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1.転生

 私、宮本梓は平凡な人間だった。

 人並みに勉強して、人並みの学校に行って、人並みに職に就いた。

 そんな変哲もなく、面白味もない人生を歩んではや23年。

 あっという間に過ぎて行った割に何も残せない人生だった。そんな人生も今、終わりを迎えようとしていた。


「誰かっ!救急車!!」


「おいっ!この人もう…ヤバイぞ!」


「ひき逃げですって……怖いわねぇ。」


「うっわー。グロっ」


 何やら私の周りで人々が騒いでいる。

 でも、段々と何を言っているのか聞こえなくなって目もぼやけて見えない。

 身体は重くて指1本も動かせないし、自分が立っているのか横になっているかも解らない。

 徐々にひどい眠気が襲って来ると同時に意識も朦朧としてしまう。


 あぁ…これダメなやつだ。私…死ぬんだ。


 何も無い人生だったけど。愛する家族も恋人も居ない人生だったけど。

 死ぬのが私で良かった…。何も無い、泣く人も居ない私で良かった…。


 心からそう思った。もし、心残りが有るとするならば、あの乙女ゲーの続きがしたかった…。


 ーそんな事を考えている内に、私はとうとう事切れてしまった。ー





 目が覚めるとそこは全く見覚えの無い天井があった。

 ゆっくりと身体を起こし、辺りを見渡す。


 木造の壁。木造のベット。日差しが降り注ぐ窓。至ってシンプルな部屋だ。

 此処…何処!?


 そもそも私の記憶が正しければ私は既に死んで居るのだ。

 今、こうして起き上がっているのも変な話である。


「アリスー。起きなさい。そろそろ起きないと間に合わないわよ。」


 部屋の中で困惑して居る中、部屋の外から聞き覚えの無い女性の声が聞こえて来た。

 アリス…?日本人の名前じゃ無さそうだな。誰だろ。

 アリスと言う日本では聞き慣れない名前に自分は海外に来てしまったのでは無いかと言う考えが

 過ぎったものの女性は日本語を話しているので、その考えは否定された。

 だが女性の言ったアリスと言う名前が頭の隅っこに引っかかって離れない。


 アリス…。アリス…。アリス…って…。


 起きたての頭で必死に思い出そうとした結果、ある1人の人物が浮上した。

 アリスと言う名前で私の知る人物は1人。アリス=ディエムという名前の少女だった。


 だが、此処は現実。2次元に存在するはずの彼女がいる事はまず無いのだ。

 だからこのアリスは私の知るアリス=ディアムではないのは明白だろう。


 そう考えている時分。突然部屋のドアが開く音がして振り返ると、先程の声の持ち主であろう

 人物が私に向かってアリスと呼び放った。


「アリスー?何してるの?さっさと降りてらっしゃい。」


「えっ?私?」


 ちょっと待って欲しいのだけれど…。

 見間違いかと思ったが、そんな事もなく彼女は私を真っ直ぐ見てアリスと呼んだ。

 そんな有り得ない出来事に思わず素っ頓狂な声が上がってしまった。


 一方目の前に居る彼女はと言うと、目をパチパチさせて此方を不思議そうに見ていた。


「何寝ぼけた事を言ってるの?貴方以外この家にアリスなんて居ないわよ。」


 ほらさっさと顔を洗っておいでと困惑する私の背中を押して家の洗面台に向かわされた。

 その鏡を見た瞬間、私は雷に打たれた様な強い衝撃を受けた。

 モカ色の長い髪、クリッとした大きな目、白い肌。

 その容姿は、やはり乙女ゲームの主人公アリスの顔そのものだったのだ。




 どうやら私は生前プレイしていた乙女ゲームのヒロインに転生したらしい。

 私の容姿は『ラブシングハート1』の主人公、アリス=ディエムで間違いない。


「アリス。もう出発の時間よ。荷造りはできたの?」


 私に話しかけるこの女性はアリスの母。マリ=ディエム。

 先程、私を起こしにきた女性もこの人だ。


「はい、、じゃなくて。うん!もう済ませたよ!」


 危ない、危ない。ただでさえ、先程異常な反応をしてしまって心配をかけたのだ。

 敬語などを使ってしまってばもっと心配されてしまう。

 私には初対面でも、彼女にはたった1人の愛娘なのだ。ひと時も心配を掛けたくないものだ。


 そうそう。彼女が言っていた荷造りとは、ヒロインが入学を控えている

 ハーデンバード学園に行く為の荷造りだ。

 この学園は寮生活が基本な為、荷造りが必要なんだとか。


 どうやら私はメインストーリーが始まる前のプロローグ時に転生してしまったらしいのだが

 なんと入学は明日。今朝に馬車で出発し夜に到着といった予定だ。その後、寮に入って

 翌朝、入学式が行われるそうだ。転生したばかりの私には少々ハードスケジュールな気がする。


 だが、アニメやらライトノベルによくある転生する話をまさか私が経験するとは思っても見なかったのだが、その様な文化に触れていた事で案外すんなりと今の現実を受け入れられた。

 むしろ、ワクワクしている自分を隠し切れない。


 馬車が待っているわよと母に言われ玄関に向かう。

 そろそろ家を出る時間になってしまったようだ。玄関まで母は送ってくれ、アリスを抱きしめた。

 その瞬間、母と過ごした思い出は極僅かにも関わらず、何故だか寂しさがアリスを襲った。

 元アリスの人格が今のアリスの中に残っているのか、ゲームのシナリオ道理に動いているだけなのか。

 不思議と愛おしい気持ちが溢れる。


「大好き…お母さん。行っていくるね。」


 溢れた愛おしさを抑えられず、今会ったばかりの母にそう口走ってしまった。

 だが、そんな事は知らず母は元気でねと見送ってくれた。


 その時分、大きな罪悪感がアリスの心を刺した。

 本当のアリスでは無い今、大好きだと口にする事は良い事なのどろうかと。

 もう母の知るアリスは存在していない事を母に知られてしまえば、きっと母は酷く悲しむだろう。

 きっと今のアリスを愛してはくれない。そう思うと涙が頬を伝う。


(私がアリスの居場所を取ったのかもしれない…。ごめん…アリス。)


















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