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「双子……、僕の……」


 自分に血の繋がったきょうだいがいた。しかしその子は自分のために犠牲になった――やるせないその事実に、僕は頭を殴られたようだった。言葉が出てこない。目の前に置かれた雑誌の文字を無意味に追いながら、呆然とするしかなかった。


「いつでも休憩を挟むから、言ってくれ。辛いなら説明をやめることもできる」


 フィルが僕を気遣うように言った。


「君には真実を知る権利がある。だからこうして説明の機会を設けたが、君自身が傷付かないために知らなくていい事実も存在するんだ。……もっとも、君やその家族を騙し続けてきた自警団には何を言われても不信感しかないだろうけど」


 図星を指されて思わず視線を上げた。彼はまっすぐに僕の目を見ていた。


「真実が全て救いになるとは限らない。自警団が君の素性を本人にすら隠そうとしたのは、まだ確保出来ていない放火犯から守るためというより、君の心を守るためだ。理解してくれるか?」


 フィルは本心からそう言っているのか、それとも自警団を批判させないために先手を打っているのか。僕は前者だと思いたかった。第二隊員と裏の読み合いなんて出来るはずもないのだから、今はただ彼を信じるしかない。


「……はい」


 答えた声が震えていた。こんな場所で泣きたくないのに、視界がどんどん曇っていく。知りたくて仕方がなかった真実も、いざ知ってみるとその重さと悲惨さに心が押し潰されそうだ。

 自分の片割れとも呼べる存在に、僕は生かされた。その子の魔力を受け継いで生きてきた。何も知らず、ガレットの家族に愛されて幸せに。

 だから、知らなければいけない気がした。どれだけ残酷な事実だとしても、僕を救ってくれたその子の最期を。

 僕は目元を拭い、ルカに視線を向けた。


「……ルカ医長は、あの事件で子供たちの遺体の検案に関わったんですよね。キースから聞きました」


 そう尋ねると、ルカは微かに唇を噛んで頷いた。彼の辛い記憶を掘り返すことに申し訳なさを感じつつ、僕は質問を重ねた。


「つまり、その目で見たんですね。僕のきょうだいを。教えてくれませんか。その子はどんな状態――」


「ベス」


 フィルが止めに入った。ルカは青ざめた顔をし、片手で口元を覆って下を向いている。


「君がそれを知りたがるであろうことは、俺たちも想定していたよ。だが、少し考えてみてくれ」


 フィルは僕を諭すように続けた。ルカは相変わらず下を向き、必死で吐き気を堪えているようにも見えた。


「当時、事件現場を見た隊員と遺体の検案に関わった医務官は、その多くが心を病んで自警団を辞めている。だからといって残った者が平気かと言われればそうでもない。全員、何かしら精神の治療を受けながら魔導師を続けている。それほど凄惨な事件と、遺体の状態だったんだ」


 ルカの様子を見れば、15年経った今でも関わった者を苦しめる事件だというのが分かる。彼はついに堪えきれなくなったのか、席を立ち「すぐに戻る」と言い残して部屋を出ていった。


「……俺たちは心配しているんだよ、ベス」


 フィルはルカの背中を見送ってから、また僕に顔を向けた。


「君がきょうだいについての真実を知って、心を病んでしまわないか。数々の遺体を見てきたはずの医長ですらああなるんだ。それでも聞きたいのか?」


 そう問われても、僕の決意は変わらなかった。


「はい。どれほど悲惨だったか想像が付かないわけじゃないんです。でも僕は知らないといけない。その子の命と引き換えに生かされた者として、有耶無耶にはしたくないんです」


 グレーン乳児院の跡地で出会ったワルダーも言っていた。職員の遺体は誰が誰だか分からないほどに燃えてしまっていた、と。子供たちも恐らく同じだろう。性別不明、と最初にフィルが言っていたくらいだ。


「……そうか、分かった。じゃあ、ルカ医長が戻ってくるのを待とう」


 フィルはそう言って深く息を吐いた。僕は憂いを帯びたその顔を見つめながら、尋ねた。


「ブラウン乳児院の人は、僕のことを知っていたんですか? 放火事件の生き残りだって」


「ああ。知った上で、君の家族には嘘を吐いた。彼女らを責めないで欲しい。全て自警団の指示だ」


「そんなつもりは、全く。大切に育ててくれて感謝しています」


 それは僕の本心だった。善良な乳児院だったからこそ、ガレット家という素晴らしい家族と縁が繋がったのだ。

 もう一つ、疑問があった。


「僕がガレットの家に引き取られてから初めて魔術を使ったとき、家に自警団の隊員が来た、と兄に聞きました。何をしに来たんでしょうか?」


「君が使った魔術の痕跡を調べるためだ。乳児院で君が寝ていたベッドに残されていた魔術の痕跡と、それの霊態が一致するかどうか」


 僕が首を傾げると、フィルは分かりやすく説明してくれた。


「その当時、まだベッケンス博士の『魔力が他人に移る』説は世に出ていなかったから、自警団は君が自身の魔力で火災から身を守ったと考えていた。それを裏付けるための検証だ」


「それで……一致したんですか?」


「した。従って、自警団は君が自分で身を守ったと結論付けた」


「でも、僕の霊態は二つあるって……」


「その時点では確かに一つだったんだ。隊員が記録にそう残している。つまり君自身の魔力はまだ発現していなかったんだろう」


 納得出来る説明だった。兄のモーリスも、僕が5歳くらいになってから魔術で色々するようになったと言っていた。家で初めて魔術を使ったときは、きょうだいから移った魔力が元だったということらしい。


「僕はそれから、ずっと自警団に監視されていたんでしょうか」


「監視という言い方は違うな。あくまで見守りだよ」


 フィルがやんわりと否定した。


「見守っていたのは最初の2年ほどだ。ガレット家が善良な人々で、君が順調に育っているのを確認してからは、自警団が君に関わることはなかった。君はもう放火事件の生き残りではなく、ベス・ガレットという別の人間として生きていたからな。報道規制もしていたし、放火犯が生き残った君の存在を知ることはない。そう考えてのことだ」


「でも今になってその記事、出てしまいました」


 僕は雑誌を指差した。


「犯人が生きているとしたら、それを読んで生き残りがいたことを知ってしまったんじゃないですか?」


「そうだな。だが、この記事だけで君に辿り着けるとは思わない」


 フィルは案外、さらりと流したのだった。その時、部屋のドアが開いてルカが戻ってきた。顔色はさっきよりも良くなっている。


「すまなかった。もう大丈夫だ」


 そう言って席に着き、僕に視線を向ける。覚悟を決めた目だった。僕は膝の上でぐっと拳を握り、彼の言葉を待った。


「何から話せばいいのか。まずは、君の質問に答えよう。確かに俺は見たし、検案した。君のきょうだい……と思われる遺体を」

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