ガイアからの使命を果たすために真理を探す冒険の始まり
1-3 ガイアが与えた使命 の最後に4人が話した内容です。
エイレネたちは、ガイアの神殿から出てきて、神殿の前で立ち止まった。
あまりにも重大な使命を受けとったのに、その後、ガイア様から言われた『神々としての力を失っている』という話がショッキング過ぎて、4人とも茫然としてしまっていた。
最初に言葉を発したのはエイレネだった。
「ガイア様があの後私たちに話して下さったことを整理してみない」
ディアナは、エイレネの言葉に応じて、4人がガイア様からの使命を受諾した後のことを話し始めた。
「そうね。私たちが幽閉されていた数千年の長い期間。その間に、人類は私たち神々の存在を信じる心を失ってしまっていると言われたわ。そのため、私たちの神としての力も消えかかっているって!」
プロメテウスが、直ぐにその後を続けた。
「神々への信仰心を失った人類は、ただ一人の神だけを信じることにしたんだと言っていた。それは、神々の世界が人間の世界と同じようにあまりにも自由奔放で何でもありの世界だったからのようだ」
パンドラもその後のガイア様の話を思い出しながら続けた。
「ゼウス様たちって浮気や不倫はし放題だし、戦争もするし、自分勝手で怒ったら雷は落とすわ、罰を与えるは、めちゃくちゃなんだもん。自分の不道徳は許して、他の神さまが気に入らないことをすると嫉妬で厳罰や報復をするなんてことを平気でするから人間たちも呆れかえったのかな?」
プロメテウスは、肝臓のあたりを押さえながら自身の体験を語った。
「そうだよ。私が人間に火と知恵と技術を与えたことに怒って、神々のものを盗んだなんて言いがかりをつけて、大きな岩に私を縛り付けて大きな鷲に私の肝臓を毎日少しずつ啄ませるなんて、極悪人でも考えつかないようなひどい罰を与えたんだ。火も知恵も技術も神々だけのものだなんて誰も言っていなかったんだから、あれは絶対に濡れ衣にちがいない。自分が人類から感謝されたかったのに、私が人類の英雄になってしまったことに対する嫉妬で怒り狂って下した罰に違いない」
パンドラも思い出した。
「そうよ。私は、人類初の女性としてゼウスの命令で神々が創り出されたのよ。男性ばかりの人類の世界に女性を贈り物にするなんて、やっぱりゼウスは自分勝手ですよね。挙句の果てに天界の禍を全て詰め込んだ箱を私に持たせて、『絶対に開けてはいけない!』なんていうものだから、好奇心旺盛な私はついつい開けてしまって大変なことになってしまったのよ。それ以来、女性は禍の元とか言われて虐げられてきたんだから・・・」
ディアナは、パンドラとプロメテウスの二人の興奮と怒りが少し冷めるのを待ってから話を続けた。
「本当に神々の世界って、恣意的で混沌としていて、秩序も道徳も法律も無い世界だったのね。でも、私は月の女神であると同時に、狩りと自然と女性の守護神でもあるから、パンドラのことは絶対に守るし、人類の女性全ての名誉と地位を挽回して見せるわ」
エイレネも続けた。
「私は平和と繁栄の女神!だから、めちゃくちゃな神々の世界と人類の世界に秩序と正義をもたらして、平和と繁栄を取り戻して見せるわ」
ディアナとエイレネは、女神としての自らの使命を確認するかのように強い決意を改めて口にした。
しかし、プロメテウスは、それを聞いて不安そうに口を開いた。
「だけど、ガイア様が神々への信頼や信仰が薄れてしまったので、同時に神々の神力も失われつつあるって言われていたよね」
エイレネがそれを聞いて、ガイア様の話の続きを思い出した。
「そうだわ。神々に呆れかえった人が、自分達だけでも道徳的で規律のある生き方をしようと、理想的な神様を一人だけ信じるようにしたということだったわね。不倫や盗みや殺しはいけない。妬みも嫉妬もいけない。親を殺すことはいけないし、尊敬して大事にしなければいけないなどという規則を、ただ一人だけの理想的で絶対的な神様からの命令だとすることで、人間界に秩序をもたらそうとしたんだとガイア様は話していらしたわ」
プロメテウスは、再び嫌なことを思い出した。
「そうだよ、ゼウス様自身の親はクロノスで、クロノスは自分の子供が自分の地位を脅かして自分を殺すことになるのを恐れて、生まれてきた子供を次々と食い殺していたんだから本当に神々の世界って滅茶苦茶だったもんね。結局は女性の神さまたちがゼウスだけ隠してクロノスから守って育てたのだけれど、クロノスの心配どおり、自分の子供であるゼウスによって殺されてしまったのだから、神々の世界では子殺し親殺しが当然の世界で、親殺しをしたゼウスが神々の王なんだから道徳も良心も何もありはしない世界だよね」
エイレネは、話をもとに戻した。
「だから人々は、そんな神々の世界を信じたり面白く思ったりしないで、たった一人の清廉潔白な神様に頼ったのね。そのせいで、神々たちが持っていた神力も失われてしまった」
ディアナは、その後にガイア様が話したことを思い出した。
「たった一人の神さまを信じる人たちは今の世界でも大勢いるそうよ。でも、ガイア様のお話によると、今の世界では神様よりも科学技術が一番信頼されているということだったわよね」
プロメテウスは、喜びの声を上げた。
「そうなんだよ。私が火と共に人類に与えた知恵と技術が、今の人々の一番の信仰になっているっていうから驚いてしまった。それを聞いた時は本当に嬉しかったな。肝臓の痛みなんて吹っ飛んで行ったよ!」
エイレネは、ガイア様の話の続きが見えて来たので喜んだ。
「そうか!その次にガイア様が話されたのは、私たちが神々の力を取り戻すためには、私たちも科学技術を学ぶことが必要だと言われたんだわ!」
ディアナもその続きを思い出した。
「さらに、最新の人類のよりどころは人工知能のAIに移りつつあるとも言われて、AIの学習方法であるディープラーニングが私たちにも必要だと言われたわよね」
パンドラが理解しきれなかったそのディープラーニングについて聞いた。
「ディープラーニングって何なんでしょうか?」
プロメテウスは、自分がガイア様の説明から覚えていることを説明した。
「ディープラーニングとは深層学習のことで、コンピュータに大量のデータを記憶させることで、そのデータの特徴やルールをコンピュータが自動的に抽出して学習する技術のことらしいです。これは機械学習の一手法で、人間の頭脳の神経細胞の仕組みを模したニューラル(神経)ネットワークを多層構造化することで、データの背景にあるルールやパターンを自動的に学習するらしいということです。要するに大量のデータからコンピュータが自動的に学習することで、例えばイヌの写真の情報を大量にコンピュータに記憶させると、自動的に犬とは何かということを学習してしまうらしいんだ。だから人間にもコンピュータが何をもって犬と判断しているかは分からないらしい。それだけど、犬以外の動物、例えばネコの写真をコンピュータに入れても、これはイヌではないと判断してくるというのがディープラーニングという学習方法だ」
パンドラにもたくさんの情報を学ぶと何かが自然に分かってくるということは、何となく理解できた。
エイレネは、ガイア様の続きの言葉を思い出した。
「そうよ!私たちも今の社会で神の力を取り戻すために、たくさんのことを学ぶ必要があるって言われたんだわ!」
パンドラが心配そうに言った。
「私はコンピュータではないから、たくさんのことをいっぺんに素早く学習するなんてことはできないような気がする」
プロメテウスは、パンドラの心配を追い払うように自信をもって話した。
「それは私だってできないさ。だけど、私たちには演繹法という知識のもう一つの学び方がある。ディープラーニングは大量のデータから何か規則を見つけ出してイヌはイヌと判断するから、いわゆる帰納法だ。これには膨大な知識がいるから、人類のこれまで残したすべてのデータを入力する必要がある。だけど、演繹法は絶対に正しいと思われる真理をいくつか見つければ、あとはそのことから多くのことが導き出されて理解できるという方法だ。例えばイヌはこうこうこういう特徴を持つものだという定義を入力して、ネコの写真を見せてもこれはイヌではないという判断ができるようにすることなんだ」
パンドラはプロメテウスに聞いた。
「それじゃあ、誰かが私たちにその真理を教えてくれるのかしら?」
ディアナは、自信なさげに応えた。
「たぶん、それは無いと思うのよ。もし、その真理が既に見つかっていて、人類が知っているのなら、ガイアがワザワザ私たちに人類と共に温暖化を阻止して、地球上の生命の危機を回避するように命じる必要はなかったはずだから・・・」
エイレネは、少し考えてからおもむろに考えを口にした。
「ということは、ガイア様は私たちにその真理を見つけ出してから、それを人類に教えて全ての人類と共に温暖化を阻止することを命じたってことですよね」
プロメテウスは、そういうことなのかと納得してみんなに声をかけた。
「それじゃあ、これから私たちは『温暖化を阻止する真理を探す冒険の旅に出る』っていう物語なんだね、これは!」