16.パーティー閉幕
「元通り!」
ヒースは綺麗な顔にクシャりとした笑みを
浮かべてそう言った。
ヒースの言った通り、ドレスのシミは何処にも
見当たらなかった。
「凄い!本当に何も無かったみたい!」
アリスは歓喜と驚きが混じった感情になり
前屈みになった。
「本当に良かった...。ありがとうヒース!」
ヒースはそんなアリスの嬉しそうな表情を
見て更に目を細めて笑った。
「やっぱり...ドレス姿も可愛い...。」
アリスを見つめるその目は少し熱を帯びている。
アリスはその目にドキりと心臓が跳ねた。
(何、この空気?何ドキッとしちゃってるの私?)
そこはかとなく漂う甘い空気に
アリスは今にも酔ってしまいそうになった。
そうして限界を迎えそうになったその時
この空気を先に破ったのはヒースだった。
ヒースはハッとした様な表情を見せたかと
思うと、次は赤面してで顔を覆った。
その表情を見てアリスはキョトンとして首を傾げる。
すると、ヒースはバツが悪そうに目をそらして
ボソボソと言葉を発した。
「いやっ、ごめん。今のは忘れて。」
アリスはそんな彼の百面相に耐えられず吹き出し
てしまった。
「ふふっ。」
アリスが笑うとヒースも弱々しく笑って見せる。
そしてひと段落したところでヒースは
少し困った表情を見せて笑った。
「俺、もう行かなきゃ。」
「そうですよね。ごめんなさい。
お時間を奪ってしまって....。」
(そうだ、この人は多分上級貴族。
そんな人がパーティー会場に居なかったら
周りも不審がるだろうな)
そう思いアリスは焦って深く頭を下げた。
するとヒースはゆっくりと首を横に振って言う。
「俺は、パーティーに出席する為に来たんじゃない
から気にしないで。ただ、待たせてる人がいて。」
またヒースは困った様に笑った。
(パーティーに参加する為じゃないとしたら、
何しにここに来てたんだろう?)
そんな疑問が頭を過ったが、彼の時間を
更に奪っては行けないと思いアリスは何も聞かなかった。
「ごめんな。また。」
「はい!ありがとうございました。」
そう言って走って行く彼の姿を
アリスは見送る。
そしてアリスは1人静かに夜空に浮かぶ
月を見上げた。
「ヒース様か。凄くかっこよかったな。
でも、本当にリエルに似てたな〜」
1人呟いて笑う。
アリスはパーティー会場に戻ろうと思ったが
先程の事を思い出すと酷く胸焼けを感じ
戻るに戻れなかった。
ゆらりゆりと中庭を散歩していると
中庭の中央にある噴水が目に入った。
何も思わずアリスは噴水に近づく。
「ドレスで着飾ってみたけど、やっぱり
アリスはアリスね。」
水に移る自分の姿を見つめて呟いた。
『やっぱり...ドレス姿も可愛い...』
ボンヤリとしている中、ヒースの
その一言がアリスの頭に過った。
アリスは再び赤面して顔を覆う。
「あの表情はずるいでしょ。
ていうか、やっぱりって何よ。」
深い溜息を吐きながら噴水の縁に腰掛けた。
「リエル、今どうしてるのかなー
私のドレス姿、見たいって言ってたけど
きっと王子といい感じになってるだろうし...
そんな暇ないよ。」
そう長い独り言を呟いてまた夜空を眺める。
そんな時、1人の人影がアリスに近づいた。
「見つけた....。」
「っ!?リエル」
その人影はリエルだった。
赤くキラキラとパールで輝くドレスに身を包み
髪もふわふわとウエーブをうっていて、とても美しい。
「こんな所に居たのね....」
そう言う彼女は少し息を上げていて
走っていた事が分かる。
その姿は普段クールなリエルに似合わず
とても新鮮にアリスの目に映った。
「リエル..もしかして、探してた?」
そう言うとリエルは少し間を置いて
頷いた。そして乱れた前髪を整た後アリスの横に
腰掛けた。
「ごめんなさい。待たせちゃったみたいで。」
申し訳無さそうにアリスの顔を覗き込みながら
リエルは言う。
アリスは全力で首を横に振り否定する。
「全然大丈夫!!
それよりもハルク様と楽しめた?」
「ええ。アリスのお陰よ。
それよりも、ドレスよく似合うわ。」
「そうかな?それだといいな〜。」
アリスはリエルに褒められ、胸が暖かくなるのを
感じた。そして、先程の事を全てリエルに話す。
リエルも頷きつつ話を聞く。
それから、2人はパーティーが終わるまで
夜空の下、笑い合った。
こうして、アリスの新入生歓迎パーティーは
ヒースの謎を残しつつも幕を閉じた。