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目的

本日1話目です

 宿屋に戻り、食事を終えた七人はそれぞれの部屋へと戻る。いくらダンジョンの攻略に専念するといっても、もう一人の勇者について気にならないわけではない。

 このままでは眠れそうも無いので、三人はとりあえず何が起きても対応できるように様々な可能性を想定することにした。


「一番ありそうなことはフォータム共和国の勇者こそが正当な物だと主張することかな」


「うむ、国内でパレードまで開いたのじゃ。他国にもそういった情報が流れるのは織り込み済みじゃろうな」


「でも目的が分からないわ」


 実はリクには一つ思い当たる節がある。自分が元魔王であるルーシーと婚姻を結んだことだ。これにより勇者は魔族と通じていると言われるのではないかと。

 しかしこれはあくまで推測でしかない。口にすればルーシーを傷付けることになりかねない。だから言うべきではないと思い口にしなかった。

 だがリクが考え着くということは当然ルーシーも考え着くということだ。彼女は察しが良く、魔族の頂点にいた女性だ。そういった思惑にも通じている。思い当たらない訳が無かった。


「リク、分かっておるのじゃろう?」


「っ!それは…」


 ルーシーからの言葉に思わず動揺してしまう。それはルーシーが思い当たる理由をリクも考えているということの証明だ。しばし目を閉じてこめかみに手をあてると、やがて観念したように口を開く。


「…恐らく俺とルーシーの結婚が原因だろう。そして俺が魔族と通じていると。だから正当な勇者を立てるということだろうな。その矛先が魔族に向かうのか、俺たちに向かうのか、スプール王国に向かうのかは分からないけどな」


「そんなっ!」


「エル、これは覚悟していたことだ。俺もルーシーもこうなる可能性があると理解したうえで結婚すると決めた。だからこの推測が正しくとも俺が後悔することは無い。ルーシーもそうだろう?」


「うむ、とうに覚悟は決めておる。エル、おぬしは…」


「ルーシー!これは私たち家族の問題だからね!のけ者になんかしないでよ!」


「…ありがとう。力を貸してくれ、エル」


「最初からそう言ってくれればいいのよ!」


 腕を組んで頬を膨らませているエルを見て、二人は笑いあう。本当に頼もしいと思う。


「しかし気になるのは彼女の実力だな。ダンジョンを踏破したというのなら相当な物だろう」


「そうでしょうね。竜種の加護を得たのかしら?」


「さあ、それはどうかのう?そこまでの強者には見えなんだがな」


「それを知るためにも、結局のところ五十階層を目指すことに変わりはないってことか…その後はフォータム共和国に動きがあってからしか動きようがないな」


「分かり易くていいじゃない!それに邪魔するものは蹴散らすのみよ!」


「エル、頼もしいのは結構じゃが、荒事はなるべく避けるんじゃぞ?」


 元貴族令嬢が元魔王に諫められるという、良く分からない状況にリクが苦笑する。そして二人に向き直り、とりあえずの結論を出す。


「恐らくこれが最悪の想定であり、一番ありそうな展開だ。あとは心の準備をしておこう。何があっても俺たちなら大丈夫だ」


 二人は静かに頷き、おやすみのキスをする。問題が解決したわけではない。それでもその日は穏やかに眠ることが出来た。


 翌日、探索出発前にファングの四人にも昨日の推測を伝えた。四人は驚きはしたものの、確かにありそうな話だと首肯した。

 そして自分たちのダンジョン踏破の目的、竜種の加護についても話をした。今の四人をそこには連れて行くことは出来ないということも。


「リク、心配するな。俺たちだって自分の身だけなら守れる。お前たちの本気の戦闘を見られるチャンスなんて二度と来ないかもしれねえ。死んだって後悔しない」


 他の三人も絶対引かないという目でリクを見る。どうしたものかとリクが眉間にしわを寄せて嘆息すると、ルーシーが助け舟を出す。


「リク、この四人も冒険者じゃ。助けを請われない限りは助けない。そうじゃろう?」


「ふふふ、そうね」


「…分かった。だけど四人は大事な友人なんだ。死んでくれるなよ?」


 やれやれと肩をすくめてリクが答えると、四人が歓喜する。


「わがまま言ってすまねぇ。代わりと言っちゃあ何だが、偽勇者の件も出来ることは協力させてもらうからよ」


「ああ、頼りにしてるよ。あと今日から俺たちも戦闘に加わる。速攻でダンジョン踏破しないと新婚旅行が台無しになりそうなんでな」


 その言葉に嫁二人は喜んでリクに抱き着く。その光景を見ていない者なら、フォータム共和国の与太話を信じるかもしれない。ファングの四人とて例外ではないであろう。だけど彼らは知っている。リクとルーシーの関係に打算的な物などありえないと。種族のしがらみなど関係なく、二人は心の底から愛し合っているのだと。そして三人は紛れもなく互いを思い合う家族なのだと。


 昨日と同様に転移によって、四十二階層に到達した七人。このフロアも四十一階層とほとんど変わりなかった。魔物はリザードマンだけ。ただし群れに遭遇することが度々あった。しかしファングだけでも十分対処できるところに、リクたちが加わったのだから問題になどなりようがない。

 そして四十三階層に到達する。四十三階層では迷路から一転して、広い荒野のような場所に出る。そこにはオークロードをボスとしたオークの軍団が現れる。数はおよそ二百程。リク一人でも十分対処できるが、エルがずっと見ているだけなのは暇だからと言って聞かないので任せる。


「さて、一発で終わらせられるかしら?『炎槍乱舞』」


 遠距離から無詠唱の火属性魔法『炎槍乱舞』を発動させる。エルはあの日深淵の森に行った時に偶然できた中級魔法の無詠唱を完全に自分の物にしていた。

 瞬く間に二十ほどの炎の槍が姿を現すと、等間隔でオークの下へ殺到する。エルのこの魔法の強力-凶悪というべきか-なところはただの炎の槍ではないというところだ。一体のオークに突き刺さると周囲五メートル程を巻き込んで大爆発を起こしていく。

 だって爆発した方が効率がいいでしょという理由で術式を構築し、無詠唱で使ってしまうのだから途轍もない才能だ。尤もエルが言うには自分でイメージして術式を構築するんだから無詠唱で出来て当たり前でしょ、らしい。

 『炎槍乱舞』は本来中級魔法の位置づけではあるが、爆発の追加効果を付与し、新たな魔法銀のステッキで威力が上がったそれは、並の魔導士の上級魔法以上の威力を出せるようになっていた。

 やがて爆発が治まると一体のオークも残らず爆散している。その一部始終を見ていたファングの四人は自身の常識が壊れる音を聞く。特にアキはエルの異質さをよく理解できた。そして教科書通りの考え方では一生追いつけないことも。


 四十四階層、今度はオークキングを頂点とした軍勢だ。数は増えて三百程。


「ありゃあオークキングじゃねえか」


「ほんと、リザードマンの時は結構楽なのかと思ったけど、やっぱり最後に行くまでには難関があるのね…」


 ファングの四人が言うにはオークキングはAランクのパーティでも討伐するのは骨が折れる相手だとのことだ。ただミノタウロスを討伐した今の彼らからしたら問題ない。


「さっさと終わらせよう。ルーシー援護頼む」


「分かった、合わせる」


 リクがオークキングの下に走り出す。身体強化は十倍だ。これでも過剰なくらいだが速攻で終わらせると決めたので一気に加速する。軍勢の十メートル程手前まで来たところで思い切り跳躍する。

 すると跳躍するや否や地面がまるで沼のように変わり、オークたちの下半身を地面に埋めて固める。ルーシーの土と水の混合属性魔法『泥拘束』だ。これはエルにも真似できない属性を混ぜて使うという、ルーシーならではの魔法だ。自由を奪われたオークキングの下へとリクが落下していく。

 そして迎え撃とうと繰り出した戦槌ごとオークキングの頭部を粉砕する。もはや指揮官を失い身動きも取れないオークたちは、リクとルーシーによってあっと言う間に蹂躙される。


「やっぱりエルに比べると時間がかかっちゃうな」


「まあ仕方ないじゃろう。あれは妾から見てもおかしい」


「確かにね」


 二人で笑いあっていると五人が追い付いてくる。なぜかエルが不満そうだ。


「私の悪口を言っている気がした…」


 さすがにいつも一緒にいるだけあって鋭いと思い顔がひきつる二人。


「いやいや、確かにエルの話をしてたけど、多数相手だとエルには敵わないって言ってたんだよ」


 それを聞いてぱあっと笑顔の花を咲かせるエル。少しの罪悪感を感じるが、まあ嘘は言っていないと苦笑する二人だった。

ブックマーク、評価、感想が励みになります。よろしくお願いいたします。

今日は15時、21時に1話ずつ更新します。

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