言った。

 辺りには盗賊たちの死体が彼方此方あちらこちらに散りばっていた。


 どうするかなこの死体……。たしか髪の毛一本でも街などに届ければいいんだよね? でも……」


「死体すべて燃やします」

「燃やすの? なぜ? 空間……箱に入れたら邪魔にはならないでしょ? 盗賊退治の報奨金や武器や鎧も買い取りしてもらえるのよ?」

「お金は困っているわけではありませんから必要ありません。冒険者でもない十歳の子供が大勢の盗賊を倒したと信用させるのに時間かかると思います。急ぎの旅ではありませんけど神聖ヴェスナー帝国を早く出るべきだと思います」

 マックスはフェスの言葉を聞き自分は聞くべきではないと悟ると、その場を離れ気を失っているだけの二人の男を後ろ手に縛り始めた。

 マックスの行動に感謝しているフェスにマインが口を開いた。

「国を急いで出るのには賛成だけど、気になることでもあるの?」

「気になることはありますけど、急ぐ理由ではありません。大きい街に寄ってこれ以上変なのに狙われるのを避けるためです」

 アーシャとマインは理由を聞くと納得した。

 その後フェスは、盗賊の死体を一体一体に【フレイム】を唱えていき残らず灰にしていった。

 すべての死体を灰にし終わったフェスは、アーシャたちの場所に戻った。そして、自分の肩に座っているシルフに話しかけた。

「で、君はいつまでいるのかな?」

「えっ!? 急に何を言っているのフェス?」

 急にわけのわからないことを口走ったフェスにアーシャが驚き質問した。


 ほかの人には見えないのか?


『わたしの姿は妖精族にしか見えないよ?』

 シルフはフェスの表情から考えていることを読み取り答えた。

 

 それならどうして僕には見えるんだ?


「フェス?」

 再びアーシャに声を掛けられたフェスは、自分の肩にシルフがいることを説明した。自分以外に誰にも見えていないと思ったフェスだったが、エナなら見えるかもと考え直し聞いてみた。

「見えないよ?」

 と、首を傾げながら言った。

『その娘にはまだ無理。成人してからでないと無理』

「なら、妖精族でも成人もしていない僕に見える理由は?」

『うーん…………あなたに魔力探知があるから見える』

「魔力探知? 確かに持っているけど……効果はわからなかったんだけど……」

『精霊とはわかりやすく言えば魔力の塊。魔力探知とは魔力の流れをよむ能力。だから見える』


 答えになっているようななっていないような……。使った覚えもないのに見えるということは、常時型なのかな?


「キミはこれからどうするの? 僕たちはそろそろ行くけど」

『わたしも一緒に行くよ? あなたと契約することに決めたから』

「僕の意思は?」

『……わたしと契約したくないの?』

 シルフは悲しそうな顔をしながら呟いた。


 うっ! ま、まあ邪魔になるようでもないしいいか……。


「わかった。契約しよう……どうすればいい?」

 シルフは笑顔になりフェスの周りを飛び回った。そして、空中で止まったかと思うといきなりフェスの額に口づけをした。

 戸惑うフェスを気にせずにシルフは契約の言葉を続けた。

『わたしシルフのフィオーレ、フェガロフォス・ヴェスナーを主として忠誠を誓います』

 シルフのフィオーレの言葉が終わるとフェスの体が光り輝き額に収束された。

『おわったよー』

 フィオーレは満面の笑顔でフェスに報告した。

「うん……でもどうして僕の本名を知っている?』

 フェスが睨みながら言うとフィオーレは慌てて説明した。

 フィオーレの説明によると、精霊には精霊の瞳というものがある。精霊の瞳とは、自分の目の前にいる人物の魂の色と名前を知ることができる。

「僕のことはフェスと呼び、本名で呼ぶことを禁じます」

『わかりました……』

 フィオーレは落ち込み俯いてしまった。それを見たフェスはフィオーレの頭を人差し指で撫でながら「ごめんね。怒っているわけじゃないから」と謝った。

 フィオーレは『本当に?』と恐る恐る訪ねた。フェスはそれに対して頷いた。フィオーレは照れ笑いした。

『そうだ! 一つ言い忘れてた! 精霊と契約したら精霊の加護を授かるの』

「加護? どんなの?」

『状態異常にかかり難くなるの。主に毒とか麻痺にかかり難くなるよ! あとねー! 薬作る際にランクの高いのを作れる確率を上げられるのーすごいでしょー」

「そうだね」


 本当かな?


 フェスはフィオーレの言葉に半信半疑だった。


「とりあえずこの場を移動しましょう」

 フィオーレと話をしていたフェスだったが、いきなりアーシャたちに話しかけた。

「な、なに? 急にどうしたの?」

 急に話しかけられたアーシャは驚きながらも理由を聞いた。

「盗賊たちの血の匂いに引き寄せられてきた魔獣たちが近づいてきています。

 アーシャ、マイン。エナの三人はフェスの言葉を微塵も疑うことなく頷いた。しかし、マックスとフィオーレは信じられない顔をしていた。それにたいしてフェスはマックスに「信じられませんか?」と聞くとマックスは、盗賊たちのことを思い出し「いや、信じるぜ」と答え移動する準備を始めた。

 フィオーレだけは理由もわからずにフェスの肩に座りだした。

 特に手に荷物のないフェスたちは、荷物を取りにキャリッジに入ったマックスを待った。

 手に荷物を持ったマックスがキャリッジから出てくると他の乗客たちも一緒に降りてきた。

「聖女様こいつらが謝りたいそうだぜ」

「謝罪は結構です。一緒に来る人は準備を……一刻も早くこの場を移動します」

「は、はい」

 フェスに促された乗客たちは自分の荷物を取りに中へ戻っていった。

「そんなに近くにいるの?」

「はい、すぐそこまで来ています」

 焦っているフェスにマインが聞いた。続けてアーシャも口を開いた。

「フェスにも倒せないの?」

「倒せます。しかし、全員を守り抜いて戦える数ではありません」

「そう……」

 話が終わるのと同時に乗客たちが降りてきた。

「聖女様準備が終わりました」

 馬車組合の女性が代表してフェスに報告すると、頷きアトカース男爵領領都カナーに向けて歩くことを伝えた。

 貴族の男だけは文句を言い始めたが、連結部を破壊されていることを伝えるとしぶしぶ納得して歩き始めた。

 乗客たちが離れたのを確認したフェスは「ごめんね」と謝りながら馬二頭のお尻を叩き魔獣たちの迫ってくる方向に走らせた。

「フェス?」

 フェスの行動の意味が分からなかったアーシャは、責めるような眼をしていた。

「かわいそうだけど、馬たちが襲われている間に逃げます」

 フェスが走っていく馬たちを見ながら言うと、アーシャが謝った。フェスは首を振るだけだった。

「行きましょう。馬たちの犠牲を無駄にするわけにはまいりません」

 アーシャ、マイン、エナは頷くと乗客たちを追って歩き始めた。マックスは内心「本当に子供かよ?」と思いながら歩き始めた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ