②-4 炎の白虎 シロビ
ドワーフ庄を目指すカルマリアとコチの旅はこれから開始される失敗の物語。悲劇の序章と言えるものだった・・・!
なにしろここ数日、天は雷鳴がとどろき炎が木々に引火し山には火事が広がり二人の眼前にはこれ以上進んではならぬというような災害の景色があった。
「これは私が呪い子のせいだから?」コチは震えながら口に出した。
「そんな風に考えたらダメよ。私にとってはあなたは人の善意の象徴なのだから。目の前の災害はあなたとは無関係の事象よ」
山火事に巻き込まれないようやや迂回しながら二人は進んでいった。
右足の無いコチはカルマリアの作った松葉杖を使い歩いてゆく。
「これすごいね! 飛び跳ねなくて良いからすごい移動が楽になったよカルマリア様」
「様はつけなくて良いわよ。コチは旅の仲間なんだから」
そうはいってもコチにとってカルマリアは物心ついて初めて自分を呪いや化け物の類ではなく、人間として遇してくれた偉大な存在だった。禍々しい存在としてあり続けるしかなかったコチに温かい心を与えてくれたわずか9歳の少女はまごうことなき聖女としか思えなかった。カルマリアのおかげで私はひとになれた。
山火事を避けるため岩石や砂利の続く川沿いを二人は進んだ。
するとどこからともなく「・・・た たすけて」という声が聞こえた。
二人はあたりを見回し声のある方を見た。
「たすけておくれ・・あんたには治癒属性の魔力を感じる」
そこには大きな血まみれの毛玉が転がっていた。
「そこの土ころびみたいな毛玉さん、助けを求めているのはあなたですか?」
「誰が土ころびだ!あんなのと一緒にしないでおくれ。私の名前はシロビ!炎を吐く白虎だよ」
「人間の言葉を話せるなんて頭いいのね。見たところ傷だらけのようね。私は魔力の少ない準聖女でしかないから全快とまではいけないかもだけど条件次第で治してあげてもいいわ。」
「何だ?条件を言え」
「直した途端、私たちをガブリと食べたりしないと約束して頂戴。それが条件よ」
「見くびってもらったら困る。白虎の端くれとして恩をあだで返すようなことはしないよ」
コチは心配そうに「それが治してもらうための方便じゃないと証明できるのか!」と言った。
「コチ、大丈夫。私にはこの虎さんが悪者には見えないわ。誇りの高さを感じるもの。それじゃあ治癒魔法かけるわね」
「ありがとう、恩に着るよ」シロビという白虎は礼を言った。
するとその時、一本の矢が彼らの方へ飛んできた。
「だめだお嬢さん、それは危ない魔物だ!今すぐ離れろ」
カルマリアが見ると屈強な男が弓を向け数百メートル先に立っていた。男の隣には男の子がいる。親子?
「お前は、ムルガメース!」シロビは言った。
「ムルガメースさん?!たしか王都の騎士団の中で最強の・・」カルマリアはその名前から連想される英雄を口に出した。
「いかにも!俺は王都騎士団のムルガメースだ。その焔白虎シロビは、雷激龍ゾッドと同じく人類社会を脅かすまつろわぬ魔物だ!治癒してはならん。じきに仲間もここにきてそいつを討伐する。弱ったままにしてすぐさまそこを離れなさい」
「カルマリア様、逃げましょう」コチはカルマリアに退避を促した。
するとヒュイっと一本の矢が放たれ。首を狙ったのか心臓を狙ったのかわからないがコチの肩に刺さった。
「ぎゃああ!!」コチは悲鳴をあげた。
「何をするの?!」カルマリアはムルガメースに叫んだ。
「禍々しい呪い子も一緒に処分してやろう。お嬢ちゃんもつらいお役目が終わって自由だ。もう地の果てなど目指さなくてよい、子供なのだから両親のもとに帰るのが一番だ」
魔物を倒し人類を守る。
子供がつらい役目を負わなくてよい。
小さい子は親と穏やかに過ごさせてあげよう。
王都の屈強な騎士は、勇気と善意によりカルマリアに呪い子コチと魔獣シロビを倒すと言った。
「やめて!コチは私の友達だし、この白虎も悪い魔物じゃないわ!言葉も通じるし優しい心も持っていると思う!!」
「お嬢ちゃんも見ただろう!ここのところの山火事!そいつが原因だぞ。そいつの存在は災害そのものだ!俺は皆が安心して暮らせるようにそいつを退治しないとなんねえ。」
「でも!」不寛容で一方的な善意の押し付けにカルマリアは非難する。
ムルガメースは自分の隣にいた男の子に言った。
「おいリオン!あの女の子を保護してこい。俺は虎と呪い子に集中する」
「招致しました!」
それは将来、聖女アマリリスと共に魔王アルゴモーゼ討伐に向かう暁のリオンの騎士見習いとしての初陣でもあった。




