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淑女の顔も二度目まで  作者: 凛蓮月
最終章〜縁の糸の結び直し〜

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9.生まれなかった子の嘆き

 残酷な描写があります。

 苦手な方は高速スクロールして下さい。


 二回目の大きな時戻りの途中、ランスロットは身体から中身を吸い取られるような感覚をおぼえた。

 気付けば罪人の塔の中で、時戻りの前より少し年齢を重ねたような顔。

 質素でシンプルな平民よりもみすぼらしい服装はランスロットが罪人だと思わせるのに相応しいものだった。


「ここは……どこだ。時戻りをしたのではないのか……?」


 周りを見渡しても窓は手の届かない場所に明かり取りと空気の循環の為だけの小さな窓が等間隔であるばかり。

 一人分の食事が置けるくらいの小さなテーブルと椅子。

 簡易的なベッドが一つ。

 手洗い場へ通じる扉はあるが、外に出入りする為の扉へは柵がしてあり抜け出せないようになっている。


 一度目の時戻り前、魔塔に入らなければここに入る予定だった場所だった。


「罪人ランスロット、出ろ」


 訳も分からないままランスロットは門番らしき男に乱暴に引きずられながら塔を降りて行く。


「俺は王族だぞ、無礼だろう!?」


 苛立ちながら引きずられていると、門番は鼻で嗤った。


「何を言っている。国王だった男が退陣した後貴族会議で全ての王位継承権は剥奪されただろう」

「……はぁ?」


 何の話だ、とランスロットは狐につままれたような顔になった。


「時を戻ったのだから無かった事になっただろう? 何故そんな」

「時を戻った? 何の話だ。夢でも見てるんじゃないのか?」

「カリバー公爵夫人が亡くなったから時を戻って、生き返ったじゃないか」


 門番は立ち止まると、ランスロットに憐れむような視線を投げ掛けた。


「カリバー公爵夫人は確かに亡くなった。だが生き返りなどしていない。生死を司る魔法は禁忌だと知っているだろう?」


 カリバー公爵夫人は亡くなった。

 生き返りはしていない。

 ランスロットはそんなばかな、と目を見開いた。

 薄暗い階段を門番の先導で降りて行く。

 何が起きたか分からない。

 ガウエンがマクルドを刺し、その最中で魔女に願ったはずだ、と思考する。

 だが門番の話はまるで時を遡る前のようなものでランスロットは戸惑いを隠せない。


「ここは……どこだ……」


 罪人の塔を降り、扉が開くとあまりの眩しさに目が眩む。

 と同時に聞こえて来たのは怒号の嵐。


「売国奴! さっさと死んじまえ!」

「貴族の好き勝手にさせるな!」


 ランスロットは目を見開いた。

 連れて来られたのは処刑場。

 断頭台には首から上が無い死体が横たわっており、それが誰なのか見当も付かない。


「静粛に! 静粛に!

 今しがた元国王の処刑が終わった。次は元王太子ランスロットの処刑を始める」


 響いた声にランスロットは声無き悲鳴を上げた。

 その言葉が示す通りならば目の前に横たわった死体は父親のものだと言う事。

 そして次は自分の番だと言う事。


「嘘だろ……、何で、どうして」

「罪人は前へ」


 聞いたことのあるような声がランスロットを呼び門番は彼を押し出した。

 いつの間にか後ろ手に縛られ、前のめりになりながらランスロットは断頭台に近付いていく。


「罪人ランスロット。そなたは正妻の権利を蔑ろにし愛人の子を後継として認める法案を押し通そうとした。

 これはティンダディルの一夫二妻制にも認められていないもので、都合良い解釈は攻め入る理由を与えるものである。

 そしてこれは国を売るにも等しき法律。

 更にお前は禁忌とされる魅了の魔法も解禁させた」


 ランスロットは息を呑んだ。時を戻る前は確かにそんなおかしな法案を押し進めようとしていた。

 ひとえにメイの子が日の目を見るようにしたかっただけだ。


『ねえランス、エクスはとてもいい子でしょう? だから王太子にもなれるんじゃないかしら』


 何をバカな事を、と思った。だが王太子にはなれずとも、宰相辺りには身分さえあればなれるのではないか。

 ガラハドと競わせれば良い刺激になるのではないか、と思うとどうにかしてやりたかった。

 だから半ば強制的にマクルドにエクスを教育し養子に迎えるよう言った。


 だが実のところ、それは方便で、ただ王都の外れにまでメイに会いに行くのが面倒になっただけだ。

 公爵邸なら近いから。

 また友人に会いに行くと出やすいからエクスをダシにしただけだった。


「お前は本当に人間の腐った奴だ」

「子どもの気持ちを無視して己の欲望を優先した罪は重い」


 ランスロットは苦虫を噛み潰したような表情になった。

 確かに子どもよりもメイとの刺激的な一夜を優先させた事もある。

 他の男に奪われたくない、ゲームのようなものでもあった。

 けれど、――愛など欠片もない。


「なにより」

「僕たちとの約束を破った罰だ」


 それまで逆光で見えなかった声の主がはっきりと見えていく。


「お前たちは……」


 その視線の先にいたのは、悲しげに怒っている幼子二人。


「ライネルと……エレイン……?」

「どうして僕たちを生んでくれなかったの」

「どうして約束を破ったの」


 目に涙を溜めながら、二人は大きな声を出して父に訴える。


「僕たちより、お母様より、他の人が良かったの?」

「私たちが会いたい気持ちより、お父様の欲を満たしたかったの?」


 責め募られ、ランスロットは言葉が出ない。

 一回目、時を戻る前に彼は子どもたち三人と約束をした。

「また生まれてくるように」と。

 だがランスロットの行動ではガラハドは生まれたが、ライネルとエレインを生めるようにはできなかった。

 二回目でヴィアレットが生んだライネルとエレインは母は同じだが父は違う。

 体は器で魂と縁の糸で繋がれている為、器が違った二回目は一回目のライネルとエレインとは違う人物になってしまったのだ。


「僕たちは生まれなくても良いと思ったの?」


 ガラハド誕生の後ランスロットには避妊魔法が施された。

 愛妾を多々抱え、気に入らなければすぐに替えていた為後の禍根を残さないようにという王家の措置だった。

 実際ランスロットの子を身篭ったと王家に直訴に訪れた女性もいたが事情を話し丁重にお帰り頂いた。


「ライ……エリー……、違う、んだ。その……」


 妻への愛を捧げ、空いた隙間にメイへの思慕が増幅された。

 だがメイは魅了の使用者。

 またメイと王子の身分を天秤にかけ、メイを選べなかった。


「違わないよ。結果が全てだ」

「お母様は叔父様と婚約をした。私達はもう二度と生まれない」

「……――え……」


 エレインの言葉はランスロットに鋭い痛みをもたらした。

 二回目の時ヴィアレットの献身的な愛にようやく応えようとしていたランスロットは、今度こそヴィアレットだけを見ると決意したのだ。

 だがマリウスに奪われた。

 だから再びの時戻りを要請したのだ。


「お前は国を荒れさせただけでなく、僕たち三人と……お母様も殺した!」

「よって今から処刑とする!」

「ま、待ってくれ! 話を聞いてくれ!」


 ランスロットは二人に向かって叫ぶ。


「僕たちが生きてる時、話を聞いてほしかった時にお父様はいなかった!」

「そ、れは……視察とか……」

「視察と言いながら王都の外れの屋敷に通っていたわ。私の誕生日すら視察だった!」

「あれは本当に視察で!」

「嘘ばかり! お父様なんて大ッキライ!」


 子ども二人から睨まれ、ランスロットは唇を噛んだ。


「待ってくれ、ライ、エリー。お父様は本当にお前たちの事を……」

「処刑を執行する」


 屈強な男に引きずられ、ランスロットは断頭台に据えられると、先程見た父親の姿を思い出しぶるりと震えた。


「いやだ、待ってくれ、謝る。ごめん、謝るから、待って……」

「執行」

「いやだああああああ!!!!!!」


 ランスロットの叫びも虚しく、刃は勢いを付けて首を目指す。

 痛みは一瞬。

 彼の首は胴から離れ飛んだ。

 その様子をライネルとエレインは無表情で見ていた。


 長くなったので分けます。

 次回もランスロット回です。

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