重み 【月夜譚No.212】
初めて手にした弓は、思っていたより重かった。これで奪う命の重さの分、想像に上乗せされているようだった。
殺したいわけじゃない。相手にだって家族や友人がいて、今までの人生で経験してきたことや感動したこともきっと沢山あって。それ等をここで終わらせてしまうことが、口惜しく感じる。
それでも、彼は弓を引き続ける。でないと、自分が殺されてしまうから。
望んでやったことではないとはいえ、血塗られた掌は生涯綺麗になることはないのだろう。それは罪ではないと神に許されても、過去を思い出しては罪悪感から逃れられることはないのだろう。
この先はきっと苦しい。それでも生きたいと思うから、家族を悲しませたくはないから、もうやるしかないのだ。
放った矢が真っ直ぐに飛んで、敵の胸元に命中する。頽れる影に、彼は唇を噛んだ。
彼の心に重いものが蓄積されていく。足が地面にめり込む感覚がして、けれど彼は足を払う。
いつ終わるとも知れない戦いの先を見つめて、彼は肺に酸素を満たした。