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3.悪役令嬢リエル

馬車に揺られ、時刻は午後8時を回っていた。アリスは学園の寮の前で立ち往生している。


「着いたのは良いものの……。ここに入れって言うの…?」


目の前には煌びやかにデザインされた洋館が建っており、とても学園規模の寮とは思えない。


(これ、誰か偉い人の家とかじゃないの?)


元より、庶民の梓には到底入れる様な場所には見えなかった。

当たりには大勢の貴族令嬢、令息がずらずらとその門をくぐって行く姿が見える。

皆、アリスと同じく子の学園に入学する者達である事は明らかである。


アリスもいよいよ決心を固めその物々しい姿の洋館の門に足を踏み入れた。

貴族達は皆、従者を付けており、華美な服装を身に纏っている。

一方アリスはと言うと、従者は然る事乍ら華美な服装を身に纏う事もなく

ただ1人、質素なワンピースを身に纏っている。

その姿は貴族たちの注目の的になる事は言うまでもない。


「凄いなぁ…。これは貴族の学校って言われるわけだ……。」


アリスは口をポカりと開け唖然としたまま呟いた。

その時だった。



ードンッ。


アリスは背中を強く押されると同時に、バランスを崩し勢い良く地面へとダイブしてしまった。


「いたた…。なっ、なに?」


地面に強打した顔を摩りながら、予期せぬ痛みに思わず声を上げてしまう。

恐る恐る振り返ると、1人の貴族令嬢が立っているではないか。


「あら、ごめんなさい。貴方の歩みが遅いものだから、ぶつかってしまいましたわ。

 ‥‥…って。よく見たら平民の方?そんな御方が学園になんの用せすことぉ?」


(出たな悪役令嬢‥‥…って…誰?!)


つらつらと嫌味を並べるその令嬢は梓の身に覚えが全くと言って良いほど無かった。

こんなにも堂々とした初登場を飾ったものだからゲーム内の主要キャラでは無いかと

身構えたアリスであったが、本当に見覚えの無いキャラだったので呆気に取られてしまったい

呆けた表情をしてしまった。


すると目の前の彼女は喧嘩を売られたと勘違いしたのか、顔を真っ赤にして口を開いた。


「はぁ?何ですの?その顔は…。平民の癖に生意気だわ!汚らわしい。良い事?

 この学園は平民の様な者が入るべき所では無くってよ?分かったならさっさと消えてちょうだい!」


(えぇ…。沸点短すぎない?何もしてないんだけどなぁ…。その顔ってどの顔?)


目の前の彼女がそう言い放つと周りの令嬢、令息、従者までもがクスクスと笑い出す。

そんな貴族達を他所にアリスは少しの苛立ちを覚えていた。


アリスはゲーム内でこんな嫌がらせを毎日のように受けていたのか?

ゲーム内で平民はこんな扱いを受けて居たのか?

それを思うと梓の胸は酷く撃たれた。


(同じ人間にこんな酷い扱いが出来るなんて……。最低っ。)


アリスは反旗を翻そうと起き上がり彼女に向かって口を開く。



「人を出会い頭に突き飛ばすなんて…なんて礼儀がなっていないのでは?

 それでもご立派な貴族様なのでしょうか?」


アリスはあくまで冷静に、淡々と論した。

一方、彼女はその言葉を聞き更に顔を真っ赤にさせる。


「おだまりっ!!」


頭に血を昇らせた彼女はそう言うと手を大きく振りかざし、アリスに命中させようとする。


(やばいっ。ビンタされるっ。)


アリスは咄嗟に目を瞑り顔を埋めその時を待っていた。


(‥‥…あれっ?)


だか、なかなかその時は来ない。恐る恐る目を開け前を見るとなんと……

彼女の後ろに、1人の公爵令嬢がいた。


赤く華やかなドレスを身に纏い、腰まで伸びたブロンドヘア。

そして誰もが吸い寄せられてしまう程の青く澄んだ目。


そう…リエル=エリシュエルだ。

リエルは目の前の彼女の背後に立ち、アリスに向かって出されようとしていた手を

掴んでいるではないか。


目の前の彼女は何者かに手を掴まれている事を知り、鋭い眼光で後ろを振り向く。


「どなたっ、ひっ……。」


彼女の威勢も束の間。後ろを見るや素っ頓狂な声を上げ固まってしまう。

周りの貴族達もピタリと静まり返り、戦慄した。


なんといってもリエルは公爵令嬢。誰も彼女の事を知らない貴族は居るはずも無い。

それから沈黙を破ったのはリエル=エリシュエルだった。


「ちょっと…退いて下さる?」


少し低めではあるが、凛としていて透き通った声がその場に響く。

その声と同時に手を掴まれていた令嬢は、固まった表情を吊り上げ媚び諂う。


「たっ、大変失礼いたしました。リエル=エリシュエル様。

 御目にかかれて光栄でございます。只今、この平民を退かしますので暫しお待ちを…。」


手を掴まれた状態で何を思ったのか彼女はリエルの言った「退く」と言う言葉を

この状況に至っても尚、アリスに向けられた言葉だと信じて疑われ無かった。


(悪役令嬢…。何をする気なの?彼女自ら私に何かする気かしら?)


アリスもまた、リエルに他意があり目の前の令嬢を止めたに違いないと信じて疑う事は無い。

周りの一同も同様と言えるだろう。

結局。彼女の考えは彼女にしか解らないと言う事である。


その場にいる全員が彼女の次の手に息を呑む。

アリスにとってはこれが吉と出るか凶と出るか…。アリスは冷や汗を出さずにはいられなかった。


「いいえ。その必要は無いわ。だって…退かなくてはならないのは貴方ですもの‥。」


冷たく響くその答えは真っ直ぐに目の前の令嬢に放たれており、その時分

彼女がアリスと同じく地面へ顔からダイブした。

そう、リエル。リエル=エリシュエルが彼女を倒したのだ。


その目を疑う光景に誰もが唖然としている。そんな一同を他所にリエルは続けて言い放つ。


「なんて汚らわしいのかしら…。品性のカケラもない。

 知ってまして?この学園は高い学力さえ有ればどんな身分の方でも入れましてよ?

 あぁ…貴方…。この学園にお父様のコネを伝って入ったマリア=アイリス様?

 道理で…この場所がお似合いにならないと思いましたの。貴方には別のお似合いの場所が有りますわ。

 なので…早く新しい場所をお探しになって?」


(簡単に言えば、ここから出て行けと言うことか……。凄い皮肉だっ…。)


そこまで言われてしまった彼女は何も言えず顔を赤くして泣きながら学園の外に出て行ってしまった。

一方、アリスはエリルの迫力に度肝を抜かれその場に棒立ちで固まっていた。

そんなアリスを真っ直ぐと見つめるエリルの目は罵倒や嫌悪を滲ませているものでは

全く無く、ただ、を見ているだけの目だった。主にアリスの鼻を…。


(えっ?何?どうしてそんなに見るの…?)


「貴方も早く寮に入ると良いわ。…あと、鼻血…出てるわよ。」


そう言うとリエルはさっさと従者を引き連れ、寮の中へ入っていた。


アリスはそんなリエルの後ろ姿を見つめずにはいられなかった。


「今…ちょっと笑ってた………?」














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