エレンのお話1
初投稿の弊害か誤字脱字がくっそ多いです。見つけたら何らかの方法で知らせてくだせぇ
6年前
分厚い氷の張り詰めた湖を崖の先端から眺めながらエレン(当時16歳)は乾いた唇を舌先で軽く湿らせた。
(自分でもわかる……相当緊張してる)
エレンはこの日の為に新調したリザードマンの皮と鉱石で出来た防具に視線を落として膝や肘を曲げる。まだ皮が少し硬い気がした。
既製品のウィンドウショッピングではなく、しっかりと依頼して作った注文品ではあるが、上手く身体に馴染んでない為に以前の防具の様に慣れるにはそれなりに時間がかかる。
「エレン?」
落ち着くような優しい声にエレンはピクっと我に返った。
中肉中背に整った顔立ちの優男風。自分の師である男、ヴァルガジンだ。彼は魔術の発動体である魔銃の手入れをしていて、訝しむような視線をエレンに向けている。
「僕の話聞いていたかい?」
「うっ」
何かをエレンに話したようだが正直聞いていなかった。いや聞こえてはいたが内容は右から左に耳から抜けていた。ヴァルガジンはその様子にハァっとため息をつくと手入れをするその手を止める。
「射出用の弾に魔力を込めなくていいのかい?って言ったんだけど。どうやら集中が出来ていないようだし今回の依頼は……」
「い、いえぇ?聞いてましたともヴァルガジン!弾に魔力ね!そうでしたね!」
ヴァルガジンの言葉を無理やり切ると腰のポーチから弾を取り出して魔力を集中して込めていく。もっとも緊張で上手く弾を取り出すまでは回復用のポーションやアンチドーテ、更には非常食の堅パンにまで魔力を込めていたのだが……。
実は魔術師というのは本来、そこまで冒険者向きじゃない。
魔術を使う為の体内エネルギーは種族ごとに皆一定だし、御伽話のように雷を落とすことも火を噴射するようなことが出来る訳でもない。精々が体内エネルギーを上手く使って物に宿し、飛ばすことが出来るくらいだ。それだってエネルギーの循環効率の高い発動体がなければ殺傷能力がある威力で飛ばすことも出来ない。
噂では発動体を武器に組み合わせた魔剣士や魔槍士なんかもいるらしいが集中力のいる体内エネルギーの変換を戦いながらやるなど正気の沙汰ではない、少なくともエレンには無理だった。だから先に物にエネルギーを宿しておいて、いつでも発動できる状態にしておくのである。
(全部ヴァルガジンの受け売りだけどね)
ワタワタとしたエレンの様子を見ていたのだろう、気を使うようなそのヴァルガジンと視線が合う。
孤児だったエレンが冒険者になり、どの武器にも適正がなく最早娼婦になるしか……と半ばやけになっていた所に声をかけ、魔術師としての生き方を教えてくれた師であり、同じパーティの仲間。
周囲の背景に色を変える百景カメレオンのマント、その下に怪しく光る軽くて硬度はワイバーンに匹敵するという黒色楼鳥の防具が見える。しかしエレンとは違い、全体をがっしりとは武装しておらず、手と足、胸には心臓を守れるだけの胸当てと最低限しかつけてない。防具はただ全身をいいもので武装すればいい訳ではなく自分のスタイルを見つめ直してそれにあったものを見繕って装備するというのが彼の考え方だった。ヴァルガジンのスタイルは攻撃されることを前提にしていないのである。
(今回の依頼…役に立てるかな…)
エレンは1人心の中でそう思う。今回の依頼はここ、冷凍湖に住みつく大型の魔獣魚フィンバルレインの狩猟である。魚とついてはいるが2本の足がついており水陸両用の生物で、時折冷凍湖付近に現れては街道や近くの森を荒らし回してまた湖に帰っていくという厄介者で、その大きさは10mを優に超える危険な魔物だ。
本来なら決してエレンが受けて生きて帰れるレベルでは無いが称号持ちであるヴァルガジンがいる為、組合側も止めるような真似はせずに送り出した。
(早くヴァルガジンに認めてもらいたい)
背中に背負った発動体の魔銃に触れる。一般的な素材で作られたもので、彼のとは比べるべくもない代物だがエレンはこの依頼で自分の価値を示したいと考えていた。するとポンと肩に手が置かれる。
「そろそろいこうか…」
どうやら出発する様だ。ヴァルガジンにうなづいて答えると、そのまま彼のあとに続いて湖へと向かった。
「すご…」
あれから時間をかけて森を抜けると、突然現れたその凍った湖を見て思った感想が口を出る。その美しさに圧倒されたのだ。あの崖の上から見た湖も綺麗だった気もするが近くで見るのとではまるで別物だ。正にその雄大さと大自然に圧倒される。
「エレン、湖の美しさに浸るのもいいけどまずは今回の作戦を遂行しようか」
苦笑しつつヴァルガジンが背中の魔銃をおろすと弾を込めて周囲を見渡す。あわててエレンも同じ様に魔銃を下ろして弾を込め、それを構えると事前に聞かされた作戦を思い出す。
まず前提としてこのパーティには壁役がいない。壁役とは敵の攻撃を引き付けて仲間に被害が出ない様にし、狩りの安定性や効率を高めてくれる人を差す。盾持ちの剣士や近接戦闘を行う者が例としては分かりやすいだろう。だがヴァルガジンもエレンも魔術師だ。遠距離での攻撃を得意とし、代わりに接近されたらそれまでという戦闘スタイルである。つまりパーティバランスは現状非常に悪い。なのでヴァルガジンはエレンにまずは戦いやすい環境作りをする事を事前に説明していた。
実は大型の魔物の近くには声を聞き付けた小型の魔物がいる事がある。絶対ではないが大体いる。理由は詳しく分かっていないが、恐らくは自分たちでは倒せない魔物を捕食して食べる大型の魔物の食べ残し狙いではないかと言われている。
小型と言っても当然人間よりは大きいわけで、自分より小さいものなど奴らからしたら格好の獲物だろう。そんなのがフィンバルレインとの戦闘中に現れては目も当てられない。よってまずは湖周囲の魔物を狩れるだけ先に狩ろうというのが1つ目の作戦だ。
「準備は良い?」
銃を手にするヴァルガジンに言われ頷く。
するとヴァルガジンは銃を構え、50m程先の湖の近くに発射した。
バスンッ
するとヴァルガジンの弾がヒットした地面から黙々と煙があがる。これは先程込めた弾、誘引弾によるものだ。
エレンも同じく銃を構える。但しヴァルガジンの様に発射はせず、煙の上がる付近を見渡しながら獲物を待つ。先程の煙にはその名の通り付近の魔物をおびき寄せる効果があるのだ。ヴァルガジンはあと1箇所誘引弾を撃つと通常の弾を込め直し、エレンの後ろに向けて銃を構える。こうやってお互いに背中をカバーしあえば不意打ちによる危機が減る。
(いた!)
しばらく構えて待っているとけむりに誘われたのか3匹の狼が姿を現す。灰色の毛を持った、人間の大きさを優に上回る大きさの魔物、ニンフウルフだ。太古の昔ニンフという精霊によって生み出された森の番犬の様な役割を持つらしいが、真偽のほどは定かではない。少なくとも人間からしたら害獣だ。
トントン
地面を2回叩き、背後のヴァルガジンに合図する。トンという音が返ってきた。これは狙撃okの合図だ。エレンはスコープを覗き、呼吸を整えると1匹の目に向けて引き金を引き絞る。
バスンッ
控えめな発射音と共に貫かれた1匹は弾けるように後方へ吹き飛ぶ。狙い済まされた一撃は見事狙い通りの所へと当たり、獲物を沈めた。
(まだ!)
ガチャン!とコックして弾を装填し次の獲物へとすぐに向き直る。誘引弾から背後の森までは距離があるが、ニンフウルフなら5秒もあれば逃げ込めてしまうからだ。
バスン
仲間がやられ、即座に背後の森へ逃げ込もうとしていた1匹の脇から腹に向けた部位に弾が突き刺さる。生死は分からないがそのまま転がるように転倒したのであれではすぐには逃げれないだろう。そして即座にまたコックして最後の1匹へ放つ。
(しまった)
当たりはしたものの位置が悪かった。着弾地点は腰で、よろめきはしたがそのまま森へ逃げられてしまう。しかしそう思ったのも一瞬で、すぐに弾を込めて2匹目に狙撃したニンフウルフをスコープで確認する。どうやら急所にあたったのだろう、2匹目は動く様子もなくそのまま突っ伏している。
(ふぅー……)
一息つく。1匹逃げられはしたが手傷をあたえたので暫くはでてこないだろう。他の二匹は倒しているので上手くやった方だと思う。
そうして自分を納得させ、また銃を構えなおす。背後からはバスン、バスン!とヴァルガジンが弾を撃ち出している。そうして2人でしばらくの間、小型の魔物が寄ってこなくなるまでひたすらに弾を撃ち続けた。
一刻ほどはたっただろうか。新たに誘引弾を撃っても魔物達が出てくる事は無く、付近にいたのはあらかた狩り終えたと判断したヴァルガジンは誘引弾を飛ばせるめっぱいの距離でこちらとは全く違う方に撃つと未だに構えたままのエレンに声をかけた。
「エレン、もういいよ。少し休憩がてら撃った魔物を回収しようか」
ヴァルガジンの言葉にエレンは頷いて銃を背中にしまい直す。そうして立ち上がると撃った魔物達の方へと歩を進めた。
(すごい、あれ全部ヴァルガジンが狩ったんだ)
歩を進めながら横目にヴァルガジンの歩いた方を見ると遠目に15体程の魔物の死体が見える。エレンもあれから撃ち漏らしはないものの、それでも新たに現れたゴブリンを2体撃っただけでその数は最初のニンフウルフと合わせて4体となる。誘引弾でこちらに寄ってこなかったと言えばそれまでと思えるが実態は違う。ヴァルガジンは誘引弾であまり近くまで寄ってこなかった魔物、それこそまだ相手が森の中にいる段階で仕留めているのだ。だから同じ事をしてもこれだけの差が出る。
(私ももっと強くならないと)
このままでは認めて貰えないかもしれない。そう思うと沸々と自分の中の何かが芽生えていくのを感じた。
心の中でそんな考えているうちに先程仕留めた獲物の場所へたどり着く。ここからが作戦の第二段階だ。
エレンは撃った魔物の死体を順番に引きずってヴァルガジンが集めた死体の山に持っていく。普段ならゴブリンは放置し、ニンフウルフは毛皮を剥ぎ取って終わりなのだが今回はそれをしない。その体内になるべく血を残して起きたいのだ。理由は1つ、フィンバルレインを釣る為だ。
フィンバルレインは陸にいる事もあるが、名前に魚がつく通り一生の大半を水中で過ごす。そしてでてくる時はさっと出てくるが出てこない時は1週間や2週間も出てこない。それでも普段なら構わないし一生水の中にいてくれたらいいのだが、仕事で来ている今は話が別だ。流石に1週間以上も報告に行かなければ依頼は自動的に失敗と見なされてしまうだろう。そこで活躍するのが釣りだ。
とはいえ実際の釣りのように竿で釣るのではなく、魔物や動物の血を使い、匂いで陸上へと誘い出す簡素なもので、これは目があまり良くない代わりに嗅覚が非常に優れたフィンバルレインの特性を活かしたやり方だ。
そうして死体を集め終わって一息つくと、ヴァルガジンが腰の水袋の中身を煽る。
「じゃあ、ここからが本番だよエレン。集めてない死体や撃ち漏らしはいないよね?」
撃ち漏らし。この言葉にエレンは自分の取り逃がした1匹のニンフウルフが頭をよぎる。言うべきだ。ただ……。
ちらりと集められた死体を一瞥する。ヴァルガジンは多分1匹も撃ち漏らしていない。なのに私はヴァルガジンより少なくてしかも撃ち漏らしもある。経験の差が出ているのは明らかだったが認めてもらいたい、失望されたくない。でも言わなきゃ。そんな複雑な気持ちが混じり合い口から出たのは。
「撃ち漏らしはいません」
この言葉だった。
「本当に?」
「はい」
ヴァルガジンは何か思う所があったのだろう。再度質問をしたが、エレンがはいと返事をそれ以上は追求せずに一言「わかった」と言って死体の山からゴブリンを1匹つかんだ。
「じゃあエレン、作戦の最終段階だ。」
そして湖の厚い氷の上に死体を1匹投げると血の溜まっている心臓部分に弾を発射する。2発、3発、4発。どんどんと発射する。
ボゴンッ
やがて氷にヒビが入り、7発目で亀裂の一部が死体の体重で崩れ、そのままゴブリンの死体がバチャンと水に落ちた。
「よし、今開けた穴にナイフで心臓を傷つけた死体を投げ込んで」
そう言うとヴァルガジンはエレンから距離を取り、森の木を背にして銃を構える。これは事前に決められていた事で釣りをエレンが、フィンバルレインの相手はヴァルガジンがやる。そしてヴァルガジンがフィンバルレインの相手をしている間エレンは周囲を警戒し、小型の魔物が万が一寄ってきた時の備えをする。ここまでが取り決められていた作戦の全てだ。
エレンは腰の分厚い剥ぎ取りナイフを抜き、死体の心臓に突き立てて投げ込む。
(ヴァルガジン、あなた1人にはやらせませんよ)
死体を投げながらそんな事を考える。実はエレンは、この作戦をある程度は無視しようと画策していた。理由は簡単、力を認めさせる為だ。
実は今回の依頼、ヴァルガジンはエレンを同行させる事に当初否定的だった。だがエレンの「フィンバルレインとの戦いには加わりません。ただ大型の魔物との戦いを見て学びたい」という言葉とゴリ押しで渋々同行を許可したのだ。つまり、まんまと騙された形である。
(ま、隙を見てになるけど)
死体をどんどんと投げ入れる。とはいえさすがに与えられた仕事は果たすつもりだ。力を認めさせる為なのに自分の役割を完全に放棄しては本末転倒である。全てをこなしてフィンバルレインも倒す。その為に防具も新調し、入念な準備をしてきたのだ。じわりと手汗が滲み、篭手の中を湿らす。大丈夫、やれる。
……チャパン……
そうやって死体を投げ込んでいた時だった。氷の下が波打ったのか張られた氷に水がザパァッと乗る。来たのか?
ヴァルガジンに目で合図をすると彼は頷く。そして身振り手振りでまだ投げ入れるように指示を出す。
ゴクリ……とエレンは生唾を飲み込み、先程よりも慎重に死体を投げていく。
1体………2体…………3体……
ドバァァァァアン!
4体目の心臓にナイフを突き立てた瞬間だった。先程の穴から湖が突然噴射して氷を破砕し、巨大な魚が宙に飛び出す。
バチャンッと水音と共に氷の上にヒビを入れながら墜落し立ち上がる巨体。青い鱗が全身を多いトビウオの様な見た目に2本のあしと翼のようなヒレ。そして10mはあろう巨体。
フィンバルレイン。
それがエレンが16年間の人生で初めて見た大型の魔物の姿であった。
頑張るんでブクマ、高評価、感想おなしゃす




