4.寮と謎
寮に入ると玄関には大きなシャンデリアが待ち構えており、その中央三つの大階段が此方を向いている。
寮の案内版を見る限り、右の階段が男子寮への入り口。
真ん中の階段はサロンへの入り口。
サロンは何やら、ビリヤードやダーツなど娯楽設備が満載な様だ。
(ほぇ〜。何だこの甘い設備は…。)
そして左側の階段が女子寮への入り口となっている。
階段の手前を右へ進むと食堂。左へ進むと大浴場となっている。
とても豪華なと言う言葉では済まされない設備に学生寮である事が到底信じがたかった。
(リゾートじゃないの?此処……)
そんな感想を程々にアリスは自分の部屋へ足を運ぶべく左側の階段へ進む。
階段は3階まで続き、1年生は3階、2年生は2階、3年生は3階となっているようだ。
3階に着くとその先には真っ直ぐな廊下が有り、何室もの扉がズラりと並んでいる。
その廊下の手前には結界が貼られており、女子じゃ無いと絶対に入れない仕様だ。
(なにこれ!魔法!?凄っ。)
アリスもとい梓はこの世界に来て初めての魔法の出現に感動を抑えきれずにいた。
魔法に感動する事3分。
そろそろ自分の部屋へ進もうと足を運び長い廊下を歩く。
その廊下の所々にギラギラと輝く額縁で飾られた大きな絵画や
常人では価値の付けようがない程の値が張りそうな花瓶が飾られている。
もし、そのどれかを壊したり汚したりすればと考えるとアリスは身震いしてしまう。
(この廊下は慎重に渡ろう。って言うか生徒が通る所にこんな高そうな物置くなよ…。)
そんな事を考えているうちにアリスは自分の部屋に到着した。
部屋のドアの部までもが輝きを放っており何とも握り辛さが残る。
しかし、そんな事で躊躇していれば朝日が昇ってしまう。アリスは決心し、そっとドアを開けた。
ドアを開けた先にあった光景は、豪奢に飾り立てられていた。
白を基調とした部屋。小振では有るがまたも現れたシャンデリア。外が眺められる両開き窓。
窓の横には勉強机があり、部屋の中央には大きなベットが備わっている。
(こんな部屋、23年間生きてて一度も見た事ない…。)
何とも言えず、自分の部屋ながら恐る恐る入る。
「おっ、おじゃまします…。」
そんな事を言っても誰も答えてくれるはずも無く、ただアリスの足音だけが部屋に響く。
アリスはその後、どうにも出来ずとにかくシャワーを浴びて寝る事にした。
◆
ベットに入って暫くが経った。
アリスは広すぎるベットを持て余し、眠りにつく事が出来ずにいた。
(落ち着かないっ!眠れないっ!絶対疲れてるはずなのにっ!)
何度寝返りを打とうが、何匹羊を数えようが付くことができない眠りに少々苛立ちを覚え始めた頃。
不意にリエル=エリシュエルの事が頭によぎった。
(リエル様…かっこよかったな…。)
リエル=エリシュエル。
彼女は悪役令嬢というキャラに部類するとその中では珍しい性格をしている。
基本、悪役令嬢と言われ出て来るのは我が儘で強欲卑劣といったイメージである。
だがしかし、リエルは違った。リエルは一貫してクールな性格だった。
悪役令嬢でいう「おーほっほほ」などの独特な笑い方もしなければ、ゲーム内で笑った事も無い。
悪く言えば冷酷であるとも言えるが、何処か冷めている様にも感じるイメージだった。
その為、リエルがアリスを助けたこと。少し笑っていた事も含め梓は驚きを隠さなかった。
(確か、王子に婚約破棄を言い渡された時も絶望していたものの、あっさり学園を出て行ってたような…)
そんな不思議なキャラだった。
(ただの、制作側が雑に終わらした糞ゲーだと思ってたけど…。)
いくら考えても謎が残るばかりだ。
今日の出来事。リエルの登場シーンはプロローグでは語られず、リエルと主人公の対面はもう少し
後のシーンとなってくるのだ。
リエルがあの場に途上する事も無ければ、あの嫌味を言う令嬢も登場する筈もなかった。
(じゃあ、何で?)
考えられる事は2つ有った。
1つ目はこの展開はリプレイ数ある規定の回数に達した場合にのみ現れる激レア展開でこのシーンが
後のエンドに繋がる分岐点の1つだったという事。
だが、それなら何故ヒロインを助けたのがリエルであったのか?という所に疑問が残る。
このシーンが分岐点なら攻略対象にヒロインを助けさせるべきではなかろうか?
(それとも、リエルとも仲良くなって丸く収まるハッピーエンドという物が用意されているのか…。)
2つ目はアリスが家から寮の門を潜るまでに、このシーンへ移る事の出来るコマンド的行動が
有ったのでは無いかと言う事だ。だが、これにも疑問が残ってしまう。
アリスが寮の門を通るシーンはプロローグではカットされていたのだ。
馬車が到着してすぐ場面が切り替わり、部屋に着いてしまう。
もしも、ゲーム内でこのシーンが出現するコマンド的行動があるとしても、カットされているなら
何かしようにも何も出来ない。
(1つ目の説の方が有力なのかな?まあ、この世界に於いて1番規格外なのは私だ。
何が起きてもおかしくないよね。)
「とにかく…今日は……疲れ…‥…た。」
そんな事を考えているうちにアリスの意識は徐々に夢の中に沈んで行き、とうとう眠りに付いてしまった。