14.新入生歓迎パーティー
(とうとうこの日が来てしまった。)
新入生歓迎パーティー。
アリスは緊張と高揚感で満たされていた。
リエルの言いつけに従いリエルの部屋の前に来た。
アリスはゴクリと唾を一飲みして、ノックをする。
すると「お入り下さい。」と言うリエルのメイド達の声が聞こえた。
アリスはその声に従って部屋に足を踏み入れた。
部屋の中には4人程のメイドがおり
リエルの姿はそこには無い。
メイドの1人がこちらに向かって微笑みかける。
そのメイドは他のメイドより少し歳があるようで
彼女は何処か大人の雰囲気を漂わせている。
彼女は穏やかな声色でそっとアリスに声を掛ける。
「アリス様。エリル様からお話は伺っております。
どうぞお仕立ては私達にお任せください。」
「よっ、宜しくお願いします!」
アリスは慌てて頭を下げた。
そうして、あれよあれよと仕立て上げられること1時間。
アリスは鏡の前に立ち呆気に取られていた。
なぜなら、鏡の中のアリスはいつもの倍輝いており、まるで童話のお姫様の様だったからだ。
(かっ、かわいい!アリスってやっぱりヒロインなんだな。)
クリーム色のドレス。フワフワと巻かれて結われた髪。気品溢れる化粧。
そのどれもがアリスの美しさを引き立たせている。
そんなアリスにリエルのメイド達も感嘆の声を上げている。
「どうぞ、行ってらっしゃいませ。アリス様」
「行ってきます!....えっと、お名前は?」
アリスは意気揚々と礼を述べようとしたが
今更、目の前の彼女含むメイド達の名を聞きそびれていた
事に気が付き、申し訳無さそうに尋ねた。
すると目の前の彼女も慌てたような素振りを
見せながらも丁寧にお辞儀をした。
「申し遅れました。
私は第一メイド長のメルル=アリアートと申します。」
「メルルさん!ありがとうございました!
また御礼は必ず!!」
アリスがそう言うとメルルは静かに首を横に
振り優しく微笑む。
「私は何も..。
私は言われたとおりやらせて
頂いたまででございます。」
「そうなんですね。でも、ありがとうございます。」
そう言うとメルルもまたお辞儀をして改めて
アリスを送り出した。
◆
舞踏館に着くとそこは沢山の生徒が溢れかえって
居る。その全員が煌びやかなドレスやスーツに身を
包んで居る。その中に1人。
アリスはキョロキョロと辺りを見回し唖然としていた。
(ほえー。これが学園のパティー。
とても学園クウォリティーとは思えない.....)
そう思いながら右往左往と歩く。
館内には上流貴族から下級貴族、さまざまな家柄
を持つ貴族が揃って居る。
その上下関係は、貴族社会を知らないアリスでさえ
一目瞭然だった。
身分の高い者に低い者はご機嫌を取るかのように
付き従い、腰を低くする。
一方で高い者は気分が良さそうに胸を張っていたり、
分け与える様な笑顔で下の者達と談笑している。
アリスはそんな社交の場を目に胸焼けを覚えた。
(学校でさえ家柄に縛られたり、媚を売ったり
なんて面倒臭いんだろう。貴族って大変だな。)
ドンッー。
そんな事を思っていると、身体に軽い衝撃が伝わり
高い悲鳴が耳に入った。
「きゃっ。」
周りの観察に夢中になって居たアリスは
目の前に居る人に気付かずぶつかってしまった。
慌ててアリスは前に向き直り謝る。
「ごっ、ごめんなさい!!
私、よそ見しちゃってて..。お怪我は有りませんか?」
謝ると同時に相手の方を見ると、何とも
身分が高そうな女子生徒がこちらを睨んでいた。
身分が高そうと言うのは彼女のドレスも勿論だが、
彼女の気が強そうな顔からも高貴な物を感じる。
そして尚且つ、数名の女子生徒が彼女を
取り巻いていた。
「ちょっと、どうしてくれるの?
私の大事なドレスが汚れる所だったじゃ無い!!」
彼女は心底不機嫌と言わんばかりに口を
尖らせてアリスに言い寄る。
そんな彼女とは裏腹にアリスはほっと肩の
力を落として安堵した。
「良かった。ドレス、汚れて無いんですね!」
彼女はアリスのその発言を聞くと更に
怒りをヒートアップさせる。
「何を言っているの?
私のドレスが汚れそうになったのよ?
どうしてくれるのよ!!」
「はっ、はあ...。」
アリスは彼女の言い分が全く理解出来ずにいた。
それもその筈、彼女は怪我なし、ドレスに外傷無し。
それで何も無く良かったと思える所を
どうにかしろと怒って居るのだから。
(何を言っているの?)
そう、思いながら困り果てていると
彼女はふと何かを思いついたかの様な素振りを見せ
話を変える。
「ところで..貴方、名前は?」
アリスは更に首を傾げる。
「アリス=ディエムです。」
そう聞くと彼女はニヤリと笑い
やっぱりと言って持っていたグラスをアリスの方へ
傾けた。
パシャ。
忽ち、中の赤い液体がアリスの着ているドレスに
かかる。ドレスに出来たシミはどんどんと広がり
染み込んでゆく。
「っ!?」
アリスは目の前ので何が起きたのか信じられず
唖然とする。
そんなアリスを見て、彼女は愉快そうに笑いながら
口を開いた。
「貴方って、平民新入生の子でしょ?
そんなドレス何処で手に入れたのかしら?
まさか...最近仲良くして居る
リエル=エリシュエルさんから借りたのかしら?」
アリスはやっとリエルに借りたドレスが
汚されたのだと言う事を理解し、身体中の体温が下がる
のを感じた。
それを見てますます愉快そうに微笑み彼女は
続けた。
「ダメじゃな〜い。
折角貸してもらったドレスを汚しちゃ。
あーあ。彼女どんな反応するのかしら?
きっと、残念そうにするわ。
折角、大事なドレスを信頼して貸したのに
こんな姿になって帰って来るなんて!」
「っ...。」
アリスは彼女に言われるがまま俯く事しか出来なかった。
アリスのドレス姿が見たいと言ってくれたリエルの
顔、今日準備をしてくれたメルルの顔。
そんな彼女達の事を思い出すだけで悔しくなった。
(こんな事で、リエルに残念な思いをさせてしまった
らどうしよう。せっかく、用意してくれたのに。)
アリスの視界は段々とぼやけて行き
数滴の涙が溢れ落ちた。
彼女達は更にクスクスと笑う。
「どうした、アリス?」
そんな中。
後ろからアリスを呼ぶ声が聞こえた。




