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尽くしたがりのつくしさん  作者: マノイ
第二章

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34/40

第34話 朝会でのスピーチって誰得なんだろう

「今日は最近読んで面白かった本を紹介します」


 月曜日の朝。

 部門メンバー全員が立ち、前に立つ男性の話を聞いている。


 週に一度の朝礼の後のスピーチだ。


 今日は隣のチームの人がスピーチ担当なのだが、ありきたりな話でどうにも面白くない。丑岡なんか立ちながらウトウトしてしまっている。


「……というわけで、皆さんのお仕事にも役に立つと思いますので、良ければ読んでみてください。以上です」


 お決まりの締め文句で淡々とスピーチが終わり、まばらな拍手を受けて男性は逃げるように自席に戻った。


 それが朝礼終了の合図にもなっていて、全員座り各々業務を開始する。


「佐野さん、朝のスピーチって何の意味があるッスかね?」

「それ聞いちゃう?」


 そんなの俺の方が教えてもらいたいくらいだよ。


「朝礼が必要なのは分かるッスよ。連絡事項を伝えるのは大事ッスから」


 連絡するならメールやポータルサイトでの通知だけで十分だと思う人もいるだろう。だがそれは間違っているし、朝礼での通知は必要なことだと俺は思う。


 何故ならやらない人はやらないし、気付かないから。


 会社として法律上全社員にやらせなければならない作業、例えばコンプライアンス研修などがあったとして、それを後回しにしてやらない人がいると研修事務局がフォローする無駄な手間が生まれてしまう。あまりにも酷いと偉い人から怒られるなんてこともあるそうだ。


 だからしつこく周知する。メール、ポータルサイト、進捗会議、朝会。ツールで管理して終わったらチェックしろなんて指示が出ているチームもあるかもしれない。何度も何度も周知して全員にやってもらうためにも、朝会での連絡は効果的だ。

 それに普段ちゃんとやる人でも忙しくて忘れていて、朝礼での連絡で思い出すなんてこともある。


 だから朝礼の存在は悪ではない。


 不必要なことをやらなければ、の話だが。


「でもスピーチは全く意味が分からないッス」

「いつも妙なステップ踏んで噛みまくりだからって文句は良くないぞ」

「ち、ちち、違うッス。自分が苦手だからじゃなくて本当に意味が知りたいッス」


 全く説得力が無いが、俺も前から気にはなっていたので調べてみよう。


「ふむ……人と話すことに慣れてコミュニケーション能力が向上するそうだ。それに言いたいことを短時間で簡潔にまとめる能力もつくらしい」

「スピーチで練習する意味あるッスかね。普段の仕事で身に着きそうなものッスけど」

「俺も昔はそう思ってたよ」

「違うッスか?」


 チラっと晴着さんに視線を向ける。

 すると彼女は分かっていると小さく頷き、俺の代わりに答えを丑岡に教えてくれた。


「丑岡、いつまで経っても上手くならない。内弁慶すぎる。他の場所へ連れていきにくい」

「うっ……」

「そういうことだ」


 心を許した相手ならば自然に話が出来るけれど、そうでない相手には緊張で言葉が出て来ない。そういう人にとってスピーチという場は、そこそこ知っている人の前だけれど大人数から注目されているので少し緊張するという程よい練習の場なのだろう。


「部長も本当はスピーチなんて止めてしまえって思ったらしいぞ」

「じゃあなんで続けてるッスか? すぐに実行する性格なのに」

「外に連れて行くとあまりにも話が出来ない奴が多すぎたんだとさ。だからスピーチでも何でも良いから練習して最低限話せるようになれってことらしい」


 そしてその最低限を達成できたのなら、朝のスピーチは廃止となるのだろう。この話になると部長が頭を抱えてしまうので簡単にはそうならないだろうがな。


「というか、部長が言うには外どころか中でもまともに報告が出来ないやつが多いらしい」

「そういえば誰かが部長に報告している時に怒ってる所を時々見るッス」

「論理的でない。まわりくどい。質問に対して答えてない。覚えが無いか?」

「うっ……昔よく佐野さんに注意されたッス」

「晴着さんにも丑岡にも念入りに指導したからな。真心さんは指導する必要なかったけど……改めて考えてもすごいな」


 ビジネス的な報告なんて社会人になってから経験する話なのに、未経験でも上手くやれるとか才能なんだろう。それだけで他の部署から欲しがられそうだが、絶対にやるもんか。


「真心さんすごすぎッス。スピーチの時も姿勢が良いッス。まったく動かないッス」

「しかも俺達の目を見ながら自然に語り掛けるように話しているだろ。『あの』とか『その』とか『え~』みたいな無駄な言葉も使ってない」

「聞きやすいなって思ったのはそれが理由だったッスか!」

「それだけじゃないぞ。話の組み立ても上手だ。最初に言いたいことや結論を話してから具体的な内容に入るから分かりやすい」


 しかもスピーチっぽくわざとらしくそういう構成にしたって感じが全く無くて、表現があまりにも自然なんだ。


 一人だけスピーチのレベルが違いすぎる。プロだろ。


「ちなみに余裕そうに見えてかなり緊張しているんだってさ」

「そうなんスか!?」

「ああ。緊張しているから良いスピーチが出来ているのかもな」


 あまりにも緊張しなさすぎると、集中力を欠いたぐだぐだなスピーチになってしまいがちだ。良い仕事のためには程よい緊張感が必須だと思う。


 ちなみにスピーチ前夜のつくしは少しそわそわしていて普段と違った姿を見せてくれる。とても可愛い。


「とにかくだ、丑岡も外で仕事をしてみたいんだろ。そうじゃなくても、この先昇進すれば偉い人と話をする機会だって増えてくるだろ。俺が事業部長を説得させようと頑張ったのと似たようなことを今度は丑岡がしなければならないかもしれない。そういう時にしっかりと話が出来るように、まずはスピーチから頑張ってみろよ」

「…………うう、そうッスね」


 意識的に挑戦していればいつかは慣れるさ。


 そういえば晴着さんはどうやって緊張と戦っているのだろうか。コスプレで多くの人の前に姿を晒すのは恥ずかしかったり緊張したりしないのだろうか。


「晴着さんは、人前に立つコツとかってある?」

「どうして晴着さんに聞くッスか?」

「……晴着さんって普段は結構寡黙だろ。スピーチとか苦手そうだけど上手くやれてるからさ」


 彼女がコスプレしていることは丑岡には秘密なので堂々と聞けないのがもどかしい。上手く誤魔化せただろうか。誤魔化すも何も、これだけじゃコスプレには繋がらないか。


「楽しむことがコツです」

「そういえば晴着さんのスピーチ、いつも面白い話ッスね。確かに誰かに教えたくなるような話ならポジティブに緊張できそうッス」


 なるほどな。コスプレの時の気持ちを参考に、それと似たような感覚になれるやり方を選んでいるのか。俺にとっても参考になる。


「佐野さんもコツを教えてくださいッス」

「部長にしごかれる」

「…………え?」

「部長にしごかれる」

「…………」

「丑岡もやってみるか?」

「佐野さんの目が死んでるッス!絶対に嫌ッス!」


 おっと危ない、精神が砕かれるところだった。


 てのは半分(・・)冗談として、部長の指導はマジで厳しかった。今の時代、パワハラで訴えたら普通に勝てそうなレベルで色々とやらされ怒られたもん。


 期待の裏返しだって分かってたから、訴えるような気には全くならなかったがな。むしろ厳しい指導を乗り越えて出来るようになった時に部長が本気で喜んでくれて、成長した実感もあるものだから嬉しくてたまらなかった。


 部長が仕事中に家庭のこと以外で笑顔になった姿は俺しか知らないかもしれない。


「やっぱりやってみるか? 思い返してみたら得るものが多かったし」

「絶対に嫌ッス!」

「そうか……残念だ。じゃあやろうか」

「佐野さん!?」

「なんてな。冗談だ。今は(・・)それをやれるような状況じゃないからな」

「この開発が終わった時が怖いッス」


 おやおや、今でも晴着さんの厳しいケアレスミス指導で怖がっているのかと思っていたが、まだ余裕があるらしいな。


 再び晴着さんに視線を向けると、彼女は小さく頷いた。


 より厳しく指導してくれるだろう。


「うし、今日も頑張るか」


 もうすぐ晴着さんが帰ってくる。


 短時間だけれど多くのことを吸収して成長しているに違いない。だから俺達も彼女に負けずしっかりと成果を出して迎えられるよう頑張ろう。

作品の中ではポジティブに書いてますが、スピーチは本当に要らないと思います。

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