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第13話 夜営

 家に戻ろうとしたフェスだったが、探知に反応があった方へ歩いて行くと温めたミルクを貰いに来た見張りの冒険者の一人が焚き火にあたっていた。

 フェスに気がついた亜麻色あまいろの髪を首の位置で揃えて緋色の瞳の女冒険者が話しかけてきた。

「先程は温かいミルクをありがとう。体が温まったよ」

「お酒の方がよかったのでは?」

 女冒険者は、苦笑しながら首を左右に振った。

「流石に見張りの任務中には飲まないよ。で、どうしたんだい? 眠れないのい?」

 その質問には返事をせずに森の先を指差した。

「何か来ます」

 その言葉に驚いた女冒険者は、フェスの指差す方を見た。しかし、月の光が届いていないために真っ暗で何も確認できなかった。女冒険者は、フェスを訝しげに見てから確認するように口を開いた。

「気のせいじゃないのか?」


 やっぱり確認することは出来ないのか……。探知を使っているから僕もわかったんだけど。


 内心で思いながらも女冒険者の言葉に首を振った。

「人間が一人、その後ろに魔物、森狼フォルストヴォルフ数十匹が追いかけてきています」

 フェスの言葉を信じられなかった女冒険者は、肩を竦め溜息をついた。ここにいてわかるわけないでしょ! 出鱈目を言うんじゃない! と口を開こうした女冒険者の耳に森の奥から男の悲鳴が聞こえてきた。

「た、助けてくれ!」

 男の声が聞えたのに驚いた女冒険者は、フェスに話しかけた。

「本当に森から人の声? 何故わかった?」

「私のいた村は毎晩のように盗賊や魔物といったものに襲われていました。そのために村人の数人は探知能力を持っています。わたしも知らない内に使えるようになっていました」

「えっ!」

 フェスの言葉が信じられなかった女冒険者は、詳しい話を聞こうとした。女冒険者が口を開くよりも前に森から一人の商人風の服装をした男が飛び出してきた。その男を見た女冒険者は助けに行こうとした。それをフェスは止めた。

「なんですか! 貴女の言うことが正しいのなら早く助けないと危ないのでしょ?」

 なぜ止められたのかわからなかった女冒険者は焦った。それに対してフェスは、落ち着いた口調で女冒険者に言った。

「でも、あれ盗賊ですよ?」

 女冒険者はまたも信じられないことを聞きフェスを見た。

「先ほども言いましたが、私のいた村は盗賊に良く襲われていました。盗賊は雰囲気でわかります」

「本当ですか?」

「はい、最近は一度も外していません」


 もちろん嘘です。ごめんなさい。


 内心で謝りながらもフェスは、教会から貰った身分証を女冒険者に見せた。

「今そんなの見せられてもどうしようも……えっ!?」 

 身分証を見せられた女冒険者は最後まで言葉にすることが出来ずに息を呑んだ。

「……せ、聖女様? 聖女様がなぜこのような場所に?」

 フェスが聖女であったことにも驚いたがそれだけではなかった。

 毎日命の危険に晒されている冒険者、行商で街から街へと移動する商人に一般市民まで全大陸の全員がどこかしらの教会に所属していた。理由は協会に所属していなければ薬などは買えないし、いざという場合に回復魔術を唱えてもらえないからだ。

 女冒険者は、セラビア教会の信徒ではないので影響はないと思われるのだが教会内にも身分制度はある。

 他の教会の人に対して命令することは出来ないが自分より上の人に対しては敬意をもって接しなければならない。

 聖女とは信者によっては教皇よりも聖女を敬っている者も多い。女冒険者が他の教会の信徒だとしてもフェスをないがしろにできないのだ。

 

 女冒険者は、フェスに言葉使いを正して話しかけた。

「聖女様の言葉を信じないわけではありませんが、彼は本当に盗賊なのですか?」

「はい、間違いありません。しかし、現在置かれている状況においての問題はあの盗賊ではありません。あの盗賊男の後ろから追い掛けてくる森狼フォルストヴォルフの方です」

 先程は盗賊のことで頭が一杯だった女冒険者は、フェスの言葉を聞き再び驚愕した。なぜなら森狼フォルストヴォルフ一匹いたら十匹以上いるのが普通だからだ。

 フェスと女冒険者が話をしていると商人風の男は目の前まできていて助けを求めていた。

「た、助けてくれ! 頼む! 森狼フォルストヴォルフに追われているんだ」

 商人風の男の後を見てみると五頭は森の外まで追いかけてきていたが、残りは森の中に隠れていた。


 でか! なんだあの大きさは!?


 フェスは、森狼フォルストヴォルフの大きさに驚きながら探知と鑑定を使い確認してみた。


 【鑑定】

 【森狼フォルストヴォルフ

 狼が魔獣化し森に住み着いた生物。

 雑食であり同族以外全て狩りの対象とみなし襲い掛かる。

 狩りを行なう際には十匹頭以上で群れをなし集団で獲物を追い詰める。

 獲物を追い掛ける前には役割分担が決まっているために吠えたりせずに追い詰める。

 生体体長:二~三メートル

 変異種:五メートル以上の森狼フォルストヴォルフが発見されている

 上位種は発見されていない

 魔物ランク:一頭Fランク、集団になるとEランクになる


 森狼フォルストヴォルフは、フェスと女冒険者に目もくれずに女冒険者の隣にいる商人風の男を威嚇していた。


 なぜ、この人ばかり威嚇するんだ?


「もしかして、森狼フォルストヴォルフに何かしましたか? 貴方を見て怒っているようですけど」

「い、いえ……俺はなにもしていない」


 嘘だと思う。声がどもっているし、なにより話し方が変わった。


 先程から女冒険者の声が聞こえなかったために気になりフェスが見てみると、森狼フォルストヴォルフを見つめたまま硬直していた。

  

 フェスの隣にいる女冒険者は、GランクからFランクに上がったばかりで、街の外での依頼は今回が初めてだった。

 街の外での依頼が初めてと言うことは、護衛の依頼も初めてでありこの数の魔物と出会ったのも初めてだった。

 自分で対応できないのなら指笛を吹いて仲間を呼ぶべきなのだが、硬直し頭の中が真っ白となった女冒険者は、何をするべきなのかわからなくなっていた。

 

 もしかして、Dランクじゃないのかな? 隊長のパーティは、Dランク冒険者だけじゃなかったのか……。もしかして、所属しているギルドがDランク、とかかな? 


 内心で呟いたフェスは、空間倉庫から弓矢を取り出すと森狼フォルストヴォルフに向けて弓を引き矢を射た。一番手前にいた森狼フォルストヴォルフの眉間に刺さり横に倒れた。

 続いて弓を引き三連続で矢を射ると三匹の森狼フォルストヴォルフの眉間に当て倒した。

 一瞬の内に四頭が倒されたのを見た一匹は、体を反転させて逃げ出そうとした。それに気付いたフェスは矢を射た。すると逃げ出そうとしていた後頭部に突き刺さり絶命させた。

 次々の仲間を倒された森狼フォルストヴォルフの一匹が遠吠えをした。遠吠えが聞こえたかと思った瞬間には、森の中からフェスたちの動向を眺めていた残りの森狼フォルストヴォルフたちは森の奥へと逃げ出した。

 近くに魔物がいなくなったのを確認したフェスは、倒した森狼フォルストヴォルフに近づき死骸を空間倉庫に収納した。

 収納して女冒険者の傍に戻り話しかけると、硬直が解けたのかフェスに話しかけた。


「聖女様大丈夫ですか?」

 女冒険者がフェスにを聖女様と言った途端に、商人風の男は、お前が聖女か。と小声で呟きながら獲物を見つけたかのように目つきが変わり、口元はニヤつき左手を腰に回しながらフェスに近づいてきた。

「聖女様でしたか……助かりました。ありが……」

 フェスは商人風の男の言葉を最後まで聞かずに、男の鳩尾に拾った石を投擲とうてきして気を失わせた。それを見た女冒険者はフェスに詰め寄った。

「聖女様! 何をしているんですか!?」

「盗賊ですよ?」

「商人に見えます。確認してからでも拘束できました」

「こういうところに現れる盗賊が盗賊の格好をしますか? 商人の服装くらいするのではないですか?」

「しかし……」


 その前に盗賊の服装って決まっているのかわからないけど。


 騒がしくしていたために東側を見張っていた茶髪ブラウンの瞳、身長二メートルくらいのDランク冒険者の護衛隊隊長が確認しにきた。

「騒いで何かあったのか? 君は……先程は温かいミルクをありがとう。だが、どうしてここに?」

「ルーキス隊長、こちらはセラビア教会の聖女様です。そして聖女様は、この商人風の男を盗賊だと言うのです」

「聖女様!? 君が? ……いや、それなら建築魔術くらい使えたのもわかる……」

 女冒険者の言葉に驚きつつもルーキスと呼ばれた隊長は、「いや、今は……」と呟いてから商人風の男を見た。男の手を見たルーキスは、フェスへ振り返り口を開いた。

「流石は聖女様ですね」

 その言葉に信じられないと顔をした女冒険者に、少し呆れた顔をしながらもルーキスは説明した。

「アニー、まだわからないのか? この男の左手を確認して見ろ」 

 アニーと呼ばれた女冒険者は、ルーキスに言われるままに倒れている商人風の男の左手を見てみた。

「えっ!?」

 商人風の男の左手にはナイフが握られていた。

「ルーキス隊長この男は?」

「盗賊だと言っているだろ! まあ、盗賊かどうかの見極めは経験が必要だがらな。しかし、聖女様がいなかったらお前は殺されていたかもしれないし、知らなかったこととはいえ聖女様を誘拐されていたかもしれないのだぞ! ……だが、何故この男がここに?」

 ルーキスに注意を受けたアニーは俯いてしまったが、聞かれたアニーは顔を上げて報告を始めた。

「この男が森狼フォルストヴォルフに追われてここまでのがれてきました」 

森狼フォルストヴォルフだと? その割には姿が見えないようだが?」

 ルーキスはアニーを問い詰めるように視線を向けた。

「本当です! 聖女様が森狼フォルストヴォルフを五匹倒すと逃げて行きました」

「聖女様? なら、アニーは何匹倒した? 死骸がどこにもないようだがどうした?」

 森狼フォルストヴォルフの死骸がどこにもないのを確認したルーキスは、出鱈目な報告をしていると思いアニーを強めに叱責した。

 アニーは困った顔をしながらフェスに視線を向けた。


 冒険者って人の話を疑うところから始めるのか? 少しは人の話を信じろよ。


「ルーキス様、こちらを……」

 フェスはそう言ってから先程の五匹の森狼フォルストヴォルフの死骸を空間倉庫から取り出して見せた。

 五匹の森狼フォルストヴォルフの死骸を見た……いや、全ての死骸に一本の矢が刺さっていたのを見たルーキスは唾を飲み込んでから口を開いた。

「ほ、本当にこれを聖女様がやられたのですか? いや、それよりも半人前とはいえ冒険者のアニーが一匹も倒していないとは、何をやっていた? 自分で倒せない場合は指笛を吹けと言っておいたはずだ!」

「すみません……恐ろしさのあまりに硬直していて……何もできませんでした」

 ルーキスの叱責にアニーは、本気で落ち込んでしまった。

「護衛の依頼が初めて、と言うより街の外の依頼は今回初めてだったな……次回からはきちんと指笛を吹けよ? お前が他の者に知らせないで死んだ場合大勢の人が死ぬことになる。厳しいことを言うが……死ぬのなら指笛を吹き危険を知らせてから死ね。それが見張りの最低限やらなければならないことだ」

「……わかりました。申し訳ありませんでした」


 後輩育成もいいけど盗賊を何とかしろよ。


「ルーキス様、とりあえず盗賊を何とかしませんか?」

 フェスの言葉により二人の世界から戻ってきたルーキスが、盗賊を見てからフェスに向かって頷いた。

 アニーが置いてあったロープを拾い盗賊を後ろ手に縛り付けてから気絶していた男をを揺さぶったり頬を叩いたりして起こした。

 起こされた男は、自分の置かれている状況に驚いた。

「こ、ここは? あっ! い、いきなり何をするんですか? 物をぶつけたり、縛ったりして……」

「いきなりって、私をナイフで襲おうとしましたよね? 左手にナイフを握って」

「お前が盗賊であることはわかっているんだぞ!」

 男の言葉にフェスが返答しルーキスも続いた。

 男もその言葉を聞いて自分が盗賊なのをばれたことに気付いたが平静を装って話し始めた。

「何のことですか? 私は商人です。旅の途中で森狼フォルストヴォルフに襲われて逃げてここまで来たんです。手にナイフを持っていても不思議ではないでしょ?」

「商人ですか? なら、商業協会の身分証を見せてください」

「……襲われた際に落としたようです」


 必死で逃げて今は、縛られているのに何で落としたとわかる?


 フェスの身分証を見せろの言葉に誤魔化そうとしたが、それにはルーキスが反応した。

「縛られているのに落としたことによく気がついたな?」

「……」

 男は視線を逸らし黙ってしまった。そこにフェスが口を挟んだ。

「ルーキス様、この方を次の村なり街へ連れて行き正悪の水晶と商業協会で確認してもらいましょう」

 フェスの提案にルーキスとアニーも頷いていた。商人風の盗賊の男だけは顔色が悪くなってきていた。

「では、この男は我々が管理いたします。よろしいでしょうか?」

「はい、よろしくお願いします」

 フェスはルーキスに盗賊の男を任せることにした。

「聖女様、そろそろお休みください。まだ夜は寒いのでお体に障ります」

「お気遣いありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきますね」

 満面な笑顔で言ったフェスに困惑しているルーキス、アニーとついでに盗賊の男をその場に残し木の家に戻った。


「お、おい! 見たか? 聖女様の笑顔を」

「はい、女の私でも見惚れる笑顔でした。流石は聖女様です」

「ああ、フードで顔全体が見えなかったが何故だが素晴らしい笑顔だと思ってしまった」

「はい」

 ルーキスとアニーの二人は、ボソボソとフェスに聞こえない様に話し合っていた。二人の足元に転がされていた盗賊の男も頷いていた。


 その光景を見ていた二人の男のことを誰も気付いていなかった。


 木の家に戻ったフェスを待っていたのは、心配そうな顔をしていたエナだった。


 エナちゃん随分と心配そうな顔をして……。心配させてしまったかな?


「エナちゃん大丈夫? 寝ていてもよかったのに」

 首を左右に勢いよく振ったエナはフェスに抱きついた。

「……ごめんね、エナちゃん心配したよね?」

「怪我してない?」

「うん、大丈夫……もう大丈夫だから……もう寝よう、か?」


 エナは頷いたがフェスから離れようとはしなかったのでくっついたまま布団の中に入り二人して眠りについた。

 

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