駆け出し冒険者ゼノ9ルーゼンバーグの過去
おそらく書き足す為投稿するかしないか悩みましたがブクマ増えて嬉しかったのですることにしました。また書き足したらよろしくおなしゃす
驚いた。
幾年が過ぎ、猿が変わった。
強烈な閃光を放つ様になり、振り回す棒にも変化が訪れている。
以前は傷をつけられた事など無かった。
猿はもう、餌では無い。
僅かの可能性ながら、私を殺し得る敵になったのだと。そう思った。
だがそう思って尚、ウェンパルカムイは喜びに喉を鳴らした。
一体あの猿達はどれほどの知恵を蓄えたのかと。
勝てる。
奴らを食えば、兄弟に勝てる。そして兄弟を食えば私は、より完璧な存在になる。
殺そう。
全て殺して、殺し尽くしてから全てを喰らおう。奴らはもう
敵なのだから
「レイラさん、バッシュさん!」
ルーゼンバーグは後ろに飛びずさったウェンパルカムイを警戒しつつもその声は喜びに満ちていた。レイモンドや他の冒険者達もそうだ。
手傷を与えた。
それは僅かな亀裂に過ぎないかもしれない。けれどその僅かな傷がどれだけの可能性を秘めているかが分からない奴は今この場にいない。だが、バッシュとレイラはルーゼンバーグや皆の様子とは裏腹に今は全く別の感情を抱いていた。
最初はやったと思った。それは確かだ。同じ様に喜びに打ち震え、このまま有利な展開を築いていけると半ば確信していた。現に今もこちらを警戒してかウェンパルカムイに動く様子は無い。
だが、なぜか2人は一抹の不安を感じた。
理由を聞かれても分からない。普通は退いた敵なら追撃するのがセオリーだ。
しかし2人が下した選択は……
「全員、武器を収納しろ!走るぞ」
だった。構えた重太刀を収納し、ウィットベレンが走り始めたのを待って続く。何か言いたげな冒険者も数人いたが指示に従った。ルーゼンバーグもその1人だ。あの2人がそう判断したならそれに従うまでだ。
「……?」
走りながら、ルーゼンバーグも違和感を覚えた。ウェンパルカムイに未だ動きが無い。
こちらを正面から捉えている。だが、動かない。魔物などは通常、背を見せて逃げる相手には必ずと言っていいほど追撃する。現に先程まではウェンパルカムイも同じ様に追撃をしてきた。
怖気づいてるのか?とも思ったがそんな感じでもない。そうだとしたら、もう逃げている。ウィットベレンは五大竜は相当に頭がいいと言っていた。何かを考えているのか?
分からない……。
分からないが分からないというその事が、ルーゼンバーグはひどく不気味だった。
「バッシュさん…」
不安げに走るその背中に語りかける。
「今は作戦を遂行しよう…」
前を走っている為、表情は分からない。
ただその言葉を発したバッシュの背中を心なしかいつもより小さく感じた。
ファサッ……
ウェンパルカムイが翼を広げ、こちらに向けて上空へ飛び立つ。
先程の降下を思い出し全員が身構える。だが攻撃は来なかった。
奴はこちらを無視し、追い抜いてそのまま上空を通り過ぎていく。
「なんだ?」
バッシュが言った。
同じ気持ちなのか隊の皆も走りながら訝しんでいる。
だがウィットベレンだけは違った。
「まずいね」
彼は憎々しげに顔を歪ませて、ウェンパルカムイの飛んだ方を見やる。それは自分達の目指している地点。先程照明弾が上がった方だ。
「まさか!」
レイモンドが叫ぶ。そうしてようやく、ウェンパルカムイが何をしようとしているのかを全員が理解した。
「多分、やり過ぎたのさ。ずっと気づいてた筈だ。誘導されてるってね。それでもウェンパルカムイは構わなかったのさ、今までは」
それが僅かながらの手傷を負って変わった。
バッシュとレイラの生み出したほんの僅かな亀裂が、今まで油断していた奴を変えてしまった。多分僕らはもうただの餌じゃない……敵と、明確に認識が改まったとウィットベレンは思案した。
「とにかく急ごう。遊撃の君らが居ないといってもそうすぐには瓦解しない筈だ」
バッシュは頷く、レイラも皆も。
バシャバシャと水溜まりを踏みながら一向はただひたすらに走る。先に待つ同胞達の身を案じながら。
「来たぞ!」
声が聞こえ、上空から見える沢山の猿を見下ろしながらやはり…とウェンパルカムイは思った。
私が奴らを認識してから一度、空が光った時があった。それから奴らが私をここに連れてこようと動いていたのにも気づいていた。放置していたのは奴らが餌だったから。敵なら話は別だ。ウェンパルカムイは翼を畳み、猿が1番多くいた場所に墜落、降下する。
「ぁぁぁぁぁあ!!」
「撃て!撃て!」
ガンッガンッ!と時折自分の身体に何かが当たり、僅かながら鈍い感覚が内側に響く。
あの棒を飛ばすデカい何かは前もあったな。確か……弩弓と言ったか?以前継承した記憶の中に覚えがある。傷をつけられる程強くはないが体の内側に痛みを伝えるくらいの威力はあるな…と思いながら轟音を立て、建物を破壊しながら石畳に着地するウェンパルカムイ。何匹かの猿が吹き飛んで動かなくなったがまだ猿は沢山いる。10……20……30……数えるのも億劫な程だ。
「落ち着け!バッシュとレイラが来るまで耐えろ!盾持ち、前へ!」
初日に壁を殴って冒険者を鼓舞した称号持ち、ボンズが指示を出す。彼の率いる隊は槍使いなどの盾を扱う冒険者で編成されており、直ぐに指示の元ヴァルガジンが一時的に率いている魔術師隊の前に出る。ウェンパルカムイは身体に風の刃を纏いながらそれを睥睨した。
あの盾を使うのはさっきも見た。奴らは硬い。その硬いのが前に出て守るのはつまり、後ろの方が大事だからだ。
ウェンパルカムイは咆哮した。
瞬間、全ての猿の動きが止まる。勿論、狙ってやった。そして動く事が出来ない盾持ちをとびこえて、掃射する為に構えていた魔術師達を攻撃した。
纏った風の刃によって裂け、斬れ、そして尻尾を振れば弾け飛び、どんどんと命が散っていく。動ける様になった頃には、盾持ち達の後ろで十数人の屍が出来上がった。
一瞬だった。ウェンパルカムイが来て、降りてきたと思ったら咆哮して……そのたった少しの時間で魔術師隊の四分の一が壊滅し、盾持ちはなにも出来ずに恐慌し、槍をウェンパルカムイに向けて突き出す。そして弾かれる。
こいつらはさっきの猿達より遥かに弱い。光も出さないし、攻撃も普通だ。だが数が多い。さっきの奴らと仕掛けられたら面倒だったかも知れない。やはり先にこちらを潰すと言う判断は間違っていなかった。ウェンパルカムイはそう思った。
辺りにいる猿達を蹂躙しながら。
「落ち着けぇ!無闇に仕掛けるな!一旦、下がれぇ!!!」
ボンズは必死に叫んだ。叫んで、叫んで、しかしそれでも声が届いていない事に歯噛みした。
皆恐怖に飲まれていた。魔術師も、槍使い使いも、他の盾持ち達も。
死にたくない!ともがく様に武器を振るっては弾かれ、ウェンパルカムイの纏う風の刃に……あるいは前足や尻尾などの攻撃によって死んでいく。もうそこには作戦や指揮などは無かった。冒険者としてでは無く、人という種が原始的な本能によって行動をしているだけだった。辛うじて正気を保っていたのはヴァルガジンやボンズそしてその近くにいた冒険者達だけだ。
「ヴァルガジン!なんとかならねぇか!」
「やってみます!」
ボンズに言われ、ヴァルガジンは自分の師から貰った閃光弾を装填して構えた。
「くっ……」
だが、的が絞れない。
奴が周囲の冒険者を引き裂いて回っているのもあるが問題は風だ。ウェンパルカムイから流れる様に変質している為、軌道がどう変化するのかヴァルガジンでは読み切れなかった。
「無理です!風が邪魔で僕じゃ狙えない!」
「くそっ!お前ら、下がれぇ!聞こえてるヤツも同じ様に叫べぇ!」
ボンズの言葉が少しずつ伝播したのか、徐々に下がっていく冒険者が増えてはいる。だが未だ圧倒的に正気を失ったものの方が多い。
「せめて一瞬気を引ければっ」
ウェンパルカムイを引きつける事によって生まれる間が欲しかった。それさえあればまだ立て直せる。
「他の隊の連中は!」
「まだです!」
決戦の場所が当初分からなかった為、各地区には自分達の様に部隊がいる。場所が定まったら援軍として集まるという話だったが未だ来てはいないらしい。
どうする。いや、答えは出ている……もう、それしかないだろう。
「ヴァルガジンあとは任せた」
「……ご武運を」
今ここまで部隊が崩壊している理由は、本来バッシュ達が受けるべき役割の分で割を食ってるからだ。別にバッシュ達が悪いと言っている訳では無い、勝手にこっちに飛んできたのだ。仕方がない。
辺りを見渡す。数人がどこか諦めたような顔で頷いた。
「悪いな……」
ボンズは自分と死ぬ覚悟を決めた数人を伴って、長年使っているハルバードを肩に担いだ。そうして辺りの冒険者に叫び散らしながらウェンパルカムイへと走った。
「お前らぁ!ウェンパルカムイはこのボンズが引き受ける!作戦通り迎撃の準備に移れぇ!」
彼らがやろうとしている事。
それはバッシュ隊の代わりだった。
(バッシュ、レイラ。後は任せたぞ!)
「ぉぉおおお!!」
そのボンズ達の覚悟を見ながら、ヴァルガジンは敬意を胸に込めつつ隊を纏めるべく動き始める。
男の覚悟を無駄にしない為に。
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