キスをしよう
本日3話目です
クリスマスイブだからと言う訳ではないですが前半少し甘い内容です
「いつの間にか寝ちゃったのか…」
窓の外は徐々に白み始めていた。リクに両太ももには相変わらず二人の嫁が幸せそうな顔で眠っている。昨日二人を泣かせてしまったリクは、その顔を見てほっとする。ベッドに連れていった方が良いかとも思ったが、起こすのも悪いのでそのまま寝顔を眺めることにする。
嫁二人からすれば、泣き腫らした寝顔なんて見ないでほしいだろうが、幸せそうなその顔はリクには心からの癒しだ。やがてエルが先に目を覚ます。
「ん…あ、リク…おはよう」
「ああ、おはよう。ベッドでもう少し寝るか?」
「うん…連れていって…」
「……分かった」
どうやら甘えん坊モードになっているらしい。昨日のことがあるので嫌とは言えない。ルーシーを起こさないように、そっとソファに頭を下ろし、エルをお姫様抱っこで抱えると、その軽さにリクは驚く。
「重くない?」
「むしろ軽いって思ったよ。…エル、昨日はゴメンな。その…恥ずかしかっただけで、怒ってなんかないからな?」
「うん…ねえ、このままキスして欲しい」
こんな申し出を断れるはずもない。なんだかいつも以上に甘えてくるエルが可愛くて仕方がないとリクは思う。言われるまでもなくしたいと思っていた。
お姫様抱っこをしたままでは難しかったので、ベッドに腰を下ろしてから唇を重ねる。昨日のことがあるせいか、エルが愛しいという気持ちが溢れて止まらない。舌を絡める濃厚なキスをしばらくしてエルをベッドに寝かせる。
本当はその先にもいきたい気持ちはあるが、ルーシーもいるし今日もダンジョン探索だ。さすがに自重する。
「…ルーシーも連れてきてあげて」
「ああ、そうだな」
眠っているルーシーの頭を二の腕で支え、太ももの下に腕を回して持ち上げる。するとさすがにルーシーも目を覚ます。
「おはよう。もう少しベッドで寝よう」
「…うん、リク…キス…しよう?」
やはりルーシーも昨日のことがあるからか、甘えたがっている。普段彼女は羞恥心のためそこまで主張しないが、寝起きや気分が高まっているときにはしっかり甘えてくる。
「ああ、しよう」
エルの時と同じようにベッドに腰を下ろしてからキスをする。ルーシーとも舌を絡めたり、唇を吸うようにしたりと濃厚なキスをしていると、突然後ろからベッドに引き倒される。
「昨日のこと許す代わりに一杯キスしてもらうから」
「そうじゃな、気が済むまでさせてもらおう」
リクとしては嬉しいけれども、ちょっとした恐怖も感じるような申し出だった。そうして結局ほとんど寝ることなく起きる時間を迎えることになった。
朝食はファングの四人と一緒にとる。やはりリクが走り去った後の二人の動揺はすごかったらしく、四人とも昨日のことを心配していた。
「丸く収まってよかったよ」
「ああ、悪かった」
「しかし二人はリクのことになると、本当にいつもと違うよね…普段の二人からは想像もつかないわ。私たちが大丈夫だよって言っても聞く耳持たないんだから」
アキの尤もな意見に二人は顔を赤らめて、黙々と朝食を食べる。
「それであの後どうしてたんだ?」
ウィルの質問にエルとルーシーがはっとする。今更ながら昨日どこに行っていたのか聞いていないことに気付いたようだ。
「実はちょうど武器屋を見つけたから入ってみたんだ。そうしたらいい武器を作ってくれて、待ってたら遅くなってしまったんだ」
「昨日一日で武器が出来たのかよ?」
ウィルが信じられないといった様子で尋ねる。
「ああ、恐らく少し加工するだけで済んだんだと思う。単純なものだしな」
「そうか、じゃあ早速今日の戦闘でお披露目だな」
「そうだな、楽しみにしておいてくれ」
七人は朝食を終えると、早速ダンジョンへと赴く。今日は四十六階層からだ。恐らく水中からの攻撃も加わってくるだろう。緊張感は高まっている。
四十六階層に転移し、先へ進むとやはり四十五階層と同じように一面の湖が見えてくる。違うのは足場だ。飛び石のように直径五メートルほどの円形の足場が飛び飛びに配置されている。その間隔は二メートルほどで身体能力に自信がなくとも、十分に飛び移れるものだ。
しかし七人には緊張が走る。直径五メートルほどでは全員が固まるには狭いし、戦闘時に跳び跳ねるのはリスクが高い。メリットを挙げるのであれば敵に近づきやすいというところだ。
七人が慎重に索敵を行いながら進んでいくと、横から猛スピードで飛び出す物体が目に写る。
「伏せろ!」
リクが指示を出して六人が伏せる。そしてリクは飛び出してきたナニカを手掴みにする。かなりの速度で、不完全な反応強化魔法を使ってなんとか捕獲することが出来るレベルだ。
「こんなの不意に受けたら体に穴が開くぞ」
その手に握られていたのはダツのような魚型の魔物だった。元いた世界でもダツに刺されるという事故があったというのを思い出す。しかし目の前にいるのはもっと凶悪な形だ。その角のように尖った部分は鋭利な刃物のようで、ご丁寧に返しまでついている。
「これはやべえな。戦闘中にこんなのが飛んできやがったら厄介どころの話じゃねえぞ」
まだ完成していないとは言え、リクが反応強化まで使ってやっと捕まえられる速度だ。他に意識を向けながら捌けるようなものではない。
「なるべく固まるのは継続。前方はラークが大盾で守りながら進んでくれ。俺は殿から行って横と後ろから来るこの魚に対処する。他の戦闘は任せることになるが、俺がみんなを守るよ。とにかく速度を上げてさっさと抜けよう」
「それしかないわね、あんなの避けられる気がしないし。何であれを手掴みに出来るのか不思議でしょうがないわ」
エルが肩をすくめて言うと、他の五人もその意見に同意する。方針が決まったので、七人は少し歩を早めながら進んでいく。やがて例の魔物が出てくる。サハギンだ。ウィルとラークが問題なくサハギンを退けていると、なにかに誘うような心地よい歌声が耳に入ってくる。
「マーメイドじゃ、『防音障壁』」
七人を包むように障壁が展開される。マーメイドの歌声には二種類あり、一つは先程のような幻惑を誘うもの。幻惑されたものは自ら水の中へと入り、魔物の餌さとなる。もう一つが混乱、恐慌状態を引き起こす歌声だ。筆舌に尽くしがたいその声は、聞いたものを恐怖のどん底に叩き落とすものだ。
『土弾』
エルとアキが障壁内からマーメイドに向かって土というよりも無数の礫を猛スピードで叩きつける。直撃を受けたマーメイドはあっけなく倒される。元々敵前に出るようなタイプではないので耐久力は低い。
「いい連携だな。これなら問題なく行けそうだ」
ルーシーが防音障壁を張りつつ移動し、サハギンはウィルとラークが倒し、マーメイドはエルとアキが倒す。アイリスに余裕があるので、負傷したとしても即座に回復が出来るので問題ない。もちろんダツに関してはリクが気配を感じた瞬間に反応強化をして退けていく。パターンが決まってしまえば、後は難なく進むことができ、二時間ほどでこのフロアをクリアする。
「ごめん、ちょっと休憩させてくれ」
転移魔法陣に魔力を記録すると、リクが休憩を申し出る。顔色が少し悪くなっており、足元も少しおぼつかない。
「どうしたんだ?珍しいな?」
リクが疲労を訴えることなど今までになかったのでファングの四人は驚いている。もちろん嫁二人はどういうことか理解している。
「さっきの反応強化魔法の反動でしょ?休憩しましょう」
「うむ。リクは先程からあの魚を退けるたびに反応を強化しておったのじゃ。使用すると疲労が激しくてな。すまんが休憩させてやってくれ」
恐らく詳しく説明しても理解できないという判断だろう。リクの状態をざっくりと説明して、ファングの四人に許可をもらう二人。自分のことをきちんと理解した上での気遣いが嬉しいとリクは思う。
「そうなんだ。やっぱりなんか使ってたのね?人間が反応できる早さじゃないもの。少し早いけど昼食にしましょ」
他の三人もアキに同意する。リクがいなければ下手をすれば命を落としていたかもしれない。断るような理由も無かった。
転移魔法陣の設置されている場所は、セーフティエリアとなっておりモンスターに襲われる心配がない。そのため浅い階層では冒険者でごった返している場合も珍しくない。
一時間ほど食事と食休みを挟んで、出発することになった。リクの疲労も問題ない。むしろ先程は新装備を試せなかったので、早く戦いたくてうずうずしている。
そして一行は転移魔法陣を離れ、四十七階層のメインフロアへと進んでいく。
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明日は9時、21時に1話ずつ更新です。
25日の0時にクリスマス特別編を更新します。
本編終了後の3年後のクリスマスを描いております。本編ラストに関わるものではありませんが、ネタバレが有りますのでご注意ください。




