勘違い
本日2話目です。
「もう一階層進んでから戻ろうか。今までの傾向からして二階層ごとに魔物の種類が変わっている。次はどんな魔物か興味がある」
「ああ、確かにそうだな」
ウィルの提案にリクが返答し他の五人も異存無しと言うことだったので、転移魔方陣に魔力を記録してそのまま進む。
四十五階層は見渡す限りの湖が広がり、真ん中に幅十メートルほどのまっすぐな通路があるというシンプルなものだった。そしてここには水棲の魔物が生息するのであろうということは想像に難くない。
「…これは俺の弱点かも」
リクが思わず呟く。遠距離攻撃を持たない彼にとって水の中からの攻撃してくる魔物と空を飛ぶ魔物は相性が悪い。特に水棲の魔物を相手取るのに水の中に入るのは自殺行為であり、攻撃手段がほとんどない。
「確かにリクたち前衛組には厳しいわね。まあ私たちがいるから大丈夫よ」
「そうじゃな、とりあえず通路の真ん中をなるべく歩くようにするといい。水の中に引き込まれるのは危険だ」
七人は固まって通路の真ん中を歩いていくと、突然湖から魔物が飛び出す。二足歩行の両生類のような容姿、サハギンだ。これなら十分に戦えると前衛組も安堵する。
「このフロアは俺らにやらせてくれよ。いいとこばかり持っていかせねえからな」
「ああ、今日はここまでだしな。頼むよ」
ウィルとラークが身体強化魔法を使いサハギンへと襲いかかる。身体強化した二人にとっては雑魚同然。なんの問題もなくそのまま切り捨て、先へ進む。
「それにしてもなんの代わり映えもしないフロアね」
誰もが思っていることをアキが口にする。今に至るまで一時間ほど歩いたものの何度かサハギンに遭遇したくらいしか変化がない。飽きるのも仕方のないことだ。
「でも今までのパターンでいけば次の階層は水の中からの攻撃してる奴が出てくるんじゃないか?」
「それはあり得るわね」
結局この後二時間ほど歩き続けたが、サハギンと交戦した以外は何の変化もなかった。四十六階層で魔力を記録し入口に戻る。
「ああいうフロアに行くと、さすがに遠距離攻撃も考えないといけないかと思うな」
「それは分かるがのう。あてはあるのか?」
「うーん、なんか投げるとか?」
「…以外と悪くないかもよ?投げたものが戻ってくるとかいいんじゃない?」
思い付きで言ったことに予想外の反応が帰ってきて困惑するリク。
ー思い付くのはブーメランだけど、さすがに実用性は低いよな…ー
「ウィルとラークはどうしてるんだ?」
「俺らも考え中って感じだな。まあラークのメインは防御だからいいんだけど、俺も水上だと攻めあぐねるって感じだな」
「そうだよなぁ…」
リクは思案する。
例えば武器を用意して何か投擲するのであれば、自分の手元に戻ってくるものが望ましい。そうなるとトゲ付きの鉄球に鎖をつけてじゃらじゃらする感じか?なんか悪役っぽいな。他には…
そこまで思考するとリクははっと思い付く。
「なあエル、例えば転移魔法みたいに空間を繋いで殴るってできるかな?」
リクのあまりに突拍子もないアイデアにエルが思わず吹き出す。
「あはは!さすがリクだね、とりあえず殴ることを考えるんだ。確かに出来ないことはないと思うよ?言ってみれば腕一本分を目視できるところに転移させればいいんだからね。短距離で範囲も狭いとなれば必要な魔力量も少ないし」
そこまで言うとエルは真剣な顔でリクを見据えて続ける。
「それでも転移魔法だよ。それなりに難しいよ?本気でやるなら教えるけど一朝一夕じゃあ無理よ」
「ああ、それで構わないよ。武器の線も探ってはみるが、竜種に空でも飛ばれたらお手上げじゃあ不味いだろ。そのレベルの相手には直接攻撃でないと無理だ」
「そうじゃな、リクは意外と良く考えておるな」
「…意外は余計だ」
恨めしそうな視線を向けるリクの頭を笑いながらルーシーが撫でると、それを見てやはりエルも負けじと頭を撫でてくる。家の中ならともかく、街中で二人の嫁から頭を撫でられるという恥ずかしい状況に耐えられるはずもなく、リクは武器屋を探しにその場を駆けていく。その速度は早すぎて誰も追い付けない。
ちょうど良く武器屋を見つけたリクは中に入っていいものがないか物色する。
「いらっしゃい、なんかお探しかい?」
中年の男性が声をかけてくる。灰色の短髪でバロンよりは丁寧だが少し癖の有りそうな男だ。だが武器を売るような人間ならそれくらいの方がいいのかもしれないとリクは思う。
「格闘家なんだが、ある程度離れた場所にいる相手への攻撃手段が欲しいんだ。何かいいものはないか?」
リクの注文に店主は興味を持ったのか質問を返してくる。
「お前さん力に自信はあるかい?」
「ああ、力自慢の大会があれば優勝は間違いないな」
それを聞いて店主は冗談と思ったのか、腹が捩れるほど大笑いした後、提案をしてくる。
「この鉄球を持ち上げてみてくれよ。持ち上げられたらお前さんの武器を用意してやろう」
他にあてもないリクからすれば願ってもいない話なので当然受ける。そして見た感じでは大した重さではなさそうな鉄球を片手で持ち上げる。
「意外と重いな、これでいいのか?」
事も無げに持ち上げるリクを見て、店主は一瞬唖然とした表情を見せるが、またしても大笑いをする。だが今回は先程とは違う、心の底から嬉しいという笑いのようにリクには見えた。
「はっは!本当に持ち上げちまうとはなぁ、お前さん最高だよ。約束通り武器を用意してやるよ!」
そう言うと奥に籠った店主はリクを無視して三時間以上作業を続けている。もう夕食の時間をとっくに過ぎてしまっているので、早く帰らないと嫁が心配すると思っていると店主が姿を表す。
「待たせちまったな、五キロのアダマンタイトの球をダマスカス鋼の芯を入れた二十メートルのロープで繋いだ武器だ。お前さんならぶん投げるだけで十分な威力になるぜ?普段はこの袋に入れときな。収納魔法がかかってるから全部入るぜ」
あまりにも高級素材をふんだんに使った武器にリクは驚く。何せ今の手持ちは金貨十枚ほどだが、安く見積もってもその十倍以上の値段はするはずの代物だ。
「俺にとって素晴らしい武器なのは分かるけど…手持ちが金貨十枚しかないんだ」
「構わねえよ、金貨十枚で。最近はしょうもない使い手しか店に来なくてな、お前さんみたいな規格外の奴に武器を作れるなんてのは俺にとっては名誉なことなんだよ」
「…本当にいいのか?」
「ああ、極上の素材が手に入っても極上の使い手が見つからなくて途方にくれてたんだ。遠慮せず持っていってくれ」
「分かった、それならありがたく金貨十枚で買わせてもらうよ。遅くなったけど俺はリクだ」
「俺はスミスだ、根っからの職人さ。また来てくれや!」
――――ここからリク視点――――
スミスに別れを告げて宿に戻る。思わぬところから極上の武器が手に入ったことは喜ばしいけど、大分帰る時間が遅くなってしまったのが気がかりだ。あの時恥ずかしさのあまり逃げ出し、挙げ句の果てに帰りが遅くなってしまうという失態を重ねてしまった。嫁二人の怒りを買わなければいいんだけど、なんて思いながら歩いていると、いつの間にか宿に着いてしまう。
「俺が悪いんだから、ちゃんと謝ろう」
そう自分に言い聞かせて宿の扉を開くと、嫁二人が俺の姿を見つけるや否や飛び付いてくる。どういうことだ?怒ってるんじゃないの?想像の斜め上を行く展開に思考が追い付かなくてフリーズしてしまう。二人は涙を流すのを堪えているみたいだ。その悲しそうな顔を見ると胸が苦しくなる。
あまりの勢いだったので宿の人やロビーにいる人の注目を一身に浴びてしまう。ファングの四人は見当たらない。既に部屋に戻ったのだろうか。
だけど、そんなことよりも大切な嫁二人を悲しませてしまったことの方がはるかに問題だ。とにかくこんな時間になってしまったことを謝らないと。
「ごめん、心配させちゃったみたいだね…」
二人はうんうんと言いながら離れようとしない。ここにいては迷惑になるので部屋に戻る。頭を撫でてあげると、遂に二人は泣き出してしまった。困った俺はソファに座ると、いつかのように二人を膝枕する。そうすると次第に二人も落ち着いてくる。
半分声にならない声ではあったが、要約すると俺が恥ずかしさのあまり逃げたのではなく、怒ってどこかに行ってしまったと思った。それでなかなか帰ってこなかったので不安だったとのことだ。
あんなことで怒るわけがないのに…何でそんな勘違いをと少し思ったが、本当に不安でたまらなかったようなので申し訳ない気持ちで一杯になる。こんなに想ってくれている二人を悲しませるなんて最低だと自己嫌悪に陥ってしまう。
「紛らわしいことをしてごめん。二人を嫌いになんてなるはずないだろ。愛してるよ」
もっと気の利いたことを言ってあげたいのにうまく言葉にできない。それでも二人は良かったと言ってくれて、安心した表情で眠ってしまう。晩御飯を食べていないけど、二人から離れがたい。それにあの悲しい顔を見てから胸が苦しくて食欲がない。このまま朝まで二人の傍にいよう。
安心しきった二人の顔はとても愛しくてかけがえのないもので、いつまでも眺めていたいと思う。そして二人が飛び付いてきた時のあの悲しそうな顔は二度と見たくない。
この先何があってもあんな顔は絶対にさせない。いつも二人が笑顔でいられるように、もっともっと頑張ろう。それが俺の幸せなんだから。
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21時にもう1話更新です。




