18.一時凌ぎ
歓迎会を過ぎれば、学園はとうとうテスト期間。
アリスは、大きな溜息を付いた。
「はぁー。どうしよう。テスト...」
「大丈夫よ。
アリス、筆記問題はそこまで悪くないと思うわ。」
不安そうな表情を浮かべるアリスに
リエルはそっと紅茶を差し出す。
「ありがとう。」
ここはリエルの寮室。
今日はリエルの従者も居らず2人きりだっった。
2人は先程まで走らせていたペンを置き
一息付いた。
アリスはリエルが直々に入れたお茶を
そっと口に運び一驚した。
「美味しい!!リエルってお茶入れるの上手ね。」
前のめりになってリエルの顔を覗き込む。
するとリエルはサッと視線を逸らし赤面。
かと思えば、物憂げに呟いた。
「姉上に毎日、こき使われてたからなー
お茶を入れるのも上手くなったと思うよ。」
少し口調が荒くなったように思われる
リエルにアリスは微笑ましい気持ちを覚える。
(リエルったら、口調が変わってる。
それって、私に気を許してくれてるって事だよね?
嬉しい!!)
そんなアリスの生暖かい視線にハッと我に返った
アリスは焦ったような顔をしてアワアワと声をあげる。
「いやっ、うん。何でも無いわ。忘れてちょうだい?」
アリスは更にニヤニヤと口角を上げて
リエルに迫った。
「なっ、何よ?」
「リエルって、お姉ちゃんいるんだね!」
(リエルもお姉ちゃんには逆らえないのかな?
なんか、凄く可愛い。)
アリスのその一言にリエルの青い顔はサッと
白くなり、目は点と化した。
「へ?....ええ!そうなのよ。双子の姉がいるのよ。」
リエルは一瞬で元の落ち着きに戻り
何事も無かった様に紅茶を啜った。
「それよりアリス?」
ゴッホんと調子を整えリエルは神妙な面持ち
でアリスに向き直った。
アリスはそんなリエルに釣られ、真剣になる。
「はっ、はい。何でしょうか?」
「さっき言った通り、
貴方の筆記テストは問題ないと思うわ。」
リエルはより一層、真剣さを浮かべて続ける。
「ただ、魔法実技が問題よ。」
魔法実技。
アリスはその単語を耳にした瞬間
ドキリと心臓が脈打った。
それもその筈。入学から一カ月間、今に至るまで
毎日の様にリエルと練習をしたものの
一向に上達しないのだ。
「....魔法実技...。」
「まあ、筆記テストでなんとかカバー出来ればいい
のだけれど。せめて、ライトボールくらいは
んまともに打ちたいものよね。」
「そうだよね....。」
この学園の定期テストは超難関である。
クラスが成績順位制である事から分かるように
教育重視であり、評価主義だ。
もし、定期テストと期末テストの合計点が合格
ラインに至らなければクラスを一段下に変えられて
しまうのだ。
アリスは苦々しく顔を歪ませ嘆く。
「どうしよう...。私、リエルとクラス離れたく無いっ。」
アリスはパッとリエルの手を取り続ける。
「ねえ、リエル!今から特訓付き合ってよ。」
リエルはそんなアリスに、圧倒されながらも
顔を赤くして目を逸らしながら頷いた。
「わかったから、その手を離してちょうだい。」
その言葉を聞いた習慣、アリスは涙目に
なりながらリエルに飛びついた。
リエルはそんなアリスに抵抗する間も無いまま
2人は寮の裏庭へと向かった。
「じゃあ先ずは、ライトボールを打ってみて?」
「わかった。..ライトボールっ!!」
アリスは前々から練習を重ねて来た様に
魔力を手に流し力を込めて打った。
アリスの手から放たれたそれは
手からゆるゆると離れ、そして1メートル程で
消滅してしまった。
「うわぁ。やっぱり出来ない。なんで?」
アリスはその残念な結果に頭を抱えて
嘆いた。
それを見ていたリエルは何かを考えるような
素振りでこちらを見ていた。
「そうね。これは魔法の基礎中の基礎なんだけれど
魔法を使う時はねイメージが大切なのよ。」
「...そうなの?」
アリス目を点にさせる様にリエルの方を見た。
そしてリエルも流石に驚いたと言わんばかりに
素っ頓狂な顔をした。
「もしかして...知らなかった?」
それもそのはず。
魔法が存在しない世界に生きていたのだから
アリスには知る由もなかった。
アリスは目をキョロキョロと泳がせた後
間を開けて首を縦に振った。
その額には冷や汗が滲んでおり
リエルにも目に見えてわかった。
リエルはしばらくの間、キョトンとした後
吹き出して笑った。
「ははっ。
じゃあ、そうやって今まで魔法を使っていたのよっ。」
「いやっ...。それは、そのー。」
おどおどと吃るアリスを見てまたひと笑した後
リエルは頷いた。
「分かったわ。じゃあ、見ててね。
.....ライトボール。」
リエルがその呪文を説いた瞬間
ふわりと風が下から上へ流れたかと思うと
突風にも近い強い風が光の弾と同時に発射された。
そしてその弾は7メートル先の木へ直撃し
木には丸い穴がポッカリと空いてしまった。
アリスはその光景を見た瞬間
背筋から何か冷たいものが走る様な感覚に襲われて
素っ頓狂な声を出した。
「ひぇっ。凄い威力。」
リエルは此方を見て少し頷いた後
また呪文を唱える。
「レディーレ。」
すると穴の空いた木は光に包まれ
元の姿と化した。
「魔法はね。空気中に存在する魔力の元となる
粒子を身体に取り込んで、自分の魔力をその粒子に
乗せるの。そして放出する。そんなイメージなの。」
リエルはアリスに向かって淡々と説明する。
だがアリスの理解力はその説明に付いていくことが
できず、思考が停止してしまう。
そんなアリスを見兼ねたリエルは要するにと続けた。
「呪文を発する前は
粒子が体に入って行くイメージで、
その粒子が段々と溜まって体が温まって来るのを
感じたら、その熱を手に集める感じ。
そして呪文を唱えて、その熱を外に出すイメージよ。」
「なるほど。一回やってみて良い?」
リエルは静かに頷く。
アリスはリエルに言われた様なイメージを付けて
ゆっくりと呪文を口にした。
「ライトボール。」
するとふわりと空気の流れが変わり
先程までの弱々しい物とは打って変わって
倍の威力を持つ弾が放たれた。
「出来たじゃない?」
アリスは驚きのあまりリエルを見つめた。
リエルは得意げに笑って見せた。
「これで、試験は一時凌ぎね?」
「やったー。ありがとうリエルっ。大好き!!」
「やっ、辞めなさい。」
アリスは喜びのあまりリエルに飛びついき
リエルは頬を赤らめ満更でもない様素振りを
見せたのだった。