第9話 領主館
ベッドで寝たはずのフェスは、起きて立っていた。そして、自分が何処にいるが気づいて一言。
「またですか?」
フェスのいた場所は、創造主セラの白の世界だった。
「フェスちゃん、何度も呼んでごめんね」
「……セラ様、ちゃんは止めてくだ……」
声のした方に振り向き、ちゃん付けを止めてもらおうとしたフェスだったが、創造主セラの隣に立っている一人の人物と目が合い言葉に詰まった。そして、暫くしてから笑ってしまった。
「あはははは! 竜耶、なにその格好?」
「君には言われたくないよ……聖女様」
「な、なぜ、それを? セラ様に聞いたの?」
「そうだよ」
創造主セラの隣にいたのは、竜耶だったのだが、服装は、フェスと同じ女の子用の寝間着であるネグリジェを着ていた。フェスと竜耶、二人して女の子の格好をしていた。
「竜耶は、お姉ちゃんに着せられたのか?」
「……体が自由に動くとわかったら、女の子の服ばっかり持ってきて、今日一日僕を着せ替えして写真? を撮って遊んでいたよ」
竜耶は、ぐったりと疲れたように項垂れた。
「そ、そうか……」
フェスは、項垂れている竜耶を自分と同じ境遇で嬉しい気持ちもあり、曖昧な返事しか返せなかった。
「でも、本当に喜んでくれているから……飽きるまで付き合ってあげるよ」
項垂れていた竜耶は、顔を上げ苦笑いをした。
「うん、頼むよ……暫くは飽きないと思うけどね」
「聖女様は、ずっと、女の格好でいくのか?」
「……聖女様は、止めてくれ。……まあ、旅の間は女の格好で行くことにしたよ」
フェスと竜耶、お互いこれからも女の子の格好をすると思うと自然と笑い合った。
「セラ様に聞きたいことがあります。よろしいですか?」
笑い合った後でフェスは、二人の話を聞いて微笑んていたセラに話しかけた。
「セラビア教会のことですか?」
「やっぱり、セラ様だったんですね。何故セラ様があの世界の神様に?」
セラは聞かれることをわかっていたのか長い歴史の話が始まった。
「それには、フェス君のいる世界の歴史から話さなければなりません」
最初の人類である人族が生まれたのが、約五百万年前。世界の最初の神は、二級神ティモリアの時代だった。この時代、自分が生きるので精一杯だったが誰もか自分のことだけではなく、他人をも思いやることの出来る心の豊かな時代だった。
川の側、湖の側などの水辺の側に、十~五十人単位の集落が出来始めた。友好関係はそのままに困っている集落があれば皆で助け合って暮らしていた。
この時代、二級神ティモリア神の存在は知られていなかった。ティモリアは、自分の子供たちを温かい目で見守っていた。
約二百万年前、人族から色々な種族が生まれ枝分かれすることとなる。生まれた理由は、人族と知性のある魔物との交配にある。無秩序に交配を繰り返す時代だった。だが、同じ人として仲良く暮らす時代でもあった。この時に生まれた人は、交配した相手により魔人族、獣人族、亜人族、妖人族と呼ばれるようになる。後に妖人族だけは、妖精族と種族名を改めた。種族名を変更した理由を知っている者は、既にいない。
この時代も二級神ティモリアの存在は知られていない。人族以外の人種が生まれたことは、ティモリアでも予想できなかった。ティモリアは、人族以外の人種も自分の子供として受け入れ見守ることにした。
約百万年前、人類最初の王国が誕生した。この頃から人類の歯車が狂い始めてきた。
王国を興した人族は、人族以外の血が流れている種族を迫害し、この時代に初めて奴隷制度が出来た。
最初は地上に必要以上に係わるべきではないと思っていた二級神ティモリアだったが、人族の多種族を迫害する姿を見て我慢が出来なくなった。ティモリアは、創造主セラに許可を得て三級神を数百柱創ると、共に種族毎に新しい大陸を作り移住させた。各大陸を監視する目的として三級神をそれそれの大陸に置いた。
この時代に初めて神なる者の存在を認識され始めたが、二級神ティモリアの存在は知られていない。
約五十万年前、種族毎に大陸にわかれたので、種族間の争いもなくなり長閑な時代が続くと、暇を持て余した三級神は、大陸の種族と交配を始めると、子供も生まれていた。
怒った二級神ティモリアは、一つの大陸を作り人との間に子供を創った三級神とその子供たちを移住させた。ティモリアは、この時に三級神との間に生まれた子供たちの能力を奪うか殺しておけばと、後に後悔することとなる。
三級神とはいえ神は神。神との間に生まれた子供たちは、最初こそ神の子、神人族と呼ばれていた。しかし、成長し始めた子どもたちは、自分の能力、強大な魔力を制御することを出来なかった。制御出来ない子どもたちは、暴走を始めた。
自分の親でもある三級神を襲い能力を奪い殺す者も現れた。暴走した子どもたちは、三級神を超える能力を有していたために、止められる者はいなかった。
そんな状況に陥っていたことをティモリアは、大陸に封印を施していたために気付いていなかった。
封印された大陸を簡単に出入り出来るようになっていた子供達は、五大陸に赴き病気を振り撒いたりする災厄をもたらす存在となった。
三級神の子供達は、神人族から悪魔族と種族名を替えられて恐れられる存在となった。
悪魔族の存在に気付いた二級神ティモリアは、自分の言葉を神託として降ろすために教会を作った。
この時代、地上に始めて二級神ティモリアの名前が認識されるようになった。
約十万年前、人類最初の戦争が始まる。この時はまだ大陸内の戦争でも小競り合い程度の戦争だった。後にわかったことだが、全ての戦争に悪魔族が関わっていたことが判明した。
二級神ティモリアは、病気をばらまいたり、小競り合いの戦争を引き起こすだけだった悪魔族を、まだ楽観視していた。そのために直接手を下していなかった。
約一万年前、大陸内で大きな戦争が起きる。流石に見るに見かねたティモリアは教会を通して神の言葉として神託を降ろし戦争を止める様に指示をした。だが、戦争を止める大陸はなかった。
悪魔族が戦争に介入していて、二級神ティモリアの神の言葉を悪魔の言葉だと言って、聞くことのないように指示をしていた。
ティモリアは、自分の作った人類を愛していた。一人一人自分の子供として愛していた。そんな愛すべき子供たちを裏から糸を引き戦争をさせる悪魔族のことを……戦争の原因を作る悪魔族を滅ぼすことを決めた。滅ぼすと決めたティモリアを動きは早かった。ティモリアは、全ての魔力を使い悪魔族の大陸を沈めてしまった。いくら自分の創った大陸や人だったとしても、神のしていい所業ではなかった。悪魔族の大陸を沈めたために枯渇した魔力を回復させている最中に、創造主セラに捕まり二級神の能力を奪われ神の序列から除名され封印部屋に入れられてしまった。神の能力を奪い安心した創造主セラだったが、油断だったと後に後悔した。
元二級神ティモリアは封印部屋から逃げ出し捜索をしたが発見することは出来なかった。
ティモリアの捜索ばかりする訳にいかなかったために捜索を終了させた。
ティモリアの代わりの神に選ばれたのは、二級神アマルティアだった。
アマルティアが赴くと世界は、ティモリアの行った悪魔族の大陸を沈めた行為を神の怒りと思った人類は戦争を終了させていた。
アマルティアが最初に行ったのは、戦争で荒廃した地上の回復と浄化を行うのと同時進行で、自分の宗教、教会を作った。
約三千年前、五大陸の全てに二級神アマルティアの教会が置かれるようになった。
約二千年前、二級神アマルティアは、人族の大陸ばかりに恩恵を与えるようになり他の四大陸は三級神に任せるようになっていた。
約千年前、人族大陸以外の四大陸から二級神アマルティア教会の全てが取り壊され、三級神に名前が付けられるとそれそれの大陸で信仰されるようになった。
それを知った二級神アマルティアは怒り、人族大陸のアマルティア教会に神託を降した。その信託とは、四大陸の教会に対し邪教認定をして、信仰を止めない大陸を滅ぼすよう命じた。
後に四大陸邪教殲滅戦争と呼ばれた。アマルティアの信徒による侵攻に対し反抗した四大陸間で同盟が結ばれた。同盟の名前を四大陸種族間同盟と呼ばれた。同盟の盟主には力や魔力に一番優れていた魔人族が、参謀には人族に及ばないもでも知略に長けていた妖精族からエルフ族が選ばれた。
アマルティア教会の信徒による四大陸邪教殲滅戦争が行われたが、ティモリア教会の信徒は戦争に参加しなかった。この時、全人族で攻めていれば、その後の悲劇は起きなかったかもしれない。が、そんなことを知る者はいない。
アマルティア教会の信徒による侵攻は続き、亜人族、魔人族、獣人族の各大陸の半分を攻め滅ぼすことに成功した。しかし、侵攻の勢いは其処までだった。それ以上攻める信徒の数が足りなくなり侵攻に勢いをなくしてしまった。理由としては、攻め落とした街にも信徒を置く必要があり、前線で戦う信徒の数が足りなくなったからだ。
人族による侵攻の勢いが弱まるのを待っていた四大陸種族間同盟は反撃の狼煙を上げた。
アマルティアの信徒が、各大陸において各個撃破され、各大陸から追い出され追撃され始めた。
四大陸種族間同盟は、一気に攻め込まずに、ゆっくりゆっくりと長い年月をかけ攻め上がった。
何故ゆっくりと攻めたのか? それは、人族以外の寿命が長いために攻め急ぐ必要はないからだ。
人族以外の寿命の短い種族でも二百年ほどの寿命があった。魔人族や妖精族に至っては千年以上の寿命がある。
兵士の数が揃うと攻め込み、攻め落とすと待機して兵数が揃うのを待ち、兵数が揃うと攻め落とすを繰り返した。ゆっくり何年も何十年、何百年もかけて攻めるために、人族の優秀な者は寿命で死んていった。そうなるとさらに攻め落とされを繰り返された。
人族の大陸まで攻め込まれ危機感を覚えたティモリア教会の信徒たちも戦争に参加するようになった。だが、四大陸種族間同盟の勢いを防ぐことはできなかった。ティモリア教会の信徒たちの戦争への参加は手遅れだった。
一種族対四種族、数の差が違うのもあるが能力に差があり過ぎた。知力に優れていた人族は、多彩な戦略を立てた。それに対して四大陸種族間同盟は、人族の知力を力と魔力によって力押しで潰していった。
人族の大陸に攻め込まれ数百年、人族は何代も代替わりをしているのに対し他種族に代替わりは人族程起きていない。戦争によって経験を積んた者の他に、次々と新しい戦力が戦場に投入されると攻め込まれを繰り返され人族の大陸は三分の一まで奪われてしまった。
最早人族に戦う体力、気力はなく、相手に殺されるくらいなら自決する道か降伏し奴隷になってでも生き残る道を選ぼうとする二択に迫られていた。
奴隷になってでも生き残る道を選んだ者たちによって、降伏の準備を行っていたときに奇跡が起きた。
人族大陸最西端にあった小国の一つ、ヴェスナー王国に十人の異世界人が現れた。
十人の異世界人の魂の色は金と銀で、少しの戦闘訓練を受けただけで十人全員が戦闘技術、魔術で対抗できる者がいなくなってしまった。知識においてもこの世界ではあり得ない程に高かった。
十人の異世界人が生き残りの人族を率いた。
ここから人族による反撃が行われた。
十人の英雄と呼ばれることとなる六人の男と四人の女が戦争に加わって約一年、人族の大陸を全て奪い返すことに成功した。
ヴェスナー王国の提案で、再び四大陸に攻め込み数百年にも及ぶ恨みを晴らそうとした人族だったが、十人の英雄はその提案に真っ向から反対した。もともとは、人族によって始められた戦争であり、恨みなら他種族側にもある。お互いにある恨みを忘れることはできないだろうか……今が、戦争を終らせる絶好の機会だと説き戦争終結を四大陸に働きかけるべきと発言した。
十人の英雄の必死の説得によりヴェスナー王国を残し賛成多数により戦争終結を決めた。
早速、四大陸に対し戦争終結の書簡が送られ締結されることとなった。
攻め込むべきと宣言したヴェスナー王国の者たちは、内心怒り狂っていた。そこに二級神アマルティアの神託が降りた。信託の内容は、四大陸の神の邪神認定を取り消しそれぞれの種族の神の存在を認める。他国間戦争を止める様にと。
四大陸に攻め込みたかったヴェスナー王国は、神の信託にしぶしぶ従い国に戻った。十人の英雄も自分たちの最初の地でもあるヴェスナー王国に戻ることにした。十人の目的は、元の世界に戻る方法を探ることだった。しかし、その選択が十人に不運をもたらした。
ヴェスナー王国で、元の世界に戻る方法を探していた十人の英雄に不運が続いた。不運とは、十人の英雄の度重なる不審な死だ。四人が死体で発見され一人が行方不明となった。
次は自分たちの番かもしれないと話し合った五人は、ヴェスナー王国から姿を消した。
戦争に巻き込まれた国が戦後処理、国の復興を始めた。が、すべての国が戦争に巻き込まれたわけではない。復興作業、国の立て直しを必要としない国々は、早々に戦後処理を済ませると隣国へ攻め入った。復興中だった国々は、不意打ちを食らってしまい滅ぼされてしまった。滅ぼされた国の民たちは、奴隷にされた。奴隷にされた人々は、途中だった土地の復興を続けさせられた。
戦争を始めた一国の一つだったヴェスナー王国が台頭し、人族大陸の四分の一を攻め獲ったころに、復興中の国々は同盟を結び抵抗を始めた。
ヴェスナー王国と同盟国が睨み合いを始め戦争が長引くかと思われたところへ、英雄の生き残りの五人が戦場に現れると、全魔力を使い大地に攻撃をした。その攻撃によりヴェスナー王国と他国との間に後にシエンユアン峡谷と呼ばれる峡谷ができた。峡谷によりそれ以上戦争を仕掛け領土を拡大出来なくなったと察したヴェスナー王国側から一方的に戦争終結を宣言した。一方的に戦争を始め一方的に戦争を終わらせたヴェスナー王国に多くの国々は面白くなかった。しかし、これ以上戦争をしていたら疲弊しきった国は立ち直りが難しくなると、五人の英雄に諭された国の代表たちも納得し戦争終結に賛同した。
これにより五大陸から戦争はなくなり、一時的に平和となった。
戦争終結から数ヶ月後に、ヴェスナー王国は、国名を神聖ヴェスナー帝国と変更した。
初代皇帝は女帝であり異世界人だったという噂が流れた。
戦争終結を成ったのを確認後、二級神アマルティアは、最後の仕事として簡単に他大陸へ戦争を仕掛けることのできないように大陸と大陸の間に大森林を作り創造主セラの元へと赴いた。
長い他国間戦争を起こす切っ掛けとなった二級神アマルティアは、神の力を奪われた後に謹慎処分となった。
謹慎中のアマルティアは、いつの間にか姿を消していた。
アマルティアの後に新しく二級神が神として降臨したが、長く続かなかった。一年、二年、長くても数十年と短く自分の教会を創ると辞めていた。全員が辞めた訳ではなく、行方不明になった神、殺された神までいた。
そして、十年前に元二級神ティモリアによるフェスと竜耶の魂の取り換え事件が起きた。
神のいない世界では、大地が安定せず荒廃が進むために創造主セラは、セラビア神として世界を見守ることにした。実際には、フェスを見つけた後で見守ることの出来る様にするためだった。
神として降臨してから十年で、五大陸に教会が建てられた。たったの十年で、五大陸中に教会が広まったのは驚くべき速さだった。
…………
長い創造主セラの話を聞かされたフェスが一言呟いた。
「セラ様……話長いです……最後の言葉だけで良かったのでは?」
フェスの言葉に竜耶も頷き口を開いた。
「そうですよセラ様。そんな歴史と言うか神話? の話僕に必要ですか? 聖女様だけで良かったのではないですか?」
「竜耶、それはないだろ!」
「一応、世界の歴史を教えていた方がいいかと思いました」
フェスと竜耶のやり取りを微笑しながらセラは、竜耶の質問に答えた。あまり意味はなかったようだ。
「今の話しに気になったことがあります」
「はい、フェス君。気になったこととはなんですか?」
「一番目と二番目の神の行方、十人の英雄の五人を殺した人、生き残った五人の行方、元の世界に戻ることは出来なかったのか、僕達二人を入れ替えた理由……最後に、十人全員が金と銀の魂を持つと言っていましたが、そんなに都合のいいことありますか?」
「一つ一つ説明しましょう。ティモリアもアマルティアも現在も発見できていません。……いえ、正確には、フェス君のいる世界にいます。反応を感じた場所に赴くと消えるの繰り返しなのです。
五人を殺したのは、神聖ヴェスナー帝国です。理由は、貴族たちの言うことを聞かない者は邪魔だからです。しかし、一人の女性だけ操ることに成功しました。その女性が神聖ヴェスナー帝国の初代皇帝であり女帝です。
生き残りの五人は、それぞれ自分の国を見つけ名を残しています。旅をしながら探すのも良いかもしれませんね。
フェス君と竜耶君を入れ替えた理由は、残念ながらわかりません。
次元の穴は、一方通行で戻ることは叶いません。こちらからあちらへの道を私が塞いてしまったためでもありますが、なにより彼らのいた五百年前の世界に時空の穴はなかったのです。
全員の魂が金と銀だった理由に特別なことはありません。彼ら彼女らは、竜耶君の世界の今から約三年後の未来のある学校にいた人たちなのです。その学校とは、優れた才能の持ち主を集めて教育を施す場所です。そして、運の悪いことに学校の生徒だけではなくそのご家族も集まっていた日に時空の穴が開き……全員が巻き込まれました。…………現在過去未来へと色々な時間へと……」
「…………ありがとうございました」
神様がどうして魂を入れ替える必要あったのかな? ……まあ、今更理由を知ったとしてもどうしようもないけど……。日本にそんな学校があったとは……それにしても子どもたちだけではなく親も巻き込まれるとは、何百人になるのかな? そんな人数がいろんな時間に飛ばされたのか……? 時空の穴って、そんな大規模なものなのか?
フェスは考えことをしているとセラが、心配そうな顔で竜耶を見ていることに気付いた。
なんだ? セラ様の竜耶を見る顔は…………まさか竜耶も巻き込まれるのか?
フェスが考えことをしながらセラと竜耶を見ていると、竜耶がセラに話しかけていた。
「魂に金とか銀って、……魂に色が付いているんですか?」
「正確に言えば違います。魂に色がついている訳ではなく、フェス君のいる世界にある魂判別水晶球という魔道具でみた場合にのみ魂の色を判別出来るのです。竜耶君の世界で言えば、天才とか秀才、知識だけではなくあらゆる能力の高い人たちが金銀白の可能性が高いですね」
「竜耶、もともといた世界なのに知らなかったのか?」
竜耶とセラが話し始めたことに気付いたフェスは、考えるのを止め二人の話を聞いていた。
フェスの質問に竜耶は、首を振ると「全然、全く聞いたこともなかった」と、こともなげに答えた。それを聞いたフェスには、「そうなんだ」としか返せなかった。
「そういえば、神様でも死ぬんですか?」
先ほどの話の中に、死んだ神様もいたことを思い出したフェスは、そのことをセラに聞いた。
「死にます。神は不老ですが、不死ではありません。もっとも私は、不老不死です。殺されても死にません」
セラ様以外の神は、死ぬ…………もしかして、僕か竜耶どちらかが邪魔になると感じたから入れ替えた? ……入れ替えたら歩けなくなるわけだから、邪魔なのは……僕、か? そうだとしたら、僕がティモリア神の邪魔をする存在……もしくは、殺す存在になると思った? ……まさかね。
そんなことを考えていたフェスは、視線を感じた方へ振り向くとセラと目があった。セラは、首を振ってからフェスへと話しかけた。
「フェス君……その考えは、私も色々と考えた中で一番高い理由だと思っています。しかし、普通に生活しているだけなら人は神と遭遇することはありません。それなのに入れ替える必要はあるのか? 考えれば考える程わからなくなっていきます」
「本人に聞くのか一番だということですね」
「そうなりますね」
一番難しい方法でもありますけどね。と話を切り上げた。
「最後に聞きたいことはありますか?」
「……今のところは特にありません」
フェスに続き竜耶も無いと答えた。
「……フェス、欲しい知識はあるかい?」
「料理かな? 簡単なのからお願い」
「いいけど、どうして料理なの?」
「あまりおいしい料理ないから自分で作ろうかと思って」
「確かに二つの世界の料理を比べると…………比べることもできないね。わかった。料理と必要になりそうな本を読んでおくよ」
「うん、頼むよ」
「また、ここで会うか念話で話そう」
「そうだね。次元の穴? に落ちないよう気を付けて」
「気をつければ落ちないのかな?」
「どうかな?」
笑顔で話しているフェスと竜耶のやり取りを見ていた創造主セラは、話が終わったのを見計らって口を開いた。
「時間です」
二人は、セラを見て頷いた。
「やっぱり朝になってる。……まさか、毎晩は、呼ばれないよね?」
フェスが目覚めたのは、約束の二の鐘の鳴る少し前だった。
フェスは、ベッドから起き上がると空間倉庫から桶と布を取り出すと生活魔術の【水】を唱えた。
【水】を唱えると何もない所から水が注がれて桶を一杯にした。フェスは、魔術で唱えた水とかお湯ってどこから出てくるのか考えた。だが、わかるわけもないのですぐに考えることをやめた。
フェスは、顔を洗い布で拭くと、空間倉庫から建築魔術の本を取り出し読み始めた。
……簡単な建築は、旅でも使える土で作る半球体で入口だけあるもの、か……。テントよりは良いかもしれないけど、イメージ的に汚い感じするから他のにしよう。…………これなら出来そうだ! 木で作るログハウス。材料は、木と魔力? 注ぐ魔力に応じて使用する木の量が変わる? 材料の木は、薪でもいいのかな? 魔力の量はよくわからないけど……それほど使用しないみたいだから大丈夫だと思う……。
フェスが本を読んでいるとエナが目を覚まして起きてきた。
「おはようございます」
「おはようエナちゃん、よく眠れた?」
「はい! ふわふわ、気持ちよかったです」
寝心地の良かった布団を思い出したエナは、眩しい笑顔をフェスに見せた。
「それは良かった。桶に水入ってるから顔洗っていいよ」
フェスもつられて笑顔をとなり、顔を洗うように勧めるとエナは、まだ寝ているアーシャとマインを見てから「私は、最後に洗います」と遠慮した。
「どうして?」
俯きながら言ったエナが気になったフェスは、理由を聞いた。
「わたしが先に洗うと水が汚れる」
「お風呂に入ってから寝たんだからそんなに汚れる訳ないでしょ? もし汚れても新しい水と入れ替えるだけだよ?」
説得するフェスにエナは、首を左右に振り最後でいいと頑なに引かなかった。無理強いさせることでもないと思ったフェスは、エナの気の済むようにさせることにした。
そろそろ気持ちよく寝ているアーシャとマインの二人を起こそうかと考えたフェスだったが、その前に二人は目を覚ました。
目を覚ました二人だったが、まだまだ寝ぼけているようだった。冷たい水で顔を洗うとやっと目が覚めた二人が寝間着から服に着替えたのを見たエナがやっと自分の顔を洗った。
「エナちゃんどうして、顔洗っていなかったの?」
自分たちより早く起きていたエナが顔を洗っていなかったことに気づいたアーシャが聞くと、どう答えていいのかわからずに困っていたエナを見たフェスが代わりに答えた。
「エナちゃんは、二人より先に洗うのを悪いと思って、二人が起きるのを待っていたんです。気にしないでいいと言ったんですけどね」
「フェスの言う通りよ? エナちゃん、気にしないでいいからね」
フェスの言葉を聞いたアーシャがエナの頭を撫でながら言うと、マインもこれから一緒に旅に出るのだから気にしないでいいよ、と優しく微笑みながら言うとエナは頷いた。
「まあまあ。もういいじゃない……エナちゃんも着替えたら?」
エナも寝間着から先日にフェスから借りていた服に着替えると部屋から出て鍵をかけて一階へと降りた。
一階に降りると食事処兼宿屋【陽は沈まない亭】の宿屋側の担当者であるユイナが待っていた。
「おはようございます」
ユイナは、早朝ところか深夜にも関わらずに信じられない程の満面の笑顔と優しい声色でフェスたちを出迎えた。これから出かけることを伝えると一瞬驚いた顔をした後に笑顔に戻った。フェスから部屋の鍵を受け取ったユイナは、宿屋の出入口まで見送りをした。
……いつもいるけどユイナさんって、いつ寝ているのかな?
東門が見えるところまで歩いていた四人の耳に、二の鐘が鳴るのか聞こえてきた。
「一回の鐘……二の鐘が鳴りましたね。急ぎましょう」
フェスの言葉に三人が頷くと東門へと急いた。
東門に到着するとフェスたちの姿を視認した三人の男の子たちが駆け寄ってきた。
「おはようございます」
三人の男の子達は、元気よく挨拶をしてきた。朝早いのに元気だなぁ、と苦笑したフェスだったが、アーシャ、マイン、エナも挨拶をしていたので、フェスも挨拶を返した。
「昨日帰って来なかったけどどこ行っていたんだ? きちんと寝たのか?」
男の子の一人がエナに心配そうに聞くとエナは、嬉しそうに話した。
「お姉ちゃんたちの宿で一緒に寝たの! ふかふかのベッドで! お風呂にも入ったんだよ!」
その言葉に男の子の三人は、羨ましそうにエナを見ていた。
「失礼なことを聞いてもいいですか?」
そんなに羨ましいのかな? と思いながら男の子三人を見ていたフェスは、一言断ってから質問した。
「なんだ?」
「……いつも君達は、どこで寝ているの?」
本当に聞いていいのかわからずに迷ったフェスだったが、結局は聞くことにした。
「元々貴族様の屋敷だった廃墟に住んでいます」
「危ないので、取り壊しが決まっていたんだけど、領主様が使うのを認めてくれたんです」
「屋根と壁が壊れているから寒いけどね」
「……毎年、冬には数十人が寒さと飢えで死ぬ……」
フェスに聞かれたことを何とも思っていないように男の子三人は順番に話したが、最後のエナを聞いたフェス以外の人は口を開くことも出来なくなってしまった。自分以外の人が暗い顔をしているのを見たフェスは、最後まで黙っているつもりだったことを少し話した。
「この仕事が上手くいけば、もう寒さと飢えで死ぬ子供はいなくなるよ」
フェスの言葉を聞いた全員の顔が明るくなった。
「本当か?」
「絶対とは言えません。領主次第です。……しかし、聞いたここの領主の評判なら大丈夫だと思います」
エナの明るい声で聞かれたフェスだったが、絶対ではないと言うと明るさを失いそうになっていたエナに大丈夫と答えた。
全員がフェスへ詳しい説明を聞きたがっていたが、街の中で話し他の人に聞かれると失敗するので話せないと言ってから東門の門兵のところへと向かった。
そんなフェス載せ神名を見ていた全員は、納得できない顔をしていたが、失敗すると聞くと、聞くに聞けなくなってしまった。
「現在は、許可証のない者を街の外へ出すわけにはいかない。戻りなさい」
許可証を持っていなかったフェスは、教会から受け取った聖女としての身分証を門兵に見せた。身分証を確認した門兵は、門の端にある兵士専用の出入口を開けて通れるようにした。
「どこに行くのか存じませんがお気をつけて下さい。本来なら四の鐘がなるまでは街の中に入ることは出来ません。しかし、今の身分証を外の兵士に見せれば開けてもらえます」
「わかりました。ありがとうございます」
フェスたちは、門兵にお礼を言うと門の隙間から街の外に出ると北の森に向かって歩き出した。
フェスを監視、尾行していた連中は許可証を持っていなかったのか一人としてフェスを追ってくる者はいなかった。
誰も追ってきていない、やっぱりこの時間にしてよかった。あの連中にバレると大変なことになるから……?
皆の視線が自分に向いていることに気づきフェスは首を傾げた。
「どうかしましたか?」
「どうして簡単に街の外に出られたんだ? 普通なら許可証がないと出られないはずなのに……アンタの持っている身分証は一体?」
「……人には知らないでいいこともあるんですよ?」
「……わかった」
聖女であることを知られたくなかったフェスは、なんとか誤魔化すことに成功した。
「それにしてもこんな時間に何するつもりなの?」
「…………岩堀です。三人にある鉱物を掘ってもらいます」
アーシャの質問にもう話をしても大丈夫かと思ったフェスは、男の子三人を見てから話した。
「鉱物?」
「今はここまでです。後は掘ってみてからです。……売れない鉱物かも知れませんから」
森を抜けて岩山に到着したフェスは、探知を使い近くに人がいないのを確認すると次に探査を使った。
銀まで一番近いのは……向こうかな?
探査で確認した場所に到着すると空間倉庫からツルハシを取り出すと男の子三人に手渡した。ツルハシを手渡したフェスは、岩山のある部分を指差すと掘るように言った。男の子三人は受け取ったツルハシで、指示された場所を掘り始めた。
疑問に思うこともあるだろうに……質問もせずによく働く。
ツルハシを振り下ろし何度も岩山を掘る姿を見てそんなことを思ってたフェスにマインが話しかけた。
「私たちはなにもしないでいいの?」
フェスは、マインの質問に少し考えてから薬草でも採りましょうか、と答えた。アーシャ、マイン、エナは頷くとフェスから採取用のナイフト籠を受け取ると薬草を探した。
フェスはといえば、探知で見つけていた豚の動向を探っていた。
二匹こっちに向かってきている。今回は倒せるかな? 豚カツに生姜焼き……普通に焼き肉も良いなぁ……。
街の方角から三の鐘が聞こえてきた頃にフェスは、男の子たちのツルハシを止めた。
「どうして止める?」
「少し待ってて下さい」
フェスは、男の子たちが掘っていた岩山に近づくとしゃがみ、一つの塊を手に取り回しながら見た。ナイフで塊を少し削ると笑顔を見せた。
「どうしたのフェス? 急に笑顔を見せて」
アーシャの言葉に反応したフェスは、立ち上がり手にしていた塊を皆に見えるように見せた。ナイフで削った一部分が銀色に輝いていた。
「……これは!」
「マイン姉様はわかったようですね。私の目的の鉱物だった……銀です」
マイン以外の四人は、見せられた石の塊に色が付いているだけと感じていただけに、銀と聞かされて声にもならないほど驚いていた。
驚いている皆に向かってフェスは、さらに話を続けた。
「これから街に戻り朝食を食べた後に領主館にいきます。ここから先、この岩山のこと、銀のことは口に出さないようにお願いします。この領地の領主に悪意を持っている者や犯罪者に見つかると……どうなるかわかりますね?」
フェスの迫力に負け言葉なく全員が何度も頷いていた。
脅しすぎたかな? でも、本当のことだし……仕方がないかな。
「では、街に戻りましょう」
フェスの言葉に頷いた男の子三人は、フェスにツルハシを返した。受け取ったフェスは、ツルハシを空間倉庫に仕舞った。
「ここはこのままでいいの? 何かを掘ったと丸わかりだと思うけど」
「構いません。この場を綺麗にした方がバレます。このままにしておけば、崩れただけとかゴブリンが巣を作っている最中に見えるかもしれません」
「なるほど」
全員がフェスの言葉に納得したようだ。
森を抜ける少し手前でフェスが全員を止めて、自分が先頭に出ると空間倉庫から弓矢を取り出し森の出口に向けた。
フェスの行動の意味のわからなかった全員は、お互いに顔を見合わせ首を傾げた。
マインが代表してフェスに質問をしようとしたが、その前にフェスが答えた。
「豚が二頭います。その場から動かないで下さい」
そう言い終わるとフェスは、森の出口に向かって矢を一本射た。射た矢は一直線に森の出口へと飛んでいくとそのまま森を抜けていった。いきなり飛んでいった矢に驚いた豚は、ブヒィィィと甲高いで叫びながら襲ってきた。
体長二メートルの豚に驚いた男の子三人とエナは、腰を抜かしその場に座り込んでしまった。アーシャとマインも驚きはしたものの腰を抜かすこともなく、フェスが豚を倒すと信じていた。その二人に応えるかのようにフェスは、襲ってくる豚に矢を放つと、いともたやすく二頭の豚の眉間を矢で打ち抜き倒してしまった。
よし! これで、豚カツに生姜焼き、豚汁が食べられる。でも、油はあるようだけど生姜はあるのかな?
「アンタは一体、何者だ?」
「……集落の出身ですからこれくらい出来ます。特に私たちのいた集落の周りは、魔獣やら魔物に動物も沢山いますからこれくらい出来なければならなかったんです」
「なるほど……ならアンタの姉ちゃんたちも出来るのか?」
「出来ないですね。アーシャ姉様は家事、マイン姉様は勉強に向いていました」
「アンタに狩りの才能があったということなんだな」
フェスの嘘の話を信じたようだ。
……嘘が上手くなっていく……。
フェスが豚を空間倉庫に仕舞うと、再び街に向かって歩き出した。
東門に到着すると四の鐘が鳴る寸前で、門兵たちによる門の開けられる準備が行われていた。門には冒険者や商人たちによって行列ができていた。
こんなに朝早くから凄い行列だなぁ、と思いながら眺めていたフェスに気付いた門兵の一人が側まで駆けてきた。それに対してフェスは、どうしてここの兵士は目立つようなことをするのだろう? と思ってしまった。
「ご無事でなによりです。目的は果たせましたか?」
兵士の言葉に違和感を感じたフェスだったが、違和感の原因がわからなかったために気のせい? と思い兵士の言葉に頷いた。
「門が開くまでもう暫くあります。あちらから街の中へどうぞ」
「ありがとうございます」
兵士にお礼を言ってからフェスは、一行を引き連れ周囲の視線を気にしないようにして歩いた。兵士たちの専用出入口から入ると街から出る人たちによって大行列が出来上がっていて、兵士と一緒に入ってきたフェスたちは注目されることとなった。
「ではお気をつけてください。…………聖女様を狙っている者たちは足止めしておきましたが、至る所に潜伏しているかと思います」
「……ありがとうございます」
兵士は最後の方の言葉をフェスにしか聞こえないように忠告してきた。フェスはお礼を言うとその場から離れた。
本当にあそこの兵士は優秀すぎないか? もしかして、正体バレているんじゃ? いや、でも……。
そう思ったフェスは振り返り兵士を見みると視線が合った。するとニコッと笑顔を見せられた。
領都に来る際に視線の合った兵士とは別人だよね……関係者か? 犯罪者以外にも尾行されていた……もしかして兵士だったのかな?
犯罪者以外にもフェスを尾行していた者が数人いたことには気付いていた。その数人は探知ではわかるのだが鑑定してみても何もわからなかったのだ。
兵士だったとしたらあのときの兵士しかいないよね……。
フェスが考えことをしていると親父の屋台に到着した。
「おはよう嬢ちゃんたち。目的は果たせたのか?」
「はい、うまくいきました」
「それは何よりだ。朝食はまだなんだろ? 食べていけ」
「ありがとうございます」
親父は焼けたばかりの豚の串を全て包むとフェスに手渡した。フェスは自分の分を取るとマインへと渡し空間倉庫から銀貨を取り出した。それを見た親父は手を振ると、代金はいらないときっぱりと言った。
「どうしてですか?」
「猪を一頭受け取っているからだ」
「しかしあれは、私たちの分も解体を頼みましたから報酬代わりに差し上げたんですよ?」
「それでもだ。受け取り過ぎは良くない」
商売において受け取り過ぎも払い過ぎも良くないと親父は熱弁した。フェスは素直に親父の好意を受け取ることにした。そして、仕留めた豚を思い出し親父に再び交渉を持ちかけると、快く引き受けてくれた。猪と同じ時間に受け取ることとなった。
「そこの荷台の上に出してくれ」
頷いたフェスは、親父に指定された荷台に二頭の猪を空間倉庫から取り出し置いた。その場面を見ていた人たちは唖然としていたのだが、一組の冒険者パーティがフェスに声をかけてきた。
「おい! その猪をどこから盗んできた? お前らが倒したとは言わないだろうな?」
「そんなわけないだろ」
先頭に立っていた男の言葉に後ろにいた仲間たちが笑い合っていた。
なんだこの人たちは?
「……集落の皆で倒しました。旅に出る私たちへ集落の皆から餞別に頂きました。私は空間箱を使えますから」
「空間箱? お前のようなガキにか?」
「リーダー……たしかになにもないところから出したように見えたぞ?」
「俺は見ていなかったが、お前ら見たのか?」
リーダーと呼ばれた男の質問に後ろにいた五人の男たちは頷いた。それを確認したリーダーは、ニヤッと笑うとフェスに提案した。
「空間箱が使えるのならお前を俺たちの仲間に入れてやる。ありがたく思え」
何を勝手に決めてんだこの人?
「仲間って、冒険者は十五歳にならないとなれないのでしょう?」
「冒険者ではない荷物持ちとしてだ。それなら冒険者登録は必要ない」
「それはいい。倒した敵をそのまま持ち帰れるのなら今まで以上に稼げるぞ」
「…………あなた方の冒険者ランクを聞いてもいいですか?」
「今はEだ。だが次の依頼を達成すればDランクになる。凄いだろ!」
E? D? 凄いのか? よくわからんけど命を預けられる人たちには見えない。
「お断りさせて頂きます。先程も言いましたが、私たちは旅の途中なのです。この辺りに留まるわけにはいかないのです」
「俺の誘いを断るのか? いいから黙って入れ!」
「お断りすると言いました」
「おい! 断ると言っているんだ諦めな。無理やり入れるのは協会の規定違反だろ」
「うるせえ! 関係ない奴は黙ってろ!」
フェスの断りにも屈しないリーダーに親父が横から口を出して止めようとしたが、それでも諦めなかった。
リーダーと親父が睨み合いを始めた。リーダーが腰に帯びている剣を抜こうとしたときに兵士が声をかけてきた。
「その剣を抜けば牢屋にぶちこむぞ?」
兵士の言葉にリーダーは素直に従い剣の柄から手を離すと、フェスを睨みながらその場から離れていった。
「聖女様、大丈夫でしたか?」
「ありがとうございます。助かりました」
兵士は、領都に到着した際に商業協会に案内してくれた若い兵士だった。若い兵士は巡回中だったためすぐにその場から離れていった。
「フェス大丈夫だった?」
「はい、野犬に比べたら大したことありませんでした。それにしても……あの目はまだ諦めていないようですね」
「それはそうでしょうね。空間、箱……を使える者がいると冒険者にとっては有利だからね」
フェスが疑問に思っているとマインに代わり親父が説明した。
「魔物を倒すのが冒険者の仕事の一つだが、倒した魔物を全て持ち帰ることは普通はしない……している奴らもいるかな。大多数の冒険者が持ち帰るのは、魔石と討伐証明部分と金になりそうな素材だけだ。だが、嬢ちゃんのように空間箱が使えると倒した魔物のほとんどを持ち帰ることができるようになる。低ランクの冒険者にとっては多くの金を得られるようになるから空間箱を使える嬢ちゃんをどうしても仲間に入れたいのだろうよ」
最後に気をつけろよ、と言って親父は話を終わらせた。
「そろそろ行きましょうか?」
フェスと冒険者のやり取りにも気にせずにエナと男の子の三人は、豚(マヤーレの串肉を全て平らげていた。
屋台の親父に挨拶してから歩き出すとアーシャが質問した。
「このまま領主館に行くの?」
「いいえ、三人の服を買いに行きます」
エナに案内しもらい目的である男性用の衣服屋に到着した。
三人の男の子用に新しい服を買ったついでに自分の男用の服もアーシャとマインに内緒で買うことに成功していた。
自分用に買った服を空間倉庫に仕舞うと、男の子三人に買った服をそれぞれに手渡すと、店内の一角を借りて着替えさせた。当然着替える前に身体を拭かせていた。
三人は成人の少し前で、肉体労働をしているために少し痩せ気味ではあったが、ほどよく筋肉がつき引き締まった体をしていて新しい服に着替えるとかなり見違えていた。
男の子たちの肉体と自分の身体を見比べていたフェスは、羨ましいと思ってしまった。フェスがそんなことを考えていると走らない男の子たちはフェスに礼を言うと、お互いの着ている新しい服を見て笑いあった。
喜び合っているところにフェスが声をかけると、マースチェル領領主の館を目指した。
領主の館は、北地区にある。領主のカルフ・マースチェル伯爵は、貴族でありながら貴族嫌いで有名であった。父の代から手を貸してくれる一部の貴族以外信用していなかった。
信用できない貴族を手元に置くのを嫌い領地内の村町街へ移動させていた。
落ち目のマースチェル伯爵家と一緒に心中する気のない領都を追い出された貴族が、他の領地の貴族に渡をつけその貴族のために働くようになると、マースチェル伯爵の足を引っ張ることしかしなくなった。
足を引っ張る貴族をマースチェル領から追い出したかったカルフだったが、先代ヴェガス・マースチェル伯爵の腹心だったとか皇帝や他領から派遣されてきた貴族のために、何の証拠もなく追い出すことは現在のマースチェル伯爵家には出来なかった。
貴族だけでなくマースチェル領にあるティモリア教会とアマルティア教会の二教会による炊き出し用の食材の横流しも現領主の頭痛の種となっていた。
領主からお金と食材を受け取った教会は、そのほとんどを他貴族に賄賂として送っていた。少量でも炊き出しを行なっているために何も言えず支援を止めることは出来ずにいた。
マインの説明が終わる頃に領主館前に到着した。