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「こ~んにちはぁ!シャルロット嬢いる?」


 陽気な声と共にやって来たのはシャオ。


「おや?なんか疲れてる?」


 シャオが目にしたのは、げっそりとした顔でソファーに寝転がるシャルロットがいた。

 シャルロットはニヤニヤしながら向かい合って座るシャオを恨めしそうに睨みつける。


 こうなった原因は言わなずもがなクライヴ。あの日以降、セウが懸念した通りになっている。


 やたらめったら絡んでくるし、隙を見せたら軽々しくキスが降ってくる。気恥しさもあり、何度も「やめてください!」と叱りつけるように言うが、聞く耳持ちやしない。


 そもそも、塩耐性が出来上がった所に糖分を投入されたら、驚いて拒絶反応だって出よう。


 そんな感じで心が落ち着けるのは、クライヴが屋敷に居ない僅かな時間だけ。


 そんな貴重な時間に、また面倒な客がやって来た。


「なんの用?悪いけど、あんたに構える状況じゃないの」

「そうみたいだね。酷い顔してる」

「悪かったわね」

「やだなぁ、心配してるんだよぉ。そうなった要因は団長様かな?」


 的確に的を突かれ、平然を装ったつもりだったが、微かに肩が震えたのをシャオは見逃さなかった。本当、目敏い男は鬱陶しい。


「ふ~ん。なんか面白そうだけど、これ以上お嬢様の機嫌を損なう訳にはいかないから聞かないでおいてあげる」


 商人だけあって空気の読み方が上手いのは有難いが、なんか腹が立つ。


「それなら、丁度いいや。どう?気分転換に僕とデートしない?」

「は?」



 ***



 シャオの口車には乗せられて連れてこられたのは、街を一望できる丘に佇む大きな屋敷だった。


「……なに、ここ?」

「ん?滞在用の僕の屋敷。商談なんかもここでやるからね、部屋数多くしたらこんななっちゃった」


 立派な屋敷に言葉を失っていると、あっけらかんとした態度で言われた。その言葉に、空いた口が塞がらない。


(これが滞在用!?)


 滞在用って事は、各国に同じような屋敷があるということだろう。


「…商人って凄いのね」

「なに?気になっちゃう?僕の元に来れば色んな世界が観れるよ?」

「結構よ」

「ははっ、残念。さあ、どうぞ、お嬢様」


 大きな扉を開けて、中へと招かれる。


 屋敷の中には様々な国の工芸品で溢れていて、見たこともない他国の品に目を輝かせて見渡している。


(こんな表情(かお)もするんだ)


 シャオ(自分)の前では見せない無邪気で子供のような姿に、思わず頬が緩んだ。

 会う度に色んな表情を見せてくるシャルロットが気になって仕方がない。

 言い寄ってくる女性は多くいるが、こうも嫌悪感を全面に出してくる子は初めてで、最初はほんの興味から近付いたが…


(ミイラ取りがミイラになったみだいだね)


 そう自嘲していると


 ──キンコーン…


 突如、ベルが鳴った。


「失礼するわよ」


 こちらの返事を待たずに扉を開けて現れたのは、シャルロットの叔母であるミランダだった。

 シャオはシャルロットを隠すように、素早く背に庇った。


「これはこれは、リッツ夫人。どうしたんです?約束は入っていなかったと思いますが?」

「どうしたんです?じゃないわよ。そっちが連絡を寄越さないから、わざわざやって来たじゃない」

「それは失礼致しました」


 愛想笑いで応対すると、ミランダは不愉快そうに小さく舌打ちをした。

 シャルロットの知る叔母は上品で優しくて、淑女の鏡のような人で、こんな悪態を付くような人じゃない。


 まるで知らない人を見ているようで、シャルロットはシャオの裾をキュッと握りしめた。


 その可愛らしい行動に、シャオが驚いて後ろを振り返ってしまったのが不味かった。


「──あら?もしかして、シャルロットちゃん?」

「!!」


「しまった!」と思った時には、既に後の祭り。


「まあまあまあ!」


 パァと顔を輝かせて近づいてくる。

 そして、シャルロットの顔とシャオの顔を交互に見返し、ニタァと嫌な笑み浮かべた。


「もう、シャルロットちゃんがいるなら早く言ってちょうだいよ!流石はヴァーチュ商会の代表だわ。シャルロットちゃんの心を開くなんて」


 完全なる勘違いだが、シャオは訂正するでもなく「はは」と乾いた笑いを返すだけ。


「そういえば、街で()()()も見かけたわよ?綺麗な王女様連れて買い物してたわね。腕まで組んで楽しそうに…あの男も隅に置けないわよねぇ」


 チラッとわざとらしく横目でシャルロットの顔を見ながら伝えてきた。


 ミランダがあの男と言って、名を口にしないのはクライヴだけ。


 ──という事は、今クライヴは何処かの国の王女様とイチャつきながら買い物を楽しんでいると…


 ズキッ


 別にあの人が誰と何をしようが関係ない。関係ないのに…胸が痛むのは何故…?


 胸を押え、顔を俯かせているシャルロットの肩をシャオが抱き寄せた。


「すみませんリッツ夫人。僕らもほら…ね?」


 思わせぶりな言い回しでいえば、ミランダは頬を染めながら微笑んだ。


「あらあら、そうね!ごめんなさい。邪魔者はお暇させて頂くわ」


 忙しなく言い切ると、シャオの耳元に顔を近付けた。


「例の話、覚えているわよね?宜しく頼むわよ」


 シャルロットに聞かれぬよう、耳打ちしてきた。


「ええ、承知してますよ」

「そう。それならいいわ」


 冷たく言い放つと、シャルロットに目をやり笑顔を向けた。


「じゃあね、シャルロットちゃん。また会いましょう」


 いつもと同じ明るい笑顔で手を振り、軽やかな足取りで屋敷を出て行った。


 パタン…と扉の閉まる音が聞こえると「はぁ」と大きな溜息が聞こえた。


「大丈夫?」

「何が?」


 シャオが眉を下げ、心配そうに顔を覗き込んできた。


 何に対しての大丈夫か知らないが、心配されるような事は無い。……まあ、クライヴの事に関して言えば、少し驚きはあったものの、あの人もいい歳だし恋人の一人や二人くらい……


「…帰る」

「ん?」


 シャルロットが顔を俯かせたまま呟いた。

 よく聞こえなかったシャオが聞き返すが、黙ったまま扉に手をかけた。


「ちょっと待ちなよ」


 扉を手で押さえながら覆い被さる様にして、引き止められた。


「離して」

「嫌だね」


 冷たく突き放す様に言うが、シャオは離してくれない。


「そんな顔で帰せない」


 そっとシャルロットの顔に手を置き、自分に向けさせた。

 その表情は泣きそうなのを必死に堪えてるように見える。当の本人は気付いてないようだが、誰が見ても大丈夫な様子じゃない。


(無自覚ってのが、また辛いね)


 やれやれといった感じで苦い笑いを浮かべ、シャルロットを抱き締めた。


「弱っているところに付け込んじゃうけど、ごめんね」


 こんな状況でも、チャンスがあれば見過ごせない商人魂。


「そんな顔するぐらいなら、僕のところに来ればいい。こんな感じだから誤解しているかもしれないけど、僕は本気だよ。本気で君と一緒になりたいと思ってる」


 真剣な眼差し…真っ直ぐにシャルロットを見つめる瞳には曇りはなく、透き通っていた。


 シャオに触れられているところが熱い。鼓動が早くなっているのも分かる。手を振りほどこうと思えば簡単に振りほどける。この人なりに逃げ道を作ってくれているが、どうしたことか…振りほどけない。


 見つめ合う二人…


 そんな二人を物陰から眺めている者が一人。


「あ~ぁ」


 一部始終を見ていたセウは、うんざりするように眉を顰めていた。












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