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森奥の深淵  作者: 初唯
第一章 迷いし森の奥で敗北の書を読み始める青年
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5 深淵の書庫

 食後ひと段落したのち俺はこの屋代の本殿であろう書庫へと案内された。

なんと4階建てとなっており、一階は何もなく所謂、高床式の宝物殿のような造りだ。


「2階には世界中より集まった敗北者や失敗者に関する草紙や羊皮紙に記された記憶が置かれています」有為は俺に言った。

「世界中だと?」俺は不思議に思い声を出した。

「はい、ここは古今東西の敗北者の記憶を留めております書庫ですので」

「なぜ、そんなものを収集しているのだ?ここは一体・・・」

 有為が哀しそうな顔をして言った。

「敗北や過ちこそが人類の価値の最たるものだと私の主人は考えておりました。」


「人ならば勝利や成功を目指すものではないのか?」俺は納得がいかない。

「目指すもよし、目指さぬもよしです。」有為はそう答えた。


「…3階は世界中の敗北者や失敗者に関する木簡や竹簡に書かれた記憶が集まってきております。」

 どれだけ古いものなのかはわからぬが、2階もこの階も不思議と黴臭さを感じられなかった。

換気などに気を付けているのだろうか?信じられないほど良好な保存状態が保たれている。

有為たちがここをとても大切に管理していることが理解できた。


「4階は世界中の敗北者や失敗者に関する粘土板や石板やパピルスに記された記憶を集まっております。」

なるほど、新しいものは低い階、古いものは上の階にあるということか。

しかし、これだけ集めるのにどれだけの労力と財力が必要だったことだろう。

ただの敗北と失敗の収集ノためにどれだけ執念をもって集めたのだろうか

ここの主人とやらは信じられないほどの好事家キモオタだ。


「失礼ながら、あなたがたのあるじはかなりの変人のように思える。」


「価値観はひとそれぞれですから。」咎めはしなかったが有為は真面目な顔で俺に告げた。

「歴史とは常に勝者による主観と都合による記録ばかりでしょう。

ですが敗北者にだって譲れない思いや尊いものがあったはずですし、失うべきでない英知も存在するのではないでしょうか?

少なくとも私どもの主は、それらが焚書され闇に葬られてしまうことを避けたいと悲願する者でした。」



4回まで登ると、有為は窓を開いた。うす暗い部屋にまぶしさが差し込む。

清浄に思えた室内にも少しは埃が舞っていたようだ。陽光を受けて室内の埃が金色に輝く。

窓から外を覗くと4階はずいぶんと高いものだった。木々を見下ろし遠くまで見張らすことができた。

空は雲一つなく晴天が広がっており、大地は見渡す限り木々ばかりで地平線の先まで森は続いていた。

俺はいつかここから出ることは叶うのだろうか?


「さて、この書庫中からどれか一つ選んで無為に読んで聞かせてあげて欲しいのです」有為は言った。

「外国の文字など読めないと思うぞ」俺は言った。

「だけど俺に読めるものなら何でもよい、無為さんに合うものを有為さんが選んでくれ」

だが、有為は首を横に振りそれを拒否した。


「ハクト様が選ぶことが重要なのです。どうかハクト様、お選びください」


妙なこだわりを主張されわけわからないが仕方なく選ぶことを了解した。

石や粘土は重かったり割れたりしたら大変なので、紙のものから選ぶようにしよう。

階下に降りると一冊の書物が俺の目に入った。

表紙に描かれた女性と天使の絵になにか懐かしいものを俺は感じた。

それは遠い西方の異国の書物のはずなのだが何故か俺は読むことが出来た。

表紙には「ポポノミラクル」と書かれてあった。

ポポノという語の意味は分からぬが、ミラクルとは奇跡のことだろう。

魔導書か何かなのだろうか?


俺が「ポポノミラクル」を手に取っていると有為は明るい笑みを俺に向け

「その本をお選びになるのですね。ハクト様」

「ありがとうございます。では、その本を明日から無為に読み聞かせてください。」




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