【Side:アルフレート】:二周目の溺愛の理由
ガタゴトと揺れる馬車の中、俺は暗闇に身を沈めていた。
手の中には、パーティ会場で彼女のドレスから掠め取った、一輪の赤い薔薇。
「……はは、最高だ」
誰もいない車内に、俺の乾いた笑い声が響く。
喉の奥が、熱い。
今すぐにでも彼女の元へ引き返し、その細い首に腕を回して、叫びたい衝動に駆られる。
『やり直させてくれ』
『あの日、お前を斬ったのは、お前の魂を消滅させないための唯一の手段だったんだ』
『愛している。狂うほどに、お前を――』
「……っ、が……あ……っ!」
思考が「真実」に触れた瞬間、胸の奥に目に見えない鎖が食い込んだ。
心臓が握り潰されるような激痛。脳裏に、契約の呪いが冷酷な警告を響かせる。
【お前が過去を語れば、彼女の心臓は止まる】
……分かっている。
俺がこの禁忌を破った瞬間、今頃屋敷で怯えているであろう彼女は、物言わぬ死体へと変わる。
彼女を救うために時間を巻き戻した代償は、「永遠の孤独な理解者」であることだった。
一度目の人生。
彼女の愛は、暴力的なまでの「叫び」だった。
感情共鳴の異能を持つ俺にとって、彼女の「愛して」という絶叫は、脳を直接灼くような毒でしかなかった。
愛しているのに、近づけば発狂しそうになる。
だから俺は、彼女をこの手で終わらせ、永遠の静寂の中に閉じ込めたのだ。
だが、二度目の彼女は違う。
彼女は自ら、その騒がしい口を閉ざした。
あの日、俺の剣が彼女を貫いた恐怖を覚えているのだろう。
俺を見上げる琥珀色の瞳には、絶望と拒絶の色が貼り付いていた。
……ああ、なんて愛おしい。
彼女が俺を恐れ、黙り込めば込むほど、俺の耳には心地よい「静寂」が届く。
彼女が自分を殺して人形になろうとすればするほど、俺は彼女を、壊さずに愛でることができる。
「……エルシア。お前が俺をどう思おうと構わない」
彼女は逃げる準備をしている。
秘密裏に宝石を換金しようが、偽造身分証を求めようが、夜の闇に紛れて消える算段を立てようが無駄なことだ。
その全ては、今の俺には愛くるしい余興にしか見えない。
「どこへ逃げても、無駄だよ。お前の周囲は、すでに俺の手足で埋まっているのだから」
俺が真実を言えない以上、彼女の恐怖を拭うことはできない。
ならば、いっそのこと、その恐怖を「鎖」にして繋ぎ止めよう。
憎まれてもいい。軽蔑されてもいい。
彼女が「無言」で俺の隣にいてくれるのなら、そこを彼女にとっての唯一の世界にしてやればいいのだ。
「いい子だ、エルシア。そのまま、ずっと黙っていなさい。……お前の心臓が動いている理由は、俺の『沈黙』だけなのだから」
俺は手の中の薔薇に口付けると、その花弁を一枚、指先で優しく毟り取った。




