6 にわちこの鳴く頃に
再び朝が来た。
今朝の俺は現在、朝食を食べている。
昨晩の湯豆腐も美味しかったが、この朝餉もうまい。
・燻製謎肉
・目玉焼き
・とろろ
・雑穀米
この閉ざされた森の中でこうして不自由なく毎食ありつけることは正直不思議と言って良い。
どうやってこの食材を手に入れているのだろうか?
「森とは本来、豊かな空間なのです。」有為はそう微笑んだ。
「ハクト様、それでは無為に読み聞かせお願いいたします。」
朝餉を終えると有為が俺に言ってきた。
「ああ、わかった。昨日預かったこの本を読めばいいのだな」
「はい。無為は私と違ってこの棟より外の世界に出たことがないのです。ですので、せめて書物の世界を体験させてあげたいのです。」
「ハクト様、ここがいい。ここで読んでもらってもいいですか?」緋色の巫女が渡り廊下の縁側に座った。
無為はまだ少女らしい好奇心に満ちた顔を輝かせ、隣に俺も座るよう促す。
「ここは空が遠くまで見えるから、ここで読んでもらえると書物の世界までつながっている。同じ空気を吸えている気になるの」
「わかった。」俺も腰掛けた。澄み渡る空は遠く優しい風が頬を撫でる。
外の木々に停まっている鳥が楽しげに鳴いていた。
「あれはニワチコ鳥っていうんだよ。あそこの木に成る赤い実が好きで良く食べに来るんだよ」
ピピピ♪ チョーリリリィー♪ ニワチコが鳴いている。
俺は楽しい鳴き声と澄んだ空気に気の安らぎを感じた。
「それじゃそろそろ始めようか」
「はい、ハクト様」
俺は昨日手にした「ポポノミラクル」という書物を開いたのだった。
「ポポノミラクル、これはポポの村に生まれた聖女アマリリスの奇跡の記録である…」
「わー、やっぱりハクト様ってほんと良い声。どんな鳥よりも素敵な声色ですねっ」
落ち着いた有為に比べて無為は本当に無邪気な女の子だ。
「ポポノ村ってどの辺にあるのだろうね」無為はたずねる。
「おそらく西の大陸の大きな円錐墳の北東の大河のあたりらしい。ほら、巻頭のこの地図にはここがポポノ村って書いてある」
「おおー♪」無為は興味深そうに地図を眺めた。
「遠い昔、知らない国の話だけど、きっと本当におきた話なんだろうね。どんな奇跡が起きたのだろうね。ねえハクト様、続きを読んで」
「了解。」俺は続きを朗読しはじめたのだった。