2.私の課題
馬車に揺られる事、半日。
とうとう景色を見るのにも飽きてしまった。出発の朝からずっと草原が続いている。
初めは日本の都会ではあまり見ない景色に感動したものの人間とは飽き性な者で
数時間もすればその感動は消えてしまった。
スマホも漫画も小説でさえ無いこの世界でアリスは1人、空間を見つめることしか出来なかった。
(暇だ……。そう言えばこのゲームの初めってどんなだっけ…?)
アリスこと宮本梓は生前プレイしていたこのゲームについて思い出す事にした。
まず初めにこのゲームの主人公はアリス=ディエム。つまり梓である。
この世界には王族が存在しており、身分階級制度がなされている。
階級は王族、貴族、平民と一昔前の前世と相対差が無い。アリスはこの平民に当たる。
アリスは幼くして父に先立たれ、子1人母1人で生活して来た。
そんなアリスだが博学才穎。平民では高難易度で入る事は難しいと言われているハーデンバード学園に
特待生として合格を収めた。大変、親孝行な娘である。
だが、この世界では魔法が存在する社会。魔法が使えてこその貴族の証。
平民は魔法を使う事が出来ない。そんな魔法も使えない筈だった平民のアリスがそこらの貴族を超えて
特待生として合格するなどあってはならない事だった。そのおかげで貴族のプライドは傷つき、当然
アリスを良く思わない貴族は少なく無かった。
その結果、アリスは学園で多くの虐めを受ける事になる。
そんな中、アリスを救ったのが5人の美男子だった。
1人目はこの国の第3王子 ハルク=エイザック。
紳士的で社交的だが、何処か掴めない部分が多く腹黒い性格だ。
彼は、身分が高すぎるが故に周りからの期待や距離にうんざりとしていた。
だが、彼を知る事が無かったアリスが変に気負う事なく接して来た事がきっかけで恋に落ちる。
2人目は王国騎士の息子。ジャン=クレージュ。
人懐っこく、活発な性格で人当たりの良い性格だ。
彼はアリスが入学して、一番最初に出来る友達だ。アリスが虐められているのを助けた事が
きっかけとなって仲良くなる。だが、王子と仲良くするアリスを見て嫉妬しアリスへの恋心に自覚する。
3人目は一つ年上の先輩。公爵令息のエイス=ジャックリップ。
いわゆるモテ男子で持ち前も色気とコミュ力で女子達を骨抜きにする。その力は魔性と言えるだろう。
彼は、王子のお気に入りであるアリスに興味本位で近くが、全くアリスが靡かず本気になってしまう。
4人目は大魔法使いエディアス=ヘリスタ。
学園の教師をしている。天然たらしである。
彼は、何かとアリスを気にかけて構い倒すが、構っている間にアリスを特別な目で見る様になる。
少し怖い人物だ。
(これって…ロリコn‥‥…。)
5人目はシークレットキャラで梓自身もその正体を知らない。
あるルート選択により見る事が出来る超レアエンドなのである。前世の梓はこのルートに挑戦してる間に
死んでしまい真相を掴む事が出来なかった。
とても気になる所なのだが…。
(私は虐められたくない!!)
そもそもの話をすると、アリスへの虐めがエスカレートした一部の原因は
この攻略対象達がアリスを囲い倒したのが原因だ。ゲームの場合はゲームとして楽しめた。
だが、現実となると別の話。そう考えた結果。攻略対象を攻略しないに越した事はない。
(アリスには悪いけど、こうなった以上仕方がない。怖い思いはごめんだっ!
私は私でこの世界を楽しもう…。)
元々アリスをよく想話ない貴族には好かれる様に当たり障り無く過ごそうと決意した。
そして、アリスが虐められない為にはもう一つ乗り越え無ければならない
人物がいた。リエル=エリシュエルだ。
彼女はこのゲームのいわゆる悪役令嬢という役回りのキャラクターで、ハルク王子の婚約者である。
アリスがハルクやその他の攻略対象に気に入られた事を境に彼女はアリスに陰湿ないじめの首謀者となる。
ならば、ハルクに関わらなければ問題ないと思われるが、なにせこの世は乙女ゲーム。
何が起こるか解らない。念には念を入れてポイントしておく必要がある。
そこで、アリスは考えた。攻略対象よりもリエルとの親密度を上げておけば良いのでは?と。
(正直に言うと私自身、リエルちゃんが好きだっ。可愛いし。なによりハルクに必死なところがもう……。)
梓はいじめに走ってしまった事は良い事とは言えないが、一生懸命王子に尽している姿はとても憎めないと感じていた。
また、ずっと王子の為に様々な教育をつける為に身を粉にした10年間を過ごしただろう。
急に何の努力もしていない平民の女に王子を横取りされれば、誰だって憎むし、傷付くだろう。とも思えた。
(それなら、リエルちゃんと友達になって彼女の恋を成就させよう!!
そうすれば誰も悲しまずに私は楽しい第二の人生を歩めるわっ!)
名付けて、「リエル親友大作戦」である。
そう志し、アリスはこれから待ち受ける学園生活に胸を踊らせるのであった。
まさか自分がシークレット攻略対象に手を出そうとして居る事を知らずに……。