①-3 暁の獅子とイノシシ
畑周辺の足跡を確認してイノシシが襲撃してくる順路を予想したゼンニバルは木々に縄を縛りククリ罠を設置していった。雑木林を抜けたところと畑の間には落とし穴を掘ることにした。
「イノシシは大人でも突き飛ばすほどの突進力がある。まともにやって勝てるはずがない」ゼンニバルはリオンに言った。
「でもそれだけ強い力があるのなら、それを利用してやればいいと思うんだ」
穴を掘りながら「どういうことだ?」リオンはたずねた。
「猪突盲進といって、イノシシは走り出したら止まれないんだ。そこをついて罠に追い込んでやる。」
年下の少年の鋭い眼光にリオンは感銘を受けた。
「さすが聖女の兄だな。」ゼンニバルは聖魔法はもちろん他の魔法も使えない。特に武に秀でているようでもないただの平民の村人の子供だ。だが彼は自分が弱くても相手の強さを利用することで埋め合わせる狡猾さを持っている。リオンはゼンニバルを信頼できる奴だと思った。
イノシシが畑を荒らすのはだいたい明け方近くとのことで罠を仕掛け終わってのちリオンたちは仮眠をとった。
「起きて!ふたりとも」いちばん疲れてないアマリリスがゼンニバルとリオンを起こした。
イノシシは人の気配があると近寄ってこないのでイノシシの糞のついた蓑をはおって3人はこっそりと身を潜めた。
しばらくしてイノシシが数頭やってきた。木々に仕掛けたククリ罠を上手に回避して一匹雑木林から出てきた。続いてもう一匹、落とし穴をも回避して畑に近づいてきた。が、次の瞬間ブギャーッという悲鳴が響いた。うしろのいちばん小さいイノシシがククリ罠にかかったのだ。その悲鳴を聞いて畑に侵入してきた二匹も動転して雑木林へ戻ろうと駆け出した。そしてその勢いで落とし穴に突進して二匹とも落下した。
「やった」ゼンニバルたちは落下したイノシシを見に落とし穴の方へ歩き出した。
だが、それは油断だった。子供が掘れる落とし穴の深さはイノシシ二匹を沈めるには不十分。一匹を踏み台にしてイノシシが落とし穴から飛び出してきたッ。イノシシは怒りで狂い雑木林へ逃げるのを忘れアマリリスたちに向かって突進してきたのだった!!!
「しまった!」ゼンニバルは失敗を悟り、せめてアマリリスだけでも救おうとイノシシが接近してきたらアマリリスを突き飛ばし自分だけがイノシシの突進を喰らおうと判断した。死にさえしなければあとでアマリリスが治癒してくれるだろう。
だが、「!!!」ゼンニバルはリオンが先の尖ったヒノキの棒を持ってイノシシに向かって走り出すのを見た。
「うおりゃああああああああああああああああああ」
ドッドッドッドッと一直線で突進してくるイノシシ。そこへ駆け向かってゆくリオン
「うわあああああああああーーーー」リオンが叫ぶ。
イノシシは大人でも突き飛ばす力がある、でもそれだけ強い力があるのなら、それを利用してやればいい。
リオンはヒノキの棒をイノシシの喉元に突きつけた。猛進した勢いで刺さったヒノキの棒はどんどん深くイノシシの頸動脈に達し止めをさした。あっけないものだった。
信じられない光景にゼンニバルは目を見張った。「勇者だ!・・あいつは」
さっきまで薄暗かった空は紫色に輝き木々の隙間から朝日が差し込んできた。
そして夜が明ける。朝焼けに照らされ立つリオンは朱色に輝いていた。
「やったぜ!年下のおまえに二匹も退治されてしまったからよ。一匹くらいしとめないとかっこつかなかったからな」泥と血にまみれて得意げにリオンが笑った。
「なあリオンさん」ゼンニバルがリオンに声をかけた。
「なんだ?」
「俺はきみを勇者だと思った。朝日を浴びるきみは勇者 暁獅子だ。」
「勇者バーミリオンか。いい名前をありがとう。」普段ならこっぱずかしくなるところだが、イノシシを倒した昂揚感でなんだかとても名誉ある名前を頂戴した気になったリオンだった。
(筆者注:実際はイノシシは停止も方向転換も出来ます。それと正しくは猪突猛進です。)




