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どうやらばあちゃんが不死身のようなので、その件書き記しておこうと思います

作者: 池畑瑠七
掲載日:2026/03/25

不死身という言葉があるけど

彼女のことを言うんじゃないかと

そんな奇跡を目の当たりにしている


ニコニコと嬉しそうに満面の笑顔で

「ああ、来てくれたの、ありがとう」

面会時 迎えてくれた義母は

車いすにちょこんと座って

大好きな大相撲をテレビの真ん前で観戦しながら

ドアの前に突っ立っている私達に気付くと

車いすの車輪をくるっと回し こちらに体を向けた


「・・・・・・」


一年前に倒れ 生死の境を長く彷徨った義母

奇跡的に一命を取り留めたものの

医師にもはっきりと「戻ることはありません」と告げられた

目覚めた義母は寝たきりとなり、明日をも知れぬ状態に

長年抱えてきた幾つもの病も 加療が無理で治療断念

消えゆこうとしている灯火を 静かに見送るのみと覚悟した

あの日から二度 真冬の誕生日が過ぎた


一度目の春はベッドの上 天井の染みを見る以外になく

夢うつつに過ぎていった

二度目 この春は 窓外に緑の芽吹く山々と広く青い空

中庭に沢山の花芽をつけた桜並木が 今か今かと開花を待つ

その様子を ベッドからではなく

自分で動かした車いすで 窓辺に近寄って眺める

そんな春を 迎えている


当初は起き上がるどころか

寝返り打つ事すら困難だった義母

迎えに来た亡き夫の手を取り 三途の川の向こう岸へと

幾度も渡りそうになった


それが 1年経って いま

ひ孫の写真を眺め ニコニコと目を細めている

洗面台の前で歯を磨き 化粧乳液を顔に塗り髪を梳る

外出用の靴を履かせて貰い 

車いすに座りながら 床の上をちょこちょこと歩く様に動かす

そうやって車輪の動きをサポートしているのだ

車輪を両手で回し、施設内のフロアも

自ら移動できるほどに なっていた


「ご飯ですよ、って呼ばれるとね ほら、こうやって自分で行くのよ!」

少女のようなキラキラ笑顔

弾む声で嬉しそうに話す

ドヤ顔に ちょっと笑ってしまう

驚くべき回復ぶりは 毎週面会に通う家族すらも 目を疑う程だ

健診でも癌・腎障害等 病の進行は見られていないという


ラジオすら聞きたがらなかった

誰にも会いたがらなかった頃が嘘のように

職員さんや入所者の方たちと 手芸や工作に勤しみ

おしゃべりも愉しむようになった


あたたかな笑顔の施設職員の方々 皆様のお陰に他ならない

「自分でやりたい」を極力尊重し 無理強いはせず

やりたい気持ちが自然に生まれるような働きかけを辛抱強く続けてくれる

個人の尊厳を守りつつ 適切な声掛けと判断のもと

QOLがよりよくあるようにと 心身共にしっかりとサポートして下さる

出来る事 出来ない事 やるべき事 そうでない事

させたい事 させられない事

そういった匙加減・判断が本当にすごいな 素晴らしいなと

スタッフの方々のホスピタリティとプロ意識に感心させられてばかりだ


人生の終盤に起きた 当人にも家族にも俄かには受け入れ難い苦難の時に

ここへと受け入れて頂けたこと 幸運な巡り合いに 職員の皆々様に

感謝しかない


少女の頃 焼夷弾降り注ぐ中を無我夢中で逃げた

灰となった街、父親も喪った

母一人兄妹5人に残ったのは 空襲に備え僅かな家財や衣類を入れて地中に埋めていた

たった一つの葛籠だけだったという

混乱の戦後 家族皆で極貧を生き抜いた義母が いままた私達に驚きの粘り強さで

奇跡のような姿を 少女のように明るい屈託ない笑顔を

見せてくれている


なんて ヒトって強いんだろう 逞しいんだろう

ヒトとはこんなにも 強くいられるものなんだ


一つもガツガツしてない義母

流れに特に逆らうわけではない 藻掻いたりもしない

ただ いつもあるがままを受け止め受け入れる 自分も他人も

ただ その中で 小さな光を自ら見つけ出すのだ 当たり前のように

ただ 小さなありがとうを欠かさない 笑顔を絶やさない 諦めも無い

そんなありかた生き方


嫋やかとはこういうものかもしれない



次の外出は ひ孫との対面かな

お迎えは当分 お預けみたいだよ じいちゃん(笑)







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