ヒロインが何故か病んだからどうにかしてくれって頼まれたけど、あ、ゴメン。あれは無理だわ。
ノリで書いたらなんだが凄いことに……!?
やっべ、書いてて鳥肌たったよ…!
ここだけの話。
私、いや僕には前世の記憶がある。あ、そこの君。今気持ち悪い奴を見る目で「……ウワァ」とか思ったでしょ?
ヒドッ、酷いよ!僕はガラスハートだからそんな目で見られたら粉々に砕けちゃうよ!
と、嘯いてみたり(笑)。
いやいや前世合わせて精神年齢67歳の還暦または耳順な私じゃないや僕のハートはむしろガラスではなくステンレス加工されたフライパン並みに硬いよ、たぶん?
まあでも、女から男になって生まれ変わったときは流石に心が砕けかけたけど。
そう私こと松浦由佳(前世)は50歳の誕生日に階段から足を滑らせ転倒し打ち所悪く死亡してしまったのだ。
いやぁ、結婚してたし子供3人、孫5人、そして旦那とも仲良好な幸せ家庭を築いていたから悔いはないっちゃあなかったんだけどねぇ。まさか誕生日に間抜けな死に方するとは思ってなかったわ。
前々からあの階段手摺がなかったから使うに不便だったけどこんな結果じゃ、あれだけ手摺は要らんって言ってたジイさんも手摺を付けるんだろうなぁ、なんて沁々思うわ。
そ し て
何故か私は元気にまたこの世に生まれ変わったのである、………当時まだ立派とは言えないがゾウサンを股間に生やして。
うんうんあの時はショックのあまりに夜泣きやら雄叫びを上げたものだ。
1日で納得して止めたけど。
え、だって折角新しい命、新しい人生、新しいお母さんに産んでもらったんだし楽しまないとねぇ?
そういう訳で前世をそれなりに謳歌し幸せな生活をした松浦由佳は、現在 僕こと高野彬史〔こうの あきふみ〕17歳男子高校生として第二の青春を絶賛謳歌中です。
――この生まれ変わった世界が生前まだ僕が花も恥じらう乙女時代にハマっていた『ハニードロップ 〜甘い夢を貴方と〜』という寒い名前で懐かしの乙女ゲームの世界だったとしても。
あの当時はゲーム自体珍しいし普及すらあまりしてなかったけど僕もアレだけは頑張ってお金を貯めて買ってプレイしたものだ。
でもつい最近リメイクされたから懐かしいどころかバージョンアップして孫がキャッキャッ!とやっていたなぁ、それに婆ちゃんの時もそれが合ったんだよって言って見せてもらったらアララびっくり。
画力上がってるし声まである。だけど基本パターンとキャラクターは変わってなくてちょっとホロリと涙腺に来たのを覚えている。
精神年齢67の婆ちゃんは何が合っても大抵のことでは動じないさ。
いとこがまさかの攻略対象だったとしてもさ。
で、そのいとこなのだが、なんだか最近様子がおかしいのです。
はて?
どうおかしいのかって聞かれたらこんな感じ。
《…なっ、なぁ……彬史、ちょっと、いいか?》
「………大翔〔たいが〕?どうしたんだよ、こんな時間に」
《いや、あの…》
ちなみに只今の時刻は夜も更けきった2:00。
夜中だよ夜中?コッチは眠いんだって、しかもこれが今回だけだったら別にいいんだけどこのいとこ――高野大翔〔こうの たいが〕はここ5日、こうして夜中に必ず電話を掛けてきている。
ねぇ精神年齢が既に還暦を迎えている僕でもこれはちょっとというかかなりイラってくるんだけど?
いい加減にしろ?ん?
「大翔、いい加減僕もゆっくり寝たいんだけど」
《い、いう!まってくれ彬史!今日こそちゃんと話すからぁ!!》
「っちょ、うるさ、大翔煩い」
いきなり大声を出されて耳がキーンとする。おい坊主今何時だと思ってるんだ。
口には出さないけど、これでも年上(精神年齢が)だしうら若き少年の悩みも寛大な心で受け止めてやろう。
そう思い大翔に話を促したら大翔はとんでもないことを口にした。
《……この5日前から、綾女の、束縛が酷くなってきたんだ…》
「はぁ?」
《いや、だから、綾女の束縛が酷くなって…しかも今だってアイツから………ちゃ、着信がっ…!》
アヤメと言えばこのゲームのヒロイン、天織綾女〔あまおり あやめ〕のことだろう。
彼女は名前に天織の天と綾女の女と漢字がある通り「天女」というあだ名で学園内では有名である。
確かに低めの身長でパッチリ瞳にうっすらと赤いぷっくりな唇、そしてなにより少しピンクな茶色いポニーテールな守ってあげたい可愛い系女子だと思う。
だが如何せん。
彼女は学園内で1番の美少女としても有名だが学園内の1番の悪女で嫌われ者としても男女関係なく有名なのだ。
……ゲームでは学園内で1番の癒し要因で愛されキャラだった筈なのになぁ。
まあそれは一旦置いておいて、その天織さんその逆行の中で見事逆ハーレムなるものを作り上げたある種の強者なのである。
それが天然物なのか、それとも計算内のことなのか僕には分からないけど…女って怖いよねぇ。
自分が前世女だったから分かるから余計にねぇ。
攻略対象は隠れキャラ合わせて全7人。
メインが5人で、隠しが2人。
学園で1番の美男子として女子の人気も有ることながら男子からの支持率も高いことでいろいろ凄い生徒会長さん。
その生徒会長の幼馴染みで美化委員長でありながら不良になっちゃってるものの根が良いから先生の信頼もそこそこ高い不良くん。
先輩はこの2人で同級生が2人、1人はいわゆるツンデレだ。
天織さんと同じクラスで冷ややかな視線を人に向け明らかに人間不信だったが最終的に信用しきってデレちゃうっていう子。
あとは別クラスのタラシ君。
女の子なら誰でもオーケーな節操なしな子だが本当は昔ある女の子に裏切られてから女の子自体を信用しないとかメンドクサイ奴。
残りのメインは後輩で、可愛いが腹黒いと、まあテンプレですね分かります。ふわふわ系男子。てか僕もこの後輩のことは詳しく覚えてない。だって前世でも今でもタイプじゃないし。
で、僕のいとこ様はこのメインキャラで、しかもツンデレキャラ…そう僕が3番目に紹介した人間不信(笑)な子である。ん?他のキャラの名前?あ、ごめんね、僕前世じゃ隠しキャラ派だったから隠しキャラを出すためだけに他のキャラを攻略しただけで名前とか覚えてないや。
だっていとこのことだって隠しキャラと関わっていたことしか覚えてなかったし。まあ、そのいとこのお蔭でこの世界が乙女ゲームの世界だって分かったんだけど。
とと、いけない話がずれた。
しかし天織さんしか見ていないし見ようともしなくなった天織信者の大翔がこうまで言ってくるとはどうしたんだろう。
「えっと、それはなんというか御愁傷様?」
《……あきふみぃ、たの、頼むから助けてくれよぉ…!》
「ごめん、詳しい話を聞かせてくれない?」
ここから先の話は僕が大翔から聞いた話を簡潔にまとめたものである。
始まりは大翔が夜中僕に電話を掛け続けるようになった1ヶ月前のこと。
いつものように天織さんとイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャしてたらしい5人のうちの1人、生徒会長の矢幡愁〔やわた しゅう〕が同じ生徒会メンバーの書記ちゃんに会議のことで声を掛けられたらしい。書記ちゃんは控えめ美人といった子で天織さんが現れる前では会長の矢幡さんと良い感じだったことでもちょっと有名だったりする。が、書記ちゃんって彼氏いたから皆冗談だって分かってるけど。
まあ、その書記ちゃんと矢幡さんが話しているのを天織さんがなんか罵詈雑言浴びせて書記ちゃんを泣かせてしまった。
あ、そう言われればそんな話あったかも。
結構エグいこと言われたとか。その時点でなんでお前は天織さんの側を離れなかったし大翔。
それからというもの天織さんはブツブツ呟きながらハーレムの人達が異性と話していたら異様な嫉妬心を見せるようになった。え、ちょ、コワッ…!
しかも2週間前からは異性だけでなく同性にも大人にも動物にも嫉妬するようになってますます執着してきた。
そしてそれが普通ではなくて異常だとやっと理解したハーレムもとい天織信者の5人は急に天織さんが恐くなり側を離れたのらしい。
うん、今更だな。
それからと言うもの5日前から5人の携帯に着信受信留守電がひっきりなしに来るようになり学園では待ち伏せられ家も知っているから何度も何度も訪ねて来られ、そして着信拒否にしても向こうが番号にアドレスを知っているので向こうが番号にアドレスを変更してまで連絡してくるという鬼畜でふざけた所業をエンドレスでやる。
そのため、不良くんが1度携帯を買い換えたのにも関わらずその日のうち、まだ家族にも教えていないのに何故か番号もアドレスも知られていたという恐怖体験をしてしまい少し鬱気味なんだって。
……………。
「それ警察レベルじゃんっ」
《お、おれ今日恐すぎて学園に行けなかった》
「嘘、マジで?」
《…………………っ。》
「…うわぁ、それはちょっとなぁ……」
《た、頼むから…、お前しか頼れる奴しか居ないんだっ…!》
電話越しの涙声、切実過ぎる叫び。
まさかゲームのヒロインがヤンデレなストーカーになるなど誰も思わなかったし思いたくもなかっただろう。
可愛い可愛いいとこの久々の頼みだ、仕方ないここは精神年齢婆さんが一肌脱いでやろうか。
そう電話の向こう側で咽び泣く大翔に出来うる限り協力をすると言い、宥め、僕は大翔に携帯の電源切って寝るように言い聞かせた。
…………ハア、僕のいとこがこれが原因で人間不信に拍車をかけ引きこもりにならないためにも天織さんをどうにかしなければならない、そう痛む頭を押さえながら僕は就寝したのだった。
次の日、学園に行きたくないと本気で泣く大翔と一緒に来た僕が学園の門前で見た光景に引いた。
もう本気でドン引いた。
「……なんでなんでなんでなんでなんでなんでナンデなんでナンデなんでなんでナンデなんでなんでなんでナンデナンデナンデナンデナンデ?おかしいおかしいおかしいなぁ?綾女ちゃんと逆ハー成立してたしちゃんとイベントだってクリアしてたのにどうして皆離れちゃうの?おかしい何がいけなかったの?なんで皆綾女からの着信とか無視するの?ナンデ携帯も買い変えたりするの?綾女がヒロインなのに、愁も藍樹〔あき〕も大翔も立夏〔りっか〕も槊〔さく〕も皆みんなミンナ綾女の騎士〔ナイト〕で王子様なのに綾女がお姫様なのにどうしてなんで!?なんで皆綾女を無視するの!隠しキャラだって出てこないしどうして綾女以外の女と話して笑ってるの!?ありえないありえない何もかもありえないぃぃいいい!!あ、ああ゛、あああ、あ゛あぁぁあ゛あ゛ぁあああぁぁア゛アああアアア゛あ゛ああ、あああぁぁあああああぁぁあ゛あ゛あ゛ぁぁあ゛あ゛!!!!!」
ノンブレスで朝からブッ飛んだことを叫び出した残念な美少女の天織さんを見て僕の後ろでガタガタ可哀想なくらい震える大翔に僕は言う。
その風景に釣り合わない笑顔を大翔に向けて、僕は、高野彬史という隠しキャラであり隠しキャラではない私は携帯を取り出し言うのだ。
「あ、ゴメン、あれは無理だわ。」
さあ、今すぐ110番。