12.勘違い
あれから1時間、また1時間と時間が過ぎ現在
放課後となった。教室にはもう大半の生徒は帰っており
ジャンやハルク、リエルの姿はもう無い。
そんな中、アリスは頭を抱えていた。
(どうしよう....。全く付いていけないっ。)
そう。アリスは学校の授業に付いて行けず
ただ必死にノートを取る事しか出来なかった。
アリスの中身は23歳の会社員。
そんなアリスが高校生の勉強を覚えているはずもなく
その上、魔法なんて現実世界では存在しなかった
のだから付いて行けないのも無理はない。
ましてや、アリスのクラスは学年1優秀な1組。
授業のスピードもそれなりに速いもので...。
(魔力出力?系統?分からない....。
と言うか私、魔法使えるの...?)
アリスは生前プレイしていたゲームで魔法が
どの様に使われていたのかを必死に思い出そうとした。
(確か...アリスは光魔法を使ってたよな....。
必殺技はライト.....。なんだっけ?)
アリスはこれでも、このゲームを何周もプレイしていた。
だが、このゲームはガチャでカードを集め、何度も
対戦する事で規定のレベルに上がってやっと
ストーリーを進める周回ゲームの様なシステムだった。
なので、最初こそは良かったものの後半は
ガチャでより強いカードを当ててオートモードで
プレイしていた為、いざとなると技名が思い浮かばない。
アリスはそんな生前の自分を心底恨みたくなった。
「どうしよう....。」
未だ席に着き頭を抱えているアリスはとうとう1人
になり、アリスの溜息は広い教室に響いた。
「どうしたの?1人で頭なんて抱えちゃって。
寮に戻らないつもり?」
アリスが頭を抱えている後ろで
凛と澄んだ声がアリスを呼ぶ。
アリスは急いで振り返えった。
「リエル!?なんでいるの?もう帰ったんじゃ...。」
そこには、先程まで機嫌を悪くして口も聞いて
くれなかったリエルの姿があってのだ。
アリスは驚いて慌てて立つ。
そんなアリスを見てリエルは笑って答えた。
「そうなのだけれど。
貴方、あれから顔色良く無かったし。
部屋に行っても帰ってないみたいだったから..」
そう言いながら、リエルもアリスの横に腰掛ける。
「部屋まで来たの?何か用でもあった?」
アリスはまたも驚いて声が裏返る。
リエルは黙ったまま首を横に振った。
「今日、貴方に酷い態度取ってしまったから..。
謝りたくて、お茶に誘おうとしたの。」
そう申し訳無さそうに小さくなる彼女を見て
アリスは全力で首を横に振り否定する。
「謝るのは私の方だよ!
リエルとハルク様のデート尾行してやんだもん。
そりゃ、怒っても仕方ないよ...。
ごめんね。私、リエルの気持ち考えて無かった。」
アリスは深々と頭を下げ謝罪の胸をリエルに
打ち明ける。だがしかし、不意にリエルを見ると
鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしているではないか。
そうかと思えばボンッと音が出る様に顔を赤くし
俯いた。
「リエルっ?!どうしたの?」
アリスはまた驚き素っ頓狂な声を出す。
するとリエルが低い声でボソリと呟いた。
「デートじゃなかったんだ....。」
その声は安心した様な力の抜け切った声だった。
その言葉にアリスは首を傾げる。
「デートじゃ無かったの?」
するとリエルは真っ赤な顔をして眉を寄せる。
「そうじゃなくて、ジャンと君がっ!
.............何でもないわ。」
一瞬、まるでリエルの表情が男子の様な
凛々しさを含んだが、少しの間と共に元の凛とした
表情を取り戻す。
アリスはそんなリエルに目を見張るが
自分がジャンとデートをしたと思い込まれて居た
事に驚きを隠せず、声を上げる。
「いやいやいやいや。ジャンはたまたま会っただけで
なんなら、ジャンのせいで2人を見失ったんだから!」
アリスは頬を膨らませ腕を組みながら
怒りをリエルに見せつける。
リエルは目を点にさせた後、またも吹き出して笑った。
「プハッ。なんだっ、良かった。ハハっ。」
(良かった?)
そう疑問に思ったもののリエルが笑うとアリスも嬉しくなり
一緒に笑い合う。
そうしてひと段落するとリエルは続けた。
「それで、何をそんなに悩んでいたの?」
コッホんと調子を整えながら元の無表情に
戻ったリエルを見てアリスは心底感心する。
「実は.....。全く授業に付いていけなくて...。」
そう言うと貴方が?と疑念の目を向けられ
アリスはドキリ心臓が跳ねた。
「何処が解らなかったの?
私が解るとこなら教えるわよ?」
リエルはそう言ってアリスの顔を覗き込む。
だが、アリスはみるみるうちに真っ青になって
黙り込む。
少しの沈黙が続いた後、アリスはか細い声で呟いた。
「全部です...。」
「..........全部?!」
流石のリエルも驚いた様で素っ頓狂な声を上げて
目を見開いた。
(だよね、そうなるよね。一応私、特待生だもんね。)
アリスは冷や汗を滝の様に流し、なんとか上手い
言い訳は無いものかと模索する。
「頭でも打ったの?」
そんな必死のアリスに好都合なリエルの一言に
ハッとした。
そして口籠もりながらも真っ赤な嘘を口にする。
「あの、私。入学するちょっと前に事故で
記憶を無くしちゃって。
何も思い出せずに居たの。」
そう頭を掻いて苦笑いをして見せれば
リエルはそうとだけ返事をして此方を見つめる。
流石に見え透いた嘘が過ぎると思い
アリスは肝を冷しながらリエルが自分を信じたか否か
様子を伺う。
するとリエルは分かったと言って頷き
こう言った。
「貴方、今日から毎日私の部屋に来るといいわ?
一緒に勉強しましょう。」
その言葉を聞きアリスは天にも昇るような
救われた思いでいっぱいになった。
「いいの!?」
アリスは前のめりになってリエルを覗く。
するとリエルは微笑みながら頷いた。
アリスはいてもたっても居られず
勢い良くリエルに抱きつく。
「リエル大好き!!ありがとう!」
そう言うとリエルはまた顔を赤らめ叫ぶ。
「や、辞めなさい。端ない!」
だが照れたリエルを見てアリスは
彼女を離そうとしなかった。
(リエルったら。シャイガールなんだから。
フフっ。可愛いな。)
悪役とヒロイン。
そんな相対する2人の間には着々と友情が芽生え、
アリスとリエルは敵対する事とかけ離れた関係
となった。




