序:月面での大騒動とガイアの苦悩
温暖化を阻止するには、人類が抱えるそのほかの地球規模の問題も一緒に解決しないと本格的な取り組みにはならない。そおためには、地球政府を樹立する必要がある。万物の創造神であるガイアから託された使命は2035年がタイムリミット。主人公のエイレネは平和と繁栄を司るギリシャ神話の女神。エイレネと一緒にこの難題に取り組む仲間は、人類に火を与えt温暖化の原因を作ったプロメテウスと、禍が詰まった箱を開けてしまったパンドラ、月の女神で自然と女性の守り神のディアナの4人。果たして使命は達成できるのか?!
1-20 ガイアの秘密:生命の最初から性格を持たせていた!
いよいよ「人間とは何か」という最初のコースが終わりに近づいた日、4人はこれまで学んできたことを振り返りながら、次の段階への期待に胸を膨らませていた。彼らの前には、ミエナのホログラムが浮かび、静かに微笑んでいた。
その瞬間、室内に重厚で荘厳な存在感が現れた。ガイアが姿を現したのだ。
「皆さん、よくここまで学んでくれました。あなたたちは短い間に大きく成長しましたね」と、ガイアは彼らを優しく見つめ、祝福するように言った。
4人はその言葉に少し照れながらも、敬意を込めてガイアを見上げた。
「今日、皆さんに私の大事な秘密の一つを打ち明けようと思います。これは、誰にも知られていない真実ですが、皆さんの今後を左右するとても大切なことが含まれています。どうか、慎重に聞いて、その意味するところを深く考えてみてください。」
4人は息を飲んでガイアの言葉に耳を傾けた。ガイアは続けた。
「40億年前、私は生命を誕生させました。その最初の生命は、単細胞生物であり、学術的には『ルカ(LUCA)』と呼ばれています。これは『最終普遍共通祖先』を意味し、現代の全ての生物の共通の祖先とされています。ルカの一つ前の世代の生命は無数に繁殖し、同じ個体を作り出したので、これで完成だと思いました。しかし、そこで一つの問題が生じました。全ての生命が同じ性格を持っていたために、複雑な環境の変化に適応できず、絶滅してしまったのです。つまり同じ種の中に多様性がないために、全部の生命体が同じ対応をしてしまうため、それを乗越える生命も生まれないし、進化も生じないということになってしまったのです。つまり、機械仕掛けのロボットみたいな一つの反応しかできないものは生命とは呼べないのです。」
4人は、息をのんだ!
「そこで、私は本格的な生命の祖先となるルカに性格を生命に付与することにしました。性格は、生命が環境に適応し、生き残るために不可欠なものなのです。しかも、性格は遺伝ではなく、確率的に決まるように設定しなければ一つの環境に適応した性格だけが残って、その後の環境の変化に対応できなくなってしまうのです。いつまでも性格の多様性が適応や進化をもたらすためには遺伝ではないことがとても重要だったのです」
ガイアの言葉は、静かでありながら力強く、まるで地球そのものの脈動を感じさせるようだった。
以前、ガイアからこの秘密を教えられたマコテス所長は、SimTaKNというソフトを使って、得意のコンピュータ・シミュレーションでこのことを確認した。
最初の生命をコンピュータのモニター上に点で示し、それが増殖して増えていくことで、たくさんの点となってモニター上に現れる。
この時に、増殖しただけの生命細胞は、性格が無ければ全てが同じ行動をとってしまう。例えば、外部の有益な物質を細胞内に取り込むときに、必ず特定の性質を持った物質だけを取り込むとしてみよう。
もし、その取り込む機能が一定の動きしかしないとしたら、どうなるだろうか。
一つの生命細胞が《有益な物質に近い匂いとか分子構造とかの性質でありながら致死性の毒の物質》を取り込むのなら、他の生命細胞も取り込んでしまう。その結果、全生命細胞は死滅してしまう。これでは、生命は持続的に繁殖し続けることはできない。
そこで、性格の違いが必要となる。
致死性の毒物を食べてしまう危険性に対して鈍感な性格の生命細胞は死んでしまうが、危険性に敏感な生命細胞はそれを食べないので繁殖できる。
危険そうな物質を細胞内に取り込むか取り込まないかは、危険に対する性格の違いや新規の物に対する好奇心の違いなど、性格の違いによって決まるということが、生命の存続に大いに関係しているのである。
多様な性格の生命細胞は、その周囲の海水中にある多様な栄養素を取り入れたり取り入れなかったりして、一つの種しかいない原初の生命細胞でもいろいろな種が存在するような振る舞いをすることになる。
つまり、性格の多様性は種の多様性の代わりとなり、多様な進化の原動力となる。もし、性格が最初の生命に無かったとすれば、絶滅か存続かを単純に繰り返すだけとなり、それでは、進化は生じないこととなる。
また、次の疑問である性格が遺伝するかしないかで、遺伝するとしたら、ある環境に適した行動をとる親から生まれる子は親と同じ性格になる。これが続くと、一つの性格ばかりの種になる。そうすると環境が変化したときに適応できずに死滅してしまう。そのこともSimTaKNというソフトのシミュレーション・モデルで確認できた。
このようなモデルを作成してシミュレーションを行うという方法で、生命の基本的な機能を研究する分野は、バイオインフォマティクスやシステム生物学という。マコテス所長の研究分野は実に多岐にわたっているのである。
4人は驚愕し、ガイアの秘密とマコテス所長の研究に深い感銘を受けた。エイレネは特に、このとんでもない事実を打ち明けられたことに衝撃を隠せなかった。性格というものが、生命の根本に関わるものであり、環境の変化に適応するために不可欠な要素だということ。それが確率によって決まる、つまり偶然でありながら、生命全体を形作っていることに、彼女はただただ驚嘆した。
「それって…」とエイレネは目を輝かせながら言葉をつなぐ。
「だから、性格が違うことがこんなに重要だったんですね!それなら、Big 5の性格理論がすべての人に当てはまるのも納得です。過去も、現在も、未来も…すべての人類に共通しているんだ!」
パンドラは興奮気味に、「そうよね!性格が確率的に決まるなら、全ての人にそれぞれの役割があるってこと。多様な性格が、世界をもっと豊かにしているんだわ!」と叫んだ。
ディアナは冷静に、「なるほど。それなら、人間社会における平和や自由、平等、博愛といった普遍的な価値観が、すべての人間にとって自然なものだということが説明できるわね。性格が多様であるからこそ、それを尊重し合うことが人間らしさなんだわ。」
プロメテウスも深く頷きながら、「だからこそ、これまで学んできたように、矛盾や対立が生じるのも当然なんだな。性格や価値観が異なるのだから、時に衝突するのは避けられない。でも、それをどう乗り越えていくかが重要なんだ。」
ガイアは彼らの反応に満足そうに微笑んだ。
「その通りです。多様性は、生命の本質であり、それが生命を進化させ、地球のあらゆる環境に適応させてきました。しかし、同時にそれは矛盾や対立を生み出すものでもあります。だからこそ、人類は長い間、意見の違いを乗り越える方法を模索してきたのです。」
エイレネは、ふとある考えが閃いたように目を輝かせた。
「それなら、民主主義が必要になるんですね!多様な性格や価値観があるからこそ、みんなの意見を尊重しながら、対立を乗り越えて意思決定をするためには、民主主義が最適なんだ!」
「そうだな」と、プロメテウスが続けた。
「強制力や一方的な力では、多様性を活かせない。だからこそ、皆が自由に意見を言い合い、互いを尊重し合うシステム、つまり民主主義が必要なんだ。」
ガイアは静かに頷きながら、「皆さんがこれまで学んできたことが、まさにその通りです。性格の多様性が存在する以上、それを前提にした社会や国家の意思決定には、民主主義が不可欠です。民主主義は、人間の性格や価値観の違いを受け入れ、共存するための最も効果的な方法です。」
ディアナは思慮深げに、「民主主義は単なる政治のシステムではなく、生命そのものが持つ多様性に根ざした仕組みなのね。それを学んだ今、私たちはさらに深く理解できたわ。」
パンドラは興奮しながら、「じゃあ、私たちもこのことを元に、これからどうやってみんなの違いを活かしつつ、協力して地球を救うか考えられるわね!」
「そうだな」と、プロメテウスも同意した。
「これからの私たちの使命は、ただ技術や力で問題を解決するだけじゃなく、民主主義を通じて、多様な人々を一つにまとめ、協力させることだ。」
エイレネは、深い感慨に浸りながら、「私たちがこうして学んできたことが、未来のためにどれほど大切なのか、今改めて実感したよ。性格も、価値観も、みんな違うけど、それを認め合いながら平和や自由を大切にすることが、私たちが目指すべき道なんだね。」
ガイアは穏やかに微笑みながら、彼らの成長に目を細めた。
「皆さんは本当によく学びました。この先、さらに大きな挑戦が待っていますが、私はあなたたちを信じています。性格と価値観の多様性を理解し、それを活かして人々を導いてください。それでは、次ぎのコースに進んで、また素晴らしい発見をして下さい!」
4人は互いに目を見合わせ、深い決意を感じた。
彼らはこれから、地球を救うために進むべき道をしっかりと見据え、その大いなる使命に向かって歩み始めるのだった。
その夜のエイレネの夢には、民主主義の神様だというアテナという女神が出て来た。アテネの守護神であり、叡智と戦の女神だそうだ。剣と盾も持っている。
アテネは「これでようやく21世紀の新しい神話ができる! 民主主義は絶対に正しいのだ! そのためには不断の努力も必要だが、もうこれ以上、民主主義が悪い政治だなどといわれることは無くなるのだ! 民主主義を崇めよ! 我を崇めよ! えいえいおー!」という掛け声とともに消えた。
それからは世界中で民主主義を讃える神事が広がり、祈りの後になぜか「えいえいおー!」という掛け声が続いた。
翌朝、目が覚めたエイレネは、3人にこの夢のことを伝えた。
大笑いされたけど、もしかすると正夢かもしれないとちょっぴり心配になった4人でした。
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ようやく第一部の「人間とは何か」で、エイレンたちは、①Big5の性格が人間にはあること、②それが意識調査を実施した特定の地域やその時点だけの人間の性質ではなく、全人類に現在も未来も普遍的に備わっている性質であること、③これは生命の最初からBig5の性格が備わっていて、遺伝ではなく確率的に備わっているということから普遍的なものだといえること、④従って、Big5の性格によって個人も集団も社会や国家も全て矛盾と対立、協調と調和を含んでいること、⑤集団や社会、国家の矛盾と対立を解消するために暴力を排除した人類の英知は民主主義的な熟議と多数決であること、⑥つまり、人類には民主主義が絶対に必要なものだということが普遍的にいえることが分かってきました。⑦このことは、人間の本質を、アリストテレスの思想のように理性的動物であるとしたり、ルソーのように自然状態では利他的で協調的であるとしたり、逆にホッブズのように利己的で闘争的なであるとしたり、カントのように人格主義的で道徳的であるとする過去の哲学の人間に対する一方的な見方や考え方を否定するものである。⑧また、一人の独裁者や少数の支配者が理想とする社会には、必ず反対する人々が存在すること、従って非民主主義的な政治体制である独裁主義や権威主義などは否定されるものであることが明らかになった。⑨このことは、アメリカの大統領制が2期8年を上限としてそれ以上の再選を禁止していることの重要性ともつながっている。
これらのことが、温暖化の阻止とどう結びついていくのかは、第三部までお待ちください。
次は、エイレネたちが「地球規模の問題群」の現状を体験的に学ぶコースになります。どんな冒険が待っているのか、楽しみにお待ちください。
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『おやすみ、エイレネ! 神々と温暖化阻止と地球政府樹立に挑む!』
2024年11月3日
作者:イケザワミマリス
序:月面での大騒動とガイアの苦悩
0-1 月面での大騒動
「おやすみ、エイレネ!」
なぜか、とても遠くてから、しかもずいぶんと昔のことのような・・・そんな感じがする優しい母の声で眠りについた。
「お母さんに会いたいな!」
そんな想いを抱きながら、エイレネは眠りの世界へと深く深く落ちていった。
翌朝、目が覚めると、そこは荒涼とした月の裏側の世界だった。 エイレネは、眠気を追い払って、これまでのことを思い出した。もう、数千年も前のことだが、ゼウスがあまりにもたくさんの女性と不倫をして次から次へと子供をもうけていることに怒ったゼウスの妻ヘレが女神たちを集めて反乱を起こした。幼い女神だったエイレネも、ヘレの激昂に押されてその反乱に加わってしまったのだ。反乱は一時期成功したのだが、結局は反乱に加担した罰として月の裏側に幽閉されてしまった。どのように成功したかは、幼いエイレネには教えてもらえなかったが、ヘレの怒りは収まったようだった。詳しいことを知りたいければ、ギリシア神話を注意深く読んでみてください。
月の裏側に幽閉されたのは、エイレネとパンドラ、ディアナの3人だけ。その他の女神たちは、冥界や海底、地中深くなどに閉じ込められたようだ。
しかし、数千年におよぶ長い長い幽閉からついに解放される日がきたようだ。月の裏側が、急に光りにあふれ、陰惨な光景が目映いばかりの美しい世界へと一変した。その瞬間、エイレネは深呼吸をした。空気はないはずの場所で、それでも胸が軽くなった気がした。長い閉塞感の中で過ごした数千年の日々――それが、ついに終わったのだ。
「やっと…自由だ!」
エイレネたちは身を投げ出すように、月の表側に足を踏み出した。目の前には、懐かしい光景が広がっていた。暗く冷たかった裏側とは違い、銀色の砂がキラキラと光を反射し、果てしない宇宙が目の前に広がっている。胸が高鳴り、思わず笑みがこぼれた。
「すごい!こんなにも月の表側から見る宇宙って美しいんだね!」
エイレネは思わず叫んだ。 彼女の声は無音の世界に吸い込まれていくが、その笑顔は抑えきれなかった。自由奔放な彼女らしい姿だ。
「確かに…こんな景色を忘れていたわ」とパンドラが後ろから続く。彼女の瞳にも驚きと感激が映っていた。
「これが、月の表側なんてね。何千年も封じられていたとはいえ、やっぱり月の表側の世界はいいわね…」
その時、ディアナが静かに歩み寄り、空を見上げた。
「エイレネ、あれを見て。」
ディアナが指差す方向にエイレネが目を向けると、空の片隅に、きれいに赤く輝く星が浮かんでいた。リンゴのように鮮やかで、美味しそう!
「赤い星…?リンゴじゃないの?あれを採って欲しいな!」
エイレネがディアナにお願いした。ディアナは少し眉をひそめながらも、静かに弓を構えた。ディアナは狩りと自然と女性の守護神でもあるのだ。
その時、パンドラが何かに気付いた。
「待って!あれ、あそこに誰かいる!」
エイレネもディアナも驚いてその方向に目を凝らした。遠く、宇宙の暗闇の中に、小さな影が動いている。それは次第に近づき、彼女たちが知っている顔に変わっていった。
「プロメテウス?」ディアナが驚いて声を上げた。
彼は強く、たくましい体をしているが、その顔には疲労と焦りが浮かんでいた。3人の胸に一瞬、嫌な予感が走った。
プロメテウスは月の表面に降り立つと、息を切らせながら叫んだ。
「それは地球だ!温暖化で、赤くなっているんだ…!」
彼の声には緊張感があり、事態の深刻さを物語っていた。
エイレネは目を丸くした。
「地球が…そんなことになっているの?」
ディアナもパンドラも信じられないという表情で、その赤い星を見つめている。彼女たちが知っていたかつての美しく青い地球は、どこに行ってしまったのだろう?
好奇心旺盛なパンドラが一歩前に出て言った。
「行ってみよう、すぐに!何が起きているのか確かめたいわ。」
彼女の声には好奇心と、何かしらの覚悟が混じっていた。それは、かつてゼウスから渡された箱を開けてしまった時のような無謀な気持ちではない。今度は慎重に、でも勇気を持って慎重に何なのか確かめてみようという意志が見えた。
「でも…」ディアナは一瞬躊躇した。
「月を離れるのは…。私は月の女神としてここに留まるべきかもしれない。
私は潮の満ち引きなどを通じて命の誕生と自然と女性たちを守るためにここにいる。でも、今の地球を見ると…守るべきものが失われつつあるのかもしれない。」
パンドラはディアナにそっと手を差し出した。
「ディアナ、怖がらないで。私たちが一緒なら、きっと何かできるよ。まずは見に行って、今の地球を知ることから始めようよ。」
ディアナはパンドラの澄み切った目を見つめ、深く息を吸った。彼女もまた、迷いながらも地球の現状を確かめたいという気持ちが強くなっていた。
やがて、彼女はゆっくりとパンドラの手を握り返した。
「わかったわ、行きましょう。」
こうして、四人は静かに月面から宇宙へと足を踏み出した。背後に広がるのは、永遠の月の世界。目の前にあるのは、かつての青い星――今は真っ赤に染まった地球。エイレネはその光景を見つめながら、胸の奥で不安と期待が入り混じる感情を抱いていた。
「地球がどうなっているのか…知りたい。私たちがそこに、まだ何か役立つことができるなら…」
地球へ向かう道のりの中で、エイレネは静かに祈り始めた。
彼女たちの運命は、これから始まる。
0-2 ガイアの苦悩
天界の神殿は、静寂に包まれていた。黄金色の光が大理石の柱をやわらかに照らし、空気は澄んで冷たい。そこに座しているのは、万物と生命の創造神、ガイアだった。威厳に満ちた姿で玉座に座る彼女の瞳は、広がる宇宙の彼方をじっと見つめていた。
「人類か…」
ガイアは静かに息をついた。その声音は、深い海のように落ち着き、しかしどこか苦悩を抱えていた。地球は今、危機に瀕している。温暖化、汚染、森林の消失――そのすべては、自らが生み出した生命の進化形、人類によって引き起こされたものだ。ガイアはこの地球を、すべての命が繁栄し、互いに共存できるように創造した。しかし、その生態系が今、歪んでいる。
「私が干渉するべきか?」
ガイアはその問いを自らに向けて静かに発した。彼女の力をもってすれば、人類を滅ぼすことは容易い。人類だけを取り除き、他の生命を救うことは、地球規模の生命の進化に干渉するという意味で彼女の指一本でできる。
恐竜の絶滅を引き起こしたあの時のように――。
「そう、あの時は…」
ガイアは思い出す。恐竜を絶滅させたあの瞬間、彼女は少しだけ感情的になってしまっていたのだ。彼女が可愛がっていた哺乳類の一匹が、恐竜に踏みつぶされてしまった。それは彼女にとって、思いがけない悲しみだった。
思わず巨大隕石を呼び寄せてしまい、地球の支配者たる恐竜を滅ぼした。哺乳類を生き延びさせるために――。
「あれは過ちだったかもしれない」
ガイアは眉をひそめ、反省の色を滲ませた。 進化は自然に任せるべきもの。神であっても、その流れを操ることは慎重であるべきだ。それに、ガイアは何よりも「生命の力」を信じていた。すべての生命が、環境に適応し、進化し続ける力を持っていると。だからこそ、彼女は今まで手を出さずにきたのだ。
人類が、いずれ自らの過ちに気づき、知恵と勇気を持ってすべての生命への尊厳に目覚めることを――。
「だが…」
ガイアの心は揺れていた。温暖化は加速しており、このままでは2035年、すべての生命が後戻りできない絶滅の危機に直面する。その現実が、彼女の目の前に迫っていた。
人類がこの10年間で大きく変わらなければ、すべてが終わる。地球そのものは生き残っても、今の生命の多様性は失われ、回復には膨大な時間がかかるだろう。
「人類が克服できるのか、それとも…」
ガイアは深く思案に暮れた。人類が温暖化を克服し、他の生命と共存する道を選べるのならば、それを見守るべきだ。しかし、それができないのなら、彼女はどうするべきなのか? 選択肢は明白だった。地球の支配者は人類以外でもいいのだ。例えば、個体数が千兆の20倍もいるといわれているアリでもハチやゴキブリでも良いのだ。もしかすると本当の地球の支配者は彼らなのかもしれない! 単なる一つの生物種である人類を滅ぼせば、他の生命は生き延びる可能性が高い。だが、それを決断することは、彼女が進化そのものを信じることをやめるという意味でもあった。
「私は…信じたいのだ。生命の力を」
ガイアは静かに目を閉じた。自分が創造したこの地球が、何度も過酷な環境を乗り越えて進化を遂げてきたことを、彼女は知っている。人類がその知恵を使い、自然との共存の道を見出すことを、まだ彼女は信じていたい。
だが、残された時間は少ない。2035年まであと10年。その間に、人類がどんな選択をするのか。ガイアは再び目を開き、宇宙の果てを見つめた。彼女の心は依然として重い。
「彼らがその知恵に目覚めるか、それとも…」
ガイアは立ち上がり、神殿の中央にある地球を模した青い球体に手を伸ばす。その手は一瞬、ためらい、再び降りた。干渉するべきか、見守るべきか。ガイアの思索は続く。
「人類よ、あなたたちの未来は自分たちで決めるのだ。だが、私はその行く末をじっと見守っている…」
玉座に戻りながら、ガイアはその静かな声を宇宙へと解き放った。その声は、彼女が抱く葛藤と同じくらい、深く静かに響き渡った。
第一部 地球の危機を救うためにまずは勉強だ!『1.人間とは何か?』
1-1 地球に降り立った4人
エイレネ、ディアナ、パンドラ、プロメテウスの4人が降り立った地球は、もはやかつての美しさを取り戻す術を忘れてしまったかのようだった。昔は人間がいくら文明を築いても、衰退し崩壊した文明の跡地は草木が覆い隠し、元の大地へと戻されていった。まさに、夏草や兵どもが夢のあと・・・というのが常態だったのだ。
しかし、今は、その自然の復元力は急速に失われつつある。大気は荒れ狂い、乾いた大地には命の気配が乏しかった。強風が砂嵐を巻き起こし、遠くで森林が燃え盛っている。空は重く、そして灰色。かつて青かった海はどこかよそよそしく、時折大きな波が陸地を飲み込んでいた。
4人はただ立ち尽くし、目の前に広がる悲惨な光景を呆然と見つめていた。これが地球だとは信じられなかった。
「どうして…こんなことに…」
プロメテウスが言葉を紡ぐのに苦しんでいた。彼の強靭な体は、今や自分の罪の重みに押しつぶされそうだった。彼は拳を握りしめ、震える声で続けた。
「私が…火を与えたからだ…。その火が、人間に破壊の力を与えてしまった…」
遠くで、洪水が家々を飲み込み、立ち尽くす人々の叫びが微かに風に乗って聞こえてくる。海岸部の都市は水に飲まれ、残された陸地では干ばつが大地をひび割れさせている。農地は不毛の地と化し、人々は飢えに苦しんでいる。プロメテウスの声は次第に高まり、最後には空に向かって叫んだ。
「人類に火と共に知恵と技術を与えたのに…この結果だ!こんなことになるとは…私は、私は…間違っていた!」
彼の涙が、乾燥しきった大地に零れ落ちた。
その横で、パンドラは震えながら両手で顔を覆っていた。地球の破滅的な光景が、彼女の心を激しく揺さぶっていた。動物たちの死骸が転がり、燃える森が次第に灰と化していく中、彼女は嗚咽を漏らした。
「箱を開けてしまった…。私は、全てを壊してしまった…」
パンドラの声は、まるで自分自身を裁くかのように響いていた。
「希望が残っていると言われたけれど、それでも多くの災厄が世に放たれたのは、私のせい…戦争、飢餓、貧困、パンデミック…」
彼女の言葉が途切れ、崩れ落ちるように地面に座り込んだ。
「どうしてこんなことに…どうして…」
彼女の嗚咽は、風にかき消されるように聞こえた。
近くでは、ディアナが荒れ果てた森林をじっと見つめていた。かつて豊かな緑で覆われ、生命に満ち溢れていた場所が、今や黒く焦げた灰の山に変わり果てている。木々は倒れ、動物たちの居場所は消えてしまった。彼女はその景色に呆然としながら、自らの無力さを感じていた。
「私は…自然を守るためにいるべきだったのに…」
彼女は低く、苦しげに言った。
「けれど、私は月に幽閉されていた。その間に、こんなにも多くの生命が失われてしまった。私は何もできなかった…」
その声には、深い嘆きが滲んでいた。彼女の背筋はいつも張っていたが、今はその威厳すら崩れかけていた。
「私は…自然を守り、女性たちを守るはずだったのに、地球上のあらゆるところで多くの女性が虐げられ、悲惨な状況に置かれている。元始の女性は太陽であり山の神でもあったのに!私の使命は果たされていない…私は…失敗した…」
ディアナは涙をこらえながらも、崩れ落ちるようにその場に膝をついた。目の前で繰り広げられる惨状が、彼女の心に鋭い刃を突き刺していた。
そして、エイレネ。彼女の心には、平和と繁栄を守るという誇りがあった。だが、今のこの地球には、平和も繁栄も見当たらない。戦争の残酷さ、自然の破壊、飢餓と貧困、女性たちの悲惨な状況…。そのすべてが、彼女の胸に重くのしかかっていた。
「私は…平和を…守れなかった…」
エイレネの声は震えていた。彼女の瞳に浮かぶ涙は、あふれ出し、地面にポタリと落ちた。
「私がもっと早く何かできていれば…こんなことにはならなかったはずなのに…」
彼女は、崩れるように地面に倒れ込み、涙が次から次へと流れ続けた。
「無力だった…私は何もできなかった…」
彼女は地面に額を押し当て、泣き崩れた。大地に浸み込んだ人々の血と汗と涙、多くの苦しみと怨嗟の悲鳴が、彼女の心に重く響き渡っていた。
四人の神々は、それぞれの後悔と苦しみに苛まれていた。彼らは、自分たちが何もできなかったという無力感に打ちひしがれ、地球の痛みに寄り添うことしかできなかった。彼らが見つめる大地は、あまりにも暗く、そして絶望的だった。
1-2 ガイアの告白
エイレネたちの悲しみと絶望の叫びは、まるで大地と空、そして宇宙そのものに響き渡るようだった。プロメテウス、パンドラ、ディアナ、そしてエイレネ――4人が抱く苦しみは、自分たちの無力さと過ちに根ざしていた。地球の凄惨な現状を目の当たりにし、彼らはただ泣き叫ぶしかなかった。
だがその時、彼らの耳に低く響く声が届いた。
「そなたらよ、なぜそのように嘆き悲しむのか?」
その声は、宇宙そのものが話しかけるかのように深く、そして穏やかだった。4人が顔を上げると、光が周囲を包み込み、次第にその光が形を成していく。やがて、彼らの前に広がったのは、神々しいまでに荘厳な神殿だった。高くそびえ立つ柱は星々の輝きで満ち、床は銀色に輝く光の帯が幾重にも走っている。天井には宇宙が広がり、惑星や星がまるで手を伸ばせば届くかのように近く見える。
「ここは…?」
エイレネが小さな声でつぶやいた。彼女の足元には生命が生まれる瞬間のエネルギーが感じられ、全身を震わせた。
「ガイアの神殿だ…」
プロメテウスが目を見開いて言った。その声には畏怖の念がこもっていた。
パンドラもディアナも、ただ呆然と神殿の広大さと美しさに立ち尽くしていた。神殿はまさに、すべての生命と宇宙の力が集結する場所だった。
「そなたたちが嘆き叫ぶ声を聞いた。何故、そんなにも悲しんでいるのか?」
静かながらもどこか温かいその声は、神殿の奥から響いてきた。
そこに立っていたのは、万物の創造神ガイアだった。彼女は威厳と落ち着きを持ちながら、4人を包み込むように微笑んでいた。彼女の存在そのものが、宇宙のエネルギーそのものに見えた。
「私たちは…」
エイレネが言いかけたが、言葉が詰まった。代わりに、プロメテウスが口を開いた。
「私が火を与えたせいで、人間たちは破壊の道を選んだ。温暖化がその結果だ。私の罪だ…」
パンドラは涙を流しながら続けた。
「私は箱を開けてしまった。そのせいで、災厄が世に放たれてしまったんです…多くの人が苦しんでいるのは、私のせいです…」
ディアナはその言葉に重ねて、「私は月に閉じ込められて、自然を守ることができなかった。今、地球は死にかけている。多くの種が滅びてしまったのは、私の無力さのせいだ」と、深く頭を垂れた。
エイレネは、4人の中でもっとも自責の念に囚われていた。平和と繁栄をもたらすはずの自分が、それを実現できなかったことに、彼女の心は壊れかけていた。
「私は…私は平和と繁栄を守る女神として生まれたのに…何もできなかった。人々はこんなにも傷ついてしまった。私は…無力だったんです…」
彼女の声は震え、涙が頬を伝った。
ガイアは4人の話を静かに聞き終え、ゆっくりと近づいた。その瞳には、無限の優しさと叡智が宿っていた。
「そなたらの嘆きは、深く、苦しいものであろう。だが、それを忘れてはならない。そなたらがもたらしたものは、すべて人類への贈り物だったのだ。火、知恵、自然、そして平和。それは全て、力を与えるものだった。問題は、それをどう使うか、どう受け取るかだ。」
4人はガイアの言葉に耳を傾け、少しずつ顔を上げた。ガイアは続けた。
「プロメテウスよ、そなたが与えた火は、人類が生き延び、進化するための知恵の象徴だ。だが、それを破壊のために使ったのは人間たちの選択だった。」
プロメテウスは拳を握りしめ、悔しさを堪えていたが、ガイアの言葉にわずかに心を和らげた。彼の表情が少し変わった。
「パンドラよ、そなたの箱は、人々に災厄をもたらしたが、同時に希望をも残したのではないか?すべてが失われたわけではないのだ。人類には、まだそれを乗り越える力が残されている。」
パンドラはその言葉に目を見開いた。ガイアの言葉が、彼女の心の奥に届いた。
「ディアナよ、そなたが守るべき自然は確かに傷ついた。しかし、そなたが戻った今、その自然の再生を助けることができる。そなたの役割は、まだ終わってはいない。」
ディアナはガイアの言葉に胸を張り直し、涙を拭った。そしてガイアは、エイレネの方を静かに見つめた。エイレネの瞳には、まだ悔しさと絶望の色が残っていた。
「エイレネよ、平和とは、一度に訪れるものではない。そなたが望む平和は、今ここで壊れたわけではない。人類はまだ戦い続けている。そなたの役目は、諦めることなく、彼らが真の平和を見つけるまで、導き続けることにある。」
その言葉は、エイレネの心に深く染み込んだ。彼女はしばらく何も言えず、ただガイアの目を見つめていた。自分が平和の象徴であることを忘れかけていたが、ガイアの言葉により、その使命が再び心の奥底から呼び起こされた。
「私は…まだ…できることがあるの?」
エイレネは小さく、しかし確かにそうつぶやいた。ガイアは微笑んだ。
「そなたには、まだ多くのことができる。そなたたち4人が協力すれば、地球も人類も救える可能性がある。私にはその予感がしている。そして、そなたたちならば、必ずやそれを成し遂げられるだろう。」
エイレネはその言葉に、力を感じた。彼女は静かに立ち上がり、周囲を見渡した。ディアナ、プロメテウス、パンドラ――皆、ガイアの言葉に救われ、再び立ち上がろうとしていた。彼らとともになら、きっと成し遂げられる。そう信じることができた。
「やろう、私たちにはやるべきことがある。」
エイレネはその言葉を力強く、そして穏やかに口にした。4人の中に新たな決意が生まれた瞬間だった。
1-3 ガイアが与えた使命
ガイアの神殿の謁見の間で、エイレネたちは静かにガイアの話を聞いていた。神殿の壮大さに圧倒されながらも、4人はその一言一言に真剣に耳を傾けていた。
地球規模の問題群の悲惨な現状、温暖化による気候変動の深刻な影響、人口増加と食糧不足の危機、戦争とテロとジェノサイドによる人道と人権の危機に苦しむ人々、パンデミックの蔓延、社会的分断と不平等の深刻化、特に女性や少数民族などへの虐待や社会的地位の低さ、権威主義化による戦争の増加と人権侵害の深刻化、AIの進化と大量失業に怯える人々・・・。
特に、温暖化は気候変動による異常気象で台風、洪水、高温、干ばつ、海面上昇、塩害化などを引き起こし、世界中で森林火災や砂漠化、動植物から昆虫など種の絶滅、生態系を破壊し、人々の生活を困難なものにしている。すでに人類は温暖化の防止だけでは不十分と知り、温暖化の侵攻と異常気象の激化を前提とした対策、例えば川や海岸の堤防強化や高温に強い品種開発などを重点課題としつつある。
「現在、世界では温暖化を食い止めるために多くの国々が合意を形成し、対策を進めているわけだが、彼らは依然として温室効果ガスの削減よりも経済成長を重視し続けている・・・」
ガイアの声は落ち着いていたが、その言葉の裏に感じられる危機感と人類に対する怒りと絶望は想像を絶するほど強かった。
「まだ十分ではない。各国が協力し合って国際的な合意をまとめ、気温上昇を1.5度以内に抑える目標を掲げているものの、現実的にはその達成は厳しい状況にある。大規模な自然災害が頻発し、食糧生産が不安定化し、戦争や移住が増え、貧困や飢餓は拡大している。これが今の地球の現状だ。そして、2035年までに大きな転換がなければ、すべての生命は絶滅の危機に直面するだろう。」
エイレネはその言葉にショックを受け、眉をひそめた。彼女にとって、平和と繁栄をもたらすことは自分の使命だった。だが、今の地球はそのどちらからも遠ざかっている。ガイアの話は、彼女に重い現実を突きつけた。
「でも…」
エイレネが小さな声で口を開いた。
「その合意があるなら、なぜまだ問題は解決されていないのですか? みんな協力しているのではないのですか?」
ガイアは穏やかにうなずきながら答えた。
「確かに、協力はしている。しかし、それぞれの国や指導者たちの利害が絡み合い、進展は遅々として進まない。経済的な問題や政治的な対立、そして科学技術の進歩が追いついていないことも原因だ。人類は、今もなお苦しい選択の中にいる。」
プロメテウスが眉を寄せて質問した。
「それでは、どうすればよいのでしょうか?火を与えた私は、それを後悔している。温暖化が進んでしまった今、人類はどうやってそれを止めればよいのでしょうか?」
ガイアは彼の目をじっと見つめた。
「そなたたちが協力するのだ。そなたたち4人の力を合わせて、温暖化を阻止する世界的な体制を作るのだ。人類の未来は、そなたたちの手にかかっている。」
ディアナが驚いたように口を開いた。
「私たちが…? でも、私たちにはそんな力があるのでしょうか? 人類は自然を破壊し続けている。女性の地位は低く虐げられたままです。私は自然と女性を守るために存在しているが、彼らを導くことなんてできるのかしら?」
「自然と女性を守る者として、そなたの役割は重要だ。人類が自然との共存を学び、環境保護に取り組むように、そして女性の本来の社会的地位や能力の発揮ができるように、そなたが導くのだ」とガイアは静かに答えた。
「そなたは自らの力を信じよ、ディアナ。」
パンドラは両手を強く握りしめた。
「私は…私はただ、禍を解き放ってしまっただけです。それが人々を苦しめた。今さら私に何ができるというの?」
「そなたは希望を残したではないか。人類には、希望があるのだ。今、その希望を再び手に取らせるのは、そなたの役目だ。」
ガイアはパンドラの苦しみに寄り添うように、優しく言った。
エイレネは、ガイアの話に耳を傾けながらも、自分の無力さに再び囚われそうになっていた。彼女の使命は平和と繁栄をもたらすことだったが、今の地球には平和など見当たらない。荒廃した世界、争いに満ちた現実。エイレネは唇を噛みしめ、震える声で言った。
「でも…私たちにそんな時間はあるの?2035年までなんて、あまりにも短い…私たちに、そんな力があるの?」
ガイアは微笑み、ゆっくりとエイレネに歩み寄った。その目には、深い確信が宿っていた。
「エイレネ、そなたは平和の象徴だ。平和は、一瞬で生まれるものではない。だが、そなたの決意があれば、必ず人類は平和と繁栄の道を見つける。そなたの力を、そなた自身が信じるのだ。平和は人類全体が温暖化を真剣に防止する努力を共同で行うための絶対的な前提条件なのだ!」
ガイアの言葉に、エイレネの胸の中で何かが静かに動き出した。自分に本当にできるのか――そういう不安がずっとあった。しかし、ガイアの確信に満ちた言葉が、エイレネの心を少しずつ解放し始めていた。
ガイアは、2035年までにエイレネたちの努力が実現しなかった場合には、人類を滅ぼすつもりであることは胸に秘めたままにしていた。もしそれを口に出してしまったら、4人はあまりの責任の重大さに委縮してしまうだろう。
プロメテウスが静かに言った。
「だが、それでも無理かもしれない。人類は強情だ。私たちが何を言っても、耳を貸さないかもしれない。」
ガイアは彼の言葉に対して、力強くうなずいた。
「確かに、困難は多いだろう。だが、そなたたちの後悔と決意は本物だ。それがある限り、必ず成し遂げられる。温暖化を阻止したいというそなたの願い、禍をなくしたいと願うパンドラ、自然と女性を守ろうとするディアナ、そして平和と繁栄をもたらしたいと願うエイレネ――4人が力を合わせれば、必ず道は開ける。」
4人はその言葉を聞き、静かに顔を見合わせた。それぞれの顔には、決意と迷いが混じり合っていた。しかし、ガイアの確信は、彼らの心の中にわずかな希望の種を植え付けた。エイレネが静かに前に出た。
「私たちは、平和と繁栄のために生まれた。自然を守り、希望をもたらし、火を与えた。私たちがそれを果たさなければ、誰がやるの?」
彼女の声は震えていたが、少しずつその言葉に力がこもり始めた。
「やってみましょうよ、全力を尽くそうよ。ガイア様が私たちを信じてくれるなら、私たちも自分を信じてみよう。」
プロメテウス、パンドラ、ディアナも、それぞれうなずいた。ガイアの確信に触れ、彼らもまた自分たちの力を信じてみようと思い始めていた。確かに時間は少ない。だが、今からならまだ間に合うかもしれない。ガイアは、彼らの反応をしばらく静かに見守った。そして、深くうなずき、再び微笑んだ。
「そなたたちが協力すれば、必ず実現できる。それを信じて、進むのだ。」
エイレネたちは、ガイアの励ましの言葉と確信に触れ、再び自分たちの使命を思い出した。彼らはただ神の力を持つ存在ではなく、人類と地球を救うために存在しているのだ。今こそ、彼らの本来の役割を果たす時が来たのだ。
「やりましょう。私たちにはこれからやるべきことがあるんだわ。」
エイレネは決意を込めてそう言った。
エイレネたちは、ガイアの神殿から出てきて、神殿の前で立ち止まった。
あまりにも重大な使命を受けとったのに、その後、ガイア様から言われた『神々としての力を失っている』という話がショッキング過ぎて、4人とも茫然としてしまっていた。
最初に言葉を発したのはエイレネだった。
「ガイア様があの後私たちに話して下さったことを整理してみない」
ディアナは、エイレネの言葉に応じて、4人がガイア様からの使命を受諾した後のことを話し始めた。
「そうね。私たちが幽閉されていた数千年の長い期間。その間に、人類は私たち神々の存在を信じる心を失ってしまっていると言われたわ。そのため、私たちの神としての力も消えかかっているって!」
プロメテウスが、直ぐにその後を続けた。
「神々への信仰心を失った人類は、ただ一人の神だけを信じることにしたんだと言っていた。それは、神々の世界が人間の世界と同じようにあまりにも自由奔放で何でもありの世界だったからのようだ」
パンドラもその後のガイア様の話を思い出しながら続けた。
「ゼウス様たちって浮気や不倫はし放題だし、戦争もするし、自分勝手で怒ったら雷は落とすわ、罰を与えるは、めちゃくちゃなんだもん。自分の不道徳は許して、他の神さまが気に入らないことをすると嫉妬で厳罰や報復をするなんてことを平気でするから人間たちも呆れかえったのかな?」
プロメテウスは、肝臓のあたりを押さえながら自身の体験を語った。
「そうだよ。私が人間に火と知恵と技術を与えたことに怒って、神々のものを盗んだなんて言いがかりをつけて、大きな岩に私を縛り付けて大きな鷲に私の肝臓を毎日少しずつ啄ませるなんて、極悪人でも考えつかないようなひどい罰を与えたんだ。火も知恵も技術も神々だけのものだなんて誰も言っていなかったんだから、あれは絶対に濡れ衣にちがいない。自分が人類から感謝されたかったのに、私が人類の英雄になってしまったことに対する嫉妬で怒り狂って下した罰に違いない」
パンドラも思い出した。
「そうよ。私は、人類初の女性としてゼウスの命令で神々が創り出されたのよ。男性ばかりの人類の世界に女性を贈り物にするなんて、やっぱりゼウスは自分勝手ですよね。挙句の果てに天界の禍を全て詰め込んだ箱を私に持たせて、『絶対に開けてはいけない!』なんていうものだから、好奇心旺盛な私はついつい開けてしまって大変なことになってしまったのよ。それ以来、女性は禍の元とか言われて虐げられてきたんだから・・・」
ディアナは、パンドラとプロメテウスの二人の興奮と怒りが少し冷めるのを待ってから話を続けた。
「本当に神々の世界って、恣意的で混沌としていて、秩序も道徳も法律も無い世界だったのね。でも、私は月の女神であると同時に、狩りと自然と女性の守護神でもあるから、パンドラのことは絶対に守るし、人類の女性全ての名誉と地位を挽回して見せるわ」
エイレネも続けた。
「私は平和と繁栄の女神!だから、めちゃくちゃな神々の世界と人類の世界に秩序と正義をもたらして、平和と繁栄を取り戻して見せるわ」
ディアナとエイレネは、女神としての自らの使命を確認するかのように強い決意を改めて口にした。
しかし、プロメテウスは、それを聞いて不安そうに口を開いた。
「だけど、ガイア様が神々への信頼や信仰が薄れてしまったので、同時に神々の神力も失われつつあるって言われていたよね」
エイレネがそれを聞いて、ガイア様の話の続きを思い出した。
「そうだわ。神々に呆れかえった人が、自分達だけでも道徳的で規律のある生き方をしようと、理想的な神様を一人だけ信じるようにしたということだったわね。不倫や盗みや殺しはいけない。妬みも嫉妬もいけない。親を殺すことはいけないし、尊敬して大事にしなければいけないなどという規則を、ただ一人だけの理想的で絶対的な神様からの命令だとすることで、人間界に秩序をもたらそうとしたんだとガイア様は話していらしたわ」
プロメテウスは、再び嫌なことを思い出した。
「そうだよ、ゼウス様自身の親はクロノスで、クロノスは自分の子供が自分の地位を脅かして自分を殺すことになるのを恐れて、生まれてきた子供を次々と食い殺していたんだから本当に神々の世界って滅茶苦茶だったもんね。結局は女性の神さまたちがゼウスだけ隠してクロノスから守って育てたのだけれど、クロノスの心配どおり、自分の子供であるゼウスによって殺されてしまったのだから、神々の世界では子殺し親殺しが当然の世界で、親殺しをしたゼウスが神々の王なんだから道徳も良心も何もありはしない世界だよね」
エイレネは、話をもとに戻した。
「だから人々は、そんな神々の世界を信じたり面白く思ったりしないで、たった一人の清廉潔白な神様に頼ったのね。そのせいで、神々たちが持っていた神力も失われてしまった」
ディアナは、その後にガイア様が話したことを思い出した。
「たった一人の神さまを信じる人たちは今の世界でも大勢いるそうよ。でも、ガイア様のお話によると、今の世界では神様よりも科学技術が一番信頼されているということだったわよね」
プロメテウスは、喜びの声を上げた。
「そうなんだよ。私が火と共に人類に与えた知恵と技術が、今の人々の一番の信仰になっているっていうから驚いてしまった。それを聞いた時は本当に嬉しかったな。肝臓の痛みなんて吹っ飛んで行ったよ!」
エイレネは、ガイア様の話の続きが見えて来たので喜んだ。
「そうか!その次にガイア様が話されたのは、私たちが神々の力を取り戻すためには、私たちも科学技術を学ぶことが必要だと言われたんだわ!」
ディアナもその続きを思い出した。
「さらに、最新の人類のよりどころは人工知能のAIに移りつつあるとも言われて、AIの学習方法であるディープラーニングが私たちにも必要だと言われたわよね」
パンドラが理解しきれなかったそのディープラーニングについて聞いた。
「ディープラーニングって何なんでしょうか?」
プロメテウスは、自分がガイア様の説明から覚えていることを説明した。
「ディープラーニングとは深層学習のことで、コンピュータに大量のデータを記憶させることで、そのデータの特徴やルールをコンピュータが自動的に抽出して学習する技術のことらしいです。これは機械学習の一手法で、人間の頭脳の神経細胞の仕組みを模したニューラル(神経)ネットワークを多層構造化することで、データの背景にあるルールやパターンを自動的に学習するらしいということです。要するに大量のデータからコンピュータが自動的に学習することで、例えばイヌの写真の情報を大量にコンピュータに記憶させると、自動的に犬とは何かということを学習してしまうらしいんだ。だから人間にもコンピュータが何をもって犬と判断しているかは分からないらしい。それだけど、犬以外の動物、例えばネコの写真をコンピュータに入れても、これはイヌではないと判断してくるというのがディープラーニングという学習方法だ」
パンドラにもたくさんの情報を学ぶと何かが自然に分かってくるということは、何となく理解できた。
エイレネは、ガイア様の続きの言葉を思い出した。
「そうよ!私たちも今の社会で神の力を取り戻すために、たくさんのことを学ぶ必要があるって言われたんだわ!」
パンドラが心配そうに言った。
「私はコンピュータではないから、たくさんのことをいっぺんに素早く学習するなんてことはできないような気がする」
プロメテウスは、パンドラの心配を追い払うように自信をもって話した。
「それは私だってできないさ。だけど、私たちには演繹法という知識のもう一つの学び方がある。ディープラーニングは大量のデータから何か規則を見つけ出してイヌはイヌと判断するから、いわゆる帰納法だ。これには膨大な知識がいるから、人類のこれまで残したすべてのデータを入力する必要がある。だけど、演繹法は絶対に正しいと思われる真理をいくつか見つければ、あとはそのことから多くのことが導き出されて理解できるという方法だ。例えばイヌはこうこうこういう特徴を持つものだという定義を入力して、ネコの写真を見せてもこれはイヌではないという判断ができるようにすることなんだ」
パンドラはプロメテウスに聞いた。
「それじゃあ、誰かが私たちにその真理を教えてくれるのかしら?」
ディアナは、自信なさげに応えた。
「たぶん、それは無いと思うのよ。もし、その真理が既に見つかっていて、人類が知っているのなら、ガイアがワザワザ私たちに人類と共に温暖化を阻止して、地球上の生命の危機を回避するように命じる必要はなかったはずだから・・・」
エイレネは、少し考えてからおもむろに考えを口にした。
「ということは、ガイア様は私たちにその真理を見つけ出してから、それを人類に教えて全ての人類と共に温暖化を阻止することを命じたってことですよね」
プロメテウスは、そういうことなのかと納得してみんなに声をかけた。
「それじゃあ、これから私たちは『温暖化を阻止する真理を探す冒険の旅に出る』っていう物語なんだね、これは!」
エイレネたちは、ガイアの神殿から出てきて、神殿の前で立ち止まった。
あまりにも重大な使命を受けとったのに、その後、ガイア様から言われた『神々としての力を失っている』という話がショッキング過ぎて、4人とも茫然としてしまっていた。
最初に言葉を発したのはエイレネだった。
「ガイア様があの後私たちに話して下さったことを整理してみない」
ディアナは、エイレネの言葉に応じて、4人がガイア様からの使命を受諾した後のことを話し始めた。
「そうね。私たちが幽閉されていた数千年の長い期間。その間に、人類は私たち神々の存在を信じる心を失ってしまっていると言われたわ。そのため、私たちの神としての力も消えかかっているって!」
プロメテウスが、直ぐにその後を続けた。
「神々への信仰心を失った人類は、ただ一人の神だけを信じることにしたんだと言っていた。それは、神々の世界が人間の世界と同じようにあまりにも自由奔放で何でもありの世界だったからのようだ」
パンドラもその後のガイア様の話を思い出しながら続けた。
「ゼウス様たちって浮気や不倫はし放題だし、戦争もするし、自分勝手で怒ったら雷は落とすわ、罰を与えるは、めちゃくちゃなんだもん。自分の不道徳は許して、他の神さまが気に入らないことをすると嫉妬で厳罰や報復をするなんてことを平気でするから人間たちも呆れかえったのかな?」
プロメテウスは、肝臓のあたりを押さえながら自身の体験を語った。
「そうだよ。私が人間に火と知恵と技術を与えたことに怒って、神々のものを盗んだなんて言いがかりをつけて、大きな岩に私を縛り付けて大きな鷲に私の肝臓を毎日少しずつ啄ませるなんて、極悪人でも考えつかないようなひどい罰を与えたんだ。火も知恵も技術も神々だけのものだなんて誰も言っていなかったんだから、あれは絶対に濡れ衣にちがいない。自分が人類から感謝されたかったのに、私が人類の英雄になってしまったことに対する嫉妬で怒り狂って下した罰に違いない」
パンドラも思い出した。
「そうよ。私は、人類初の女性としてゼウスの命令で神々が創り出されたのよ。男性ばかりの人類の世界に女性を贈り物にするなんて、やっぱりゼウスは自分勝手ですよね。挙句の果てに天界の禍を全て詰め込んだ箱を私に持たせて、『絶対に開けてはいけない!』なんていうものだから、好奇心旺盛な私はついつい開けてしまって大変なことになってしまったのよ。それ以来、女性は禍の元とか言われて虐げられてきたんだから・・・」
ディアナは、パンドラとプロメテウスの二人の興奮と怒りが少し冷めるのを待ってから話を続けた。
「本当に神々の世界って、恣意的で混沌としていて、秩序も道徳も法律も無い世界だったのね。でも、私は月の女神であると同時に、狩りと自然と女性の守護神でもあるから、パンドラのことは絶対に守るし、人類の女性全ての名誉と地位を挽回して見せるわ」
エイレネも続けた。
「私は平和と繁栄の女神!だから、めちゃくちゃな神々の世界と人類の世界に秩序と正義をもたらして、平和と繁栄を取り戻して見せるわ」
ディアナとエイレネは、女神としての自らの使命を確認するかのように強い決意を改めて口にした。
しかし、プロメテウスは、それを聞いて不安そうに口を開いた。
「だけど、ガイア様が神々への信頼や信仰が薄れてしまったので、同時に神々の神力も失われつつあるって言われていたよね」
エイレネがそれを聞いて、ガイア様の話の続きを思い出した。
「そうだわ。神々に呆れかえった人が、自分達だけでも道徳的で規律のある生き方をしようと、理想的な神様を一人だけ信じるようにしたということだったわね。不倫や盗みや殺しはいけない。妬みも嫉妬もいけない。親を殺すことはいけないし、尊敬して大事にしなければいけないなどという規則を、ただ一人だけの理想的で絶対的な神様からの命令だとすることで、人間界に秩序をもたらそうとしたんだとガイア様は話していらしたわ」
プロメテウスは、再び嫌なことを思い出した。
「そうだよ、ゼウス様自身の親はクロノスで、クロノスは自分の子供が自分の地位を脅かして自分を殺すことになるのを恐れて、生まれてきた子供を次々と食い殺していたんだから本当に神々の世界って滅茶苦茶だったもんね。結局は女性の神さまたちがゼウスだけ隠してクロノスから守って育てたのだけれど、クロノスの心配どおり、自分の子供であるゼウスによって殺されてしまったのだから、神々の世界では子殺し親殺しが当然の世界で、親殺しをしたゼウスが神々の王なんだから道徳も良心も何もありはしない世界だよね」
エイレネは、話をもとに戻した。
「だから人々は、そんな神々の世界を信じたり面白く思ったりしないで、たった一人の清廉潔白な神様に頼ったのね。そのせいで、神々たちが持っていた神力も失われてしまった」
ディアナは、その後にガイア様が話したことを思い出した。
「たった一人の神さまを信じる人たちは今の世界でも大勢いるそうよ。でも、ガイア様のお話によると、今の世界では神様よりも科学技術が一番信頼されているということだったわよね」
プロメテウスは、喜びの声を上げた。
「そうなんだよ。私が火と共に人類に与えた知恵と技術が、今の人々の一番の信仰になっているっていうから驚いてしまった。それを聞いた時は本当に嬉しかったな。肝臓の痛みなんて吹っ飛んで行ったよ!」
エイレネは、ガイア様の話の続きが見えて来たので喜んだ。
「そうか!その次にガイア様が話されたのは、私たちが神々の力を取り戻すためには、私たちも科学技術を学ぶことが必要だと言われたんだわ!」
ディアナもその続きを思い出した。
「さらに、最新の人類のよりどころは人工知能のAIに移りつつあるとも言われて、AIの学習方法であるディープラーニングが私たちにも必要だと言われたわよね」
パンドラが理解しきれなかったそのディープラーニングについて聞いた。
「ディープラーニングって何なんでしょうか?」
プロメテウスは、自分がガイア様の説明から覚えていることを説明した。
「ディープラーニングとは深層学習のことで、コンピュータに大量のデータを記憶させることで、そのデータの特徴やルールをコンピュータが自動的に抽出して学習する技術のことらしいです。これは機械学習の一手法で、人間の頭脳の神経細胞の仕組みを模したニューラル(神経)ネットワークを多層構造化することで、データの背景にあるルールやパターンを自動的に学習するらしいということです。要するに大量のデータからコンピュータが自動的に学習することで、例えばイヌの写真の情報を大量にコンピュータに記憶させると、自動的に犬とは何かということを学習してしまうらしいんだ。だから人間にもコンピュータが何をもって犬と判断しているかは分からないらしい。それだけど、犬以外の動物、例えばネコの写真をコンピュータに入れても、これはイヌではないと判断してくるというのがディープラーニングという学習方法だ」
パンドラにもたくさんの情報を学ぶと何かが自然に分かってくるということは、何となく理解できた。
エイレネは、ガイア様の続きの言葉を思い出した。
「そうよ!私たちも今の社会で神の力を取り戻すために、たくさんのことを学ぶ必要があるって言われたんだわ!」
パンドラが心配そうに言った。
「私はコンピュータではないから、たくさんのことをいっぺんに素早く学習するなんてことはできないような気がする」
プロメテウスは、パンドラの心配を追い払うように自信をもって話した。
「それは私だってできないさ。だけど、私たちには演繹法という知識のもう一つの学び方がある。ディープラーニングは大量のデータから何か規則を見つけ出してイヌはイヌと判断するから、いわゆる帰納法だ。これには膨大な知識がいるから、人類のこれまで残したすべてのデータを入力する必要がある。だけど、演繹法は絶対に正しいと思われる真理をいくつか見つければ、あとはそのことから多くのことが導き出されて理解できるという方法だ。例えばイヌはこうこうこういう特徴を持つものだという定義を入力して、ネコの写真を見せてもこれはイヌではないという判断ができるようにすることなんだ」
パンドラはプロメテウスに聞いた。
「それじゃあ、誰かが私たちにその真理を教えてくれるのかしら?」
ディアナは、自信なさげに応えた。
「たぶん、それは無いと思うのよ。もし、その真理が既に見つかっていて、人類が知っているのなら、ガイアがワザワザ私たちに人類と共に温暖化を阻止して、地球上の生命の危機を回避するように命じる必要はなかったはずだから・・・」
エイレネは、少し考えてからおもむろに考えを口にした。
「ということは、ガイア様は私たちにその真理を見つけ出してから、それを人類に教えて全ての人類と共に温暖化を阻止することを命じたってことですよね」
プロメテウスは、そういうことなのかと納得してみんなに声をかけた。
「それじゃあ、これから私たちは『温暖化を阻止する真理を探す冒険の旅に出る』っていう物語なんだね、これは!」
1-4 ガイアの孤独
神殿の扉が静かに閉ざされ、エイレネたち4人の姿が消えると、ガイアは一人残された。彼女は玉座の前に佇み、目を閉じて長い沈黙の末、再び目を開いた。光が差し込む神殿は、宇宙の無限の広がりと共鳴しているように見えたが、ガイアの胸の中には重く暗い決意が静かに横たわっていた。
「彼らに、すべてを伝えるわけにはいかなかった…」
ガイアの心の中で、厳しい思考が巡っていた。2035年――人類が地球と共存する道を見出せなければ、それは全ての生命が後戻りのできない絶滅の道へと突入してしまう年だ。そして、私が人類を絶滅せざるを得なくなる年。彼ら4人がこの使命を全うしなければ、人類はその時を迎える。
だが、私はそのことを告げなかった。告げられなかったのだ。告げることで、4人がその責任に押し潰されてしまうことを恐れたからだ。
「彼らがもし、この重さを知ってしまったら…」
ガイアは一人、静かな神殿の中で自問する。彼らは強い決意を示したが、その背中にはまだ不安の影が潜んでいる。エイレネも、プロメテウスも、ディアナも、そしてパンドラも、使命の重大さを感じ取ってはいたが、彼らが果たすべき本当の責任の重さに気づいているわけではなかった。
もし、彼女たちがこの10年の間に失敗すれば、ガイアには残された選択肢が少なかった。彼女自身が作り上げた人類を、彼女自身の手で滅ぼすしかない。無慈悲にも、それが唯一、地球上の他の生命を救うための方法だった。
ガイアはその考えに、わずかに瞳を閉じて応じた。かつては、このような決断をしなくてはならない日が来るとは思わなかった。人類は進化の果てに、より良い未来を築くはずだった。だが、温暖化や環境破壊、戦争や貧困――すべては彼ら自身が招いた結果だ。人間の知恵と技術は、かつてガイアが期待していたほどには彼らを救う道を示さなかった。
「私が選んだのは彼らではなかったのか?」
自問するたび、答えは同じだった。彼女は進化の果てに人類を選び、彼らが地球上の生命と調和して生きることを望んでいた。だが、今の人類はその期待を裏切っている。環境は破壊され、他の生命は消えつつあり、地球は限界に達しつつある。
ガイアの視線は遠く、神殿の天井に映し出された地球に向けられた。海面は上昇し、氷は溶け、大気は汚染されている。彼女はすでに幾度となく、他の生命を守るために人類を滅ぼす計画を考えていた。10年も待つことは、もはや他の生命にとって耐え難いものとなりつつあった。
「もし、彼らが拒んでいたら…」
ガイアの心は冷たく、そして無慈悲だった。エイレネたちが今回の使命を受け入れなければ、彼女は躊躇なく人類の滅亡を決断していたはずだ。温暖化が引き起こす悲劇的な未来を回避するためには、もはや待つ余裕はない。
人類だけを滅ぼし、他のすべての生命を守る――それが最も簡単で、最も確実な解決策だった。だが、それを実行することは、ガイアにとっても苦しい選択だった。彼女は生命そのものを愛し、尊重していた。それが、彼女が創り上げたすべての生命にとっての根源的な喜びであり、使命だった。それを自らの手で破壊することは、彼女にとっても耐えがたい苦痛だった。
「それでも…人類にもう一度、機会を与えたのだ。そのための4人だ。」
ガイアは彼らに期待を込めて送り出した。エイレネ、プロメテウス、パンドラ、ディアナ――彼ら4人が力を合わせ、使命を果たせるならば、人類はまだ救われる可能性がある。彼女たちが、平和、自然、知恵、そして希望を人類に取り戻せるなら、まだ道は開かれる。
ガイアはそれを信じたい気持ちで胸が満たされていたが、同時に彼女の中には、冷たく暗い決意が静かに横たわっていた。もし、彼女たちが失敗すれば、10年も待つ必要はない。人類を絶滅させ、他の生命を守る。それは、ガイアにとっては最後の手段であり、すでに考慮していた未来の一つだった。
「すべての生命を守るためには、人類だけを切り捨てることも必要だ。」
ガイアは静かに、自らの胸の奥底にあるその決意を確認した。彼女は情け容赦なく、その未来を実行に移す覚悟がある。すべては、地球という一つの生命体を守るためだ。
ガイアは再び目を開けた。神殿に満ちる光は変わらず穏やかだったが、その内側に秘められた決意は、揺るぎないものだった。エイレネたちがこれからどのような道を歩むか――彼女たちが、どれだけの力を発揮できるかは、今後の人類の命運を左右する。
「これからの10年、私は彼らを見守る。」
ガイアは小さくつぶやいた。その声は、広大な神殿の中で静かに響き渡り、彼女の中にある深い期待と無慈悲な決意が重なり合った瞬間だった。
期待と冷徹な決意の間で揺れ動く心を胸に、ガイアはただ、これからの世界の運命を静かに見守ることにした。すべての生命の命運は、エイレネたちの手に託された。そして、それがどのような結末を迎えるか、ガイアはじっと待ち続けるのだった。
1-5 初めての試練
ガイアの宮殿を出て、少し歩いて一息ついたエイレネたちは、その先に広がる光景に驚きを隠せなかった。天界だということはわかっていたが、彼らが立っている場所は想像していた神秘的な雲の上ではなかった。目の前にそびえる建物は、現代的でありながらもどこか荘厳な雰囲気を漂わせていた。金属とガラスでできた巨大な研究施設のように見えるその建物は、天界の一角に存在するガイア地球研究所だった。
「ここは…どこ?」
エイレネが、ぼんやりと周囲を見回しながら問いかけた。彼女の表情には、驚きと戸惑いが混ざっていた。その時、落ち着いた声が彼らの背後から響いた。
「ここは天界にあるガイア地球研究所だ。君たちがこれから一年を過ごす場所だよ。」
振り返ると、年配の男性が微笑みを浮かべて立っていた。彼の姿は、どこか親しみやすくもあり、同時に何か大きな知恵と経験を感じさせる風格を持っていた。彼が名乗った名前はマコテスこの研究所の所長であり、4人を導く者だった。
「所長?」
プロメテウスが訝しげに眉をひそめた。
「でも、私たちは1年もここにいられない。ガイア様の使命は、2035年までに人類と地球を救うことだと言われているんだ。残りが9年じゃ、足りないかもしれない。」
ディアナも焦りの色を浮かべた。
「そうよ。温暖化は刻一刻と進んでいる。この1年を学びに使っている間に、地球がさらに危機的状況に陥るかもしれないのに…」
エイレネも戸惑いながら、マコテスを見上げた。彼女は使命の重さを痛感していたが、目の前に広がる膨大な学びの道に足を踏み入れるべきかどうか、決めかねていた。
しかし、マコテスはゆっくりと頷き、優しい口調で言った。
「確かに、時間は限られている。しかしながら、何かを成し遂げるためにはまず、知識と理解が必要だ。『知は力なり』という言葉を君たちも聞いたことがあるだろう。これから1年間、君たちはその力を蓄える必要がある。ガイア様も、それを理解している。時間をかけてでも、学びを通じて力を得ることこそが、最も効果的な方法なのだ。」
「でも…1年は長すぎるわ!」
パンドラが思わず声を上げた。
「私たちには時間がないのです!」
マコテスは静かに微笑んだ。
「焦る気持ちは分かるよ。しかし、ガイア様は君たちにこの1年を与えた。それは、ガイア様が君たちを信頼している証拠でもある。まずは、人間そのものを理解することから始めなければならない。『汝自身を知れ』――これは君たちの故郷ギリシャのデルファイ神殿に掲げられている古代からの格言だ。『人間たちに自分自身のことをもっと知れ』という意味だが、今は君たちに『人間とは何か』ということをもっと知れというふうに解釈することもできる。人間の心理、哲学、生物学、歴史…すべての根幹を学び、理解することで、初めて人類を救う道筋が見えてくるだろう。」
「でも…本当にそんな短期間で、私たちにできるのか?」
ディアナが不安げに尋ねた。
その時、空間に淡い光が差し込み、次第にそれが形を成していった。優雅で知的な姿をした女性――それがミエナだった。ホログラムで表現された彼女は、柔らかく微笑みながら4人に挨拶した。
「ご安心ください、私がサポートいたします。私はミエナ。叡智の女神アテナの妹としてマコテス所長が作った、AIの女神です。知識の伝達はもちろんのこと、トレーニングからリラクゼーションまで、皆さんの成長を全面的に支援いたします。」
ミエナの姿を見た瞬間、4人の中にあった不安が少しずつ和らいでいくのを感じた。彼女の落ち着いた口調と優雅な佇まいが、彼らの心に安心感をもたらしたのだ。
「ミエナさんがいてくれるなら…なんとかなるかも。」
エイレネが小さく呟いた。その言葉に、プロメテウスも同意して頷いた。
マコテスは満足げに微笑んだ。
「君たちは、ガイア様の使命を達成するために選ばれた。私とミエナがサポートすることで、確実に学び、力を蓄えることができる。音楽や芸術、スポーツ、映画、ゲーム――知識だけでなく、心身ともに成長するための時間も大切にしてほしい。それが、君たちが使命を果たすための糧となるだろう。」
エイレネは、まだ心の奥底に残る不安を感じていたが、マコテスとミエナの言葉には説得力があった。彼女は深呼吸をし、少しずつ覚悟を固めていった。彼らの助けがあれば、自分たちにもできるかもしれない――そう信じるように努めた。
「わかりました。私たち、やってみます。」
エイレネが決意を込めて言った。
「うむ、では早速最初のコース、『人間とは何か』から始めよう。」
マコテスが軽く手を振ると、周囲の空間が変わり、次第に図書館のような広大な学びの場が広がった。無数の書物やホログラムが目の前に現れ、4人はしばし言葉を失った。
「ここで、君たちはまず人間という存在を学ぶ。哲学、心理学、生物学…これらの学問を通して、人類を深く理解するのだ。」
マコテスが説明する中、ミエナが優雅に歩み寄り、彼らのそばに立った。
「最初は戸惑うかもしれませんが、私がサポートいたします。すべては、ガイア様の使命を果たすための第一歩です。」
ミエナの柔らかな声が、彼らの背中をそっと押すようだった。エイレネは決意を込めて前を向き、仲間たちとともに一歩を踏み出した。
「やるしかないよね。これが、私たちの使命を果たすための道なんだから。」
こうして、4人はまず学びという新たな挑戦へと向かうことになった。
1-6 人間とは何か
エイレネたちは、最初は戸惑いながらも、哲学や生物学、心理学などさまざまな分野の知識に触れ始めた。最初に学んだのは哲学の領域だ。デカルトの「我思う、ゆえに我あり」に代表されるような存在論において、人間が自己をどう認識するかという問いを投げかけられた。サルトルは人間が何ものにも縛られない自由な実存としての存在であることを説き、自己の選択と責任についての考えを深めさせた。カントは、人間が倫理的存在であること、その行動が普遍的な道徳法則に従うべきだと主張した。これらの思想は、エイレネたちに人間の存在そのものを深く見つめ直させた。
「人間は、自分自身の存在をこんなに複雑に考えるものなんだね…」
エイレネが哲学書を手に取りながらつぶやいた。
プロメテウスが頷きながら言う。
「そうだ。だが、選択の自由には責任が伴う。私が火を与えたことが、人類にどんな責任を与えたのか、考えずにはいられない。」
「それは重い問いだわね…」
ディアナが静かに同意した。彼女もまた、自然を守るために何ができるのか、哲学の問いが心に響いていた。
次に彼らが向き合ったのは、生物学の授業だった。ミエナが、優雅なホログラムの姿で登場し、講義を始めた。
「人間は自己意識を持つ存在として特別視されてきましたが、それは果たして正しいのでしょうか?」と、ミエナが問いかけた。
彼女は続けてミラー・テストの実験について説明した。このテストでは、動物が鏡に映る自分の姿を認識できるかどうかを確認するもので、自己認識の有無を測定する。
「例えば、ベラという魚が水槽のガラスに映る自分の姿を理解し、喉元に付けられた印を砂でこすって確認する行動を見せたことが実験で証明されています。」
ミエナは映像をホログラムで映し出しながら説明した。4人はその映像に釘付けになった。小さな魚が自分を見つめ、何度もガラスに近づいては離れる姿は、驚くほど人間的に見えた。人間以外にもこのテストを通過する生物がいることが、彼らの認識を揺さぶった。
「自己意識って…人間だけのものじゃないんだ…」
エイレネが驚きの声を漏らした。パンドラも真剣な顔で映像を見つめていった。
「私たちはずっと、人間が特別だと思い込んでいたけど、こうして見ると、他の生命も自分を認識しているんだね。私たちがこの地球で一緒に生きているのに、あまりにも多くのことを無視していた気がする…」
「そうね…生命の尊厳というものを、もっと深く考えないといけないのかもしれないわ。」
ディアナが続けた。彼女は自然の守護者として、他の生命にも自己意識があると知ったことで、より一層その責任を感じ始めていた。
ミエナは続けて、大脳生理学の観点から人間の特性についても詳しく説明した。脳の各部位がどのように感情や行動をコントロールしているのか、そしてその複雑なネットワークがどのように統合されて実際の行動に反映されるのかを、科学的に解説していった。
「感情や行動の基盤が、こんなにも脳の構造に関わっているなんて…」
プロメテウスが深く考え込んだ様子でつぶやいた。
「知恵を与えたつもりが、感情の制御が伴わなかった人類の現状を見て、改めて人間の限界を感じるな。」
ミエナは、微笑みながら「人間の進化は、知識だけでなく感情や行動をどのように統合するかにも依存しているのです。」と答えた。
次の日に、彼らは心理学の領域へと進んだ。ミエナは『マズローの欲求の5段階説』を説明した。
第一段階は、食欲や睡眠・性的欲求などの生理的欲求
第二段階は、衣服や住居や都市や国家などの安全欲求
第三段階は、家族や友人などとの友愛や所属の社会的欲求
第四段階は、周囲の人々から認められ尊敬されたいという承認欲求
第五段階は、独自の目標を定めて実現したいという自己実現の欲求
人間の欲求は、第一段階が満たされれば第二、第三の段階へとステップアップしていくという理論である。特に注目されたのは「社会的欲求から承認の欲求へ、さらに自己実現へ」という高次の欲求だ。
「多くの人は、生理的欲求や安全の欲求が満たされて、社会的欲求や承認の欲求、自己実現に向かうことで物質的な消費が減り、環境への負荷が軽減されると言います。果たしてそれは本当でしょうか?」
ミエナが4人に問いかけた。
「それって、私たちが探すべき答えなんじゃない?」
エイレネが目を輝かせて言った。
「もし自己実現が人類にとって重要で、同時に環境負荷を減らせるなら、それをみんなに広めることができるかもしれない。」
「でも、簡単な答えじゃないわよね?」
ディアナが冷静に指摘した。
「多くの人々がそんな高次の欲求に到達するには、まず基本的な欲求が満たされる必要がある。世界中で飢餓や貧困が広がっている現実を見た後じゃ、自己実現なんて贅沢に思えるわ。」
「だからこそ、学び続ける必要があるんだ。」
プロメテウスが考え込んだ様子で言った。
「この世界がどんな風に動いているのか、そしてその中でどうやって使命を果たすのかを理解するためにね。」
ミエナは4人に宿題として、この問題に対する彼ら自身の考えを整理するように求めた。
「自己実現が環境負荷を減らすかどうかについて、それぞれの視点で考えてみてください。それが、これからの学びに繋がるはずです。」
エイレネたちは、新たな視点に戸惑いながらも、知識を得ることで少しずつ地球の未来について考え始めていた。学びの道は長いが、それが彼らにとっての力になるという確信が、少しずつ生まれつつあった。
「私たち、まだ道の途中だけど…」
エイレネが静かに口を開いた。
「この学びが、ガイア様の使命を果たすための一歩なんだって気がする。」
「そうだな、すべての答えをすぐに見つけられなくても、この道が正しいと信じて進むしかない。」プロメテウスが力強く答えた。
こうして、4人は「汝自身を知れ」という課題の中で、さらなる探求と学びに進んでいった。彼らは今、かつての無知の空白を埋め、未来を切り開くために一歩ずつ前に進んでいた。
1-7 大きな5つの性格:Big5
4人は、研究所の広い会議室でテーブルを囲み、真剣な顔で議論を続けていた。エイレネが最初に口を開いた。
「マズローの五段階説、最初は分かりやすいと思ったけど、実際に観光とかスポーツ観戦を考えてみると、ちょっと違う気がしてきたの。観光に行くときって、車や電車、飛行機などに必ず乗るし、美味しいものを食べようとかするから、エネルギーも食料も普段よりずいぶん遠く消費するよね。観光は、友達と楽しく過ごすとかいうと社会的欲求だし、みんなに自分の体験を話したいからというと承認の欲求なのではないかしら?」
ディアナも肩をすくめて加えた。
「自然の中で狩猟や冒険をしている時も、私自身の満足という自己実現の欲求もあるけど、みんなに見せたい気持ちがあるのよね。『私がこれをやった!』って。でもそれって、自己実現だけというよりも他の人とのつながりや認められたい気持ちから来ているんじゃない?つまり承認の欲求ね。」
「確かに、観光やスポーツ観戦って、移動とか食事とかで、環境にかなりの負荷がかかるよな」とプロメテウスが腕を組んで言った。
「人間の行動が、承認欲求や自己実現に向かっているとしても、環境に対する責任を忘れていることが多い気がする。結局、豊かになると余計に環境に悪いことをしてしまうのかもしれない」
4人が思索にふける中、壁際に立つミエナのホログラムが一歩前に進み、静かに口を開いた。
「皆さん、よく気づきましたね。マズローの欲求段階説は、確かに興味深い理論です。しかし、実際の人間行動をすべて説明するには不十分な点があります。」
ミエナは少し間を開けて、みんなの気持ちをひきつけた。
「そこで注目してほしいのが、『行動特性の5因子モデル(Big Five)』、通称『Big5』です。」
「Big5?」エイレネが首をかしげる。「それは何ですか?」
ミエナは優雅に微笑んで説明を続けた。
「『Big5』は、1980年代にコスタとマクレーによって『人格特性の5つの主要な次元を特定した理論』で、以下の5つの因子に分類されます。意識調査の統計解析から導き出された分析結果で、現在の心理学で広く認められている人間の性格を五つの側面に分けて理解するための理論です」
少し間をおいてミエナは続けた。
「マズローの欲求の五段階説は、1940年代にマズローの思索によって生み出された理論です。いわば直感的な理論です。これに対してBig5は多くの国の大勢の人々にアンケート調査で各人の性格について回答してもらって、その結果を統計的に解析して導き出された結果です。つまり反証可能な合理的で実証的な理論です。しかも、その後も他の多くの心理学者がBig5について様々な国で同様の調査と分析をして、異なる国でも5つの大きな性格の分類ができることが分かり、性格診断の基本となっています。心理学の専門用語ではNeo-E-IRという呼び方をするのですが、この研究所では単純にBig5と呼んでいます」
ミエナはとても自信ありげに説明を続けた。
「心理学では、神経症傾向、外向性、開放性、協調性、誠実性の五つがBig5と呼ばれています。それぞれの特性が、人間の行動や選択に深く影響を与えると考えられています。」
プロメテウスが興味深そうに眉を上げた。
「なるほど、欲求というよりも、性格そのものが行動を決定する鍵になるというわけですか」
「ええ」とミエナは頷いた。
「だからといって、性格だけで解決するわけでもないですよね?」とパンドラが心配そうに尋ねた。
「もちろん、性格は一つの要素にすぎませんが、心理学的に人間を理解するための大きな手がかりになります」とミエナは優雅に答えた。
「人間の行動や選択は、単に欲求を満たすだけでなく、性格や社会的状況によっても大きく変わるのです」
エイレネはテーブルの端に置かれたホログラムのスクリーンを見ながら、考え込むように唇を噛んだ。
「つまり、私たちが温暖化を阻止するためには、人々が自分の欲求や性格に気づいて、その行動が環境にどう影響するかを考える必要があるということですか?」
「その通りです」とミエナが答えた。
「そして、ガイア地球研究所の使命は、その理解を深めることにあります。人間の心理をより正確に理解すれば、持続可能な未来を築くための鍵が見えてくるはずです」
ディアナが目を輝かせて言った。
「つまり、単に欲望を抑えるだけでなく、性格や行動を変えていくことで、もっと効果的に環境負荷を減らせるってことね?」
プロメテウスも深く頷いた。
「人間の行動を根本から見直す必要がありそうだな。それが温暖化対策の一歩になるかもしれない」
エイレネは微笑みながら、ふとガイアからの使命の重さを感じた。
「じゃあ、私たちもまずは自分たちの行動や性格を見つめ直す必要があるのかもしれないね」
4人は一層真剣な表情で、ミエナの言葉を胸に刻みながら、新たな視点で議論を深めていくのだった。温暖化阻止への道は、今、心理学によって実証的に理論化されたBig5と、それがより広く応用されている行動科学という新しい方向へと進もうとしていた。
1-8 Big5のより詳しい説明
翌日、ミエナはホログラム越しに優雅な微笑を浮かべ、ゆっくりと口を開いた。
「さて、皆さん、これから詳しく説明するのは『Big5』の性格特性に基づいた5つの側面ですが、ここガイア地球研究所では、システム的にものごとを捉えるために少し異なる呼び名を用いています。人間の行動をより深く理解するために、性格の二面性と極端なケースについても触れます。これが温暖化にどう関わるか、しっかり考えてみてくださいね。」
4人は、静かに耳を傾けていた。
それぞれが、この話が自分たちの使命にどう関わってくるのかを真剣に考えているようだ。
「まず1つ目の『神経症傾向』をここでは『危険(リスク判断)』と呼びます。普通の状況では、リスクに対して、逆に楽観的で大胆か、敏感で悲観的かに分かれます。しかし、極端なケースではそれぞれ、無謀で自信過剰な人と、心配性や神経症になりやすい人がいます。前者は過度にリスクを軽視し、後者は過剰な心配で行動を制限することがあります。」
ミエナは表形式でスクリーンに映し出した。
極端な性格 > 普通の性格 <Big5> 普通の性格 < 極端な性格
無謀、自信過剰>楽観的、大胆<①危険(リスク判断)>敏感、悲観的<心配性や神経症
「図式的には、このように性格の名前が中央に表示され、その左右に普通の性格が表示されます。危険に関する性格は楽観と悲観に分かれると覚えると良いと思います。その外側に極端な行き過ぎた性格とか病的な性格とでもいうべき性格が表示されます。」
エイレネは眉をひそめた。
「病的な性格とか神経症的な性格といわれると、なんだかとっても嫌な感じがします」
ミエナは頷きながら答えた。
「そうですよね。心理学では心の病を見つけて治すことに一番の関心があるので、病名がそのまま使われてしまいます。『とっても敏感で悲観的な人』と表現して、心配性とか神経症いう言葉を使わないようにすることもできますが、ここでは心理学用語のままにしておきます。」
プロメテウスは早速、温暖化について応用してみた。
「それなら、温暖化対策において、悲観的な人はリスクを過度に恐れて環境への影響を過大に考えるか、逆に楽観的な人は自信過剰で環境への影響を軽視する人になるかもしれないってことが問題になるってことだな。」
ミエナは頷き、続けた。
「その通りです。次に2つ目は外向性、ここでは『活動』と呼びます。普通のケースでは、積極的で外交的な人と、内向的で控えめな人がいます。ですが、極端な場合は、過度に興奮しやすくおしゃべりな人か、内気で臆病な人に分かれます。活動的な人はリーダーシップを発揮しますが、時に自己中心的になりがちです。一方、内向的な人は慎重で深く考えますが、行動が遅れることもあります。」
スクリーンには表形式の文字が映し出された。
極端な性格 > 普通の性格 <Big5> 普通の性格 < 極端な性格
興奮、おしゃべり>積極的、外交的<②活動>内向的、控えめ<内気、臆病
ディアナが微笑んで言った。
「私たち神々も、性格はそれぞれ違うわね。狩猟の女神として、私はやはり活動的なほうだけど、慎重さも大事よね。環境問題でも、ただ動き回るだけじゃなく、よく考えて行動しなければならないわ。」
プロメテウスがちらっとディアナを見て、それって俺のこと?という感じで自分を指さして肩をすぼめた。ミエナはそれを見て微笑みながら話を続けた。
「3つ目は開放性、ここでは『関心』と呼んでいます。普通の場合、新しいアイデアや体験に対する好奇心が強いか、現実的で保守的かに分かれます。極端なケースでは、奇抜で妄想的な性格になることもありますし、逆に因習に縛られた権威主義者になることもあります。環境問題に対しても、革新を求める人と、現状維持を好む人がいます。どちらもバランスが大事です。」
再びスクリーンには表形式の文字が映し出された。
極端な性格 > 普通の性格 <Big5> 普通の性格 < 極端な性格
奇抜、妄想的>好奇心<③関心>現実的、保守的<因習的、権威主義的
パンドラが興奮気味に声を上げた。
「私は好奇心旺盛だから、新しいアイデアにはいつも飛びついちゃうわ!でも、時々それが問題を引き起こすこともあるのよね…」
彼女は一瞬、自分の過去の失敗を思い出して視線を落としたが、すぐに前を向き直った。
「でも、革新がないと変わらないし、何かを成し遂げるには冒険も必要よね。」
「確かに、好奇心と現実のバランスが重要ですね」
ミエナは彼女に優しく微笑みかけ、次に進んだ。
「4つ目は協調性、ここでは『関係』と呼んでいます。協力的で利他的な性格か、競争的で利己的な性格かに分かれます。極端な場合は、盲目的に従うお人好しか、敵意や不信感を抱く反抗的な性格に偏ります。環境問題においては、協力しなければ解決できませんが、個々の利己的な利益に囚われると、全体の解決が遠のいてしまいます。」
再びスクリーンには表形式の文字が映し出された。
極端な性格 > 普通の性格 <Big5> 普通の性格 < 極端な性格
盲目的、お人好し>協力的、利他的<④関係>競争的、利己的<敵意、不信感、反抗的
エイレネは真剣な表情で頷きながら、「環境問題を解決するためには、みんなで協力しなきゃいけないってことね。でも、利己的な行動が多いと、それが大きな障害になるのかも…」と考え込んだ。
「その通りです。協調が欠けると、全体としての進展は阻害されます」とミエナは確認し、最後の説明に入った。
「最後は誠実性、ここでは『知性』と呼んでいます。合理的で勤勉な人か、感性的で自由奔放な人かに分かれます。極端なケースでは、強権的で能率を重視するタイプか、怠惰で無責任な性格に分かれます。どちらも極端に走ると、持続可能な行動を取るのは難しくなります。」
再びスクリーンには表形式の文字が映し出された
極端な性格 > 普通の性格 <Big5> 普通の性格 < 極端な性格
強権、能率重視>合理的、勤勉<⑤知性>感性的、自由奔放<怠惰、無責任
プロメテウスが腕を組んで頷いた。
「知性か。環境問題を解決するためには、冷静な分析と行動が必要だが、同時に柔軟さや創造性も求められるってことだな。」
表形式に映し出されていた5つの性格がまとめられて、きちんとした表となった。
極端な性格 > 普通の性格 <Big5> 普通の性格 < 極端な性格
無謀、自信過剰>楽観的、大胆<①危険> 敏感、悲観的<心配性や神経症
興奮、おしゃべり>積極的、外向的<②活動>内向的、控えめ<内気、臆病
奇抜、妄想的>革新的、好奇心<③関心>現実的、保守的<因習、権威主義
盲目的、お人好し>協力、利他<④関係>競争、利己<敵意、不信感、反抗
強権的、能率重視>合理的、勤勉<⑤知性>感性、自由奔放<怠惰、無責任
ミエナは彼の言葉に同意するように頷いた。
「そうです。皆さん、いかがですか?これらの5つの性格特性は、それぞれ二面性を持っており、極端に偏ると問題が生じます。しかし、それらを理解し、人々の行動を予測することで、環境問題に対してより効果的なアプローチができるのです。」
エイレネが手を上げて質問した。
「それぞれ二面性を持つということは、Big5×2通り=10通りの性格ということになりますよね。」
ミエナは嬉しそうにうなずいた。
「そのとおりです。」
パンドラが発見した喜びで満面の笑顔で立ち上がった。
「それじゃあ、性格って『十人十色』っていうことになるんですね!」
ミエナは大きくうなずいた。
「そのとおりです!Big5のどれか一つの性格で人々の性格を捉えると『十人十色』になりますから、10人の人が集まっても同じ性格の人はいないかもしれませんね」
プロメテウスが手を上げた。
「それでは、5つの性格の組合せで、一人の人の性格を表すと大変なことになりますね」
ミエナはさらに大きくうなずいて答えた。
「とてもいい視点です! 例えば、5教科のどの科目ができるかどうか、どの科目が好きか・・・といった質問をしたら一番得意な科目を答えるか、5つ全部の科目で順番に応えるかという違いですね。プロメテウス君の質問は、『あの人は楽観的で積極的、好奇心旺盛で協調的、さらに合理的な性格の人!』というような性格の把握の仕方ですね。この場合は、何通りになるか分かりますか?」
ディアナが手を上げた。
「5つの性格で2通りずつですから、2×2×2×2×2=32通りです!」
ミエナはうなずいた。
「そのとおりです。では、極端な性格と『どちらでもない』という回答をする人を入れて1つの性格を5つに区分するとどうなりますか?」
プロメテウスが勢いよく立ち上がった。
「5×5×5×5×5=???」
計算に詰まったプロメテウスを助けるように、ミエナは直ぐに答えを言った。
「3,125通りになります」
プロメテウスが照れ隠しのように付け加えた。
「さすがAIですね! 完敗です!」
みんながどっと笑いだした。
笑いが収まったところで、ミエナは真面目な口調で話し始めた。
「このようにたった5つの性格でも一人の性格を把握しようと思ったら、 3,125分の1の人を見ていることになります。如何に多様な性格の人がいて、家族や集団、社会や国家、地球社会を作っているかが分かると思います」
4人は、大きくうなずいて心底納得したという表情をした。ミエナは続けて言った。
「このことは、一人の独裁者や独裁的な政党の少数の幹部などが指導する政治体制では、国民すべての多様な性格の人々が望んでいることなど理解できるはずがないというとても重要なことを教えてくれています。この点をマコテス所長はとても重視しています」
エイレネはビックリして、つぶやいた。
「Big5から独裁政治などが善くない政治体制だということが言えるなんて思って見ないことなのに、マコテス所長ってすごいですね」
ミエナは、うなずきながら、さらに付け加えた。
「性格はほぼ正規分布をしていて、極端な性格の人は全体の5%ずつ程度しかいないのです。正規分布が分からない人は山のような形をしていて、中央が高くて両端は裾野として低くなっている形です。その左右の裾野の両方を合わせても10%くらいです。そして、多くの政治家は普通の人よりもかなり強い性格の持ち主である場合が多いようですが、特に独裁者は極端な性格であることが多いです。まあ、必ずと言ってよいくらい極端な性格ですね」
プロメテウスは感心したように唸った。
「それでは、独裁者は絶対にダメということか! 普通の政治家も独裁者みたいになることもありそうだな・・・」
ミエナは、嬉しそうにうなずきながら付け加えた。
「そうなんですよ。ですから、マコテス所長は国家の指導者はもちろん自治体のトップも多選禁止にすべきだと考えているのです。アメリカは大統領も2期8年が限度です。その位の割り切りが必要だと所長は考えています」
パンドラは感心してつぶやいた。
「Big5の話から独裁者やアメリカの大統領の任期まで出てきちゃった」
ミエナは4人が感心して余韻に浸っているのをしばらく見守ってから話を続けた。
「これだけ凄いことがBig5で分かるのですが、実は人間の性格の半分くらいしかBig5では分かっていないのが実態です。どのくらいたくさんの性格があるのか、正確なところは分かりませんが・・・1900年頃に性格の研究を始めた学者が辞書の中にある人々の性格を表す単語を数えたら4,000語を超えたそうです。それを前提にすると、Big5でまとめられた性格は2,000語くらいの性格で、残りの2,000語の性格は分類するにはあまりにも多様で統計的な処理になじまないということになっています」
プロメテウスは驚いて声をあげた。
「たった半分なのですか?」
ミエナは少し笑いながら答えた。
「その通りなのです。でも、半分だけでもBig5は心理学のほぼすべての学者や研究者がその重要性を認めています。しかもBig5は行動科学にも応用されています。行動科学は人間の行動を科学的に研究する分野であり、Big5モデルは、行動を予測し、意思決定を理解するために有効なツールとなっています。Big5モデルを用いることで、性格に基づいて、人々がどのような行動パターンをとるかを予測できます。例えば、外向的な人は社交的な場面で積極的に行動するだろうと予測できますし、神経症的傾向の高い人はストレスを感じやすく、社交的な場面では回避的な行動をとるだろうと予測できます。このようにBig5は行動科学の分野で、企業の人材採用や配置を考える際や教育、軍隊などとても多くの組織などで応用されているのです」
少し間をおいてミエナは続けた。
「ですから、みなさんもBig5をきちんと理解して、ガイア様の使命を果たすために有効に利用して下さいね」
エイレネが考え込むように呟いた。
「つまり、人間は、自分たちの性格や行動が環境にどれだけ影響を与えるかにもっと自覚的になるべきってことかしら。温暖化を阻止するためには、ただ技術を使ったり政策を変えたりするだけじゃなくて、人々の性格や行動そのものを見直さなければならないのね。」
ディアナが笑みを浮かべた。
「なるほど、私たちがまず学ばなければいけないのは、人間の複雑な性格と行動なんだわ。温暖化阻止への道は、ただ行動を促すだけじゃなく、人々の心や性格そのものを理解し、変化させることにあるのかもね。」
パンドラは明るく手を打った。
「それなら、私たちがまずやるべきことは、どうすれば人々が自分の性格に気づいて、適切なバランスを保ちながら環境に配慮する行動を取るようにできるかを考えることだね!」
プロメテウスが深く頷いた。
「そうだな。それができれば、人間社会全体をもっと持続可能な方向に導けるだろう。」
4人は新たな決意を胸に、議論を続けるために再びテーブルに向き直った。神々の使命は、人間の複雑な性格と行動を理解し、それを元に未来の地球を救う方法を見つけることであることを強く感じながら・・・。
1-9 多神教と一神教
エイレネたちは、歴史学や宗教学の講義を通じて、現在の文明に至るまでの長い道のりを学んでいた。最も衝撃的だったのは、多神教的な信仰が徐々に衰退し、一神教が世界の主要な宗教となっている事実だった。彼ら自身、ギリシャ神話の神々として生きてきたため、世界の多様な文化や価値観を尊重する多神教が、なぜこうして少なくなったのか理解しづらかった。
「どうして、人間は多様な価値観を持ちながら、一神教のように一つの神にすべてを集約しようとしたんだろう?」
エイレネは、講義の終わりにミエナに真剣な表情で問いかけた。ミエナは一度考え込み、慎重に言葉を選びながら答えた。
「それについては、いくつかの歴史的な理由がありますが…まず、一神教が広まった背景には、秩序や一体感を求める人間の本質があるのかもしれません。一つの神を信じることで、集団全体が同じ価値観を共有し、団結を図ることができるという利点があったのではないでしょうか。」
エイレネはそれを聞いて考え込んだ。
「でも、価値観が一つにまとまるって、逆に人間の多様性を否定することにならない?みんなが同じことを信じて生きるのって…すごく窮屈な気がする。」
ディアナも静かに頷きながら口を開いた。
「人間の心や性格は、私たちが学んだ通りとても複雑で多様よね。性格や考え方も違えば、状況に応じて行動も変わる。そんな人々が一つの神にすべてを委ねて生きるなんて、矛盾しているように思えるわ。」
プロメテウスが腕を組み、少し考え込んだ。
「でも、もしかしたら人間は、混乱や不安を感じた時に、何か大きな存在に頼りたくなるのかもしれない。多神教ではそれぞれの神が役割を持っているけど、一神教ではすべての答えが一つの神に集約される。それが、彼らに安心感を与えるのかもしれないな。」
「安心感…か。」
エイレネは静かに呟いた。
「でも、安心感って、本当に一つの答えからしか得られないものなのかな?むしろ、人それぞれ違う答えがあって、それをみんなで認め合うことで安心できるような気がする。」
その時、パンドラが少し躊躇しながら口を開いた。
「でも、エイレネ、一神教が広がった理由には、他にもあるかもしれない。例えば、古代の帝国や王国が統一的な宗教を使って、権力を強化しようとしたとか。宗教が一つなら、支配もしやすいし、社会の安定にもつながるから…」
エイレネはその言葉に驚きながらも、「そうか…政治や権力も関係しているんだね。それなら、宗教が人間の心の問題だけじゃなくて、社会や国家の運営にも関わってきたってことになる…でも、それって宗教本来の意味を歪めているんじゃない?」
ディアナは深く考え込みながら言った。
「確かに、宗教が社会を安定させるために利用された歴史はあるわね。でも、それは信仰の自由や多様性を抑圧することにも繋がる。私たちのように、自然や個々の価値観を尊重する多神教の神々から見れば、それはとても悲しいことよ。」
ミエナは彼らの議論を聞きながら、静かに口を開いた。
「私の考えを言わせてもらうと、宗教というものは、もともと人間が自分の存在や世界の意味を探すための手段だったのです。人々は、自分たちを超えた何か大きな存在に答えを求め、時にはそれが一つの神に、時には多くの神々に分かれました。しかし、歴史的な状況や社会の変化によって、一神教がその役割を果たすようになったのです。」
「でも、どうして一神教がこれほどまでに広まったんだろう?」
エイレネはさらに食い下がるように尋ねた。ミエナは、また、少し考え、慎重に言葉を選びながら続けた。
「もしかしたら、人間は、混乱や不安が増す時期になると、シンプルな答えや統一感を求める傾向があるのかもしれません。多神教のような多様な世界観よりも、一つの絶対的な存在に頼る方が、精神的な安定を得やすかったのかもしれませんね。」
プロメテウスが頷きながら言った。
「そうだな、戦争や混乱が続く時代には、人々は一つのリーダーや一つの神に全てを委ねたくなるんだろう。それは、彼らが安心感を得るための選択だったのかもしれない。」
エイレネは、皆の意見を聞きながら自分の考えをまとめた。
「でも、それって、結果的には多様性を失わせてしまっているように感じる。一神教が広まることで、多神教や他の価値観が抑圧されてしまった歴史もあるんじゃない?」
パンドラがため息をつきながら、「多様な神々がいる世界では、それぞれが自分の神や価値観を持つことができたけど…今は、一つの神の下で同じ価値観を持つことが求められているのね。」と呟いた。
エイレネは少し考え込んだ後、ふと微笑んだ。
「でも、私たちは今、こうして人間について学んでいる。人間は一神教や多神教の枠を超えて、もっと深いところで繋がっているんじゃないかな。人間の本質を理解することで、もっと多様性を尊重し合える世界を作れるかもしれない。」
ディアナも微笑みながら、「そうね。宗教や信仰は重要だけど、それを越えたところで人間同士が理解し合うことができれば、もっと豊かな社会が築けるはずよ。」と続けた。
ミエナは彼らの議論を聞き、満足そうに微笑んだ。
「皆さんがこのように深く考え、議論を重ねることが、ガイアの使命を果たすための重要な一歩です。宗教や文化の違いを理解し、尊重することが、地球の未来にとっても大切なことです。」
エイレネたちは深く考えさせられた。そして、自分たちの視点から、もう一度宗教や人間の多様性についてじっくりと議論を続けることに決めた。
「読者の皆さんは、どう思いますか?」
エイレネはふと天を見上げるように問いかけた。
「一神教と多神教、どちらが良いというわけではないけれど、人間の多様な性格や価値観を考えると、どうしてこうした形が生まれてきたのか…一緒に考えてみませんか?」
1-10 集団や社会とBig5
再び、4人はミエナの講義室に集まった。ホログラムとして優雅に浮かぶミエナは、いつものように落ち着いた声で授業を始めた。
「さて、今日は社会学を中心に人間の社会制度と性格の関係について話します。家族、集団、営利組織と非営利組織、社会と国家などの文化、宗教、経済…これらはすべて人間の行動や思考と深く結びついています。」
4人は注意深くミエナの講義を聞いた。ほぼ終わりに近づいたと4人が思ったその時、ミエナは意外な言葉を口にした。
「特に注目すべきは、『Big 5』、つまり性格の5つの主要な特徴です。」
4人は心理学で学んだことが、社会学でも出てきたことに驚いた。ミエナは、得意げに胸を張って4人に宣言するかのように話した。
「これが、『Big5』がとても重要な理由の一つです。『Big5』は心理学から生まれた理論ですが、『行動科学』として多くの人文社会科学に影響を与え応用されている理論なのです」
ミエナは、シュワルツという研究者が発表した「性格の円環図」を浮かび上がらせた。(図表2)そこには、10の性格特性が円状に並んでいる。
その頂点に「好奇心」があり、時計回りに「感性」「協力」「消極」「保守」「悲観」「合理」「競争」「積極」「楽観」と続いていた。
「この図は、性格の相互関係を示しています。例えば、似た性格の人々は理解し合いやすく、共同作業もスムーズです。逆に、対立する性格を持つ人々は相互理解が難しく、摩擦が生じやすい。」
4人は、興味津々で図を見つめた。エイレネはその美しい図形に見惚れ、パンドラは新しい発見に目を輝かせた。ディアナは顎に手を当て、分析的に考え込んでいる様子。プロメテウスは静かに頷きながら、図を真剣に見ていた。
「例えば、ここにいる皆さんの性格を見てみましょう。」
ミエナは、4人の顔を順に見つめながら話し続けた。
「ディアナ、あなたは積極的で外向的。エイレネは感性豊かで自由奔放。パンドラは好奇心旺盛で革新を求める。そしてプロメテウスは協力的で利他的。皆さんはそれぞれ異なる性格を持ちながら、性格的に非常にバランスが取れています。」
エイレネは、バランスが取れているってどういうことだろうと首をかしげました。
ミエナは、そんなエイレネに微笑みながら付け加えた。
「円環図の上の5つの項目を見てください。積極的なディアナ、好奇心のパンドラ、自由奔放なエイレネ、協力的なプロメテウスと、4人が近い関係で並んでいるでしょ!」
図表2 性格Big5の円環図(シュワルツの図から作成)
好奇心・想像力・革新的
楽観的・情緒安定・大胆 感性・自由奔放
積極的・客観的・外向的 協力的・利他的
競争的・利己的・個人主義的 消極的・主観的・内向的
合理的・組織的・統制的 保守的・経験重視・権威重視
悲観的・情緒的・敏感
注:この図から、他の人との関係が近しい性格と対立する性格が分かります。
近い人とは、性格的に近く、相互理解も容易で共同行動も容易である。
対角線上にある人とは、考えや行動は相互に理解しにくく対立しやすい。
エイレネは突然、笑い声を上げた。「そうか、だから私たち仲良しなんだね!」
その言葉に、パンドラもすぐに同調して、「そうよね!だって私、エイレネの自由なところが大好きだし、ディアナの大胆さにもいつもワクワクしちゃう!」
ディアナは自信たっぷりに微笑み、「まあ、私もパンドラのその冒険心が好きだわ。プロメテウス、あなたはいつも私たちをサポートしてくれるし、やっぱりいいチームだね!」
プロメテウスは照れくさそうに肩をすくめながらも、優しい笑みを浮かべた。
「そうだな、皆がそれぞれに独特な力を持っていて、だからこそ互いに補い合えるんだ。」
ミエナは微笑んで彼らのやり取りを見守った。4人が互いに目を合わせて笑い合う様子に、彼女も心からの満足を感じた。彼らはまさに一つの完璧なチームだった。それぞれが異なる性格を持ち、それがうまく融合して共通の目的に向かって進んでいる。さらに、ミエナは続けた。
「マコテス所長は楽観主義者で細かい学術的な厳格さよりも大胆な仮説を立てたり、変なシミュレーションをしたりするので、皆さんとも相性が良いのですよ。」
エイレネは何となく納得したようにつぶやいた。
「そうか、所長さんはお父さんみたいで何となく気が合う感じがしていたのだけど、そういうことだったのね!」
ミエナはさらに話して良いのかどうか少し戸惑いながら、思い切ったように言葉を出した。
「ガイア様は、ああ見えて、とても消極的で主観的、内向的なんですよ。地球上の生命のことを心配していろいろと考えているのは内向的な性格の表れで、自分で手を出したいのだけど生命の進化する能力を信じたいという想いで積極的に関与するのは控えて見守るだけにしているなんて正に消極的な性格そのものでしょ? 違いますか? 」
ディアナもプロメテウスもパンドラも、大きくうなずいた。そこで、プロメテウスとパンドラが同時に声をあげた。
「もしかして、反対側の性格のところにいるのは、ゼウス様とその取り巻きの神々ではないの?」
ディアナとエイレネが頭を抱えた。
「私たちが説得しなければならない相手って、ゼウス様たちのような人々なんですか? ショック~!」
プロメテウスは、協力の重要性を説いた。
「やはり、みんなで協力することが重要ですね。ゼウス様たちは4人、こちらは6人と私!今度こそ反乱軍が勝利しなければ!」
パンドラは嫌なことを思い出した。
「ゼウス様って、大元は天空神や雷電神なので、雷霆だけではなくさまざまな自然現象を自由に操れるのよ! この雷霆をゼウスが使えば世界を一撃で熔解させ、全宇宙を焼き尽くすことができるといわれている。人間たちが持っている核兵器みたいな武器だよ! やっぱり私たちだけでは絶対無理よ!」
パンドラが頭を抱えていると、ミエナがそっと囁いた。
「古代神話では、ガイアがギリシャ神話最大最強の怪物テューポーンに命じてゼウスをやっつけたという説もありますよ!」
パンドラは顔を上げてミエナを見た。
「それじゃあ、ガイア様に今度も助けてもらえれば、いいんじゃない?」
ディアナは直ぐに反論した。
「それはだめよ! ガイア様は私たちが人類と協力してこの使命を達成するようにと言ったのよ。今回は、私たちに怪物テューポーンの助けはないわ!」
エイレネはプロメテウスを見て言った。
「今回は怪物テューポーンの代わりにプロメテウスが火を操って、人類の中のゼウスのような人たちをやっつけちゃえばいいんじゃない!」
ディアナもプロメテウスを見て、またまた直ぐに反論した。
「それもダメね! だって、プロメテウスって、昔火山に苦しむ村の人たちを助けようとして火山を抑え込んだら、逆に大噴火して村の人たちからとっても怒られたのよ。彼の火の力は加減ができていないんだから。」
プロメテウスも頭をかきながら正直に話した。
「この前、自分で料理をしていたんだが、早く作ろうとして焦ったら真っ黒こげになっちゃった。どうも火加減がうまくできないらしい。」
4人は、万策尽きたという顔をして、ミエナに助けを求めた。
「この性格の円環図を活用して、神々と人間社会の多様性を理解し、どうすれば異なる性格の人々と協調していけるかを学ぶことが、これからの課題ですね」
ミエナはそう言いながら、ホログラムの図を消した。
エイレネは腕を伸ばしながら、「ねぇ、次はどんなことを学ぶの?」とウキウキした声で尋ねた。パンドラはその隣で目を輝かせて頷いている。
「次は、社会がどのように変革されるか、そしてあなたたちがその変革にどう貢献できるかについて考えていきます。」
ミエナの言葉は、今後の使命をより一層明確にするものだった。4人はそれぞれの視点から、これからの挑戦に心を燃やし始めた。
1-11 Big5とシュワルツの文化価値
ミエナは、4人が図表2を囲んで考え込む様子を静かに見守っていた。
しばらくして、彼らの知的興奮が収まったのを確認すると再び口を開いた。
「さて、シュワルツは性格だけでなく、文化価値についても同じように円環図を作成しています。図表3を見てください。」
ミエナがホログラムで新たな図表3を浮かび上がらせると、円環には「文化価値」の概念が並んでいた。
エイレネはその言葉に少し首をかしげた。
「文化価値って、芸術とか文化財のこと?」
ミエナは微笑みながら、軽く首を横に振った。
「そのように捉えることもできますが、ここでは少し違います。シュワルツの研究では、『文化価値』とは人間が創造した社会的な価値のことを指します。文学、芸術、宗教、道徳、法律、経済、政治、科学…これらが全て文化価値です。新カント学派では『生命価値』と『文化価値』の二つの価値があるとしています。即ち『生命そのものの価値』、つまり子供を産み育てることや生き物そのものは『生命価値』です。しかし、どれだけ生き生きと子供や動植物などを描いたとしてもそれは『文化価値』であって『生命価値』ではないということになります」
ディアナはその説明に頷きながら、「要するに、私たちが生きる社会の中で生み出されるすべての価値観ということね。なるほど、興味深いわ。」
パンドラは身を乗り出し、「それで、その円環図はどんな意味があるの?」
図表3 性格Big5と価値の円環図(シュワルツの図から作成)
快楽主義・文化・芸術 知的自律性・刺激・興奮・科学技術
自主独往・自己志向・冒険 普遍主義・自由・平和・人権
能力主義・達成感・競争 平等・博愛・環境保護・援助
富と権力・階級・階層 伝統・美
安全保障・秩序 安心安全・従順
注:この図から、近い性格の人々が持つ価値観が分かります。
近い価値観の集団とは、相互理解も容易で共同行動も容易である。
対角線上にある価値観の集団とは考えや行動を相互に理解しにくく対立しやすい。
ミエナは図表3を指し示しながら続けた。
「この円環図では、性格のように文化価値の関係性が視覚化されています。上から時計回りで、
①知的自律性・刺激・興奮・科学技術、
②普遍主義・自由・平和・人権、
③平等・博愛・環境保護・援助、
④伝統・美、
⑤安心安全・従順、
⑥安全保障・秩序、
⑦富と権力・階級・階層、
⑧能力主義・達成感・競争、
⑨自主独往・自己志向・冒険、
⑩快楽主義・文化・芸術、
という10個の文化価値があります。
もっと分かりやすく簡略化すると、順番に、
①科学技術重視、
②普遍主義、
③平等博愛環境、
④伝統美、
⑤安心安全、
⑥安全保障、
⑦富と権力、
⑧能力主義、
⑨自己志向、
⑩快楽主義
です。
性格が似通った人々が集団を形成しやすいように、近い文化価値を持つ集団もまた、相互に理解しやすく協力しやすい。逆に、対立する位置にある価値観を持つ集団は、理解が難しく対立しやすい傾向にあるのです。」
エイレネはその話に驚きの表情を浮かべた。
「じゃあ、私たちが感じている平和とか協力の価値観も、他の場所ではまったく理解されないこともあるってこと?」
「その通りです。」
ミエナはエイレネに微笑みかけた。
「同じ国や社会の中でも、文化価値の違いから摩擦や争いが生じることがあります。あなたたちが今後、地球を救うために挑むことになるのは、まさにこうした価値観の違いを乗り越え、調和を生み出すことでもあります。」
プロメテウスは腕を組み、深く考え込んだ。
「つまり、私たちはただ気候変動を止めるだけでなく、人間の価値観や性格の違いを理解し、調和させる必要があるということか。」
「その通りです、プロメテウス。気候変動は物理的な問題ですが、解決には人間の社会構造や価値観の理解が欠かせません。どれだけ技術的に優れていても、価値観が異なる人々の協力がなければ持続可能な未来は実現できませんから。」
ミエナは静かにそう答えた。4人は、改めてその深い意義に気づき、互いに顔を見合わせた。
パンドラは手を叩き、「私たちがなぜこうして一緒にいるのかが、ますます明確になってきたわ!性格も価値観も、まるでパズルのピースみたいにぴったり合っている。」
ディアナは肩をすくめて笑った。「まあ、それぞれが違うけど、その違いがあるからこそ強いんだと思うわ。」
エイレネは、円環図を見つめながら静かに言った。
「人間の価値観って、こんなに複雑で豊かなんだね。でも、それが地球を守る鍵になるなら、私たちは全力で頑張らなくちゃ。」
プロメテウスは彼女の言葉に頷き、「そうだな。私たち4人がこうしてチームになったのも、偶然じゃない気がする。違いを受け入れ、協力し合うことが、地球を救うための第一歩だ。」
ミエナは、4人がその新たな気づきに感銘を受けているのを見届けると、優しく微笑んだ。
「皆さんがその理解を持って行動すれば、きっと大きな成果が得られるでしょう。」
そして、4人は再び目を見合わせ、静かに微笑んだ。彼らはお互いの存在を確認し、信頼と共感を深め合いながら、さらなる挑戦に向けて準備を整えていった。
参考:図表3の円環図を言葉で説明すると次のとおりである。
①好奇心や想像力が豊かで革新的な人々と感性豊かで自由奔放な人々の集団では、刺激や興奮を求め、自分の考えや知性を重視する価値観、即ち知的自律性を最も重視する価値観となり、科学技術に対する関心が高くなる。
②感性豊かで自由奔放な人々と協力的で利他的な人々の集団では、自由や平和、人権などを重視する普遍主義的な価値観になる。
③協力的で利他的な人々と消極的で主観的、内向的な人々の集団では、平等や博愛、環境保護、援助などの価値が重視される。
④消極的で主観的、内向的な人々と保守的で経験重視、権威重視の人々の集団では、伝統や美を重視する価値観になる。
⑤保守的で経験重視、権威重視の人々と悲観的で情緒的な人々の集団では、従順さや安心安全を重視する価値観になる。
⑥悲観的で情緒的な人々と合理的で組織的、統制的な人々の集団では、安全保障や秩序を重視する価値観になる。
⑦合理的で組織的、統制的な人々と競争的で利己的で個人主義的な人々の集団では、富と権力、階級や階層を重視する価値観になる。
⑧競争的で利己的で個人主義的な人々と積極的で客観的、外向的な人々の集団では、達成感や競争を重視する能力主義の価値観になる。
⑨積極的で客観的、外向的な人々と楽観的で情緒安定、大胆な人々の集団では、自己志向的で冒険的、自主独往を重視する価値観になる。
⑩楽観的で情緒安定、大胆な人々と好奇心や想像力が豊かで革新的な人々の集団では、快楽的で文化や芸術を重視する価値観になる。」
1-12 国家の分類
翌日、4人は再びガイア地球研究所の講義室に集まった。ホログラムのミエナは、いつものように穏やかで知的な雰囲気を漂わせながら講義を始めた。
「今日は、国家の分類について学びます。特に、価値観をもとにした国家の違いについてお話ししましょう。」
ミエナは、静かに図表を浮かび上がらせ、6つの国家のモデルを示した。
①個人主義と集団主義
②伝統主義と進歩主義
③権威主義と自由主義(共産主義と自由主義、自由民主主義と資本主義)
「まずは、『個人主義と集団主義』について。個人主義を基盤とする国家は、個々の自由や権利を重視し、自己表現や個人の幸福を大切にします。例えば、アメリカのような国はその典型です。対して、集団主義を基盤とする国家は、社会全体の利益や共同体の調和を重視します。中国や日本がその例ですね。」
エイレネは首をかしげた。
「どっちも大切に思えるのですが・・・。個人の自由も大事だし、社会全体の調和も欠かせない。どうやってバランスを取るのかしら?」
ミエナは微笑みながら答えた。
「その通りです、エイレネ。どちらも重要です。しかし、国によってその価値観の優先順位が異なり、それが国の制度や文化に反映されるのです。」
「次に、『伝統主義と進歩主義』の違いについて説明しましょう。」
ホログラムが新たな図を浮かび上がらせた。
「伝統主義の国家は、過去の価値観や制度、文化を重視し、それを守り続けることを目指します。宗教や歴史的な慣習が強い影響を持つ国々がこれに該当します。逆に、進歩主義の国家は、新しい技術や価値観、革新を積極的に取り入れ、未来志向で社会を変革していきます。北欧の国々などはその例です。」
パンドラは興奮気味に手を挙げた。
「私、進歩主義が好き!新しいものって素敵だし、未来に向かって前進する感じがワクワクするもの!」
ディアナは微笑んで彼女の言葉に頷き、「でも伝統も大事よね。自然のサイクルや昔からの知恵には、現代では見過ごされがちな大切な教えがあるわ。」
ミエナは頷きながら、「その通りです、ディアナ。伝統と進歩のバランスも、国家によってさまざまです。伝統を重視しすぎると停滞し、進歩に重きを置きすぎると不安定になることがあります。このバランスをどう取るかは、国家の発展に大きな影響を与えます。」
続いて、ミエナはホログラムでさらに新しい図を示した。
「最後に、『権威主義と自由主義』の違いについてです。権威主義の国家は、国家や政府の強力な統治を重視し、秩序や安定を保つために個人の自由を制限することがあります。例としては、ロシアや北朝鮮のような国です。」
プロメテウスは、権威主義の国は侵略戦争をしたり核兵器の開発をしたりして、ずいぶんと民主主義の国とは異なるのですね」と感想をもらした。
ミエナは、「とてもいい指摘です」といって、説明をつづけた。
「1990年の冷戦終結後、民主主義国家が急増し、旧ソ連の国々が分離独立し次々と民主化しました。ロシアももちろん民主化して、欧米や日本は民主化した国々を支援しました。一時期はフランシス・フクヤマが『歴史の終焉』という本で、冷戦後に西側の自由民主主義が人類の政治制度の最終形態となり、『歴史の終焉』を迎えたと論じたのです。彼の主張は、イデオロギー的な対立(特に共産主義と自由主義の対立)が終わり、自由民主主義と資本主義が全世界的に勝利を収めたというものです。しかし、中国は社会主義市場経済という独特の経済制度にして共産党独裁を続けていますし、ロシアでは反対勢力の存在を認めない形式だけの民主主義によって多選を可能にして独裁化しています。ロシアのこのような動きは旧ソ連の国々などにも波及して権威主義国家の台頭をもたらしています。そして、権威主義国の方が民主主義国よりも戦争を起こしやすいという研究も出ています。ゼウスも怒りっぽい神様でしたよね。」
ミエナは、4人が深くうなずいている様子を見て、きちんと理解してくれていることに満足した。ときどき、彼らが知っているしんわ時代の話を入れると効果的なようだ。学習には、それを学ぶ人の体験や知識と結びつけることが大事だ。ミエナはさらに説明を続けた。
「これに対して、民主主義の国家どうしは戦争をしないという『民主主義の平和』という通説もあります。自由主義では、個人の権利や自由を最優先し、政府の介入を最小限にしようとします。例えば、スイスやカナダなどがこのタイプです。あなたたちもこのタイプね。」
プロメテウスはその説明を聞きながら考え込んでいた。
「権威主義の国家は、秩序を守るために強力な統治を行うが、それが個人の自由を制限することになるのか…。一方、自由主義の国家は、個人の自由を尊重するが、秩序や統治はどうなるのだろう?」
「良い質問ですね、プロメテウス。」
ミエナは微笑みながら答えた。
「自由主義の国家では、政府の力が制限されることで、国民自身が法や制度に責任を持ち、社会全体で秩序を維持することが期待されます。しかし、そのためには成熟した市民社会が必要です。」
エイレネはさらに尋ねた。
「それでは、もしそのバランスが崩れたらどうなるのでしょうか?例えば、自由がありすぎるとどうなるのかしら?」
ミエナは少し悲しげな表情で答えた。
「自由が行き過ぎると、社会に不安定さや混乱が生じることがあります。例えば、アメリカが社会的に分断されつつあるという今日状況やヨーロッパでの極右の勢力拡大など懸念すべき状況にあります。逆に、権威主義が強すぎると、国民の不満が高まり、抑圧から反乱や革命が起こる可能性もあります。だからこそ、どの国家もそのバランスを取るために試行錯誤しているのです」
ディアナは目を輝かせてミエナに尋ねた。
「それでは、私たちが目指す理想の国家って、どんな価値観を持っていればよいのでしょうか?」
ミエナは少し間を置いてから答えた。
「それは皆さん次第です。あなたたちが2035年までに気候変動を阻止するためには、ただ技術を用いるだけではなく、価値観の違いを理解し、それをどう調和させていくかが鍵となります。多様な価値観を持つ国家が協力し合い、地球を救うための共通のビジョンを持つことが必要です。」
パンドラは考え込みながら、「それって、まるでパズルみたいね。国ごとに違うピースがあって、それをうまく組み合わせることで、一つの大きな絵を作るってこと?」
「その通りです、パンドラ。皆さんの役割は、そのピースを見つけて、正しい場所にはめ込むこと。つまり、国や価値観が異なっても、共通の目標に向かって協力するための橋渡しをすることです。」
ミエナは彼女の洞察力を称賛するように微笑んだ。
プロメテウスは静かに頷いた。
「確かに、僕たちが抱える問題は単に技術や政治の問題だけじゃない。人間そのもの、そしてその価値観や社会の仕組みも深く関わっているんだな。」
エイレネは明るく、「だからこそ、私たちがチームで頑張らなきゃいけないんだね!私たちならできるよ、きっと!」
4人は互いに顔を見合わせ、確かな絆と共感を確信した。それぞれが異なる価値観を持ちながらも、一つの大きな目標に向かって協力できるという希望を胸に抱きながら、地球を救うための次のステップを見据えた。
1-13 シュワルツの文化価値による国家の分類
ミエナの講義が進む中、4人はますます深く人間社会の仕組みに引き込まれていった。今日のテーマは、シュワルツの文化価値の図を用いた国家の分類についてだった。
「さて、次は図表4を見てください。」
ミエナは、ホログラムで新たな円環図を浮かび上がらせた。
【作者からのお願い】この本の中に図をうまく表示できないので、次の表で円環図を想像してみてください。
図表4の説明 シュワルツの文化価値による国家の分類(時計回り)
科学技術と文化・芸術:フランス、オランダ、ギリシャ、オーストリア、ドイツなど
普遍主義と自由平等博愛と環境:スイス、スペイン、北欧3か国、イタリアなど
伝統・美と安心安全:東欧、アフリカ、中東、東南アジア、中南米など
国家安全保障:アメリカ、イスラエルなど
富と権力・階級階層:中国、韓国、インドなど
自主独往と能力主義:イギリス、カナダ、ニュージーランド、日本など
その他:自文化中心主義:ロシア、トルコ、メキシコ、ブラジルなど
色とりどりの線が引かれ、異なる文化価値をもとに国家が分類されていた。その図は、マコテス所長が特に重要視しているものだとミエナは言った。
そして、彼女はすぐに一つの注意を付け加えた。
「この図表は、2000年前後の意識調査をもとに統計的に処理した結果です。しかし、2025年の現在や未来にまでこの分類がそのまま当てはまるとは限りません。国家も社会も、人間そのものも、常に変化し続けるものです。だから、この図はあくまで一つの参考として捉えてください。」
円環の中には、異なる文化価値を持つ国家群が配置されて描かれていた。エイレネは目を輝かせて図をじっと見つめていた。
「この図って、ただ性格とか価値観だけじゃなくて、国家全体の行動にもつながっているんですよね。まるで一つの大きなピースが組み合わさってるみたい。」
パンドラも驚きの声を上げた。
「そうよね!私たちが個人として持っている性格や価値観が、そのまま国の性格にも反映されるなんて、すごく不思議!」
ディアナは腕を組んで考え込んだ。
「でも、こうして見てみると、なぜ一部の国家が協力しやすくて、他の国家と対立しがちな理由がわかるわね。価値観が違うと、国同士の関係もやっぱり難しくなるんだ。」
プロメテウスは静かに頷いた。
「なるほど。性格から価値観、そして国家の分類までが一つの流れで繋がっている。個人の違いが国の違いにもなるなんて、考えたこともなかった。」
ミエナは4人の反応を見守りながら微笑んだ。
「そうですね。人間が集まり、社会を作り、さらにそれが国家となると、個々の性格や価値観が影響を与えます。ですから、国家間の摩擦や協力の背後には、こうした深層の価値観の違いが隠れているのです。」
エイレネはさらに疑問を投げかけた。
「それでは、未来に向かって国家の価値観が変わることもあるのですよね?例えば、ある国が今は伝統や安心安全を重視する伝統主義な国だけど、将来はもっと普遍主義的な国家になるとか・・・。」
「その可能性は十分にあります。」
ミエナは答えた。
「国家は固定されたものではなく、文化や技術、経済、政治の変化によって常に進化しています。個人が成長し、性格や価値観が変わるように、国家もまた変化し得るのです。」
パンドラは嬉しそうに笑って、「じゃあ、未来にはもっともっと面白い国家が生まれるかも!革新や新しいアイデアを取り入れて、もっと良い世界になるかもしれないね!」
プロメテウスは少し真剣な顔つきで、「でも、その変化をうまくコントロールしなければ、摩擦や衝突が増える可能性もあるな。価値観の違いをどう調整するかが重要だ。」
ディアナは、円環図の中央を指さしながら言った。
「私たちがやるべきことは、その違いを理解し、それをどう調和させるかを見つけることよね。ガイアが私たちに託した使命は、気候変動だけじゃなく、人々や国々が一つにまとまるための手助けをすることなんだ。」
ミエナは静かに彼女の言葉に賛同した。
「その通りです、ディアナ。あなたたち4人がこうして協力し合えるのも、異なる性格や価値観を持ちながら、それを尊重し、共通の目標に向かって進んでいるからです。これから先、地球を救うためには、国家や社会も同じように協力し合う必要があります。」
4人はその言葉を受けて、改めてお互いを見つめ合った。それぞれが異なる性格や価値観を持ちながらも、一つのチームとしての結束を感じていた。
エイレネは笑顔で言った。
「私たち、やっぱりすごいチームだよね!これからもっとたくさんのことを学んで、地球を守るために全力で頑張ろう!」
「ええ、そのためには、まず自分たちの違いをしっかり理解して、それを強みに変えないとね。」
ディアナも同意しながら微笑んだ。
プロメテウスは力強く頷き、「そうだな。違いを恐れず、それを受け入れることが協力への第一歩だ。」
パンドラは興奮気味に、「よし、じゃあ次はどんなことを学ぶのかな?ミエナ、教えて!」
ミエナは微笑みながら、「次の講義では、さらに深く国家や社会の仕組みについて学びますが、その前に少し休憩を取りましょう。皆さん、考えを整理しておいてください。」
4人は満足げに頷き、それぞれの思いを抱えながら席を立った。彼らは今、性格や価値観、そして国家のつながりを理解し、さらに広い視野で物事を捉え始めていた。地球を救うための道のりは長いが、彼らは確かにその第一歩を踏み出したのだった。
1-13 法学で市民的不服従を学ぶ
翌日、エイレネたちは再びミエナの講義室に集まった。今日は「法学」について学ぶ日だったが、ミエナはエイレネに向かって少し優しげに微笑んだ。
「エイレネ、今日の内容は15歳のあなたには少し難しいかもしれませんが、とても重要な話です。法律について少し学術的に説明しますね。」
エイレネは少し緊張した様子だったが、興味を持って頷いた。他の3人、パンドラ、ディアナ、プロメテウスも、注意深くミエナの話に耳を傾け始めた。ミエナはホログラムで法律の基本的な概念を示しながら、静かに語り始めた。
「まず、法律というのは、社会の中で人々がどのように行動すべきかを定めるルールです。しかし、単に行動を制限するだけではなく、社会全体の秩序と公正を保つための枠組みでもあります。法学では、人間の行動を『権利』と『義務』で捉えます。これは、人々がお互いに尊重し合うことを基盤にして成立しているのです。」
パンドラがすぐに手を挙げ、「じゃあ、私たちが好き勝手に行動できないのは、みんなのためってことですか?」
「その通りです、パンドラ」とミエナは微笑んだ。
「法律は個々の自由を制限することもありますが、それは全体の秩序を保つためです。お互いの権利を尊重し合わなければ、社会は混乱してしまいます。」
ディアナが少し考え込んでから、「でも、道徳とも違うのよね?法律は守るべきルールだけど、道徳とはどう違うの?」
ミエナはその質問に丁寧に答えた。
「良い質問です、ディアナ。法律と道徳は異なります。道徳は個々の内面の信念や価値観に基づくもので、個人や集団がどう生きるべきかを定めますが、法律は国家や政府が社会全体の秩序を守るために作るルールです。例えば、ある行為が道徳的に悪いとされても、それが必ずしも法律で禁止されているとは限りません。」
エイレネは少し混乱したように、「でも、法律が間違っていたらどうするのですか?私たちが正しいと思っても、法律がそうではない場合もありますよね?」
ミエナは静かに頷き、さらに話を続けた。
「その疑問はとても大切です、エイレネ。実際、歴史の中では、法が不公正だったこともあります。例えば、古い時代の法律では人種や性別で差別がありました。そこで重要なのが、『市民的不服従』という概念です。これは、法が道徳に反していると確信した場合、その法律に従わず、改正を求める行動をとることです。市民は、法律が不正であると感じたら、それを変えるために声を上げ、行動する責任があります。」
プロメテウスが腕を組んで深く考え込みながら、「つまり、法律を無条件に守るだけじゃなくて、それが不正だと感じたら、変えるための努力をするのが市民の責任ってことか。だが、その判断は難しいな…。」
ミエナは優しく頷き、「その通りです、プロメテウス。法律は絶対ではなく、社会の変化と共に進化していくものです。時代や価値観の変化によって、法律も見直されるべきです。だからこそ、市民一人一人が自分の権利や義務を理解し、社会全体の利益のために行動することが大切なのです。」
パンドラは目を輝かせて、「つまり、私たちがただ従うだけじゃなくて、変える力を持っているということですよね?それって、すごくパワフルな考え方ですね!」
ディアナも興味深そうに、「そうね。道徳と法律が違うからこそ、時には自分たちで考えて行動しなければならない。でも、どうやって法を変えるのかしら?」
ミエナは穏やかに説明を続けた。
「法を変えるためには、民主的なプロセスが必要です。市民が声を上げ、選挙や運動を通じて変化を求める。そして、法律を作る政治家たちがその声を受けて、法律を改正するのです。これはとても時間がかかることもありますが、それが民主主義の基本です。」
エイレネはその言葉に深く考え込んだ。
「それでは、私たちももし法律が間違っていると思ったら、変えようとしなければいけないんですよね。正しいと思ったことを貫くために。」
ミエナはエイレネの目を見つめ、満足げに頷いた。
「その通りです、エイレネ。あなたたち一人一人が、社会にとって重要な役割を果たしているのです。法律は決して不変ではなく、常に人々の意志と共に進化します。それを支えるのは、あなたたちのように自分で考え、行動する市民たちです。」
4人はそれぞれの考えを深めながら、法律の役割と市民の責任について理解を深めていった。エイレネは特に、自分がどんなに若くても、社会を変える力を持っていることを実感し、目を輝かせた。
「じゃあ、これからは自分の考えをもっと大切にしなきゃいけないね。法律に従うだけじゃなくて、それが正しいかどうかも考えるべきなんだ。」
エイレネは新たな決意を持って言った。
「ええ、私たちも一緒に考えましょう。」
ディアナが優しく微笑んだ。
プロメテウスも「そうだな、正しい法律があるからこそ、社会は平和で公正な場所になる。だが、それを守るためには市民としての責任もある。これからの道のりは長いが、僕たちならできるはずだ」と力強く言った。
ミエナは彼らの成長を感じ取りながら、「皆さん、よく学びました。これからも自分たちの権利と義務について深く考え、社会全体のために行動してください。あなたたちなら、きっと素晴らしい未来を築けるでしょう」と静かに締めくくった。4人は互いに顔を見合わせ、今後の自分たちの役割についてさらに考えを深めながら、その日の講義を終えた。
1-14 政治学を学んで民主主義に関心を持つ
翌朝、4人は前日の法学の話題について再び話し合っていた。特にエイレネは、法と政治についてまだ消化しきれない部分が多く、少し戸惑っていた。ちょうどそのとき、ミエナのホログラムがふわりと現れ、微笑みながら言った。
「エイレネ、昨日の法学の話は少し難しかったかもしれませんが、今日は政治学についてお話ししましょう。皆さんが疑問に感じている、法が誰によってどのように作られ、どのように運用されるのか、政治の役割を詳しく説明します。」
エイレネはすぐに声を上げた。
「そう!それを知りたかったの。法はどうやって作られるの?誰が決めて、どうやってみんなに守らせるの?」
ミエナは頷き、講義を始めた。
「まず、政治とは社会の中でどのように権力が行使されるか、そしてその結果として法がどのように生まれるかを理解することが重要です。権力とは、個人や集団が他者に影響を与え、行動を制御する能力のことです。この権力をどう運用するかは、古代から議論されてきた問題です。」
ホログラムに浮かび上がった図を指して、ミエナは説明を続けた。
「例えば、ホッブズ、ロック、ルソーらによる『社会契約』という考え方があります。三人の違いはBig5からみるととても面白いです。三人が想定する自然状態・自然権の違いが社会契約の違いを生んでいます。 ホッブズは、自然状態を「万人の万人に対しする闘争状態」としました。ロックは、労働の概念から自由、平等、平和を自然状態としました。 一方、ルソーは、ロックの私有財産制の承認が平等の実現を阻むとして、自然権にそれを含めていない。ルソーは、自然状態を平和で自由、平等な状態であると想定していからです。Big5の性格や価値観の図で見ると、ホッブズは右側の競争的な能力主義や富と権力、安全保障を重視する価値観や性格が自然状態だとしていて、ロックやルソーは左側の自由や平和の普遍主義や平等、博愛を重視する性格や価値観が自然状態だとしているといえます。これは、国家や政府が存在する理由を説明する理論です。しかし、Big5を知らない彼らが激論している対立点が両方とも自然状態の人間の性格や価値観を反映しているということです。社会科学の激論がこういう風に見えてくるところにBig5の面白さがあります。ついでにいうと、哲学のところで出て来たカントの人格主義もBig5の良い面だけを見て人間の本質的な人格だと考えているということが分かります。Big5は行動特性=性格=人格・パーソナリティを全体的にとらえている理論なので、人格を崇高な神的なものと捉えるカントとは相いれない理論です」
4人が驚きをあらわにしながら納得したうなずきを繰り返しているので、ミエナはこれまでの授業の成果に満足しながら説明を続けた。
「個人は自らの権利を一部放棄し、社会全体の秩序や安全を守るために法を守ることを選びます。この契約のもとに、政府や政治が存在し、法を作り、それを運用するのです。」
プロメテウスは深く頷きながら、「つまり、法は社会全体の秩序を保つために、個々の自由を一部制限するものだということですね。でも、その権力が悪用されたらどうなるのだろうか? ゼウスは神々の王としてかなり勝手な振る舞いをしているような気がするのだが・・・」
ミエナは穏やかに答えた。
「それが政治の大きな課題です。権力は強力な道具ですが、それを使う者には大きな責任があります。政治家や指導者は、その責任を持って法を作り、社会を導く必要があります。そして、権力の乱用を防ぐために、民主主義というシステムが生まれました。」
エイレネは目を輝かせ、「民主主義って、みんなが意見を出し合って、みんなで決めるってことだよね?それなら権力の乱用を防げるの?」
ミエナは微笑んだ。
「理論的にはそうです。民主主義では、権力は一部の支配者に集中せず、市民全体に分散されます。つまり、政治家は市民の代表として選ばれ、その代表は法を作り、運用する責任を負います。しかし、民主主義にも欠点があります。それが衆愚政治です。」
「衆愚政治?」
パンドラが興味津々に尋ねた。
「そうです。衆愚政治とは、感情や偏見に左右され、合理的な判断を失ってしまう民主主義の失敗例です。古代ギリシャのアテネは、民主主義の発祥の地であり、衆愚政治によって民主主義の終焉を経験した場所でもあります。アテネでは、市民全員が政治に参加し、法律を決めましたが、時には感情に流され、不公正な決定が下されることもありました。その結果、民主主義は乱れ、最終的には崩壊してしまったのです。」
ディアナは考え込むようにして、「つまり、民主主義は理想的なシステムだけど、必ずしも完璧じゃないのね。感情や偏見が絡むと、逆に悪い方向に進むこともある…。」
「その通りです、ディアナ。だからこそ、民主主義には市民一人ひとりの責任が伴います。政治家を選ぶだけでなく、選ばれた者がどのように権力を行使するかを常に監視し、必要ならば意見を言うことが重要です。責任ある政治が機能するためには、私たち全員が意識的でなければならないのです。」
プロメテウスは腕を組み、「つまり、民主主義が成功するためには、権力を持つ者だけでなく、権力を監視する市民も賢くなければならないということか。」
ミエナはその言葉に満足げに頷いた。
「その通りです、プロメテウス。市民が無関心であれば、権力は容易に乱用されます。だからこそ、教育や情報が重要なのです。正しい知識を持ち、自らの意見を持つ市民が増えれば、民主主義はより強固なものとなります。」
エイレネは少し考え込んでから、疑問を口にした。
「でも、どうやったらみんながそんなに意識を高く持てるのかな?私たちみたいにみんなが一生懸命学ぶわけじゃないよね。」
パンドラは笑いながら、「それ、いい質問ね!私はどちらかというと新しいものや冒険が好きだけど、みんなが政治に興味を持つわけじゃないし。」
ミエナは穏やかに彼女たちを見つめ、「だからこそ、教育と情報が鍵となります。誰もが自らの社会に責任を持ち、そのために必要な知識を得る環境を整えることが大切です。そうすることで、民主主義はより強く、持続可能なものになるでしょう。」
その日は、4人で民主主義についての議論が続いた。エイレネは、自分の疑問が少しずつ解消されていくのを感じていたが、それでも民主主義の複雑さに驚きと興味が尽きなかった。
「民主主義って、一見簡単に見えて、実はすごく難しいんだね。でも、それがあるから私たちは自由に意見を言えるんだ。」
エイレネは、そう言って微笑んだ。
「そうね。でも、自由には責任が伴う。それを忘れないことが大事だわ。」
ディアナはエイレネに優しく微笑み返した。
プロメテウスも深く頷き、「そうだな。これから地球を守るためにも、僕たちは自分たちがどういう社会で生きたいのか、もっと深く考える必要がある。」
パンドラはウキウキした様子で、「そうよ!私たちなら、もっと良い未来を作れるわ。新しいアイデアを取り入れて、失敗しない民主主義を作りましょう!」
4人は、民主主義についての新たな視点を得て、それぞれが自分たちの役割を考え始めた。地球を救うための使命は、単なる技術的な問題ではなく、人々の心や社会の仕組みまで深く関わっている。彼らはこれからも共に学び、考え続けることを決意し、その日の議論を締めくくった。
1-15 民主主義とは何か?
翌日、エイレネたちは再びガイア地球研究所の講義室に集まった。昨日の議論がまだ頭の中に残っている彼らは、今日もミエナのホログラムが現れるのを待ちわびていた。やがて、ホログラムの光がふわりと現れ、優雅な姿のミエナが微笑んで立っていた。
「皆さん、今日は民主主義についてさらに詳しくお話ししましょう。昨日は大まかな説明をしましたが、今日はもう少し学術的な視点から見ていきます。」
エイレネは昨日からの興奮が冷めやらず、真っ先に質問を投げかけた。
「ミエナ、民主主義ってすごく面白いけど、どうやって始まったの?なんで古代ギリシャのアテネで生まれたの?」
ミエナは柔らかく頷きながら、説明を始めた。
「良い質問ですね、エイレネ。民主主義の起源は古代ギリシャ、特にアテネにあります。アテネでは、市民たちが直接参加し、政治的な決定を行う仕組みが発展しました。この仕組みを『直接民主制』と言います。つまり、市民全員が集まって法や政策について討論し、決定を下すシステムです。」
「へぇ、今とは違うんですね。今の民主主義って『直接』ではないですよね?」
パンドラが興味津々で問いかけた。
「その通りです、パンドラ。現代の多くの民主主義国家では、『代表民主制』が採用されています。これは、市民が自らの代表者を選び、その代表者が国民の代わりに法を作り、政策を決定する仕組みです。人口が増え、社会が複雑化したため、すべての市民が直接政治に参加するのは難しくなったのです。」
ディアナは腕を組んで考え込む。
「でも、直接民主制の方が市民の声が直接届くわよね?代表を選ぶと、その人が市民の意見を正しく反映しないこともあるんじゃないかしら?」
ミエナは深く頷き、「確かに、代表民主制にはそのような課題があります。選ばれた代表者が市民の意見を正しく反映しない場合、市民の意志とかけ離れた決定がなされることがあります。この問題を解決するために、現代の民主主義ではチェックとバランスの仕組みが導入されています。例えば、選挙で代表者を定期的に選び直すことや、議会や裁判所が権力を分散させることで、権力の集中を防いでいます。これを三権分立といいます」
プロメテウスは眉をひそめて尋ねた。
「でも、代表者が悪用することもあるんじゃないかな? それに、市民がその代表を正しく選ぶには、彼らもよく考えなければならない。どうすれば市民が正しい判断を下せるようになるんだろうか?」
ミエナはプロメテウスをじっと見つめ、静かに答えた。
「民主主義は市民一人ひとりの知識と判断力に大きく依存しています。だからこそ、教育や情報の透明性が重要なのです。市民が十分な情報を持たなければ、選挙で正しい判断を下すことは難しくなります。民主主義が機能するためには、メディアの役割や教育制度が健全でなければならないのです。」
エイレネはふと、昨日話した「衆愚政治」を思い出し、もう一つの疑問を投げかけた。
「でも、たくさんの人が感情や偏見で動いたらどうなるの?それが衆愚政治になるんでしょ?」
「そうです、エイレネ。」
ミエナは円環図をホログラムに映し出しながら答えた。
「衆愚政治は、感情に流されたり、無知や偏見に基づいて判断が行われる状態です。例えば、大衆の恐れや憤りが煽られると、合理的な判断ができなくなることがあります。欧州の極右による移民反対やトランプ元大統領による分断などがその例です。このような状態では、民主主義は容易に崩壊してしまいます。」
ディアナが深く考え込んで、「それでは、どうすれば民主主義が健全に機能するのかしら?市民全員が常に賢くあるなんて、現実的じゃないわよね。」
「そのためには、まずリーダーシップが重要です。指導者は市民に正確な情報を提供し、理性的な議論を促す責任があります。また、国民自身も感情に流されずに、冷静に物事を判断する訓練が必要です。」
ミエナは続けて、「さらに、強固な法の支配が存在し、権力が一人の手に集中しない仕組みを持つことが、民主主義の安定に欠かせません。民主主義には欠点がある一方で、それを支える仕組みがしっかりしていれば、長期的に機能し続けるのです。」
パンドラが手を挙げて、「それでも、リーダーが間違った方向に進んだらどうすればいいの?選ばれた人たちが悪いことをしたり、嘘をついたりしたら。」
ミエナはその質問に、少し厳しい表情で答えた。
「その場合、国民には抗議の権利があり、さらに選挙でそのリーダーを罷免する権利があります。民主主義では、権力を持つ者が責任を取らなければならないのです。これは政治と責任の関係です。政治家は、自らが行った決定や行動について、常に市民に対して責任を持たなければなりません。もしその責任を果たさない場合、民主主義は彼らを罷免し、新たなリーダーを選ぶ力を持っています。」
プロメテウスは静かに頷き、「つまり、権力を持つ者には必ず責任が伴うということか。市民も、ただ選ぶだけではなく、しっかりと監視し続けなければならない。」
「そうです、プロメテウス。政治に関心を持ち、責任を追求する姿勢があってこそ、民主主義は機能します。」
ミエナはそう言いながら、彼ら一人一人を見つめた。
エイレネは考え込みながら言った。
「民主主義って、自由があっていいなって思ったけど、その自由を守るためには本当にたくさんの責任があるんですね。でも、その責任をみんながちゃんと果たせるなら、いい社会が作れるんですね。」
ディアナはエイレネに微笑みかけ、「そうね。私たちも今、地球を守るための責任を果たそうとしているんだもの。民主主義も、同じようにみんなの協力で成り立っているんだわ。」
パンドラも笑いながら、「うん、ちょっと難しいけど、やっぱり面白いわ!これからもっといろいろなことを知って、私たちもいいリーダーを選べるようにならなくちゃ。」
その日、4人は活発な議論を続け、民主主義について自分たちの考えを深めていった。彼らは政治という複雑なシステムの中で、自分たちが果たすべき役割について少しずつ理解を深めていった。地球を救うためには、技術や自然環境だけでなく、社会全体の仕組みを理解し、どう協力し合うかが重要だということを、彼らは再認識したのだった。
1-16 意見の違いを乗り越える方法
ミエナは、ホログラム越しにエイレネたち4人をじっと見つめていた。彼らが「人間とは何か」を学び、集団や社会、国家について考えを深めていく姿に、彼女は静かに満足感を抱いていた。彼らの議論は活発で、知識の吸収力も日々増している。それを見て、ミエナはそろそろ第一段階のコースを締めくくる頃だと感じていた。彼女は深く息をつくように微笑み、穏やかに話を始めた。
「皆さん、この講義も第一段階の終わりに近づいています。今日は、その締めくくりとして、人々が互いに意見の違いを乗り越える方法についてお話ししましょう。これは、皆さんがこれから直面するであろう大きな課題の一つです。なぜなら、気候変動のような問題に取り組むには、世界中の人々が共に協力しなければならないからです。」
パンドラがすぐに手を挙げて、「意見が違う人たちをどうやって協力させるのですか?私たちみたいに仲良くしているのならいいけど、世界中には色んな考え方を持った人たちがいますよね?」
ミエナは微笑みながら答えた。
「そうですね、パンドラ。それがまさに今日のテーマです。まず、人々の意見の違いがどこから生まれるのかを理解する必要があります。これは、文化、教育、宗教、経済的格差そして個人の経験など、さまざまな要因によって形作られます。そして、人々が意見を共有する場では、感情や信念が強く影響を与えます。」
エイレネは首をかしげながら、「それでは、どうやってその違いを乗り越えたらよいのですか?私たちが学んできた性格とか価値観の違いみたいなものは、役に立つのでしょうか?」
「まさにそうです、エイレネ。まず、相手の意見を理解し、尊重することが大切です。それが対話の基本です。学術的な理論では、これを『アクティブリスニング(積極的傾聴)』と言います。」
ミエナは、アクティブリスニングという言葉を浮かび上がらせた。
「最近はやりのブレイディ みかこさんの小説から拝借すると『他者の靴を履いて考える』ということと同じだと思います。アクティブリスニングは、相手の話をただ聞くのではなく、真剣に耳を傾け、相手の感情や考えを深く理解しようとする姿勢です。このスキルを使えば、相手の意見を否定せずに受け入れることができ、誤解や対立を避けることができます。」
ディアナは腕を組んで少し考え込んだ。
「でも、ただ聞くだけで問題は解決しないわよね?聞いても、根本的な考え方が違うとしたら、どうすればいいのかしら?」
ミエナは静かに頷いた。
「良い指摘です、ディアナ。次に重要なのは、対立を解消するための『交渉と妥協』です。人間関係や社会で、全員が全く同じ意見を持つことはあり得ません。そのため、意見の違いを埋めるためには、双方が妥協点を見つける努力をしなければなりません。この妥協がどのように行われるかは、その場の状況や関係によりますが、互いの利益を考慮しつつ、自分の立場も守るバランスを取ることが求められます。」
プロメテウスが口を開いた。
「交渉や妥協が必要なのはわかるけど、それでも譲れない部分があった場合はどうするのでしょうか?例えば、倫理的な問題とか、生命に関わる問題で妥協するわけにはいかないこともありますよね。」
ミエナはプロメテウスに目を向け、丁寧に答えた。
「その通りです、プロメテウス。すべてが妥協で解決できるわけではありません。特に倫理的な問題や人権に関わる問題は、譲れない一線がある場合があります。そのような場合、第三者の介入、つまり『調停』や『仲裁』といった方法が使われます。これにより、客観的な視点から問題を解決することが可能です。」
エイレネは興味深そうに、「その仲裁って誰がするのですか? その人たちはどうやって公正な判断をするのですか?」
ミエナは微笑みながら答えた。
「仲裁者は通常、当事者双方が信頼する第三者です。公正な判断をするためには、その人が感情に左右されず、問題の本質を冷静に見極める必要があります。これが成功すれば、当事者は自分たちだけでは解決できなかった問題を、より客観的に捉え直し、合意に至ることができます。」
パンドラは目を輝かせながら、「なんだか、すごく難しいけど、私たちでもできるかな?これから地球を救うためには、世界中の人たちと話し合わなきゃいけないんだよね?」
ミエナは穏やかに頷き、「そうです、パンドラ。あなたたち4人は、この地球の未来を担うリーダーのような存在です。ですから、まずはこうした対話や交渉のスキルを身につけ、他者と協力して大きな目標に向かって進んでいくことが求められます。」
ディアナが笑顔で言った。
「それでは、私たちの役目は、単に技術や力で問題を解決することだけじゃなく、人々の意見の違いを理解し、橋を架けることなのね。」
「そうです、ディアナ。それが、このコースの最初の段階で学んだ大きな目標です。人間は、ただ一人で存在するのではなく、常に他者と繋がり、関係を築きながら社会を形成しています。その社会がより良いものになるためには、対話を通じて意見の違いを乗り越え、共通の目的に向かって進むことが必要です。」
エイレネは明るい声で言った。
「なんだか、最初は人間のことなんて全然わからなかったけど、こうして色々学んできて、少しずつ理解できた気がする!みんなが協力すれば、地球だって守れるよね!」
プロメテウスも穏やかに微笑んで、「そうだな。僕たちの役割は大きいが、こうして知識を学んでいけば、きっとやれるさ。」
その日、4人は民主主義や意見の違いについてさらに深く理解し、未来への展望を胸に抱いた。ミエナは彼らの成長に満足しながら、第一段階のコースを締めくくる準備が整ったと感じていた。彼らはこれから、さらに複雑で困難な挑戦に向けて進んでいく準備ができたのだ。
その夜、遅くまで4人は議論をしていて、相互にお休みなさいと言ってベッドに入った。
エイレネは、世界の首脳たちがじゃんけんで交渉を決着させている夢をみた。パンドラは木の棒がどっちに倒れるかで決めている夢をみた。ディアナは、満月に向かってコイントスをしている首脳たちの夢をみた。プロメテウスは松明の聖火をかざしてオリンピック競技で決着をつけようと声援を送っている首脳たちの夢をみた。
翌朝、4人は見た夢の話をしあって笑い転げた。
1-17 ボールディングの愛と交換と力
その日、ミエナの講義が終わると、4人はマコテス所長のオフィスに呼ばれた。エイレネ、パンドラ、ディアナ、プロメテウスの4人は、所長の独特な研究に少し興味を抱きながらも、何が待ち受けているのか分からず、ドキドキしながら足を踏み入れた。所長のオフィスは、研究所の中でも特に機械やスクリーンに囲まれた空間だった。あちこちにコンピュータや大型のモニターが並び、複雑なグラフやシミュレーションが表示されていた。その中央で、所長のマコテスが満足げに画面を眺めていた。彼は一見、遊んでいるかのように見えるほどに楽しそうだった。
「ようこそ、皆さん!」マコテス所長は笑顔で4人を迎えた。
「今日は、そろそろ皆さんの最初のコースが終了しそうだとミエナから報告があったので、ボールディングという学者の『愛と交換と力』という3つの方法について、意見の違いをどう乗り越えるかをお話ししましょう。」
エイレネが興味津々に、「愛、交換、力?それってどういうこと?」と尋ねると、マコテス所長は嬉しそうに説明を始めた。
「ボールディングは、人々が意見の違いを乗り越える3つの主要な方法を提唱しました。まず一つ目は『愛』。これは、互いに尊重し合い、利他主義的な行動を取ることで対立を解消する方法ですね。家族や親族間の愛や友人・恋人などとの愛、同胞愛などから宗教や信仰に基づいた慈愛や献身がこのカテゴリーに入るよね。例えば、宗教的な貢物によって、都市が宗教的な中心地として発展することがあるよね。東洋の島国では門前町などと呼んでいるそうだ」
「なるほど、愛によって発展する宗教都市ってことね!」
パンドラが納得したように頷いた。
「そうですよ。そして二つ目が『交換』。これは、お互いに利益を得るために物やサービスを交換し合う、経済的な発展の方法だね。交易や商取引が都市を発展させる経済都市を想像してみてね。意見の違いがあっても、双方が利益を得られるならば、その違いは問題にならないですよね。ちょっと、拝金主義とかエコノミック・アニマルみたいだけど」
ディアナが思わず笑った。
「交換なら、私たちが自然の恵みを分かち合うのと同じような感じね。」
「その通りだよ、ディアナ。そして三つ目が『力』だ。これは、力や権力によって対立を解消する方法だよ。強制的に税金を徴収したり、規制を作ったりして、政治的に都市を発展させる方法だよ。これは、政治都市として発展するパターンに当てはまるよね。だいたい、首都とか地方自治体の庁舎があるとこは都市になっている。昔だと城下町かな。」
プロメテウスが興味深そうに、「力で意見の対立を解消するのか…。でも、それって強制的なやり方じゃないのですか?」と尋ねた。
マコテス所長は少し肩をすくめ、「そうだね。力は必ずしも理想的な方法ではないけど、時には必要かな。特に、どうしても譲れない場面では、最終的な手段として力が使われることがあるよね。ただし、それは慎重に使わなければならない。一度、力によって権力や権威を得てしまえば、税金という方法で強制的にお金を巻き上げているのだが、普通は力によってお金を払わされているなんて思わないよね。政府の大元をたどれば、山賊だったんじゃないかと思うけど、他の山賊や野党から村を守ってやるから金を出せ・・・なんてやっていたのが、上品になっただけかもしれんな」
エイレネは考え込みながら、「え~、政府の元は山賊だったんですか?」
プロメテウスは「それでは、その3つの方法って、都市が発展する様子にも関係しているのですか?」
「そうなんだよ!君はいいセンスをしているね。」
マコテス所長は嬉しそうに大きなスクリーンを指さした。
「実は、私は愛と力と交換の3つを使ってSimTaKNというソフトでシミュレーション・モデルを作ってみたんだ。是非、これを見てもらいたいな。このシミュレーション・モデルでは、最初は農耕牧畜が始まったばかりの小さな農村集落しかない世界が、愛、交換、力の3つの方法によって都市へと発展していく様子を再現しているんじゃよ。」
スクリーンには、広大な地図が映し出されていた。点々とした小さな集落が時間と共に徐々に成長し、宗教的な中心地として発展する都市、交易で賑わう経済都市、そして強大な権力を握る政治都市へと変貌していくのが目に見えてわかる。マコテス所長は誇らしげに笑った。
「村や町、都市が1万年にわたってどう発展するかをシミュレートしているのだ。もちろん、現実とは違う部分もあるが、このモデルを通じて、愛や交換、力がどのように社会や都市に影響を与えるかを理解できるんじゃよ。」
4人はその壮大なシミュレーションが1万年前の農耕牧畜社会の村落社会から町に都市に少しずつ変わっていく様子を興味津々に見つめた。エイレネは感動したように、「こんなふうに都市が発展していくんですね!愛や交換や力がそれぞれ違う形で都市を作っていくなんて、とっても面白いです!」
パンドラもワクワクしながら、「本当に重要なことを研究されているのですね。私もこういうシミュレーション、やってみたい!」
プロメテウスも続けて言った。
「これほど壮大なスケールで物事を考えるのは、私たちにとっても参考になるな。特にこれからの地球の未来を考える上で。」
マコテス所長は真面目な表情で、「そうなんだよ、プロメテウス君。このシミュレーションは、単なる都市の発展だけでなく、どうすれば人々が互いの違いを乗り越え、共に発展できるかを考えるためのツールでもあるんだよ。愛、交換、力の3つをどう使うかが、その都市や社会、国家の未来を決定づけるのだ。」
「それじゃあ、私たちもこれから、愛や交換、そして力をどう使うかを考えながら、地球を守っていかなきゃいけないんだよね!みんなぁ!」
エイレネは元気よくそう言って、みんなを見回した。
「そうだな。愛を中心にできるのが一番だが、状況によっては他の方法も必要になるだろう。私たちはそれをうまく使いこなすために、もっと学んでいこう。」
プロメテウスがしっかりと応えた。4人はそれぞれ新たな学びを胸に抱き、マコテス所長のシミュレーションを眺めながら、次のステップへと進む準備を整えていった。
その夜、エイレネの夢の中に山賊の首領が出てきて、「俺たちも村人たちを脅かして金品を上納させている訳ではないのだ」と話した。
「俺たちが他の山賊から村を守っているお礼として金品を持ってきてくれているのだから交換だ!それに俺たちもこの土地を愛し、この土地の人々を愛しているから、愛によって村人たちを繋がってもいるのだ」と胸を張って帰っていった。
翌朝、みんなに話したら、「郷土愛って大事だね」とか、「一方的な力による支配ではなくギブアンドテイクが成り立っているんだね」とか、いろいろな感想が出た。
マコテス所長がその話を聞いていて、「その山賊の首領も、ギブ安堵テイクが理解してもらえて、さぞかし安堵しただろうな!」と駄洒落を言って一人で受けていた。
1-18 民主主義は絶対に正しいか?
さらに翌日、ミエナの講義が静かに進む中、エイレネの心にはある疑問が深く根付いていた。彼女の頭の中には、民主主義という概念が絶対に正しいのかという問いがくすぶっていた。これまでの講義で民主主義の理念や構造、そしてその力を学んできたものの、何かしら腑に落ちない部分が残っていたのだ。講義の途中、エイレネは思い切ってミエナに問いかけた。
「ミエナ、民主主義は本当に全ての人類にとって正しい政治体制なのでしょうか? もし、シュワルツの文化価値類型が正しいとしたら、民主主義が普遍的な価値を守るのだとして、それが未来に渡っても常に最善の方法だと言えるのでしょうか?」
エイレネの質問が静寂を切り裂いたように響くと、周りの空気が少し張り詰めた。ディアナ、パンドラ、そしてプロメテウスもその言葉に驚いた表情を浮かべたが、どこか彼らも同じ疑問を抱いていたようだった。彼らは、それぞれがこの問いに深く考えを巡らせ、やがて自分たちの意見を出し合った。
プロメテウスが口を開いた。
「民主主義は、多くの人々が意見を出し合い、共に進むための方法だ。だが、それが必ずしもすべての時代や文化に適しているとは限らないんじゃないか?火を与えた時も、全ての人が同じ方法でそれを使ったわけではなかった。」
パンドラが眉をひそめながら、「そうよね。これまで学んできたように人間はみんな違う価値観を持っているし、対立する価値観も必ずあるのだから、同じルールが全てに当てはまるとは思えないわ。好奇心旺盛な人がいれば、もっと保守的な人もいるし…それでも民主主義は全員にとって最善の答えなのかしら?」
ディアナがその二人の意見に静かに頷き、「自然界でも、一つの方法だけで全ての問題が解決することなんてないわ。多様性がなければ、生命は簡単に滅びる。民主主義も同じように、一つの型にはまるべきじゃないのかもしれない。」
3人の意見を聞きながら、エイレネもその考えに共感していた。しかし、民主主義がもたらす自由や平等といった普遍的な価値は、確かに重要だと感じていた。そのため、彼女の疑問はさらに深まっていた。ミエナはしばらく黙って4人の議論を聞き、彼らの成長に心の中で深い満足を覚えた。エイレネたちは単に講義を受ける存在ではなく、自らの疑問を持ち、考え、未来について思索を始めていたのだ。ミエナはその瞬間、彼らに自分なりの答えを伝える時が来たと感じた。ミエナは静かに口を開いた。
「エイレネ、そして皆さん。とても重要な質問を投げかけてくれました。民主主義が普遍的な価値を持つかどうか、その答えは一言では表せません。しかし、私なりの答えをお伝えしましょう。民主主義は完璧ではありません。確かに、すべての社会や時代に適用できるわけではないかもしれません。それでも、民主主義は、他の政治体制と比較して、人々が自らの声を反映させ、自由や平等といった普遍的な価値を守るための最も効果的な仕組みであることは間違いありません。」
ミエナは、シュワルツの文化価値類型を映し出したホログラムの円形グラフを指し示した。
「シュワルツのモデルが示すように、人間の価値観は多様で、それぞれが異なる方向に向かっています。①知的自律性・刺激・興奮・科学技術、②普遍主義・自由・平和・人権、③平等・博愛・環境保護・援助、④伝統・美、⑤安心安全・従順、⑥安全保障・秩序、⑦富と権力・階級・階層、⑧能力主義・達成感・競争、⑨自主独往・自己志向・冒険、⑩快楽主義・文化・芸術、という10個の文化価値、これらは全て、個々の人々が持つ重要な価値観でもあるのです。民主主義の強さは、この多様な価値観を包摂し、調整しながら、全員が共に生きる方法を見つけることにあります」
エイレネはその言葉にじっと耳を傾けた。彼女はまだ疑問を完全に解消できていなかったが、ミエナの話には一理あると感じていた。
「民主主義の本質は、変化し続けることにあります」とミエナは続けた。
「一つの決まった形にとらわれることなく、時代や社会の変化に応じて柔軟に進化していく。民主主義の中で行われる議論や選挙、意見の対立、それらはすべて、より良い社会を作るための試行錯誤です。そして、その過程で普遍的な価値、つまり自由や人権を守るための新しい道が常に模索されます」
ディアナが穏やかな口調で尋ねた。
「でも、それでも衆愚政治や不正が生じることもありますよね?民主主義が常に正しいとは限らないのではないですか?」
ミエナは頷きながら答えた。
「確かに、民主主義も完璧ではなく、衆愚政治や腐敗が起こることもあります。しかし、民主主義の優れた点は、修正可能であることです。市民が意見を持ち、行動を起こし、政府を批判し、改革を求めることで、制度を改めていく力があるのです。これが他の体制と異なる点です」
パンドラが好奇心いっぱいに言った。
「つまり、民主主義は完成されたものじゃなくて、みんなが手を加え続けるシステムってことですか?」
ミエナは笑顔で答えた。
「その通りです、パンドラ。民主主義は絶対的に完璧な体制ではなく、常に進化し、改善され続けるものです。普遍的な価値を守るためには、時に新しい挑戦が必要ですが、民主主義はその挑戦を受け入れる柔軟さを持っています」
エイレネは静かに頷き、深い考えに沈んでいた。ミエナの言葉は、彼女の疑問に一つの答えを与えたように思えたが、同時に未来に向けてさらに多くの問いを投げかけていた。
「ありがとう、ミエナ。民主主義が絶対ではないにせよ、それが変化し続けるものだということがわかったわ。私たちも、その変化を導く力を持つことができるのかもしれないね。」
ミエナは彼女たちに穏やかに微笑んで言った。
「その通りです、エイレネ。未来はあなたたちの手にかかっています。民主主義が未来においても普遍的な価値を守る体制であるためには、あなたたちがそれをどう形作るかが重要です。これからも、自らの疑問を大切にし続けてください。それが、より良い社会を築くための第一歩です。」
4人はミエナの言葉を胸に深く刻み、これからの道のりを見つめ直していた。民主主義の普遍的な価値とその未来について、彼らは新たな決意を抱きながら次の一歩を踏み出そうとしていた。
1-19 民主主義の原則と民主主義指数
エイレネたちは、ガイア地球研究所の講義室に集まり、ミエナのホログラムが現れるのを待っていた。今日は課外授業として、民主主義についての話があるらしい。ミエナは、まるで実在しているかのように柔らかく微笑みながら講義を始めた。
「今日は、『民主主義』についてお話ししましょう。民主主義にはさまざまな形があり、国によって大きく異なります。まず、アメリカ国務省が定める『民主主義の原則』を確認しましょう。」
ミエナが手を動かすと、空中にホログラムが浮かび上がった。そこには、「民主主義の原則」として次のような項目が表示され、説明を始めた。
「原文は長いので少し要約しました。
1. 自由で公正な選挙:国民が主権者で、指導者を選ぶ権利が保証され、選挙は公平で透明でなければならない。独裁者や単一政党の隠れみのとなる見せかけの選挙であってはならない。
2. 法の支配:誰もが法律の下で平等であり、政府も法律に従う必要がある。
3. 基本的な人権の保障:言論、信仰、報道の自由などが守られる。
4. 多元的な政治システム:さまざまな政治的意見や政党が存在し、抑圧されることなく活動できる。地方自治が尊重されていること。民主主義諸国のあり方は多様であるが、基本的な諸原則の上に置かれていること。
5. 市民参加:市民が直接または間接的に政治に積極的に関与できるシステムが整っていること。
6. 多数決原理の諸原則と、個人および少数派の権利を組み合わせたものを基盤としている。民主主義社会は、寛容と協力と譲歩といった価値を何よりも重視する。民主主義国は、全体的な合意に達するには譲歩が必要であること、また合意達成が常に可能だとは限らないことを認識している。マハトマ・ガンジーはこう述べている。『不寛容は、それ自体が暴力の一形態であり、真の民主主義精神の成長にとって障害となる。』これが、真の民主主義に必要な原則条件です。」
ミエナは説明を終えて、4人が納得している様子をみて、説明を続けた。
「そして、これらの条件をどれだけ満たしているかを評価するのが、エコノミスト・インテリジェンス・ユニット(EIU)の『民主主義指数』です。この指数は、60の指標を①選挙過程と多元性、②政府機能、③政治参加、④政治文化、⑤人権擁護の5つの部門に分類して算出しています。指数と順位に加えて、各国を4つの政権状態(a.完全民主主義、b.欠陥民主主義、c.混合政治体制、d.独裁政治体制)に分類しています。日本、イギリス、フランスは完全民主主義、アメリカは欠陥民主主義、ロシアと中国は独裁政治体制に分類されています」
ミエナは画面を切り替え、2023年の「民主主義指数」のランキングを示した。
「ここで、最も民主主義が発展している国を見てみましょう。1位 ノルウェー、2位 ニュージーランド、3位 アイスランド、4位 スウェーデンです。これらの国々は、自由で公正な選挙や、市民の権利を強く保障する体制が整っているため、民主主義指数のトップに位置しています。特にノルウェーは、平和で安定した政治体制と、市民の参加意識が高いことが評価され、長年1位を維持しています。」
パンドラが目を輝かせて言った。
「すごい!そんなに完璧な民主主義がある国が存在するなんて…。」
「ええ、でももちろん、世界には多くの異なる体制があります。」
ミエナはさらにランキングを進めた。
「台湾は10位、日本は16位、イギリスは18位、フランスは23位です。これらの国々も比較的高い水準の民主主義を持っていますが、まだ改善の余地があります。」
プロメテウスが真剣な顔で尋ねた。
「アメリカはどうだ?トランプ前大統領の影響は大きいと聞いたが。」
ミエナは少し表情を曇らせた。
「その通りです。アメリカはかつて民主主義の模範とされていましたが、近年は分断が深まり、選挙制度や政治の透明性に対する不信感が広がりました。そのため、現在のアメリカは29位にランクダウンしています。」
ディアナが驚いたように言った。
「アメリカがそんなに順位を落とすなんて、思ってもみなかったわ。」
「トランプ前大統領の影響で、民主主義における基盤である自由で公正な選挙への信頼が揺らいだことが大きいです。」
ミエナは続けた。
「アメリカは今、その分断を修復し、かつての民主主義のリーダーシップを取り戻すための課題に直面しています。」
エイレネが気になっていたことを尋ねた。
「それで、ロシアと中国はどうなの?彼らも『民主主義』を名乗っているけど…。」
ミエナは画面を切り替え、ロシアと中国の順位を表示した。
「ロシアと中国は、形式的には民主主義を標榜していますが、実際にはそうとは言えません。」
ミエナは静かに続けた。
「ロシアは、反対勢力を抑圧し、選挙は一応行われているものの、政府の影響力が強すぎるため、公正さに欠けています。これにより、ロシアの『民主主義指数』は144位にとどまっています。」
4人はなるほどと頷いてミエナの話を聞いている。
「中国の場合は、さらに特殊です。中国共産党が一党独裁を続け、『中国式民主主義』を主張していますが、これは本来の民主主義の条件を満たしていません。市民の自由な発言や参加が厳しく制限されているため、148位という低い評価を受けています。」
パンドラが首をかしげた。
「でも、彼らは自分たちのやり方を正当化しているんでしょう?文化や歴史が違うから、中国独自の民主主義があるって。」
ミエナは静かに頷いた。
「その通りです。彼らは文化相対主義を持ち出して政治にも相対主義があると自分たちの体制を擁護しています。しかし、真の民主主義は、どの国でも共通の原則で評価されるべきです。選挙の透明性、法の支配、基本的な人権の保障がなければ、それは民主主義とは言えません。」
エイレネは強い決意を込めて言った。
「私たちが求めているのは、本物の民主主義よ。ガイアが託してくれた使命のためには、きちんとした民主主義が必要だわ。」
プロメテウスも頷いた。
「そうだ。人々が自由に意見を言い、平等に扱われる社会こそが、私たちが守るべきものだ。」
ディアナが微笑んだ。
「それにはまず、私たち自身が民主主義についてもっと学び、そして世界にその価値を広めなければならないわね。」
ミエナは彼らの決意に微笑みを返した。
「そうですね。エイレネたちが目指す社会は、自由で公正な民主主義の上に成り立っています。これからの挑戦に向けて、さらに理解を深め、実践していきましょう。」
エイレネたちは深く頷き、次なるステップへと進む準備を整えた。彼らが目指すのは、世界に真の民主主義を広め、人類と地球を守る新たな未来だった。
エイレネは、その夜、あらゆるものに『文化相対主義』を持ち込もうとする国の夢をみた。学校のテストに自分の思いを書けばそれが何でも100点満点、お母さんがすき焼きにカレー粉を入れて自慢していた。お父さんはお仕事だと言って大好きな釣りに行ってしまった。何が仕事かも相対主義だという。私はお母さんの料理を美味しいと言って食べたが、何が美味しいのかというのも相対主義だ!お父さんは魚を釣って帰ってきて、近所の魚屋さんに売ってきた。魚屋さんが何を売って何を買うかも相対主義らしい。
ついに、夢の中でエイレネは頭が大混乱し始めて飛び起きた。
そこはベットの上はなくて、下だった。
「こんな相対主義はもう嫌だ」
言葉を乱用しないようにしようとエイレネは強く決意したのであった。
第1部 完
注意書き
本書はフィクションです。本書に登場する人物、団体、地名、組織、国家、出来事、歴史などは、すべて架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。万が一、現実の人物や出来事との類似点があったとしても、それは単なる偶然です。
また、本書の内容は完全に創作であり、科学的・歴史的・宗教的事実を反映するものではありません。本書に登場する技術、魔法、超常現象などはすべて架空のものであり、現実とは異なります。
本書では社会問題をテーマとして扱うことがありますが、特定の思想・信条を読者に押し付ける意図はありません。登場する人物の意見や行動は、著者や出版社の見解を代表するものではありません。
イケザワ ミマリス
ここまでで、この物語が学びをしていく成長物語だと気づかれたと思います。大問題に挑む4人は数千年の長い幽閉期間の空白を埋めるため、ほとんどゼロから学び始めます。あなたも一緒に学ぶことで、エイレネたちと同じような地球を救う力が身につくかも知れません。保証はできませんが・・・。
勉強はまだまだ続きますが、原案者のイケマコス氏は、日本を代表するシンクタンクでの経験や大学教授としての知識をもとに15歳のエイレネと彼女の仲間たちに知恵を授けていきます。是非、一緒にどうぞ!!