表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

小説を書くにあたっての実体験の必要性について

 作家は体験したことしか書けない、なぞという言説があるじゃないか。

 あのたわ言が、僕は嫌いだ。経験なんかなくても、想像力さえあればどんなことでも書ける。

 そうやって僕は小説を書いてきた。

 

「本当にそうでしょうか」


 問い返してきたのは、創作仲間のひとりだ。名前は仮に横溝としておこう。

 今、僕は彼とボイスチャットにて、創作談義をしていた。

 数人の創作仲間が所属するチャンネルだが、他のメンバーはオフラインだった。


「そりゃあそうだろ」


 僕は少し苛立った。そんな当たり前の話に、こいつは今さら疑問を投げかけるのか。

 見どころのあるやつだと思っていたのにガッカリだ。

 ちなみに、横溝の声を聞いたのは今日が初めて。

 思っていたより、低音でねっとりと喋る。


「ですが、やはり実際に経験してあった方が、より説得力あるものを書ける気がします。だとすれば作品の可能性を拡げるためにも、経験はあったほうがいいということになりませんか?」


「あったほうがいいのは、そうかも知れない。でも、なくても書ける。それに、経験のせいで自由な発想に足枷をされる可能性だってあるだろ」


 論点をずらすんじゃない、と怒りたくなったが、空気を悪くしてはほかのメンバーが困るだろうと考えてやめておいた。


「どうでしょうね。足枷なんてものは、外せばいいんですよ。経験していない自分の想像力と、経験した自分の説得力。両方を兼ね備えれば最強だ」


 なんだ、こいつは。こんなに食って掛かって来るタイプではなかった気がするけれど。

 どちらかというと、メンバーの江戸川と話しているような印象だった。

 江戸川はいま、殺人鬼が主人公の話を書いている神経質な男だ。

 最近は行き詰っているらしく、よく愚痴を書き込んでは横溝にたしなめられていた。

 とはいえ彼ともボイスチャットをしたことがないので、横溝と同じようにイメージが違う可能性もある。

 と、そこで僕は反論を思いついた。


「たとえば殺人鬼が主人公だったらどうする? 経験なんかしようがない」

「──そう、でしょうか」


 突然、ぶつんというノイズと共に横溝の表示がオフラインになる。そのまま、数分間が経過した。

 僕はふと、横溝と江戸川がリアルでも知り合いで、ときどき直接会うという話を思い出していた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ