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梅雨入り

 6月も末、もうすぐ世の学校は夏休み…というにはまだ早いか。


長期休みは世の児童生徒学生が憂いを晴らすべく癒しの一時であるのは間違いない。


 課題などはギリギリに、帳尻合わせて終わらせ、もしくは遅れて提出すれば良いのであり、この休暇の意義というのはまず遊ぶことにある。


 長期休暇は学校というしがらみも無く、取りあえず自由で、そんな中では切々たる想い、願いというのは生まれにくい。願いや悩みは生まれる、でも、それは往々にして自由という楽しさの中に埋もれ、忘れ去られやすいものなのだ。



 というわけで、例によってSnow Whiteは開店休業だった。


「お客きませんね~」


「いい加減なれたらどうだい、サキさん」



 Snow Whiteの正社員見習い兼従業員のアゼガミ サキは高校三年の夏休みにもかかわらずお店に出勤し、このお店唯一のテラステーブルにくったりと体を預けて例のごとくボヤくのであった。


 4月の研修と銘打たれたパリへの旅以来、真剣に将来を考えるようになったサキだったが、実際のところは結論を先延ばしにしている最中だった。


「慣れとか言われましてもねー…もう一ヶ月以上お客来ないじゃないですかぁ」


 モップを小手先で弄びながら、グダグダと喋る。



「世の中忙しいか幸せなんでしょう。というか、君はどうしてここにいるんだい?」


「―――…酷い言い草だぁ…バイトだからいるんですケドぉ」


 ぷぅ、と頬を膨らますもテーブルに片面が押しつけられているので、妙に歪で面白い。


 店長は苦笑いを浮かべながら、首を振った。


「そうじゃなくてね。他にしたい事は無いんですか? 別に毎日来る必要はないって前々から言ってるし、これから夏休みにかけては、一番お客が来ない時期だしね。それに、日本の大学受験するなら勉強しないと」


「受験は大丈夫ですよ~。私、成績いですし、指定校推薦取れますから。まぁ、英語の勉強は続けてますけどね~」


 先送りにしつつも、押さえているところは抑えているサキであった。だからこそ、受験は夏が勝負と言われているのにもかかわらず、親はバイトに行くのを黙認しているのだ。



「他にしたい事って言っても、学校終わって直でココ来てますしー…」


「友達とかと遊ばないの?」


「遊ぶ友達が受験戦争中なんですよぉ…察してくださいよぉ」


 半泣きになるサキ。女子高生が毎日バイト生活で満足するわけはないのである。


「いや、うん…失念していたよ。ごめんね、サキさん」


「べつに、しょーがないんですけどね~…」


「――――…」


 店長はカウンターを拭く手を止め、ふむ、と考える。


 最近はお菓子作りの練習、技術指導など、職人方面の技能習得に時間を費やしているが、本人は魔法使いになるかどうかをまだ決めかねているようだし、このまま惰性で練習しても上達はしないだろうし、さてどうしたものか


――――――…



「夏休みだし…どうしようかなーもう…」




―――カラン…



 サキが再三嘆いた瞬間、来客を知らせるベルが響いた。


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