告白、告白、告白。
http://ncode.syosetu.com/n3175ch/ の直後のお話ですが、単体でもお話が成立するように作ったつもりです。
高い場所から私たちを見下ろしていた太陽が傾き、西日が眩しい夕刻。
私、三条美月は、ある喫茶店の化粧室にいた。
三条美月は、今日、一世一代の大勝負をする。
後になってこの出来事を振り返ることがあるとすれば「一世一代の大勝負」などと大それた表現をしたことに、未来の私は幼稚さを感じるのかもしれない。けれども今の私にとってはそういう心境に違いはないのだから、今のうちは一世一代の大勝負と形容して良いのだろう。
据え付けられた鏡を覗くと、げっそりとしている私のそっくりさんが映っていた。
「うわっ」
我ながら思わず絶句してしまう。このままではいけない。これでは、勝負する前から結果が決まってしまっているようなものだ。
洗面台の水を出して、慌てて顔を洗う。今朝出かける前にキメてきた、きつすぎず地味すぎず、ほどよく白く見えるナチュラルメイクというものを研究した成果がきれいさっぱり排水口に流れてしまい、日焼け止めも落ちて顔や手が少しべたついてしまったけれど、今はそれよりもしゃっきりした顔を作ることのほうが大事。メイクをしたいならこれからできる。道具は揃えてきた。
水は冷たい。これから起こるであろうことへの期待と不安で身体がすっかり火照ってしまっていたから、良い刺激になる。心拍も穏やかになった。
時間もないし、ささっとメイクを済ませよう。何度も練習したんだ。多少は上達した、と思う。
メイクよし。髪型よし。服装よし。表情よし。
鏡の前で一回転してみる。うん、いつもよりずっと良いと思う。
これならきっと。
「……部長」
部長に、きっと。
席に戻る。店内にマスター以外の人影がないあたり、部長もまだ来ていないようだ。
まあ、部長はまだ現役の西高校ボランティア部の長なのだから、いろいろと忙しいだろう。そう納得して、部長を待つことにする。
それに、待ち合わせ時間まであと10分あるのだ。ここに来たのは今から20分近く前だったから、待ち合わせ時間の30分前に来てしまったことになる。私の浮かれ具合に内心苦笑しながら、すっかり冷えきった紅茶を口に運ぶ。
喫茶マローネ。この店は私のお気に入り。知っている限りでは、市内の喫茶店の中で一番良い紅茶を出してくれていると思う。もちろん、コーヒーも十分おいしい。
お店自体は隠れ家のような作りだ。外からの入り口も目立たない場所にあって、調度品もその穏やかさを壊さないように気を遣っているのが伝わる。そのせいか、よその喫茶店に比べると落ち着いた雰囲気で、外の喧噪から切り離された空間がとても心地よい。静かだから、自分の世界に浸って勉強もできるし読書もできる。眠ることもできる。
マスターも良いお方だ。白髪で、髭をたくわえて、仕事をこなしながらもお客さんへの気配りもしっかりできる。人々が喫茶店のマスターと聞いて想像するような人をそのまま具現化したような、マスターの鑑だ。
何度も通っているうちにすっかり私も顔なじみになってしまったからか、顔つきから今日の気合いの入り様に感づかれたようで、注文の時に「良い結果になるよう祈っております」と一言添えられてしまった。
私は真っ赤になって、小声で「はい」と答えるのが精一杯だった。
カランカラン。
お店の入り口に人の気配が生まれた。
「いらっしゃいませ」
マスターの、低く渋く、それでいて通りの良い声が響く。
もしかして、部長かな?部長だったらどうしよう。
全身が引きつる。ちゃんと綺麗にしたし、匂いもきつくないはず。髪型もさっき整えて、ハンカチは……あっ、忘れた。って部長にハンカチ見せるわけじゃないし考えなくてもいいよね。ああ、ほかにチェックするところはあったかな。ああ、ああ。
「やあ、三条君。待たせすぎちゃったかな?」
聞き覚えのある声で名前を呼ばれ、スパゲティになっていた思考が一瞬で固まる。背後に視線を向けると、そこには私の待ち人の姿があった。
「は、ひゃい!そんな待ってないです、部長!遅刻でもないのでオッケー、です」
ああ、緊張する。いの一番の返事すらうまく言えなかった。最後は小声になってしまった。
でもここからが勝負どきだぞ、三条美月。頑張るぞ。ようし。
「席はここでいいのかな」
「はい、そうです、ここです。どうぞ」
部長も席について、2人で向き合う形になる。部長はメニューに目を落とした。
ここで場を支配したのは静寂。
私の中に、喋るべき言葉が浮かんでこない。
声の出し方を忘れてしまったように口をぱくぱくさせていると、マスターが私たちのテーブルにやってきた。
「ご注文は如何いたしましょうか」
「マローネブレンドを。それと、このシフォンケーキをひとつ」
「かしこまりました」
マスターは当然として、どうして部長もこんなに落ち着いているんだろう。歳は私と2つしか違わないというのに。
私なんて、2年前に友達とマローネを初めて訪れたとき、注文をするだけなのにわたわたしてしまって「美月は緊張しいだねえ」と笑われたのに。もう忘れたいけれど、その友達が今でもその出来事をネタにしてケラケラ笑うから、こんな大事な時なのに思い出してしまった。ええい、加奈子め。後で何か仕返ししてやろう。
私が内心で友人へのささやかな復讐の決意をしているとは露知らず、部長が私に向き直して話しかけてくる。
「三条君。昼間も思ったけれど、肌白いよね。顔も、腕も、透き通ったみたいにさ」
「え、あっ、はい。一応、日焼け止め塗ってますから」
特に今日は念入りに塗ってきた。まあ、今は洗ってしまって落ちているのだけれど。
「今日は肌にも無理をさせちゃったね。そういうところは気を抜くと後で大事になるから、ケアを欠かさないとこは三条君の素敵なところだと思うよ」
「すっ。素敵だとか、言われたらぁ」
嬉しい!部長が私のことを気にしてくれてる!もしかして私のことが好き?なんて勘違いしちゃう!
いやいやいや、そうじゃない。今日こそ言わなくちゃいけない。そうだ、落ち着け。冷静に受け流しつつ攻めなければ。相手の先制攻撃でKOされてどうするんだ三条美月!
「すまないね。その点、僕はあんまり気を遣わなくて。匂いとか特に。今日も、汗臭かったでしょ?」
「そんなことはないです!それに部長はお忙しい立場ですし、気にしません」
くさいどころか、部長の匂いはむしろ好きだ。髪からは特にいい匂いがする。私にとってストライクゾーンど真ん中の匂いらしい。できれば長いこと嗅いでいたい。
今日も、球場で部長と隣り合わせになった時なんて、部長の汗の匂いが私の鼻腔をちくちく刺激していて、興奮のあまり鼻血が出るかもしれないと焦っていたのだ。
「ははは。ありがとう」
「いえいえ、こちらこそ!ごちそうさまでしたっ」
「ごちそう……?」
「ああっ!違うんです、そういう意味じゃなくて。ううっ……」
発情していたというのに「ありがとう」などと感謝されるとは思わなかった。とても恥ずかしい。
気を紛らわすためにも、飲みかけの、透き通った綺麗な紅茶をスプーンでかきまぜる。
カチャ、カチャ。
あまり品のない音を私が立てていたら、部長が話題を少し変えてきた。
「そうだ。今日の試合、良かったよね」
「本当、良かったです。でも、あそこまで皆が喜ぶとは思いませんでした」
私たち西高校ボランティア部も炎天下に晒されながら応援した、夏の高校野球、県大会決勝。
結果から言えば、先制点を最後まで守りきった西高が見事に勝利し、我が県の代表として甲子園に出場することとなった。
グラウンドの西高の選手、西高ベンチの監督やマネージャー、そして、ボランティア部が総力を挙げてサポートしたスタンドの西高応援団も、勝利の瞬間は沸き上がり、歓喜でひとつになった。
「39年ぶりでしたっけ。応援に来ていた酒屋のおじちゃん、泣いてましたよ」
「大島さんは前回の甲子園を知る人だから。思うところがたくさんあっただろう」
「となると、まだ西高野球部への応援は続きますね」
「あの店主たちの盛り上がりだと、商店街でもバスをチャーターして甲子園に乗り込んで応援するのも厭わないか」
私が試合の後に商店街を通りがかった時、店主たちは優勝記念セールの準備でてんやわんやしていた。この調子だと、部長の予想が現実になるのも間違いないだろう。
「部長は、それでも今日で引退を?」
「予定通りかな。部の活動は副部長の柏木君に引き継ぐ」
「そう、なりますよね」
「本当は甲子園まで応援に行って、またとない彼らの勇姿を生で見届けたい気持ちはある。ただ、万が一決勝まで勝ち上がったら。受験を控えた身としては、避けなきゃいけない」
そもそも、学校が夏休みに入ったとなれば、部長が受験一本に絞っていてもおかしくはない時期だ。これ以上、高校の部活動の長として活動するのは無理だというのは、私もわかっていた。
「わかっていますけど、寂しくなります」
「なに、他の仲間がいなくなるわけじゃない。きっと学校側でも甲子園に応援団を送り込む話を進めるだろうから、君たちはしっかり応援してきてくれ。僕の分も」
「はい。私たちは精一杯応援するっきゃないですから」
話が途切れるタイミングを見計らっていたのか、間合い良く、マスターがトレーを持って私たちの席にやってくる。
「お待たせしました。マローネブレンドとシフォンケーキです」
「ありがとうございます」
丁寧に挨拶を交わす部長とマスター。
私の緊張はまだ解けないけれど、テーブル上に注文した品物が一通り揃った、このタイミングで話を切り出すしかない。
「部長。今日は部長にお話があって、お茶にお誘いしました」
「わかってる。で、何の話かな」
「……私は」
どくん、どくん。
ここにきて、動悸が激しくなる。
どくん、どくん。
この言葉を口にしたら、きっと後戻りはできない。
どくん、どくん。
もしかしたら、もう二度と、先輩後輩として時を過ごせないかもしれない。
どくん、どくん。
これさえ伝えなければ、またしばらくして会ったときに、何気なく会話ができるかもしれない。
それでも。
机の下で握りこぶしをつくり、すう、はあ、と呼吸を整える。
部長との関係が変わることを望んで、私はその想いを言葉にする。
「私は、部長のことが、ずっと好きでした」
好き。
「恋人に、なってください」
友達として、ではなく。先輩として、でもなく。恋人として。
言い切った。ついに言ってしまった。
言ってしまったら、もう後に引けない。
私の言葉を部長が理解した瞬間、それまでずっと余裕を湛えていた部長の表情が明らかに強張ったのを、私は見逃さなかった。
「そうか」
目を伏せてつぶやく部長。
空気の色が変わる。これで、私たちの関係も変わってしまったのだろうと、実感してしまった。
一度は言葉を取り戻した空間に、再び静寂が訪れる。
響くのは、有線の柔らかな弦楽の音色と、時を刻む柱時計の音のみ。
部長はうつむいて、ぴくりとも動かなくなってしまった。
さっきからテーブルを挟んで向かい合わせに座っている状態は変わらないなのに、距離が一瞬で遠くなった気がする。
お店の柱に据え付けられた時計の振り子の、コン、コン、コン、という音が、嫌に耳に響く。
振り子は一定のリズムで動いているはずなのに、私の耳には、早くなったり、遅くなったり、歪んだ形で聞こえてくる。
「あの、部長。大丈夫ですか」
あまりに沈黙が長いので声をかける。すると、部長がぼそぼそとこちらに問いかけてきた。
「三条君は」
「はい」
部長の顔はまだ下を向いたままだ。
「三条君は、本気なのか」
「……私は本気です」
これは断言しなきゃいけない。私はそのために今日まで頑張ってきたのだから。ここで退いちゃダメだ。
「この学校に入った日に、一目惚れしてからです。本気で、部長のことが好きで、好きで、好きで。愛したくて、愛されたくて」
「うん」
「ずっと目で追いかけて、同じ部活に入って。日常の一部分だけでも部長と触れ合えたら、と思っていました」
「うん」
「でも、部活を引退する、という当たり前の時がやってきた。それだけのことなのに、それがすごく寂しくて、許せなくて、このままじゃいけないって」
「うん」
「いろいろ考えているうちに、我慢できなくなっちゃいました。部長と、もっと長い時間触れ合っていたい。部活動の先輩と後輩ではなく、できれば、私は部長の隣にいたい。いろんなことをしたい。そんな欲が出ちゃいました」
「うん」
「ですから、私とお付き合いしてほしいのです」
恥も忘れ、私の口からはスラスラと想いが溢れ出てくる。
ずっと考えてきたことだ。
リミッターを外してしまったら、止まらない。
想いを一方的に聞かされる側となった部長は、相槌を打ちながらも変わらず目を伏せていた。
窓の外では、抜けるように青かった空が少しずつ赤く焼けてきている。
しばらくして、相槌ではない言葉が、部長から発せられた。
「すまない。僕は、君に隠していたことがある」
まず聞こえてきたのは、とても申し訳なさそうな謝罪の言葉だった。
私はどきりとした。
僕には十年来の恋人がいる、だから君の気持ちは受け取れない、とかだったらどうしよう。少なくとも私が入学してからは恋人がいないように見えていたのだけれど。
「三条君。僕は……」
部長はポケットから財布を取り出し、一枚のカードをテーブルに乗せる。
「僕は、女だ」
カード——健康保険証の、性別欄。そこにははっきりと「女」と刻まれていた。横にある名前はもちろん部長のものだ。
「女だからといって、どういうことではない。僕は日常を男の格好で過ごしているし、口調も男寄りだ。騙しているつもりはなかった。それで、僕が男だと勘違いしてしまったのなら、本当にすまない」
打ち明けた部長は深々と頭をさげる。
私は心の底から湧き出る安堵を感じながら、カップに残っていた紅茶を全て流し込んだ。
「そのことでしたか」
喉奥を通る冷たい液体が、ほんの一瞬熱くなった身体を落ち着かせてくれる。
「私、部長が女子だと知ってましたよ」
「……っ!!」
部長が勢いよくこちらに顔を向けてきて、視線が交わる。部長の目は丸く、口は開き、表情が驚きに染まっていた。
今まで知ることができなかった、部長の一面。
普段はなんでも飄々とそつなくいなす部長に一泡吹かせた。そのことに幾許かの満足感を覚えながら、次の言葉を伺う。
「あれ、ええっ。三条君には教えていなかったはずだけど、どこで知った?」
「そうですね。あれは5月の初めくらいのことでした」
ある日、私は用事があって、3年生の教室があるあたりを通りがかりました。
すると、部長が何食わぬ顔で女子トイレに入っていったのです。普段の、つまりは男子生徒の格好のままで。
廊下には人がたくさんいたので多少は騒ぎになるのではと私は焦って周りを見回しましたが、部長のことを誰ひとりとして気に留める様子はなく。
女子トイレに入った瞬間に思い浮かんだ「部長は女子トイレ覗きの変質者」という仮定は、すぐさま否定されました。
「で、どうしても気になったので他の先輩方からいろいろ話を聞いて回ったら、結論として部長が女子であることがはっきりとしまして」
「5月って、だいぶ前じゃないか。その頃から知っていたなら、僕に一言あっても良かったんじゃないか」
部長の言葉に若干の憤りが混じる。
「ごめんなさい。伝えるかどうか、とても迷いました」
「それなら、どうして」
「部長が私にそのことを教えて下さらなかったということは、お互い事実を知らずにいたほうが過ごしやすいと思われたのでしょう?」
「まあ、それは。半年程度の先輩後輩の関係で、困惑させたくもない。僕の事情は、理解されないこともある、からな」
部長は何かを思いだすように、寂しそうに言葉を漏らす。
「部長……」
もしかすると、過去にこのこと絡みで嫌なことがあったのかもしれない。例えば、グループ内で孤立したり、イヤな言葉を投げかけられたり。
「その、私たちの無用な混乱を避けたいと考えて黙っていらっしゃるというのは想像できましたので、私も触れずにおくことにしました。ただ、告白して関係を進めたいのであれば、このことは避けては通れません。いずれこういう時が来るのだろうと、覚悟はしていました」
「三条君は、驚かないのか」
「えっ?」
「このことに、だよ。僕が女だということは特殊だ」
部長は警戒しているようだ。
そこまで私が信用ならないのだろうか。それとも部長は、似たようなシチュエーションでよほどのことがあったのか。
「確かに男装女子というのは特殊かもしれません」
「……なら」
「でも私は、部長の人となりを好きになったんです。男子とか、女子とか、私にとってはささいなことですから」
そう。男とか、女とか、関係無い。
人柄に恋してしまう瞬間はきっとあるのだ。
そして、好きになってしまったものは、どうしようもない。
「私は部長のことが好きだとお伝えしました。部長が女子というのも知っていますし、受け入れています。あとは部長の返事次第です」
「ううっ……僕次第か」
部長は「僕次第なのか、僕次第ね」などとブツブツつぶやきながら、湯気の消えたコーヒーを口にする。
「個人的には、三条君みたいな子と付き合うというのは、やぶさかでもないんだ」
付き合うことにやぶさかでもない、ということは!
「ということは、オッケーなんですか?」
「そういうことになるかな」
「……ありがとうございます!部長!」
部長と、念願の恋人関係になれる!
今年は部長の受験イヤーだから、すぐにべったりいちゃらぶというわけにはいかないけれど、受験さえ終わってしまえばこっちのもの。
受験明けの部長が別の誰かと付き合うこともない、はずだ。そもそも、本人の承諾をもらったのだから優先権は私にある。
卒業してしまったら別々の生活リズムになっちゃうけど、休みの日にデートとかできるかな。今までデートとかしたことないから、デートってどういう場所に行くのかわからない。でも、公園でまったり過ごすのもいいし、ウィンドウショッピングも楽しそうだ。お互いの趣味をより深く知るのも良いだろうなあ。部長は映画鑑賞が趣味と聞いたから、映画館デートとかできるのかな。終わったら食事しながら感想を言い合ったり?なんだかデートっぽい!
そうだ。同棲なんてのも夢だよね。同じ家で、私の手作りの夕食をふたりで食べて、一緒にテレビを見てあれこれ言い合って、夜は同じお布団で寝て、朝起きたらおはようを目の前で言い合う。朝ごはんを食べて、いってらっしゃいのキス、なんてことも?
ああ、部長との日々をいろいろ想像するだけで鼻血が出そう……。
「けれど、いかんせん女同士でこういう関係というのは、どうなんだろう。そりゃ、男装している僕が言えた立場ではないけれど」
……女同士。
あれ?と思った。
ここにきて、私は大事なことを言い忘れていたことに気づいてしまった。
まずい。これはまずい。せっかく部長が、私の好意に「やぶさかではない」と言ってくれている。それなのに、これを伝え忘れるとは。
このことこそ、私の恋心を伝える前に知らせておくべきではなかったのか。
嬉しさで膨れに膨れた妄想が、冷水を浴びせられたように縮こまる。
「部長!」
ダンッ!と机を叩き、立ち上がる。こうなっては、今のうちにこのことも言わねばなるまい。
部長は私の突然の行動に驚いたのか、きょとんとしている。
「私から、もうひとつ告白しても、いいですか」
「三条君から、もうひとつ、告白?」
「ええ。実は私……」
告白が3つ。……最初は別の着地点を想像していましたが、ある日雨に打たれていたら強烈な電波を受信したので、そちらに向かって思いっきりハンドルを切りました。