19.馬鹿だ。
「ねえ?テストどうだった。」
「私はA判定だった。」
「私はB判定だったよぉ。」
テストが終わり結果発表日。
生徒達が皆それぞれの表情で掲示板を眺めていた。
「えーと。1129番...1129番。」
アリスもその中で1人、掲示板を真剣な眼差し
で見上げるのだった。
「あっ、あった。判定は...Sの700満点中660点!!」
この学園の試験制度は
S〜Fのアルファベットで点数が付けられ
最良な者にはS。最悪の者にはFが付けられる。
定期テストと期末テストの両方にFが付いた場合
クラスが一段降格となってしまうのだ。
アリスの結果は上々。
そんな結果にアリスは胸を撫で下ろした。
(何とか助かった。魔法実技もリエルのおかげで
ばっちりだったし、後でお礼を言わないと。)
そう思いアリスはリエルを探すため
キョロキョロと辺りを見回した。
するとすぐ向かい側にハルク王子とジャンの
姿が目に止まった。
アリスが声を掛けるか、かけまいか
悩んでいると2人は此方に気付き手を振る。
「おーい。アリスー。」
ジャンがこっちに来いと言わんばかりに手を
振るのでアリスはのしのしと2人の方へ向かった。
(それにしても、あの2人目立つなぁ。
周りにいる女子達、テストの結果よりも
2人の方に気が向いてるみたいだし。気が引ける。)
「おはようございます。ジャン。ハルク様。」
「おお!おはよう。」
「おはよう。アリス。」
2人はアリスに笑いかける。
アリスは2人の美貌に目が眩みそうになりながらも
必死で笑顔を作った。
「どうだった?テストの結果。」
ハルクがアリスに問いかける。
「今回は上手く行ったみたい。2人は?」
そう聞くと2人はばらばらの表情を此方に向ける。
ハルクは涼しい笑顔。ジャンは少し苦笑いになった。
「僕も今回は調子良かったみたい。」
「おっ、俺は勉強はちょっと....。」
(やっぱり、王子は優秀なんだな。
ジャンは魔法が天才的なんだよね。
本当、この世界は本当にゲームの世界だ...。)
アリスは2人の性格がゲームのキャラ通りである
事を改めて実感した。
(そう思うと何か凄いな。)
改めてプレイしていたゲームのキャラが目の前に
いると言う事に少しの興奮を覚えアリスの
口角は緩く伸びた。
「何笑ってんだよっ!」
ジャンはアリスの口角が伸びている事を
自分のテストの結果を馬鹿にされたと思いムキに
なってツッコむ。
「いや?思った通りだなーと思ってっ!」
そんなジャンを見てアリスは面白くなり
ジャンを挑発した。
「はぁ?俺だって別にやれば出来るんだって!
本気を出してなかっただけだっ!」
「本気って?いつ出すのよ?」
「それは...こうっ。世界の平和を守るとか?」
そんな小学生同然とも言える2人の言い合いに
王子は微笑みながら頷く。
「2人共お似合いだね。」
その一言で2人はピタリと止まり
顔を見合わせた。
「そうか?」
ジャンはニシシと得意気に笑いながら頬を掻く。
一方アリスは冷や汗をかきながら首を横に振った。
しかし、ハルクは生暖かい笑みを浮かべて変わらない。
(まずい。これは恋愛シュチュでは?
これって良く、男女が意識し始める第一歩の展開。
そんなイベント起こしてたまるかっ!
と言うか今の女子に見られてないよな?)
そう思いなが辺りをまたキョロキョロと見回す。
しかし運良く誰もその場を目撃した者はいなかった。
アリスはほっと息を吐いて胸を人撫でした時、
誰かが後ろから手を引いた。
「うおぉっ。」
驚いて振り返るとそこにはリエルが居た。
リエルはアリスの手を掴んだままジャンとアリスの
間に入り込む。
そして何事もなかった様にぺこりとお辞儀した。
「おはようございます。ハルク様。ジャン、アリス。」
「ああ。おはようリエル。」
「おっ、おはよう。」
「おはよう..。」
そのリエルの不思議な行動にジャンとアリスは
首を傾げながら答える。
ハルクだけが、何も無かったような爽やかな笑顔で
答えた。
「アリス、テストどうだったの?」
アリスは、またも平然と会話を続ける。
だが手はまだアリスに繋がれたままだった。
「うん。凄く良かったよ!ありがとう、リエル。」
アリスはテストの点数よりもリエルの手が
気になって仕方がなかった。
「何したんだよ?」
ジャンが不思議そうに首を傾げる。
「勉強を教えてもらってたの。」
そう言うとジャンは何かを思い付いた様に
手を打って言う。
「じゃあ、俺も教えてくれよ!リエル。」
「ええ。機会が有ればね。」
リエルは爽やかな笑顔でそう答える。
だが、アリスは気付いていた。
リエルが適当に受け流した事を。
そして全くリエルに教える気がない事を。
しかし、ジャンを見るとそんな事にも
気付かずガッツポーズをして勝ち誇った様な笑顔を
浮かべた。
(ばっ、馬鹿だ。)