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森奥の深淵  作者: 初唯
第一章 迷いし森の奥で敗北の書を読み始める青年
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①ー2 朱色のあいつ

 アマリリスとゼンニバルが旅を始めて6ヶ月ほど過ぎた。

彼女らを乗せた乗合馬車がヤエツムギ町へ到着した。

巡警に教会の場所を聞き下町にある教会へ二人は足を運んだ。

聖女として認められたアマリリスは教会を無償の宿代わりに使えるのである。


「聖女様!よくぞいらした」神父は歓迎してくれた。

教会の隣にある孤児院に客室があるとのことでそちらに二人は案内された。


だが、連れて行かれた孤児院では怪我してボロボロの子どもたちが転がっていた。

「恐れ入りますが聖女様、この子達を聖魔法で治癒していただけないでしょうか?高価なポーションを買うほどの寄付があつまらないので困っているのです。」

「ええ、もちろんです」光景にびっくりしたもののアマリリスは快諾した。

どうしてこんな怪我だらけなんですか?ここの子たちは?」ボロボロの子どもたちを見てゼンニバルが神父に訊ねた。

「孤児院の庭に畑があるのですが、そこの野菜をイノシシに狙われてて。大人の目の届かない隙にイノシシ追っ払おうとして彼らは怪我をしてしまったのです。」神父は辛そうに語った。


傷だらけの子どもたちの中にあって、朱色のかさぶただらけの少年にゼンニバルの目が止まった。

「朱色のあいつが一番痛々しいですね。」

「ああ、リオンですね。イノシシを追っ払おうと無茶を言いだしたのがあの子なのです。」

「ほう」

歳は13歳くらいだろうか。ゼンニバルよりは少し年上だろう。赤毛で傷だらけ。だけど熱い目をした獅子リオンという名前の少年にゼンニバルは興味を持った。


 傷を治し元気になった孤児のみんなと神父はアマリリスたちと夕食を共にした。

「このような素食でしかおもてなしできず申し訳ない」神父は詫びた。

「いいえ、とんでもない。この蓬莱草のポタージュも大根餅も美味しいです」アマリリスは恐縮した。

「なあリオンさん。」ゼンニバルがリオンに声をかけた。

「なんだ?さっきは傷を治してくれてありがとな。」リオンはゼンニバルに陽気に答えた。

「食後、相談したいことがある。時間をくれないか?」


「きみが勇敢な男だと感じた。イノシシ狩りに俺も協力させてくれないか?」

夕食後にゼンニバルはリオンにそう切り出した。

リオンは戸惑わざるを得なかった。この人は客人だ。そして年下だし、そんな強そうには見えない。子供がひとり加勢してくれたからといって、また皆で大怪我するに決まっている。

「いや、みんなは巻き込まない。君と俺の二人でイノシシを退治するんだ。」

「いくらなんでも無理だろ」リオンは苦笑した。気持ちはありがたいが無謀なことで怪我させたら大変だ。

「心配はいらない。俺はイノシシを捉える罠をつくることができる。君は罠を逃れるイノシシがいないか見張ってくれるだけでいい。」ゼンニバルが自信満々できっぱりと言った。

リオンは直感でこいつと組むのは面白そうだと判断した。

「いいぜ、じゃあ。中じゃもう小さい子が寝る頃だから外で話し合おう」

「ゼン、二人で何を話してるの?」アマリリスがひょいっと顔を出した。

「聖女様・・」リオンが突然現れたアマリリスに焦った。

「ここのみんながもう怪我をしないでいいようにリオンと二人でイノシシを罠に掛ける相談してたんだよ。」ゼンニバルが妹に言った。

「そういうことなら、私も手伝います。回復は任せて!」アマリリスは無い胸を張った。

「しかし危険が伴うぞ」ゼンニバルが言うと、アマリリスは呆れたと言わんばかりに「イノシシごときを恐れては、魔王なんて倒せないでしょう。何をいまさら。ゼン兄さまは過保護すぎます。」


こうして最初のパーティは結成されたのだった。

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